「勝ったッ! さーて、今度は私の言う事を聞いて貰うわよ!」
「はぁ……」
コントローラーを高々と掲げ、鼻息荒く宣言するエリカさんを前に、軽いため息が漏れる。
モニタには炎上水没したIV号が映し出されている。ワールド・タンク・ウォーとかいう戦車戦シミュレーションゲーム。戦略を競うチーム戦も楽しめるけど、今回は一対一の単騎戦モードだ。
「練習試合での勝負ならともかく、ゲームで言う事聞かされるのは……」
「そう毎度々々練習試合組めないでしょ! それに、大洗とばかり試合してたら、『エリカ隊長、西住さんとアッチッチー』って冷やかされちゃうじゃない!」
「小学生じゃないんだから……」
「それとも何、ゲームだから負けたとか言いたいわけ? 言い訳なんて見苦しい。西住流の誇りはないの!?」
「…………」
正直『ゲームだから負けた』と主張したい。だって、私はこのゲーム初めてなのに、エリカさんは明らかにやり込んでいるんだもの。
「で、でもエリカさん、この橋の上のステージしか選ばないのは何か意味があるの?」
「……どんな状況でも戦えないと練習にならないでしょ?」
答えになってない。
「それに、私の戦車のパーソナルネームが前もって『AKAHOSHI』って入力されてるのは?」
「…………あなたもう乗り越えたって言ってたじゃない」
露骨に目をそらすエリカさん。明らかに私のトラウマを抉りに来る作戦だ。
「それじゃあ私今度は『MAHO』にしてプレイする!」
「なに子供っぽいこと言ってんのよ! ダメに決まってるじゃない! このゲームは育成要素もあるんだから同じデータ使いなさいよ!」
うわあ、逆ギレだぁ。
「ちゃんと育てれば無双ゲームも出来るわよ。次々突貫して来るチハをひたすら叩く殲滅戦とか」
想像するだけでやりたくないよ。
「分かりました。今回は負けでいいよ。それで、なにをすれば良いの?」
観念して手を挙げ投降の意思を示すも、息を荒げたエリカさんを前に、早まったかと後悔の念が膨らんでゆく。
「それじゃあね、黒森峰のパンツァージャケットに着替えなさい!」
自分のパンツァージャケットを差し出すエリカさん。だから息が荒いよ~。
「あ……うん、いいけど、後ろ向いててもらえるかな?」
舌打ちを漏らすエリカさんが背中を向けているうちに、そそくさと着替えをすませる。
「これでいい?」
「うん、やっぱりあなたあの変なあんこうマーク付きより、黒森峰のジャケットの方が似合ってるわよ」
目元を緩め、褒めてるんだか貶してるんだかよく分からない事を呟くエリカさんに、なぜか赤面。
「次は髪を弄らせて貰うわよ!」
「え~!」
「えーじゃない! ちょっとで済むから」
整髪料でサイドと襟足の辺りを弄られる。なんとなく分かってきた。これはお姉ちゃんの髪型だ。
「そ、それじゃあそこに座って膝枕なさい!」
知ってる、これイメクラってヤツだ! でも、ここまで来て今さら逃げることも出来ない。観念して正座した私の太ももに、エリカさんがおずおずと頭を載せてくる。
「西住隊長~。私にはまだ隊長の代わりは荷が重いですぅ~」
聞いたことのないような甘えた声を出すエリカさん。
そうか。お姉ちゃんが卒業してまほ分不足だったのか。去年まで黒森峰は西住流の流儀で進んできたのに、急に放り出されたようで不安なのかもしれない。エリカさんを追い込んでしまった責任は、きっと私にもある。
「エリカさんはよくやってるよ……」
全てを捨てて逃げ出した私なんかより、ずっとしっかりと。
優しい気持ちになって髪を撫でていると、急にエリカさんが顔を上げた。
「違う! 西住隊長はそんなこと言わない!」
め……面倒くさいなぁ!
「もっとこう、劇場版みたいな表情で! 厳しさのなかにも柔らかな優しさを滲ませる表情で!」
「分かった、わかったから! 『エリカはいつも頑張ってくれているからな!』」
「もっと! 遠くに行ってしまった妹を重ねるような視線で! そして撫でる手つきも、血の繋がった妹相手には出来ないようなスキンシップでも、私相手なら許されるって感じで、徐々に激しく濃厚に!」
「うわあんもうイヤだよぅ!!」
そのあとワールド・タンク・ウォーで再戦してボッコボコにしてあげた。