IS レイヴンズ・レゾナンス   作:BLUE@

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十一話

五月に入り、学園の木々はすっかり緑を濃くしていた。

昼休みの食堂はいつも通りの賑わいを見せている。その一角、窓際の四人掛けのテーブルに一夏たちはいた。一夏の日替わりランチ、箒のきつねうどんセシリアの洋食ランチ、鈴音の醤油ラーメン。もうすっかりお馴染みになった光景だ。

 

「それでさ、来週からクラス対抗戦が始まるんだってな」

 

一夏が、焼き魚を箸でほぐしながら言った。箒が頷く。

 

「ああ。だから、今日の訓練が最後だ。しばらくは、クラス単位での調整になる」

「そっか。じゃあ、今日は今までで一番気合入れていかないとな」

 

一夏は、そう言って笑った。その笑顔は、どこまでも能天気だった。だが、その言葉を聞いた瞬間、箒とセシリアの箸が、ぴたりと止まった。

 

「……どうした二人とも」

「いや、何でもない」

「何でもありませんわ」

 

箒は、きつねうどんの油揚げを箸でつつきながら、視線を逸らした。セシリアは洋食ランチのハンバーグをナイフで切り分ける手を、少しだけ止めていた。その様子を見ていた鈴音が、ラーメンを啜る手を止めて首を傾げた。

 

「何よ、二人とも。なんか疲れてない?」

「疲れて、いるな」

「ええ。かなり」

「あら、正直ね」

 

鈴音は、けらけらと笑った。だが箒とセシリアの表情は、笑い話では済まないという色をしていた。

 

「何があったのよ」

「……一夏との訓練が、キツいんだ」

「箒でも?」

「ああ。私でも、だ」

 

箒は、そう言って、小さく息を吐いた。セシリアも、頷いた。

 

「わたくしもですわ。織斑さんとの訓練は、正直、精神的に堪えますの」

「精神的に?」

「ええ。だって、この人、容赦がありませんのよ。訓練とはいえ、あそこまで徹底的にやられますと、自分の実力が否定されたような気分になりますわ」

 

セシリアの声には少しだけ怨みが混じっていた。鈴音は、その声を聞いてますます興味をそそられた。

 

「へえ。一夏って、そんなに厳しいの?」

「厳しいというか、なんというか……」

「なんだか、言葉にしづらいな」

「ええ。うまく説明できないのが、もどかしいですわ」

 

箒とセシリアは顔を見合わせた。その表情は、複雑だった。鈴音はラーメンの器を置いて、身を乗り出した。

 

「どんな訓練してるのよ。具体的に」

「具体的に、か」

「ええ。教えてくださいな。わたくしも、客観的に見直したいところですし」

「まあ、そうだな」

 

箒は、少し考え込んでから、口を開いた。

 

「まず、一夏は、私たちの攻撃をほとんど読んでいる」

「読んでる?」

「ああ。ビットの配置、太刀筋、タイミング。すべてお見通しだ。そして、その上で一番効率的な方法で、私たちの攻撃を無力化してくる」

「へえ……」

 

鈴音は、感心したように声を漏らした。だが、箒は首を振った。

 

「感心している場合じゃない。あれは、普通じゃない。私の太刀筋は剣道の全国優勝者として、それなりの自信があった。だが、一夏はその太刀筋を、初見で読む。しかも一度読んだら、二度と同じ手は通じない」

「初見で読むって……それ、どういうことよ」

「分からん。だが、事実だ。一夏は私の剣を、まるで昔から知っているかのように、かわす」

 

鈴音は、その言葉に、少しだけ背筋が寒くなるのを感じた。セシリアも、重ねるように言った。

 

「わたくしのビットも同じですわ。あの配置は、わたくしが独自に編み出したものですのに、一夏さんは初見で穴を見つけてきますの。それも、一番効果的な方法で」

「穴?」

「ええ。ビットの配置には、必ず死角が生まれます。それを、一夏さんは一目で見抜くのですわ。そして、その死角を正確に突いてくる。おかげで、わたくしのビットは毎回、最初の数分で半分以上撃ち落とされますの」

 

セシリアは、そう言って、ハンバーグを口に運んだ。その動作には、少しだけ疲れが滲んでいた。

 

「それに、一夏さんの戦術がとにかく冷徹ですの。『まず敵を無力化する。交渉はそれからだ』という、あの考え方。訓練なのに本気でそれをやられますと、こちらとしてはたまったものではありませんわ」

「ああ。私も、何度か地面に叩きつけられた。その時の一夏の目は、本当に冷たかった。まるで私のことを、『敵』としか見ていないような」

 

箒の声は、静かだった。だがその中には、確かな恐怖が滲んでいた。鈴音は、その声を聞いて顔を引きつらせた。

 

「……そんなにすごいの?」

「すごい、という言葉では足りないな」

「ええ。もはや、別次元ですわ」

 

箒とセシリアは声を揃えて言った。その表情は、諦めにも似ていた。鈴音はその様子を見て、ごくりと唾を飲み込んだ。

 

「あたし、一夏とはまだ訓練したことないんだけど」

「ああ。お前は、まだだったな」

「うん。だから、正直、ここまでとは思ってなかったわ」

 

鈴音は、そう言って、ラーメンの器を再び手に取った。だが、その手はさっきまでよりも少しだけ慎重だった。

 

「なあ、鈴音」

「何よ」

「お前も、そのうち分かる。一夏との訓練が、どれだけのものか」

「……脅さないでよ」

「脅しじゃない。事実だ」

 

箒の言葉に、鈴音は、小さく息を吐いた。そしてラーメンを一口啜った。その味は、さっきまでと同じはずなのになんだか少しだけ違って感じられた。

 

「まあ、でも、あれだけ強いならチーム戦も安心ね」

「そうでもない」

「え?」

「一夏は、強い。だが、あの強さはあくまで『一人』の強さだ。一夏一人が強くても、チームとして連携が取れなければ、勝てない」

 

箒の指摘は、的確だった。セシリアも頷いた。

 

「ええ。ですから、わたくしたちは一夏さんに頼りきるのではなく、わたくしたち自身ももっと成長しなければなりませんの」

「そのためにも、今日の訓練はしっかりと一夏の動きを吸収したいところだな」

「ええ。悔しいですけど、あの人から学べることはたくさんありますわ」

 

セシリアは、そう言って、紅茶を一口飲んだ。その表情には、さっきまでの疲れとは違う前向きな色が浮かんでいた。鈴音は、その変化を見て少しだけ安心した。

 

「二人とも、たくましいわね」

「たくましい、か。そうありたいものだ」

「ええ。わたくしも、負けてられませんわ」

 

箒とセシリアはそう言って、顔を見合わせて少しだけ笑った。その笑顔は、どこか通じ合うものがあるようだった。鈴音は、その様子を見てなんだかんだ言って、この二人はいいコンビなのかもしれない、と思った。

 

「おーい、三人とも。何話してるんだ?」

 

一夏が、焼き魚を食べ終えてそう声をかけてきた。その顔は、やはり能天気だった。

 

「何って、お前の訓練の話だよ」

「俺の? そんなに厳しかったか?」

「厳しかった、じゃないわよ。あんた本気でやってたでしょ」

「本気? いや、俺は、普通にやってただけだけど」

 

一夏は、本気でそう言っているようだった。そのことに、箒もセシリアも、鈴音も言葉を失った。普通にやってて、あれなのか。そう思うとなんだか、自分たちが馬鹿らしくなってくる。

 

「……一夏。お前は、本当に、自分が何をしているか分かっていないな」

「え? またそれ?」

「またそれだ」

 

箒は、そう言って、小さくため息をついた。セシリアも、苦笑いを浮かべた。鈴音はそのやり取りを見て、思わず吹き出した。

 

「あはは。なんか、一夏らしいわね」

「鈴まで笑うなよ」

「だって、おかしいんだもん。あんた自分がどれだけすごいか、分かってないんでしょ」

「すごいって……俺は、ただ、体が動くままに動いてるだけで」

「その『体が動くまま』が、すごいのよ」

 

鈴音は、そう言って、ラーメンのスープを最後の一口まで飲み干した。そして、器を置いて一夏を見た。

 

「ねえ、一夏。あたしも今度、訓練に混ぜてよ」

「え? 鈴も?」

「うん。二人の話を聞いてたら、あたしも、あんたの強さをこの目で確かめてみたくなったわ」

「いいけど……鈴、大丈夫か? 結構キツいって二人とも言ってたけど」

「大丈夫よ。あたし、これでも、結構負けず嫌いなんだから」

 

鈴音は、そう言って、不敵な笑みを浮かべた。その笑顔は、どこか挑戦的だった。一夏はその笑顔を見て、少しだけたじろいだ。

 

「……分かった。じゃあ、次の訓練の時声かけるよ」

「楽しみにしてるわ」

 

鈴音は、そう言って、席を立った。昼休みの終わりが、近づいていた。箒とセシリアも、それぞれの食器を片付け始めた。一夏は、その様子を見ながらなんだかんだ言って、この四人での昼食もすっかり定着したな、と思った。

 

(——あの鈴という娘も、なかなか肝が据わっているな)

 

頭の中の声がそう呟いた。一夏は、心の中で答えた。

 

(——ああ。鈴は、昔から、そういうやつだ)

(——しかし、あの娘が訓練に加わるとなると、また戦術を組み直す必要があるな)

(——そこまで考えなくてもいいだろ。ただの訓練なんだから)

(——訓練で油断するから、実戦で死ぬんだ)

(——……そういう言い方、やめてくれよ)

 

一夏は、心の中で、少しだけ拗ねた。だが頭の中の声は、それ以上何も言わなかった。一夏は、腕輪をそっと撫でた。そして三人の後を追って、食堂を後にした。五月の風が窓から入り込んで、カーテンを揺らしていた。

 

―――

 

時が更に流れてクラス対抗戦当日。

 

第二アリーナは、熱気に満ちていた。

観客席には各クラスの生徒たちが詰めかけている。第一試合の組み合わせが発表された時から、この試合は注目の的だった。何しろ、IS学園唯一の男子生徒である織斑一夏と、その幼馴染である凰鈴音の対戦なのだ。しかも、鈴音は先週末に転入してきたばかり。因縁めいたものを感じ取る者も少なくない。

 

アリーナ中央、対峙する二人。

一夏は白鴉を纏っていた。白亜の角張った装甲が、アリーナの照明を反射して鈍く輝く。背部の大型スラスターが、低い唸りを上げて待機している。対する鈴音の甲龍は、紫がかったピンクと黒に黄色のラインが入った、流線型の機体。両腕に双天牙月、背部に龍咆の砲口が覗いている。近接格闘を主体とした、パワータイプの機体だ。

 

「一夏。手加減しろとは言わないわ。けど、後悔しないでね」

「ああ。鈴も、全力で来い」

 

一夏の声は、静かだった。その声には先週までの訓練の時とは違う、どこか落ち着いた響きがあった。鈴音は、その声を聞いて少しだけ違和感を覚えた。だが、今はそれを考える時ではない。

 

「——両者、位置につけ」

 

実況の山田真耶の声がアリーナに響く。一夏と鈴音は、それぞれの初期位置に立った。距離にして、二十メートル。ISの機動を考えれば、一瞬で詰められる距離だ。

 

「試合開始まで、十カウント」

 

一夏は、白鴉のセンサーを通して甲龍の情報を確認していた。機体名、甲龍。第三世代型IS。近接格闘を主体とし、龍咆による中距離攻撃も可能。双天牙月は、重量を活かした叩き斬りが主体。二基を連結させることで投擲武器としても使用可能。

 

(——なるほど。近接に持ち込めば強いが、間合いを外されると龍咆がある。だが、龍咆は衝撃砲だ。弾速は実弾より遅い。ならば、先に撃てばいい)

 

一夏の頭の中で、戦術が組み上がっていく。自然と、白鴉の武装配置が最適な形に組み替えられていく。右腕のリニアライフル。右背部のレーザーキャノン。左背部の六連装垂直ミサイルポット。左腕のパルスブレード。そして、特殊兵装——今日選んだのはアサルトアーマー。近接に持ち込まれた時の切り札として。

 

(——まずは距離を取らせる。龍咆の射程に入る前に、ミサイルで牽制。龍咆を撃たせて、その隙にリニアライフルで——)

 

そこまで考えて一夏はふと、違和感を覚えた。この戦術はどこかで見たものだ。いや、見たというより経験したという感覚。まるで、同じような状況を何度も何度も——

 

(——またか)

 

一夏は、心の中で呟いた。最近こういうことが増えている。戦術を組み立てる時、まるで「昔から知っている」かのように、最適解が浮かんでくる。その感覚に、一夏はまだ完全には慣れていなかった。だが、今はそれに頼るしかない。鈴音は、強い。先週の訓練で一夏はそれを痛感していた。

 

(——来るぞ)

 

一夏は、意識を切り替えた。

 

その頃、鈴音は、白鴉の情報を確認して戸惑っていた。

 

(何よ、この機体……)

 

鈴音の眼前に表示された白鴉のデータは、彼女の知るISの常識からあまりにもかけ離れていた。まず、武装の分類がおかしい。右腕の大型リニアライフル。ライフル、というカテゴリはある。だがこの機体のそれは、明らかに「実弾兵装」として分類されている。ISのライフルといえば、レーザーやプラズマなどのエネルギー兵装が主流だ。実弾を主兵装とするISは、珍しい。

 

(しかも、背部にレーザーキャノンに六連装垂直ミサイルポット。左腕にパルスブレード……パルス? 聞いたことないわ)

 

パルスブレード。その説明を読んで、鈴音はさらに首を傾げた。通常はパルスシールドとして防御に使用し、攻撃時には刀身状のパルスエネルギーを形成する。防御と攻撃の切り替えが瞬時に行える、とある。ISのブレードといえば、物理的な刀身を持つものが主流だ。エネルギー体の刀身を形成するタイプもあるが、それを「シールド」と兼用するという発想が、鈴音にはなかった。

 

(それに、この特殊兵装ってやつ。アサルトアーマー、パルスアーマー、パルスプロテクション……どれも、聞いたことのない名前よ)

 

鈴音は、思わず眉をひそめた。これらの兵装は、IS学園のデータベースには載っていない。いや、それ以前にISの技術体系そのものから外れている気がする。まるで、別の世界の技術で作られたかのような——

 

(まさか。そんなわけ、ないわよね)

 

鈴音は首を振った。そんな非現実的なことを考えるのはやめよう。今は目の前の試合に集中すべきだ。だが、白鴉のデータを見れば見るほど鈴音の頭の中には疑問が渦巻いた。

 

(この機体、近接も遠距離も全部カバーしてる。しかも、それぞれが最適化されてる。こんな機体、普通じゃない。一夏あんたこんな機体をどこで——)

 

そこで鈴音はあることに気づいた。白鴉のデータには開発者も製造元も一切記載がない。型式番号はIS-01Kai “SHIROGARASU”。だが、その機体がどこで誰によって何のために作られたのか。その情報が完全に欠落しているのだ。

 

(まるで、最初から存在していたみたいに。この機体はどこから来たのよ)

 

鈴音の背筋にすっと冷たいものが走った。先週の訓練の時、箒とセシリアが言っていたことを思い出す。一夏の動きは普通じゃない。あれは経験だ。戦場をくぐり抜けた者だけが持つ、戦術眼だと。

 

(一夏。あんた、何者なのよ)

 

鈴音は甲龍の双天牙月をぎゅっと握りしめた。その手に自然と力がこもる。

 

「——五、四、三……」

 

カウントダウンが進む。一夏は、動じることなく白鴉を構えている。その姿は、まるで戦場に立つ歴戦の傭兵のようだった。鈴音は、その姿を見てごくりと唾を飲み込んだ。

 

「——二、一……」

 

カウントがゼロになる。

 

「——試合開始!」

 

山田真耶の声がアリーナに響き渡った。その瞬間、一夏はすでに動いていた。白鴉の背部スラスターが、爆発的に噴射する。機体が残像を残して加速した。対する鈴音も、負けじと甲龍を前進させる。だが、その動きは一夏のそれに比べて、わずかに遅れていた。

 

(速い!)

 

鈴音は、内心で舌を巻いた。一夏の初動は、先週の訓練で見た時よりもさらに鋭くなっている。まるで、本気を出していなかったかのように。一夏は、リニアライフルを構えながら鈴音の動きを観察していた。甲龍は、近接格闘を主体とする機体だ。だが、龍咆による中距離攻撃も可能。ならば、まずは龍咆を使わせる。

 

(——ミサイル発射)

 

一夏の指示と同時に左背部の六連装垂直ミサイルポットが、火を噴いた。六発のミサイルが、それぞれ異なる軌道で鈴音の甲龍に迫る。鈴音は、そのミサイルの軌道を読み双天牙月で叩き落とそうとした。だが——

 

(軌道が、読めない!?)

 

六発のミサイルはそれぞれが独立した軌道を描いていた。まるで、別々の意志を持っているかのように。鈴音は、とっさに甲龍を横に跳ばせた。ミサイルのうち、四発が空を切る。だが二発が、甲龍のシールドエネルギーに直撃した。低出力の訓練用弾頭だったが、それでもシールドエネルギーが、わずかに揺らぐ。

 

「くっ……!」

 

鈴音は、歯を食いしばった。一夏のミサイルは、単なる牽制ではない。確実に鈴音の動きを制限するためのものだ。しかも、六発のミサイルを同時に、異なる軌道で運用するなど普通のIS操縦者にはできる芸当ではない。

 

(これが、一夏の戦い方なの……)

 

鈴音は、甲龍の龍咆を一夏に向けた。衝撃砲の砲身が、空間に浮かび上がる。だが一夏は、その動きをすでに読んでいた。

 

(——来た)

 

一夏は、リニアライフルの照準を龍咆の砲身に合わせた。龍咆が、衝撃波を放つ。だが一夏は、その射線を紙一重でかわした。そして、リニアライフルを連射モードに切り替える。高速連射された徹甲弾が、龍咆の砲身を正確に撃ち抜いた。

 

「なっ!?」

 

鈴音は、驚愕した。龍咆の砲身は空間に圧力をかけて形成される。そのため、物理的な実体はない。だが一夏のリニアライフルは、その「圧力の砲身」を、正確に撃ち抜いたのだ。まるで、龍咆の構造を完全に理解しているかのように。

 

「龍咆の砲身は、空間に圧力をかけて形成される。だが、その圧力には必ず、ほんのわずかな『綻び』がある。そこを狙えば、砲身は一瞬で崩壊する」

 

一夏の声が、アリーナに響いた。その声は冷徹だった。鈴音は、その声を聞いて背筋が凍るのを感じた。これは、訓練の時と同じだ。一夏は一夏じゃない。一夏の中の「何か」が、表に出ている。

 

(これが、箒とセシリアが言ってた……)

 

鈴音は甲龍の体勢を立て直そうとした。だが、一夏はすでに次の行動に移っていた。白鴉が、一気に距離を詰めてくる。左腕のパルスブレードが刀身を形成する。その刀身が鈴音の甲龍に迫る。

 

「——まだよ!」

 

鈴音は双天牙月を一夏のパルスブレードに叩きつけた。金属とエネルギーの衝突がアリーナに激しい火花を散らす。だが、一夏はその力を完全に受け止めていた。それどころか、逆に鈴音の力を利用していた。

 

「——重いな。だが、その重さは、隙でもある」

 

一夏は、そう呟くと、双天牙月の重みを利用して、鈴音の体勢を崩しにかかった。鈴音は、その動きに必死に抗った。だが、一夏のパルスブレードはまるで、鈴音の動きを読んでいるかのように、正確に急所を突いてくる。

 

(なんで……! なんで、あたしの動きが、全部読まれてるのよ!)

 

鈴音は心の中で叫んだ。一夏は鈴音の動きを完全に把握している。まるで何度も、同じ相手と戦ってきたかのように。

 

「鈴。お前の双天牙月は、確かに、強い。だがその太刀筋は、一直線だ。だから読みやすい」

 

一夏の声が鈴音の耳に届いた。その声はやはり冷徹だった。鈴音はその声を聞いて悔しさで歯を食いしばった。

 

(一夏……あんた、やっぱり、普通じゃない)

 

鈴音は、そう確信した。一夏の中には確かに、何かがいる。それは一夏を戦士にしている。一夏自身も気づいていない、別の何かが。

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