Cyberpunk ER2 After the End Credits -エンドロールの後で- 作:甘井モナカ
原作:Cyberpunk2077
タグ:サイバーパンク2077 サイバーパンクエッジランナーズ2 独自解釈
ロマン・カラックスは、自ら撮影・編集した短編映像をネットに公開する。
そこに映し出されているのは、ナイトシティで確かに過ごした彼らの何気ない日常。けれど、コメント欄に並んだのは、彼の思いとは裏腹な反応だった。
そんななか、見覚えのあるイニシャルがコメント欄に現れる。
これは、エンドロールのあとに続く、ささやかな物語。
「ふぅ……」
ナイトシティの片隅。
ネオンが瞬き、車が絶え間なく行き交う。人々はそれぞれの行き先を胸に、夜の街を歩いていく。
そんな街で、少年──ロマン・カラックスは、編集机のモニターに向かい、自ら撮影・編集した3分12秒の短編映像をネットに公開した。
フィルムに焼きつけられた映像には、路地を跳ねるように歩く少女の後ろ姿が映る。遠くの何かを真剣なまなざしで見つめ続ける男が佇む。ふとカメラに気づき、ビール缶を片手に無邪気な笑顔を向ける青年がいる。
そこに映し出されているのは事件でも、ドラマでもない。ただ、ナイトシティのどこにでも転がっているありふれた時間だった。
作品に明確なメッセージはない。社会を批評するわけでもなく、見る者に何かを訴えかけるわけでもない。そこにあるのは、レンズ越しに世界を見つめた少年の視線の軌跡だけだ。
人混みのなかでふと足を止めた瞬間。すれ違った誰かの表情。何気なく見上げた空。言葉にならない断片が、3分12秒という短い時間のなかで静かに積み重なっていく。
これを物語と呼ぶことは、おそらくできないだろう。
そこにあるのは、彼が目にしたものを、そのまま記録した映像だった。
それだけのはずなのに、その何気ない光景は不思議な余韻を残す。まるで、誰かが観た夢の名残を、そっと覗き込むように。
しかし、映像の出来栄えとは裏腹に、公開後のコメント欄には否定的な反応が並んだ。
『Chrome_Burn:今どきフィルム? 金の無駄だろ』
『NoContext:で、結局何が言いたいわけ?』
『BadOmen:映ってる奴ら、全員ロクな死に方してなさそう』
『Pixel_dust:3分も見て損した。編集くらい勉強しろよ』
映像そのものに触れるものもあれば、撮影方法を笑うもの、映っている人物にまで好き勝手な憶測を飛ばすものもある。なかには、ろくに見もしないまま低評価をつける者もいた。
メッセージは次々と流れていく。
批判に便乗する声が重なり、やがて映像とは関係のない言い争いまで始まっていた。
ロマンは黙々とコメント欄を眺めていた。
フィルムがどうとか、編集がどうとか、ずいぶん好き勝手に言っている。ひとつくらい、映っている人たちのことをちゃんと観てくれた人はいないだろうか。
そう思いながら、さらにスクロールする。やっぱり、いなかった。
ロマンは少しだけ残念に思ったものの、すぐに、まあいいかと気持ちを切り替えた。画面を閉じようと、カーソルを動かす。
映像には、ちゃんと残っている。少女の後ろ姿も、男が見つめていたものも、あの笑顔も。
けれど、それを見つける人がいるかどうかは、また別の話だった。
『T_Y:観たよ。よく撮れてたじゃん』
そして別の話になった。
コメント欄の流れが変わる。
『W_K:俺も観させてもらった。素晴らしい出来栄えじゃないか』
モニターを眺めるロマンの目に、見覚えのあるイニシャルが留まった。
彼はほんの少し表情を和らげ、続くやり取りを追った。
『T_Y:ちなみに、こいつ途中で泣いてたから』
『W_K:泣いてなどいない。少々、砂が目に入っただけだ』
『T_Y:へえ。施設の中なのに?』
『W_K:……余計なことは言わなくていい』
『T_Y:はいはい。でも相変わらずセンスある映像だよね。ね、今度私にもコツ教えてよ』
ロマンは画面を見つめながら、少し考えた。
撮影の基本や編集の手順なら教えられる。けれど、自分が何に目を留め、なぜそれを映像に残そうと思ったのか。そうした感覚を人に伝えるのは、案外難しいかもしれない。
『W_K:なんだ。カメラに目覚めたのか?』
『T_Y:ちょっとね。今から覚えれば色々撮れるでしょ?これからの事とかさ』
『W_K:……』
『T_Y:もしかして、泣いてる?』
『W_K:泣いていない! 砂だ! 砂が入っただけだ!』
『T_Y:ほんとかなぁー』
画面に並ぶ言葉を追いながら、ロマンは二人のいつものやりとりを思い浮かべていた。
少し間を置いて、彼女から最後のメッセージが届く。
『T_Y:リハビリも順調だよ。ぼちぼちって感じ。じゃあ、またね。ロマン』
ロマンはそこで小さく笑った。
目元を擦りながら、画面に並ぶ二人のやり取りをもう一度眺める。
映像は届いていた。この街で同じ時間を過ごした人たちに。
それだけで十分だった。
しばらくして、コメントの流れは緩やかになった。
窓の外ではネオンが瞬き、遠くから車の走行音が聞こえてくる。部屋には、パソコンのファンが回る低い音だけが響いていた。
ロマンは椅子に腰掛けたまま、モニターの画面に並ぶコメントをひとつずつ追っていた。
ふと、指が止まる。
彼の目に映ったのは、たった一行のメッセージだった。
ロマンは画面を見つめたまま、しばらく動かなかった。
やがて、無言で立ち上がる。机の上のカメラを手に取り、壁にかけてあった上着を羽織った。
少しだけ考えるように立ち止まり、もう一度モニターに目を向ける。それから、何も言わずに部屋を出ていった。
扉が閉まる。
誰もいなくなった部屋には、モニターの光だけが淡く残っている。
その画面には、生意気な一行が添えられていた。
『Unknown:出演料。ビール2本な』
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
『サイバーパンク:エッジランナーズ2』、最っ高でしたね!
あの爽やかな余韻を壊したくはなかったのですが、どうしてもアレだけは書きたくて、ついペンを握っちゃいました……!
さて、筆者が本当に書きたかった箇所、皆さん分かりましたか?
答え合わせは、ぜひ感想ページで!(笑)