BLEACH ~No Future Worth Your Ruin~ 作:冬冬✻
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秘密を知ったと宣う者は
相手のことを何も知らん
秘密はないと答える者は
相手のことも見れとらん
秘密を聞かぬと答える者は
自分のことを解っとる
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瀞霊廷、五番隊執務室。
「新入隊士の教育係、ですか?」
柊は手元の書類から顔を上げた。向かいに立つ藍染は、穏やかに頷く。
「ええ。君なら彼とも上手くやれそうだと思ってね」
「……わかりました」
机に広げていた書類を引き出しに収める。
「入ってきて大丈夫だよ。市丸君」
その声に合わせて戸が引かれた。入ってきたのは銀髪の少年。若い、なんてレベルではない、まだ子供だ。
少年は柊の前までゆっくりと歩いてくると、細い目と薄らとした笑みを浮かべながら口を開いた。
「どうも。市丸ギンです。よろしゅうお願いします」
そのまま、軽く頭を下げる。声にも仕草にも、特に緊張した様子はない。
「藍染副隊長から聞いとります。柊周介さんですよね?」
「聞いてたんだね。俺が今日から君の教育をすることになったから、一緒に頑張ろうか」
「あんまり、厳しくせんといてくださいね。柊三席」
「それは頑張り次第かな」
「ほな、頑張りますわ」
にこにこと答えるギンに、柊も笑った。初対面の上官を前にしても、この調子で話せているのは、だいぶ肝が座っていると思う。
もっとも、自分もここまで若い隊士の教育などしたことはないので、物怖じせずに、コミュニケーションを取ってくれる、その点では、確かに上手くやっていけそうだ。
「じゃあ、まずは訓練場に行こっか」
「早速です?」
「どれくらい動けるか、見ておきたいからね」
ギンは頷き、戸口へ身体を向けた。柊もその隣に並んで二人揃って執務室を後にする。
***
訓練場には、ちょうど人がいなかった。柊はギンを中央へ連れていくと、少し距離を取って向き直る。少年もそれに合わせて足を止め、刀の柄に手を添えた。
「実力を見るためだから、好きなように動いていいよ」
「何してもええんです?」
「うん。使えるものは使ってくれていいから」
「ほな、お言葉に甘えさせて貰いますわ」
ギンが刀を抜いた。向かい合ってみて、初めて気づいたが、少年の刀は異常に短かった。小刀。まず距離を詰めてくるのだろうか。そう考えた、その時だった。
「射殺せ、神鎗」
白いものが、目の前へ伸びてきた。
「――ッ!」
咄嗟に地面を蹴り、身体を横へ逃がす。袖のすぐ傍を、鋭い風が掠めていき、背後で、土を抉る音がした。
柊は着地し、思わず音の方へ振り返った。ギンの手元から一直線に伸びた刀身は自分の立っていた場所を貫き、その向こうへ突き刺さっている。
伸びた。
今、あの短い刀が。
向き直ると、刀身は既に縮んでいる。柊は少し考えた後。
「よし。終わり!」
ギンが顔を上げた。短い刀を手元に戻し、少しだけ首を傾げる。
「まだ、僕だと手合わせするレベルとちゃいました?」
「実力を見るための手合わせで、怪我人出してもしょうがないでしょ」
「僕の心配してくれはるんです?」
「いや、たぶん俺が怪我しそう」
ギンが黙った。細い目をした顔が、そのまま止まる。そして、少年の口元から、不意に笑い声が漏れた。
「なんや、変わった人ですなァ」
先程よりも、口元の笑みが深くなっている。柊も少し遅れて笑った。
***
執務室へ戻ってしばらくすると、流魂街で虚が確認されたとの報せが入った。
藍染は数名の隊士へ討伐任務を命じ、ギンにも同行するよう伝えた。柊はその場で報告を聞き、出発の準備が整う頃、隊舎の入口へ顔を出した。
ギンは柊に気づくと、薄ら笑いを浮かべながらこちらへ向く。
「ギン、初の任務だね」
「ですなァ。まあ倒せるように頑張りますわ。柊三席にさっき褒められたばっかやし」
「うん。さっきの動きなら、十分やれると思うよ」
神鎗の一撃を思い出す。刀が伸びたことだけではない。構えてから攻撃へ移るまで、動きに迷いがなかった。自分の刀をどう扱えばいいか、ギンはよく分かっているようだった。
柊は少し表情を柔らかくして、続けた。
「ただ、少しでも強い虚が出たり、危なくなったら、深追いせずに逃げてきていいからね?」
ギンの笑みが、一瞬消えた。
柊を見上げたまま、その口から返事が止まる。だが、すぐにいつもの顔へ戻った。
「逃げて帰ってきたら、上の人らに叱られるんやないです?」
「その時は俺が隊長たちに言うから、ギンは気にしなくてもいいよ。部下を守るのも上司の仕事だからね」
「……逃げてええ、と」
「危ない時はね」
ギンは腰の刀へ軽く手を置いた。何かを言いかけたように見えたので、柊は黙って彼の言葉を待つ。
「臨機応変に戦えいう命令はあっても、危なかったら逃げてええいう命令は珍しいですなァ」
「そもそも、今日入隊だから逃げてもいいって命令しか受けたことないんじゃない?」
「そういえば、そうでしたなァ」
二人は顔を見合わせ、笑った。
そこで、同行する先輩隊士から声がかかる。どうやら出発するらしい。ギンはそちらへ目を向け、それから柊へ軽く頭を下げた。
「じゃあ、いってきますわ」
ギンが前を向いて歩き出したところで柊も返す。
「行ってらっしゃい。ちゃんと帰ってきてね」
その言葉を聞いて、ギンが一度振り返った。少しの間、こちらを見つめる。そして。
「ほな、ちゃんと帰ってきますわ」
今度こそ前を向き、ギンは隊士たちの方へ歩いていった。柊はその姿が門の向こうへ消えるまで見送り、執務室へ戻った。
***
「柊君。討伐班が帰還したよ」
藍染に声をかけられ、柊は顔を上げた。机の上には、先程片した書類が再び広がっている。
「全員戻ってますか?」
「ああ。四体の虚と遭遇して、三体は討伐できたそうだ。ただ、残る一体が大型の個体だったらしい」
柊は手に持った書類を机に置く。
「それで、撤退したんですね」
「ええ。市丸君が班員全員へ呼びかけたそうだよ。詳しい報告はこれからだが、まずは全員、無事に帰ってきている」
「分かりました。ちょっと様子を見てきます」
入口へ向かうと、戻ってきた隊士たちが、荷物を下ろしているところだった。衣服に汚れはあるが、誰一人として、深手の傷などは負っていない。
そして、その端にギンがいた。
「おかえり。ギン」
「ただいまさんですわ。ちゃんと帰ってきましたよ」
「うん。ありがとう」
「逃げてきて、お礼言われるんは初めてですなァ」
ギンは軽い調子で答えた。柊は周りの隊士たちへ目を向け、それから視線を戻す。
「でも、約束守ってくれたでしょ? それなら合ってるじゃない?」
ギンは少し黙った後、口元を緩めた。
「ほな、どういたしまして」
残る一体の討伐は、柊が担当することになった。藍染へギンを同行させることを伝え、改めて二人で出発の支度をする。
「ギン。さっきの場所、案内してもらっていい?」
「ほな、案内しますわ」
「お願い。今度は俺も一緒に行くから」
二人は虚の発生地点に向かった。
***
大型の虚は、林の外れにいた。
折れた木々の間で巨体を揺らしながら、こちらの様子を伺っている。
「あれですわ」
「うん。確かに大きいね」
柊は刀を抜いた。虚は唸り声を上げながらこちらへ踏み出す。
「ギン。右の腕、止めてもらえる?」
「りょうかいさんです」
返事を聞き、柊は間合いを詰めた。虚の腕が持ち上がるが、その手が振り下ろされるよりも早く、隣から声が走った。
「射殺せ、神鎗」
伸びた刀身が右腕を貫き、後方へと押し出す。虚は体勢を崩しながらも、空いた左腕を柊へ振るった。
柊はその腕を後ろに下がりながら回避し、斬魄刀を虚へと向ける。
「疾れ、風切」
刃の周囲に、風が巻いた。振り抜いた切っ先からは圧縮された風の斬撃が放たれ、こちらへ迫る腕を切断し、虚の仮面を両断する。
柊は虚の姿が消えたのを確かめ、刀を下ろした。伸びていた神鎗も、ギンの手元へ戻っている。
「うん。終わりだね。ありがとう、ギン」
「お疲れさんですわ」
ギンは柊の刀へ一度目を向けてから、自分の刀を収めた。
***
帰る頃には、陽が傾き始めており、少し赤みがかった道の上を歩きながら、二人は五番隊へ向かっていた。ギンはしばらく黙っていたが、やがて柊へ顔を向けた。
「柊三席」
「どうしたの? ギン」
「さっきの模擬戦、最初から本気出す気なかったんです?」
柊は腰へ目を落とした。
「風切を使わなかったこと?」
「ええ」
隣のギンは、細い目をこちらへ向けていた。柊は少し笑う。
「別に、手を抜いてたわけじゃないよ。知りたかったのはギンの強さだから、俺が風切を抜かないといけない時点で、それはわかるでしょ?」
神鎗が伸びてきた瞬間を思い出す。あのまま戦闘でもすれば、確実に風切を抜いて斬り合いになっていた。実力を確かめるという目的なら、そこまでせずとも、あれで十分だった。
「自分の強さって、人に見せたなるものやないんですか?」
「まあそういう人もいると思うし、間違ってるわけでもないと思う」
柊が答えると、ギンは少しだけ顎を上げた。
「でも俺は、それは一緒に過ごしてるうちに分かっていけばいいんじゃないかって思うんだよね。これから、また一緒に任務へ行くこともあるだろうし」
「自然にです?」
「うん。むしろ、この話だけじゃないと思うよ。他のことでも同じだと思う」
隣で、足音が止まった。柊も足を止め、振り返る。すると、ギンは少し後ろに立ち、こちらを見ていた。口元には笑みが浮かんでいるが、すぐには何も言わなかった。
「どうしたの?」
ギンは暫く黙ったあと、いつもと同じ調子で尋ねる。
「もし、僕が何か隠してたらどうします?」
「別にいいんじゃない? 誰でも話したくないことの一つや二つあるものでしょ? 俺だって平子隊長にも藍染副隊長にも話さないことなんて幾つもあるし」
柊はそこで一度言葉を切り、付け加えた。
「それに、ギンにもね」
「柊三席も、隠しはるんですか?」
「そりゃ、するよ」
「上官いうんは、部下に隠し事はするな、言うもんやと思っとりましたけど」
ギンは首を傾げた。柊は少し考えてから、答える。
「人が話さないってことは、その時点で話したくないってことでしょ? なら待てばいいと思うな。その人が本当に話したくなれば話すだろうし、そうでなければそのままだと思うから」
風が吹き、柊の髪が微かに揺れた。そして、ギンへ笑いかける。
「話したくなったら、聞かせてくれればいいよ」
ギンの細い目が、一瞬だけ開いた。
柊はそのまま、少年の返事を待った。やがてギンはゆっくりと目を細め、いつもの薄ら笑いを浮かべる。
「なら上手くやっていけそうですわ」
「そうだね。俺もそう思う」
ギンが歩き出したので、柊も足を進めた。少年は隣へ並ぶと、こちらへ顔を向ける。
「これからもよろしゅうお願いします。周介さん」
「うん。こちらこそよろしく。ギン」
二人の道は交わらない。だが、付かず離れずで伸びていく。
第8話 SILVER FOX 完
Q. 現在の展開のスピード感について感想をお聞きかせください。
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1. じっくり読みたいので丁度よい
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2. もう少ししたら展開を早めて欲しい
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3. 展開を早めて、物語が進むのが見たい
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4. 早く千年血戦篇や獄頤鳴鳴篇が見たい