妹様になりたい狂人の呪術廻戦転生記   作:火烏

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第5.5話 興味

side羂索

 

 話し合いを終え、私は一人になった部屋で、先ほどの少女との会話を思い返していた。

 

 フランドール・紅月。

 

 十歳の少女にしては、随分と興味深い。

 

 そもそも、私が彼女に直接接触した理由は、いくつかある。

 

 一つは、彼女が無為転変を持っていること。

 

 無為転変という術式自体は、以前から知っていた。過去に何度か、あの術式を持つ呪霊と遭遇したことがある。魂に干渉し、肉体を自在に変質させる。非常に特異で、応用範囲の広い術式だ。

 

 ただし、私が見てきた使い手は、いずれも呪霊だった。

 

 人間が、しかも生まれながらにしてこの術式を持っているという例は知らない。

 

 彼女の治療や実験の様子を一部観察した際、その挙動が過去に見た無為転変と一致していることに気付いた。単に魂を扱う術式というだけではない。術式の働きそのものが同じだった。

 

 だからこそ、彼女の術式が無為転変であることには確信があった。

 

 私の計画にとっても重要な術式だ。いずれ手に入れる算段を考える必要があったものを、人間の少女が持っている。これだけでも、直接会っておく価値は十分にあった。

 

 当初は、彼女を有望な術師として確保し、必要ならば呪詛師の手駒として利用する。あるいは、予備の器として確保しておく。その程度の考えだった。

 

 だが、実際に話してみれば、当初の想定とは違うものが見えてきた。

 

 彼女が興味を持っているのは、無為転変そのものの研究だけではない。

 

 魂を複数融合させる実験。血縁関係にある個体や、番となった個体の方が融合時の拒絶反応が少ないという観察結果。若い個体ほど融合を維持しやすいという傾向。

 

 そして、そこから導き出された仮説。

 

 魂の拒絶反応は、生まれてからの経験や時間の経過によって強くなるのではないか。ならば、生まれる前の魂――胎児であれば、さらに拒絶反応を抑えられるのではないか。

 

 人間の胎児を材料にするという発想自体は、さほど難しいものではない。だが、彼女はそこに至るまでに、昆虫や小動物を使った実験を重ねていた。

 

 卵や生まれたばかりの個体では、魂そのものが脆く、融合を維持できなかった。人間の魂であれば、十分な強度を持ちながら、生まれてからの経験が少ない状態を利用できるかもしれない。

 

 そう考えたわけだ。

 

 さらに、彼女は融合した魂を一つの塊として安定させ、呪具にする構想まで持っていた。

 

 賢者の石。

 

 まだ構想と理論の段階ではあるが、実現すれば相当な代物になるだろう。膨大な呪力を生み出す道具としても、用途は広い。

 

 無為転変を持つ人間の少女が、ここまで独自の研究を進めている。

 

 これは、予備の器や手駒として確保するだけでは惜しい。

 

 彼女がどこまで到達するのか、見てみたくなった。

 

 気付けば、当初考えていた以上の支援を用意することになっていた。

 

 住居や研究施設、資金、人脈、身分。研究を続けるために必要な環境を整え、彼女が望む協力者や研究対象へとつながる道も用意する。

 

 もちろん、何の見返りもない慈善事業ではない。

 

 彼女の治療や若返りの技術を、私の紹介する人間へとつなげる。そうすれば、老いた権力者や有力者との接点を確保できる。彼らにとって若さや健康は大きな価値がある。紹介の窓口を私が握ることには、十分な政治的利益があった。

 

 彼女の研究成果を得られる可能性もある。無為転変を持つ術師を手元に置けること自体にも意味がある。

 

 そして、必要ならば予備の器として利用する余地も残る。

 

 ただ、今ではそれ以上に、彼女が何を作り出すのかという好奇心が大きくなっていた。

 

 最初は、こちらが用意した環境の中で育てるつもりだった。ところが、話を聞くほどに、私自身が彼女の研究を支えることに面白さを感じ始めている。

 

 当初の目的からすれば、随分と大きな方向転換だ。

 

 それが可笑しくもある。

 

 もちろん、彼女が何も隠していないとは思っていない。

 

 会話の端々から、こちらに伝えている情報を選んでいることは分かる。知っていることをすべて話しているわけではないし、研究についても、まだ伏せている内容があるのだろう。

 

 ただ、彼女の場合、何を隠していても不思議ではない。

 

 そもそも、十歳の子供として扱うには、あまりにも異質な部分が多い。普通の子供と比較して、どこまでが年齢相応で、どこからが異常なのかを判断すること自体が難しい。

 

 隠しているものがあるとしても、それは研究や実験に関することだろうか。あるいは、まだ私に話すつもりのない別の構想か。

 

 今のところ、それ以上のことは分からない。

 

 無理に聞き出す必要もない。彼女が研究を続ける環境を整えれば、いずれ自分から何かを見せてくるかもしれない。

 

 それに、彼女が私に何を隠しているのかを知ることも、今後の楽しみの一つになるだろう。

 

 人間の少女が無為転変を持ち、魂の融合を研究し、胎児の魂にまで着目している。

 

 その先に、賢者の石という成果を見据えている。

 

 これほど興味を惹かれる存在を、ただの手駒として扱うのは惜しい。

 

 さて、彼女はどこまで進むのだろうか。

 

 私が用意した環境を使い、私の予想を超えるものを作り出すのか。それとも、途中で行き詰まり、別の道を探すことになるのか。

 

 どちらに転んでも、退屈はしなさそうだ。

 

 しばらくは、彼女の望むようにさせてみよう。

 

 その先に何が生まれるのか、見届けることにしよう。

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