After the End Credits -エンドロールの後で- 作:甘井モナカ
原作:Cyberpunk2077
タグ:サイバーパンク2077 サイバーパンクエッジランナーズ2 独自解釈 ほのぼの 後日談
ロマン・カラックスは、自ら撮影・編集した短編映像をネットに投稿する。
そこに映し出されているのは、ナイトシティで確かに過ごした彼らの何気ない日常。けれど、コメント欄に並んだのは、彼の思いとは裏腹な反応だった。
そんななか、見覚えのあるイニシャルがコメント欄に現れる。
これは、エンドロールのあとに続く、ほんのささやかな物語。
◇
「ふぅ……」
少年は編集机の前で小さく息を吐いた。
自室に響くのはパソコンのファンが回る低い音だけだ。モニターには、完成したばかりの映像ファイルが映し出されている。
彼は最後にタイトルを確認すると、ほんの一瞬だけ指を止めてから投稿ボタンを押した。
ナイトシティの片隅。
ネオンが瞬き、車が絶え間なく行き交う。人々はそれぞれの行き先を胸に、夜の街を歩いていく。
立ち止まる者はいない。誰もが何かを見据え、何かを抱え、それぞれの夜を生きていた。
そんな街で、少年──ロマン・カラックスは、自ら撮影・編集した三分十二秒の短編映像をネットに公開した。
画面に淡いちらつきが走る。細かな粒子の奥から、夜の街が少しずつ輪郭を現していく。
フィルムに焼きつけられた映像には、ネオンの下を行き交う人々や、店先で言葉を交わす者たちの姿が映し出されていた。
やがて場面が切り替わる。路地裏を跳ねるように進む少女の後ろ姿。遠くの何かを真剣なまなざしで見つめる男が佇む。ふとカメラに気づき、ビール缶を片手に無邪気な笑顔を向ける青年がいる。
そこに映し出されているのは事件でも、ドラマでもない。ただ、ナイトシティのどこにでも転がっているありふれた時間だった。
映像に明確なメッセージはない。社会を批評するわけでも、見る者に何かを訴えかけるわけでもない。そこにあるのは、レンズ越しに世界を見つめた少年の視線の軌跡だけだ。
人混みのなかでふと足を止め、カメラを向けた青空。飲食店の扉を抜けてレンズに差し込む夕暮れ。摩天楼の灯りを静かに包み込む夜空。言葉にならない断片が、三分十二秒という短い時間のなかで静かに積み重なっていく。
これを物語と呼ぶことは、おそらくできないだろう。
そこにあるのは、彼が目にしたものを、そのまま記録した映像だった。
それだけのはずなのに、その何気ない光景は不思議な余韻を残す。まるで、誰かが観た夢の名残を、そっと覗き込んだかのように。
しかし、映像が残した余韻とは裏腹に、公開後のコメント欄には否定的な反応が並んだ。
『Chrome_Burn:今どきフィルム? 金の無駄だろ』
『NoContext:で、結局何が言いたいわけ?』
『BadOmen:映ってる奴ら、全員ロクな死に方してなさそう』
『Pixel_dust:3分も見て損した。編集くらい勉強しろよ』
映像そのものに触れるものもあれば、撮影方法を笑うもの、映っている人物にまで好き勝手な憶測を飛ばすものもある。なかには、ろくに観もしないまま低評価をつける者もいた。
メッセージは次々と流れていく。
批判に便乗する声が重なり、やがて映像とは関係のない言い争いまで始まっていた。
ロマンは黙々とコメント欄を眺めていた。
フィルムがどうとか、編集がどうとか、ずいぶん好き勝手に言っている。ひとりくらい、映っている人たちのことをちゃんと観てくれた人はいないだろうか。
そう思いながら、さらにスクロールする。やっぱり、いなかった。
ロマンは少しだけ残念に思ったものの、すぐにまあいいかと気持ちを切り替えた。画面を閉じようと、カーソルを動かす。
映像には、ちゃんと残っている。彼女の後ろ姿も、男が見つめていたものも、あの笑顔も。
けれど、それを見つける人がいるかどうかは、また別の話だった。
『T_Y:観たよ。キレイに撮れてたじゃん』
その話はすぐに現実になった。
コメント欄に、もうひとつ書き込みが流れる。
『W_K:俺も観させてもらった。素晴らしい出来栄えじゃないか』
モニターを眺めるロマンの目に、見覚えのあるイニシャルが留まった。
彼はほんの少し表情を和らげ、続くやり取りを追った。
『T_Y:ちなみに、こいつ途中で泣いてたから』
『W_K:泣いてなどいない。少々、砂が目に入っただけだ』
『T_Y:へえ。施設の中なのに?』
『W_K:……余計なことは言わなくていい』
『T_Y:はいはい。でも相変わらずセンスある映像だよね。ね、今度私にもコツ教えてよ』
ロマンは画面を見つめながら、少し考えた。
撮影の基本や編集の手順なら教えられる。けれど、自分が何に目を留め、なぜそれを映像に残そうと思ったのか。そうした感覚は、言葉で説明するより、彼女自身の目で見てもらった方が早いかもしれない。
また、会いに行かなきゃいけない理由がひとつ増えた。
『W_K:なんだ、カメラに興味が出たのか?』
『T_Y:ちょっとね。今から覚えれば色々撮れるでしょ?これからの事とかさ』
『W_K:……』
『T_Y:もしかして、泣いてる?』
『W_K:泣いていない!砂だ!砂が入っただけだ!』
『T_Y:ほんとかなぁー』
画面に並ぶ言葉を追いながら、ロマンは二人のいつものやりとりを思い浮かべていた。
少し間を置いて、彼女から最後のメッセージが届く。
『T_Y:そうそう。リハビリも順調だよ。ぼちぼちって感じ。じゃあ、またね。ロマン』
ロマンはそこで小さく笑った。
目元を擦りながら、画面に並ぶ二人のやり取りをもう一度眺める。
映像はちゃんと届いていた。この街で同じ時間を過ごした人たちに。
彼がカメラを回し続けた意味は、きっとそこにあった。
◆
気づけば、コメントの流れは緩やかになっていた。
窓の外では相変わらずネオンが瞬き、遠くから車の走行音が聞こえてくる。部屋には、パソコンのファンが回る低い音だけが響いていた。
ロマンは椅子に腰掛けたまま、モニターの画面に並ぶコメントをひとつずつ追っていた。
ふと、指が止まる。
彼の目に映ったのは、たった一行のメッセージ。
ロマンはそれをしばらく見つめていた。
今朝の買い物は済ませた。食料、日用品、機材の小部品。必要なものはひと通り揃えたはず。
……あ。ひとつだけ買っていないものがあった。
補充しておかないと。アレは。
小さく息を吐き、ロマンは立ち上がる。机の上のカメラを手に取り、壁に掛けてあった上着を羽織った。
彼はもう一度モニターへ目を向ける。画面に表示された一行を見つめ、見間違いでないことを確かめた。ふと、自分の口元が緩んでいることに気づく。
少年はそれから何も言わず、小走りで部屋を飛び出した。
扉が閉まる。
誰もいなくなった部屋には、モニターの光だけが淡く残っている。
その画面の中には、生意気な一行が添えられていた。
『N/A:ギャラ、まだ貰ってねぇぞ。ビール2本な!』
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
『サイバーパンク:エッジランナーズ2』、最っ高でしたね!
あの爽やかな余韻を壊したくはなかったのですが、どうしてもアレだけは書きたくて、ついペンを握っちゃいました……!
さて、筆者が本当に書きたかった箇所、皆さん分かりました?
答え合わせは、ぜひ感想ページで!(笑)