スター・ウォーズ×ガメラ ~翡翠のジェダイ・マスター~ 作:フォレス・ノースウッド
EP2小説版でも、この時期タスケンの活動が激化していた背景が仔細に描かれていたので、もしこれが故意に起こす黒幕がいたとしたら――。
それからさらに数時間、砂漠の惑星らしく夜は一転して砂地も岩も大気も冷え切る時間帯にて、偽装貨物船に乗せていたスピーダーの助手席に朱音を乗せてアナキンは運転する。
彼の運転技術の賜物でもあるが、タトゥーイン生息の生物や入植者たちの生活への影響も考慮して、駆動音の静粛性が高い機種を選択していた。
同様の理由でライトも点けていないが、アナキンの感覚(フォース)ならば砂漠の夜でも問題ない、彼からすれば真昼のポッドレースよりも難易度は容易いレベルだ。
そのアナキンが駆るスピーダーを先導する形で、上空を偵察ドロイドが飛行中、今は半自動運転で、アナキンのスピーダーの方角に合わせて進行方向を替えられる設定となっている。
「左斜め四十度」
偵察ドロイドのセンサーには潜水艦のソナーと同じ要領で、高周波を地面に幅広く照射して地形情報を収集、それをを元にした地図(ナビゲーション)を見る朱音の指示に合わせて、アナキンのスピーダーは即座に方向転換する割り振り。
では何を基準にスピーダーを走らせているかと言うと、数時間前にラーズ家周辺に現れたタスケン・レイダーの群れの『痕跡』、それをドロイドの機器(センサー)と朱音のフォースによる感覚(センサー)、そしてアナキンの操縦技術と反応速度で彼女からのナビに即応し、二人の阿吽の呼吸も活用してタスケンの集落を探索しているのだが。
「アナキン」
「はい」
アナキンは自身の名を呼ぶアヤネの響きから意図を読み取ってスピーダーを止める。
彼らの現在地はジャンドランド荒野、砂地と起伏に富む岩場はぶつかり合い、タスケンの群れが徘徊するのでアヤネがフォースで速読したコルサントで買えるガイドブックでも『立入危険』と記載されているエリアだ。
先に降りたアヤネは、ライトセーバーにも使われるパワーセルが電源の小型ランタンを砂地に照らして、砂漠の惑星ゆえに雨が降らず、砂嵐でも起きぬ限りはくっきり残ったままの『足跡たち』を注視する………スピーダーで追跡し始めた時よりも足跡の密度が高くなっていた。
「タスケンの野営地が近いですね、それに……」
「彼らが普段は使わないビーグルの痕、しかも先刻の群れにはブラスターも持ってた、ワトーが聞いたと言う情報(うわさ)通り」
先程はラーズ家での夕食を堪能していたジェダイ二人だが、任務(しごと)も決して忘れてはおらず、食事後は先にお礼を表した上で暮らしの中で見られた『異変』を聞いてみると、タスケンは飛び道具に実弾の『サイクラーライフル』を使うのが主流なのにどこで手に入れたのかブラスターを使う個体も見かけ始め、また移動の際はパンサを使うのに一人乗りのビーグルも使う輩も出始めた、それで他の地区の水分農夫も実際に襲撃を受けて被害を被っている。やり返したくても逆に損害が増えるリスクでできずにいるし、各地区の当局はアテにならないしで悩まされる日々だと言う。
さらにアヤネは『タスケン・レイダーのこと以外でも、何度も頭を過って気になったことはありましたか?ほんの些細なことでも構いません、それが思わぬ手がかりへと化ける光明となり得る場合もありますので』と、水分農夫たちの一番の障害(タスケン)以外で最近の事情をクリーグたちに尋ねてみたところ。
〝気になった……ですか先生……そういや最近……夜空を見上げると、船の灯りをよく見るんですわ、わたしもオーウェンも〟
〝父の仰る通り、私もです、それに思い返すと……デジャヴってくらい、似た航路ばかりだった気がします〟
〝二人がそれをよく見る範囲で、一番近い衛星や施設はご存知ですか?〟
〝ゴームラッセンですかね、月の中で一番でかいし近いしで〟
今日含めて、タスケンの群れを見かける頻度が多くなった以外にも手がかりかもしれない情報を得た。
「ワトーの言ってた『ジャンク泥棒』の話も、引っかかりますよね……」
向こうにとっての適正価格な情報料の支払いと引き換えに、ワトーが明かしてくれた話は他にある、彼によると――。
〝最近ハットの奴らからジャンクを買い取る時、わしは口酸っぱく言っとるのに契約書と注文が合わねえことがよく起きてんだ、それ自体たまにあるんじゃがそいつがちょくちょくあるとクレームも付けたるなるもんさ、んで問い詰めるとあっちの言い分じゃ自分らも集めたジャンクが気がつきゃ無くなってて困ってるときた、そいつがどこまで信用できるかはアニーたちに任せやすがね~〟
タトゥーインで一番の商売(ビジネス)である『ジャンク売買』にも影響が出る程の、関係者の不備と決めつけられない盗難事件も度々起きており、その兆候が出始めた時期も、タスケンの動きが活発になってきたのとほぼ合致していた。
その上――。
「まだ新しいな……」
足跡の中に、タスケン以外の『二足歩行できる知的生命体』の靴跡(こんせき)も見られ、その場でしゃがみ込むアヤネは先に懐から折り畳みできるタッチパネル式複合携帯端末を取り出し、カメラ機能を赤外線モードで立ち上げて痕跡を撮影し、続いて広げた手を、砂地に触れるギリギリまで近づけて翳す。
「マスター、なにを?」
「この荒野に流れるフォースから、最近の出来事を聞いている」
(これが……マスター・クワイ=ガンも生前研究していたと言う『リヴィング・フォース』)
ジェダイ・オーダーがその歴史の中で突き止めたフォースに関する知識の内、大まかにフォースは現状二種類に分けられると判明している。
一つは『コズミック・フォース』、名の通りこの銀河全体を覆うフォースの流れ、マスター・ヨーダら評議会の長老たちがよく口にする『遠い未来』の予知は、いわば宇宙そのものから受け取る『預言』とも言える。
もう一つが『リヴィング・フォース』、この銀河で生きる全ての生命に宿る『エネルギー』とも表することのできるフォースを指す。
アナキンはアヤネが、大地と言う『生命』に語り掛けることで、この荒野が見聞きした『手がかり』を得ようとしていると自身のフォースでも感じ取れた。
(確かにコズミック・フォースで未来が見えてしまうと、クワイ・ガンやマスターのやり方は煩わしくて変に見えるのも無理はないけど……)
アヤネはフォース含め、あらゆる事象に目を向ける姿勢の持ち主だと存じている今なら、このやり方にも理解が進められるし、一九歳の自分より五年分年上ながらもまだ若輩の身でマスターに選ばれる程の能力で数々の銀河で起きる事件を解決、調停してきたのだと合点がいった。
「何か分かりましたか?」
読み取りを終えたらしいアヤネにアナキンは結果を問う。
「この足跡関係に限定すると、悪意と陰謀と嘲笑の感情、歩いている男の足音と衣擦れとライトセーバーらしき音………そして僅かながらも砂地に残ってた、暗黒面の気配」
アヤネの口が発した情報から、無意識の内にアナキンの口より――。
「シス……」
「か、どうかはまだ早計」
「ですね」
——その一言が零れ、アヤネの『結論付けるのはまだ早い』お言葉に同意した。
アヤネが感じ取った情報(フォース)をアヤネ風の思考で踏まえれば、ライトセーバーを使う暗黒面(ダークサイド)の担い手はシスだけではない………彼女に言わせれば『シスはあくまで暗黒面を使う派閥たちの中で、政治に喩えるなら極度の急進派、オーダーと共和国にとって宿敵でも、数ある担い手の一部でしかない』と言うだろう。
「では今の手がかりは一度保留にして、タスケンの交渉に行くということで」
「――よろしいよ、ギリギリまで粘ってそれでも『一朝ことあれば』――………言ってるそばからおいでなすったか……スピーダーを隠す手間が省けたけど」
アナキンも五感の内の聴覚と嗅覚と、フォースによる第六感で悟っていた………この先の荒野を野営地としているタスケン・レイダーの群れの内、戦士達(おとこたち)が自分たちの存在に気づいて近づいてきていると。
「マスター、交渉の方はお任せしても」
「いいよ、アナキンは慎重な操縦で、あちらさんの敵意(でかた)を窺ってほしい」
「了解です」
二人とスピーダーが佇む砂道を取り囲む様にそびえる岩場たちから、聴覚とフォースの両方でタスケン・レイダーの足音とうめき声が響いてくるのを感じ、視覚は崖の上からゆらゆらと灯り、段々と強まってくる火(ひかり)を目にする……夜に連中が使う松明の炎だ。
「……っ」
集中力を高めたアナキンは、十年前よりもフォースの使い方を学んだ今だからこその『違和感』を覚えた。
タスケンの意志を読んだのはこれが初めてだが、想像していたものと少し違う。
敵意、怒り、憎しみ……確かに感じる……でもイメージしていたものより控えめと言うか、自分の予想していたのよりも落ち着いている。
その一方で、恐れている感情も確かに汲み取る……あの『砂漠民(サンド・ピープル)』たちに、怖いって気持ちが存在していた事実に驚きはするが、敵意もある以上油断できない。かと言って恐怖込みであちら感情を煽らない様、アナキンはライトセーバーに伸ばしたくなる手を背の後ろで握り合って堪えていた。
マスター・アヤネに『交渉役』を自ら頼った以上、自分の血気で台無しにはしたくない……一度瞑目して深呼吸し、目を開き直すと、タスケンの戦士たちが片手に松明、もう片手にガッフィ・スティックやらサイクラー・ライフルやら、中にはブラスタータイプのハンドガンやライフルも持つ個体もいる。
数の利も地の利も、タスケンに有利でありながら、マスター・アヤネはローブの袖口ごと両腕を胸の前で組んで手を隠し、逆に腰の武器(ライトセーバー)を見えやすくしつつも手に取る意志は無いと向こうにも分かる様に表現している上に、緊張感そのものは完全に払しょくできないアナキンと違い、至って全身に余分な力を入れず、翡翠色の瞳から発する眼差しもリラックスしたものだ。
『―――、―――?』
フォースの感知能力とあちらの位置関係、そして他の戦士より年老いてるのが仮面越しでも分かる外見的特徴から族長だと見抜いたらしいアヤネの口から、タスケンの唸り声が響いた。フォースで『あなたが、この聖水の守護者の長か?』と発言しようとしたのだとアナキンは読み取る。
「付け焼刃だから、自信は無いんだけど……」
「ですがあの様子だと、伝わってるみたいです」
「ならいいんだけど」
戦士たちの方は、戸惑って同族たちと見合っている……どうやらアヤネの『タスケン語』は本人の自己評価に反して当人(ネイティブ)たちに通じたらしい。
族長が少し前に出て唸る、敵意はあってもまだ武器を構えて攻撃するまで至っていないので、一応アヤネの話を聞く余裕もあるらしい。
「――~~~、~~―――」
引き続きアヤネは、タスケン語の唸り声で交渉を続ける。
フォースで彼女の意図を組み取って要約すると――『私たち調停を生業とする者は、あなた方の聖地を侵す意志はない、貴方たちに外の者たちが使う武器を渡した者たちが誰か、それを知りたいが為に来ました、その為に貴方がたの聖地に踏み入ったこと、お詫び申し上げます』となる、上手く連中が水分農家への襲撃が激しくなった理由は問わない様にもしつつ、穏便な物腰を崩さずにいるアヤネだが――。
「~~!~ッ~~~ァ!!」
逆に族長は、仲間たちへの攻撃指示は控えつつも、両脚を歩かせる支えに用いている杖を、岩場に激しく打ち込んだ。
フォースを通じて、アヤネが訳してくれた族長の主張は『我らの聖地へ、空から水を奪いし外の者が襲ってきた、奴らは水も奪い、同胞たちも殺した、聖地も壊した』とのこと。
連中からすると、先に仕掛けてきたのは水分農夫になる。
確かに義父に当たるクリーグを含め、タスケンを憎む農夫は少なくない筈だが、余程の仕打ちを受けない限り……自分から攻撃する真似はしない程には自制心はある筈だ。
疑念と身構えがアナキンの心中から拭えない中、アヤネは冷静にタスケン側を代表して族長の主張を、黙して一通り聞き続け。
『(聖水の守護者の怒りの源は分かりました)』
アヤネの発言に、族長は低く唸って頷く。
『(ですが同胞を傷つけた咎人以外の水を集めて暮らす者たちまで巻き込めば、彼らも守護者たちを恐れ、怒り、憎み、互いの家族を奪い合う悲劇となる、それで双方滅ぶまで流れた血すらも、貴方たちが崇拝する『砂』は吸い取り糧としながら、守護者の盾など無くとも生き続け、いずれは民の叫びも忘れることでしょう)』
『(先に奪い、我らの血を砂の糧としたのは外の者たちだ!)』
『(ではこれ以上の血を流さぬ為の境界を定めましょう、空と砂の下に流れる水も分け合うことも、言葉を交わす意志さえ捨てなければ可能です……しかし守護者たちに武器を提供し、私たちも咎人として探す『他の外の者たち』は望んでいない、むしろ私が懸念する双方の滅亡をに至らせるべく、水の守護者の背後から奈落へ突き落そうと企む者たちだ)』
水に絡んだ諺に『寝耳に水』と言うものがあったと、昔オビ=ワンに読まされた数々の書物の中にあったのをアナキンは思い出すくらい、タスケンの戦士たちからどよめきが走った。
まだ武器は持ってはいても、自分たちに直接向けていないので、話を聞ける余力はある様だが……。
『(咎人たちは守護者の怒りを利用し、戦士と水を集める外の者たちの同士討ちを目論んでいます、互いに流れる血の量が増える程、奴らは自らの手のみ血で汚さず、貴方がたに新たな武器と敵を与え、守護者に殺戮者の汚名を着せた上で滅ぼすでしょう)』
『(その外の者たちは我らに約束した、我らに聖なる水(ちから)を返すのだと)』
『(ではなぜ彼らは慈悲と恵みではなく武器を渡すに止まらず、民たちの宝たる子どもまでも戦場へ突き落とし、未来の殺戮者へと誘おうとするです?)』
反論する族長へ、アヤネは理性的な態度を崩さぬままタスケンたちが自分の思考から『利用されている可能性』に行き当たらせ、それが通じた様で仮面越しでもフォースを通じて『どうして自分らが嵌められたことに気づかなかった……』と、自分らの見落としに辿り着けた感情がアナキンでも読み取れた。
『(私たちはその咎人を探し、貴方たちの無念の分まで相応の償いを与える所存、聖水の守護者にまで煩わせはしません、その者の名と居場所をご存知ならば、教えて頂けますか?)』
アヤネからのお願いを聞いた族長は、しばし控えめに唸って思案していたが、自分達の条件を受け入れるなら教えると言ってきた。
大まかに言えば――農夫たちとの境界線を敷く、壊した聖地には二度と近寄らない、調停者(ジェダイ)が戦士ではない女と子どもを守ること。
『(約束しましょう、その代わり、我らの交渉(わりわい)が終わるまで、水を集めし者への攻撃も止めて頂きたい……でなければ、先に戦士たちに見せた〝幻〟を、我らが実行すると思え……)』
アナキンも昼間にて、母たちを護衛している時に確かに脳裏で見えた『幻』。
アヤネの影から現れた、背に頑強そうな甲羅を背負い、口に鋭利な牙を生やし、地上は愚か空そらも覆い隠す程の恐ろしい威力を持つ火球を放った………テンプルの公文書館の記録にも存在していない謎の『巨大生物』。
さらにアナキンは、その資質ゆえか……確かに聞こえたのだ。
〝来るよ、ガメラはきっと来るよ〟
正直アナキンも多分『ガメラ』と呼ぶらしい巨大生物の正体を知りたい気持ちもあったが、任務中に聞くのはよそうと胸中に閉まっていた。
「………」
流れる沈黙の中、最も音を発するのは松明の火の揺らめき。
それをかき消す勢いで、族長は杖で一定のリズムで鳴らすと、戦士たちは手にしていた武器を収めていった……アヤネからの休戦協定に同意したらしい。
「~~~ッ~~」
「『セヴレン・ケイル』………『三つの夜天の円の中で、最も大きいところにいる』………か」
族長からの証言を、共通言語でオウム返しをし。
「『(聖水の守護者たちよ、貴方がたの勇気に感謝致します)』――アナキン、スピーダーを起こして」
「いいんですか?」
「彼らにも戦士の誇りはある、協定を結んでおいて背中を狙い撃つ真似は許さないと、今族長が指示を出したところさ」
アナキンはアヤネからの指示の通り、スピーダーを起動し、浮遊状態で機体の針路だけを反対側へ変える。
『(さらば聖水の民よ、その慈悲と勇気に幸あらんことを願います)』
最後にこの言葉をお辞儀で締めたアヤネは助手席に乗り込み、アナキンはタスケンの気をささくれさせぬ様、いつも以上に慎重な運転で来た道を引き返す。
確かに、背中越しでも武器を構え直すタスケンは、一人も出なかったとフォースで汲み取り、アナキンが駆るスピーダーはジャンドランドの荒野を後にした。
◇
「マスター……」
「ん?色々聞きたそうな顔だね」
引き続き惑星内の生物への影響を抑える為にライトの光量は控えめながら、自身のフォース能力と操縦技術による丁寧な運転を続けたままアナキンは、アヤネに質問したい気持ちを発している。
「まずは、『セヴレン・ケイル』が誰か知ってるみたいですが……」
「君がオーダー入りしてから十年の間に離反した元ジェダイの一人さ、彼含めてリストは私の頭の中に入れてある、来てほしくない事態の為にね……まあフォースと族長、両方の証言で、ほぼ来てしまったも同然だけど」
アヤネの言う『来てほしくない事態』とはこの場合、諸々の事情でジェダイオーダーから離反した者が、ライトセーバーとフォースを扱う能力を悪用したが為に、最悪『元同士』として戦うことになる……を指すのだと、当人の言葉と、月夜に照らされる中アンニュイな表情で頬杖を付く彼女の美貌(よこがお)が物語っていた。
「他は、フォースで分かった『砂漠の民』の一面かな?」
「はい……白状しますと、連中……いえ彼らにも『怖い』って気持ちがあるなんて、先程の交渉の時まで、思いもしませんでしたよ」
「むしろ、農夫たち含めた入植者への拒絶と排他性と狂暴性らが混在して起きる略奪行為の源泉は、アナキンも感じた『恐怖』だよ、向こうからすれば外部から来た者たちこそ神聖なる砂漠の土地を荒らし、貴重な水を奪う侵略者に見えてしまっていた」
「実はどっちもほとんど似た気持ちで憎み合ってた、皮肉ですね………」
アナキンは、もし自分が最近何度も見ていた母シミが命の危機に瀕して助けを求めてくる『悪夢』の正体が、悪意ある存在で煽られたタスケン・レイダーの襲撃で起きてしまうかもしれなかった『可能性』であり、それが現実に起きて間に合わなかったとしたら……を想像してしまい夜の砂漠特有の寒さより底冷えする悪寒が過った。
今の自分でさえ、その最悪を突き付けられて、正気でいられる自信が無いのに……マスター・アヤネと鍛錬する以前の自分が見舞われたら………確実にタスケンを、男(せんし)だけじゃない、女も、子どもまで『奴らはケダモノだ、そいつらを憎んで!全部殺して何が悪い!』と、腰に納まるこの自分だけのライトセーバーの青い刃を、彼らの血で真っ赤に、シスの奴らが使うのと同じ禍々しい色に変えてしまったのは、確実と言い切った方がいい。
「マスターは、そんな彼らの実態を前から存じてたんですか?」
「まさか、私もついさっき事実として知ったばかりだよ、ジェダイの私たちでさえこの様なんだから、それ以上のハードルをラーズ家含めた一介の人たちに課せられないさ」
「でも分からないからこそ、最後まで交渉で理解し合う姿勢は崩したくない――ですよね」
「君のその言葉、名言として私の頭にも記録しておこう」
「そんな……ご大層なものじゃないですよ」
夜中で良かったとアナキンは心中で呟く………照れくさくて、でも現金にも嬉しい気分込みで熱くなってる顔が見難くなってるからだ。
「今日はゴームラッセン含めてどの月も穏やかだね~~ラーズ家に着くまで仮眠してもいいかな?」
「構いませんよ、マスターがちゃんと休憩できるよう、僕も安全運転しますので」
「頼むね~~………」
シートを少し後ろに下げて仰向けになってから数十秒、アナキンの耳にアヤネの口から漏れる寝息が聞こえてきた。
助手席へちらっと見ると、とてもタスケン・レイダー相手に武器を一切用いず、彼らの矛を収めたジェダイ・マスターであることを忘れさせる……あどけなささえある愛らしい寝顔をしていた。
母も今頃眠っているラーズ家に戻れば、交代で見張りすることになるし、明日も『犯人捜し』で忙しくなるのは必至、だからこそ、確実に休める時は休んで備えようと……アナキンは砂上のスピーダーのハンドルを程よく握り直すのであった。
◇
同じ頃、コルサントのジェダイ・テンプル、銀河規模の時差でこちらでは日中である。
テンプル内の己が私室にて、グランドマスター・ヨーダは『コズミック・フォース』にアクセスしている上で瞑想に耽っていたが、一度それを解いて目を開けた。現在のオーダーの教義の内容を反映し過ぎた余り、質素さと簡素さが極まったインテリアだ。
ほぼ同時に、メイス・ウィンドゥがマスター・ヨーダの私室に訪問してきた。
「何をご覧に?」
「銀河のフォースを通じて、スカイウォーカーの心を垣間見たのじゃが………マスター・アヤネが有言実行しておる様でな、ここまで平静でおる彼は見たことがないわい」
「なんと……」
グランドマスターの口元は、珍しく微笑みを象っている。
メイス自身、マスター・ヨーダがここまで柔らかな笑みを浮かべるところを、ほとんど……どころか、この瞬間まで全く見た覚えがなかった。
本人にそのことを問えば『近頃はとんと、見せる機会がおらなんだわい』とでも答えるのだろう――もっともその『近頃』が数百年単位となるのが、グランドマスター・ヨーダならではの話。
つづく。