勝ち取れ、さすれば与えられん 作:現実先輩、これ超えてみて!
日本よ!私が帰って来た!
はい、帰国してすぐに、競馬学校に立ち寄る。
渡米の際にお世話になった、アレキサンダー師に挨拶をする。
土産物を持って、休憩時間を見計らい、突撃する。
「アレキサンダー先生、阿慈谷涼子ただいま帰国しました!」
「おお!涼子か!活躍は新聞とTVで知ったぞ、お前凄いな。名門スティール・ハンター厩舎に所属して、アメリカのクラシック戦線に参戦し好走、ブリーダーズカップで掲示板入りだなんて、お前を担当した教官として、俺も鼻が高い!」
え?どういう事だ。
「いえ、先生。確かに、私は牡馬クラシックとブリーダーズカップに、スティール師のご厚意で出させて頂きました。ですが、残念な事に私は一度も相棒を一着にする事ができませんでした。これが、彩 峰人騎手や池尾 健司騎手、福本 雄太騎手 クリスティン・ラファール騎手、マルコ・ムーロ騎手だったら、どこかで一着を取れていたんじゃないかと思います」
ディープインパクトで、無敗の三冠を取り、皆が最強馬と認めている。そんな馬を導いた天才、彩 峰人。私の前世でいう、武〇騎手ポジションの人、顔立ちもよく似ていらっしゃるし、お手馬も代表的な名馬にスーパークリークに、メジロマックイーン、サイレンススズカと数多に居るから、きっとそう。
縦川 紀夫騎手は横〇典〇騎手、 池尾 健司騎手は池〇謙〇騎手、福本 雄太騎手は福〇祐〇騎手、クリスティン・ラファール騎手、マルコ・ムーロ騎手はそれぞれク〇スト〇・ル〇ール騎手とミ〇コ・〇ムー〇騎手に、お手馬も顔立ちもそっくりで間違えそうになる。
この人達なら、私をクラシックに連れて行ってくれたあの仔をG1馬にしてくれたんじゃないかと思っている。
「はぁ、阿慈谷お前なぁ。アメリカに一体何人ジョッキーが居ると思っている。調教師がお前で出走させると決めた以上、お前以外に合う騎手が居なかったんだよ。下手だったり、合わないと判断したのなら、容赦なく即行で降ろされているよ。だから、自信を持て、お前は凄いんだ!」
お、おう凄い剣幕だ。
でも、スティール・ハンター師が私を選んだの、デッキブラシで強盗をボコした私を見て、ビビったんだと思うよ?
「褒められたとしても、私はそれを受け取れません!私は、今後クラシックに挑戦できるかもしれません、でも馬はそうでは有りません。この世界に私より長く居る先生は当然ご存じだと思いますが、競走馬は一戦一戦の成績が今後のキャリアを左右されます、本当に大事な勝ち星でした……だから、勝たせる事が出来なかった私が、賞賛の言葉を受ける事なんてできません。でも、ありがとうございます、先生の言葉で自信は持てました」
「ストイックだなぁ。だが、あまり深く考えすぎるな、君は俺が思っていた以上の経験を積んできた。きっと、良い騎手になる」
「はい、頑張ります」
師と別れ、そのまま担当事務局に騎手休業届けを取り下げた。
「よし、それじゃあ。所属厩舎探すかぁ」
雇って貰えない場合は、いきなりフリーだ。
日本で実績の無い小娘じゃ、エージェントさんも困るだろう。
厩舎は栗東と美浦で分かれているが、私の実家が大阪は十三だという事を踏まえて、まずは栗東で探してみるか。地元に近い方が、なんとなく心強いしね。
そんな訳で、ただ今栗東トレセンに居ますが。
どーこも、雇ってくれなかった。
いや、数多ある厩舎の中でも私が知っている厩舎っていうのG1を勝った事の有る厩舎、言わば大手と言っても過言では無い。
だからだろうか、今は間に合っているとか、所属騎手が既に居るという理由で、断られている。
いや、感触自体は凄く良いんだよ。『噂は聞いている』『頭がおかしい新人が居たってきいたけど君の事か』『アメリカに初年から行くなんて大したものだ』『同期を投げ飛ばしたって聞いたけど本当か?』*1『アメリカでクラシック戦線に乗れるだなんて凄いな!』等。奇人変人枠でおもしれー奴扱いされてはいるけど、雇うまではいかない。そんな感じである。
ただ、先生方に、この厩舎なら雇って貰えるかもという厩舎を教えて貰った。
G1未勝利で、重賞は過去にG3を二つ、G2を三つ取っている厩舎である。
その先生は昨今レース場を跋扈しているディープインパクトやステイゴールドのサンデー系やキンカメ系の血統よりも、父馬や母父がレースファンならレース場やTVで見た事がある血統を重視して預かっているそうだ。
菅田正則先生と言うらしい、大変失礼ながら聞き覚えが無い調教師だ。
「こんにちは、菅田正則先生はいらっしゃいますか?」
「ああ、僕だよ。よく来たね」
現れたのは、細身の眼鏡をかけた40歳後半から50歳位の年齢の男性だった。
「はぁ、まるで待って居たかのように仰りますね」
「うん、僕は君がアメリカのクラシックを乗っていた時から注目していたからね。あ、これは他の調教師の先生方もそうだよ。もう4、5年位前になるかな、騎手候補の子達の配属云々で、競馬学校の人から頼まれたんだよ。伝手も縁も無くこの世界に飛び込んできた、将来有望な女性騎手候補が居るから、もしよければ受け入れて下さいって。僕も親類縁者に競馬界の人間が居なかったから、苦労は良く知っている。無事課程を修了できたのなら受け入れますって言ったんだ。でも、笑っちゃうよ。君ったら、即座に休業届けを出しちゃうんだもの。ビックリしたよ」
「え!それは、そうとは知らず。何もお伝えせずに渡米してしまい、大変ご迷惑をおかけしました」
競馬学校のどなたかは知らないけど、教えてよ。そうしたら、あらかじめ挨拶や謝罪が出来たのに!あ、競馬学校の誰が気を回してくれたのかも聞かないと、今度関東に行く事が有ったら、お礼と謝罪をしなきゃ。
「いいよ!いいよ!君の活躍は耳に届いているよ、アメリカの数多くいる騎手達を押しのけ、クラシック戦線に日本人が参戦したんだ、掲示板に残るレースもした。クレーミング競争で結果を出してアメリカの名門厩舎に僅かな間でも所属していたんだ、腕前は確かなんだろうね。なら是非、うちの厩舎に所属して欲しい」
「ありがとうございます。でも、大変失礼ながら、菅田先生の厩舎の名前を今日初めて知りました。どのような厩舎なのですか?」
大事な話だ、受け入れてくれる事自体は、大変ありがたいが、いかんせんどんな厩舎なのかが全くの謎だ。
「ああ、そりゃそうだ。最近はなかなか勝てなくてね。オープンに行ければいい方で、重賞からは随分と遠のいた位置に居るからなぁ。最近は、ディープインパクト系・ステイゴールド系・キングカメハメハ系が跋扈していて厳しい位置に居るんだ」
「えっと、その言い方だとまるで、それらの産駒が居ないみたいな言い方ですよ?」
「居ないよ」
「え!?」
そんな、もうすぐ2016年だよ?父方や母方にはまず間違いなく居る血統じゃないの?
「僕の厩舎のポリシーとしてはね、競馬ファンが喜んで応援する競走馬をレースに送り出す事だ。少し昔語りになるんだけどね、僕がこの業界に入った理由が僕の好きだった馬の子供達が殆ど中央で見なかったからなんだ。偶になら新馬戦や未勝利戦で見かけたんだけど、重賞やクラシックでなんかは全く見なかった。それが悲しくて仕方がなかった。なら、僕がどうにかしてやるって意気込んでこの業界に入った訳だけど、この様さ。今は預託料やらで凌いでいるけど、このままじゃ不味いね」
「成程、生産者の皆さんも高く買い取って欲しい訳ですから、人気の有る走る血統の馬を生産する訳ですから、偏りますよね」
うーん、理解は出来る。
誰だって、自分が応援していた馬の仔を応援したい。
いつも同じ父馬や母父では飽きるかもしれない。
でも、残念ながら、競馬はビジネスだ。
「そうなんだよね、仕方ないんだけど。寂しいんだ。レースファンが馬券を気にせずに楽しめるような馬を、大レースに送り出したい。でも、壁が厚い。こんな厩舎でも良ければ、所属してくれると嬉しい」
まずは、預かっている馬を見たいところだけど。
話を聞くと、面白い事を考えている先生だ。
他の厩舎は厳しそうな雰囲気だし、ここを逃すといよいよ、0勝でフリーになっちゃいそうだ。
「よろしく、お願いします」
ちなみに、菅田先生の好きな馬はカツラギエース