IS レイヴンズ・レゾナンス   作:BLUE@

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十六話

第二グラウンドに着くと、すでに二組の生徒たちも集まっていた。

 

一夏とシャルルが列に加わると、千冬がグラウンドの中央に歩み出た。その姿はISスーツに身を包んでいるわけではない。だが、その立ち姿だけで場の空気を支配していた。

 

「これから実戦演習を開始する。内容は格闘及び射撃を含む総合戦闘だ」

 

千冬の声がグラウンドに響き渡った。生徒たちの表情が一斉に引き締まる。千冬は続けた。

 

「織斑。前に出ろ」

 

その指名に、一夏は一瞬だけ体を硬くした。だが、すぐに返事をして前に出た。

 

「はい」

 

一夏がグラウンドの中央に立つと、千冬が言った。

 

「お前には、これから私の代わりに実演の相手をしてもらう」

「誰と戦うんですか?」

 

一夏の問いに、千冬は短く答えた。

 

「山田先生だ。ラファール・リヴァイヴに乗ってもらう」

 

その言葉に、一夏は少しだけ驚いた。山田真耶。普段はおっとりとした副担任だが、元日本代表候補生だ。その実力は決して低くない。一夏は真耶の方を見た。真耶はすでにISスーツに着替えて、どこからか取り出したラファール・リヴァイヴの待機状態の腕輪を手にしている。

 

「ええと……織斑君、手加減はしませんからね」

 

真耶はそう言って少しだけ緊張したように笑った。その表情はいつものおっとりとしたものとは違い、どこか真剣だった。一夏はその表情を見て、背筋が伸びるのを感じた。

 

「位置に着け」

 

千冬の号令で、一夏と真耶はアリーナの両端に分かれた。一夏は自分の腕輪を掲げた。

 

「白鴉、展開」

 

光が走り、白亜の装甲が一夏の体を包み込む。角張った装甲板の集合体。背部の大型スラスターユニットが唸りを上げる。IS学園の他の機体とは明らかに異なる、武骨なシルエット。それが白鴉だった。

 

対する真耶のラファール・リヴァイヴが展開する。ネイビーカラーの4枚の多方向加速推進翼が、陽光を反射して輝いた。量産機ながらそのスペックは第3世代型初期に劣らないという。いわゆる「飛翔する武器庫」の異名を持つ機体だ。

 

「両者、構え」

 

千冬の声が、グラウンドに響く。一夏は白鴉のリニアライフルを構えた。真耶もラファール・リヴァイヴの武装を展開する。一瞬の静寂。風の音だけが、耳に届く。

 

「——開始」

 

千冬の合図と同時に、真耶が動いた。ラファール・リヴァイヴの4枚の推進翼が火を噴き、真耶が一気に距離を詰めてくる。

 

(——来るぞ)

 

頭の中の声が、静かに告げた。

 

(ラファール・リヴァイヴの機動力は伊達じゃない。だが、動きは直線的だ。読みやすい)

 

一夏はその声に従ってリニアライフルを連射モードに切り替えた。マガジン給弾による高速連射。制圧射撃だ。白鴉のリニアライフルが火を噴き、無数の弾丸が真耶に向かって放たれる。

 

真耶はその弾幕を巧みな機動でかわしていく。さすがは元代表候補生。動きに無駄がない。だが、一夏はその動きを冷静に観察していた。

 

(——右に回避する。次は左だ)

 

頭の中の声が先の動きを告げる。一夏はその声に従って、右に牽制の一撃を放った。真耶のラファール・リヴァイヴが、まんまと右に回避する。その瞬間、一夏は左に照準を移した。

 

「——そこだ」

 

リニアライフルのチャージショット。エネルギーを収束させた大口径弾が、真耶の回避先に叩き込まれる。だが、真耶はその攻撃を紙一重でかわした。

 

「やりますね、織斑君!」

 

真耶の声が弾む。その声には驚きと楽しさが混ざっていた。真耶が反撃に転じる。ラファール・リヴァイヴの武装が一斉に火を噴いた。無数のミサイルと実弾が、一夏に向かって放たれる。

 

(——多いな。だが、軌道は読める)

 

一夏は白鴉のスラスターを吹かして、その弾幕の中を縫うように進んだ。背部のレーザーキャノンを拡散モードに切り替え、広範囲にレーザーを拡散射出する。真耶のミサイルの一部が、そのレーザーに撃ち落とされた。だが、まだ半数以上が残っている。

 

「——アサルトアーマー」

 

一夏はそう呟いて、特殊兵装を発動した。白鴉の機体を中心に、球状のパルス爆発が発生する。その爆発は、周囲のミサイルや実弾をかき消した。一瞬のうちに、真耶の攻撃が無効化される。

 

「えっ!?」

 

真耶が驚きの声を上げた。その隙を、一夏は逃さなかった。白鴉のスラスターを最大出力で吹かし、一気に距離を詰める。左腕のパルスブレードを展開し、刀身状のパルスエネルギーを形成した。

 

「——もらった」

 

一夏のパルスブレードが真耶のラファール・リヴァイヴに向かって振り下ろされる。だが、その瞬間真耶の機体が信じられないような機動を見せた。4枚の推進翼を巧みに使って、一夏の攻撃を紙一重でかわしたのだ。

 

「甘いですよ、織斑君!」

 

真耶が反撃に転じる。接近戦用のショートブレードを構え、一夏に斬りかかってくる。一夏はそれをパルスブレードで受け止めた。二つの刃が交差し、火花が散る。

 

(——このままでは埒が明かない。ならば)

 

一夏は一瞬で判断した。パルスブレードをパルスシールドに切り替え、真耶の攻撃を防御する。そして、そのまま背部の六連装垂直ミサイルポットを発射した。六発のミサイルが、それぞれ異なる軌道で真耶の機体を襲う。

 

「くっ……!」

 

真耶が防御に回る。その隙に一夏は距離を取った。そして、リニアライフルを構え直す。

 

―――

 

一夏と真耶の戦闘が続く中グラウンドの端で見守っていた一組と二組の女子たちは、呆然とした表情を浮かべていた。

 

「なに、あれ……」

「山田先生、元代表候補生なのに……あの織斑君に、押されてる……?」

「あの機体、なんなの。見たことない動きしてる……」

 

誰かがそう呟いた。その声は震えていた。無理もない。一夏の白鴉は、IS学園の生徒たちが知るどの機体とも、明らかに異なっていた。流線型の美しいフォルムではなく、角張った装甲板の集合体。動きも、ISのそれではなくどこか機械的で、そして獰猛だった。

 

千冬は、そんな生徒たちの様子を見渡してから、静かに口を開いた。

 

「シャルル・デュノア」

 

名を呼ばれて、シャルルがびくりと肩を震わせた。

 

「はいっ」

「山田先生の機体、ラファール・リヴァイヴについて、説明しろ。お前なら分かるはずだ」

 

シャルルは一瞬だけ戸惑った表情を浮かべたが、すぐに姿勢を正した。そして戦闘が続くグラウンドを見つめながら、説明を始めた。

 

「ラファール・リヴァイヴは、フランスのデュノア社製の第2世代型ISです。最後期の機体で、そのスペックは第3世代型初期に劣りません。現在配備されている量産ISの中では最後発で、世界第3位のシェアを誇っています。7カ国でライセンス生産され、12カ国で制式採用されている機体です」

 

シャルルの声ははっきりとしていた。自国の機体について説明するその姿には、どこか誇らしげな色があった。

 

「操縦しやすく、汎用性が高いのが特徴です。それにより操縦者を選ばないことと、多様な役割切り替えを両立しています。外見上の特徴は、あのネイビーカラーの4枚の多方向加速推進翼。別名『飛翔する武器庫』の異名を持っています」

 

シャルルが説明を終えると、千冬は小さく頷いた。

 

「正確だ。では次に、織斑の機体について説明する」

 

千冬のその言葉に生徒たちの視線が一斉に集まった。グラウンドの中央では、まだ一夏と真耶の戦闘が続いている。白鴉がリニアライフルを放ち、真耶がそれをかわす。そのたびに、女子たちから小さな悲鳴のような声が上がった。

 

「あの機体は、白鴉。型式番号IS-01Kai “SHIROGARASU”。第三世代に分類されているが、実質的にはその枠を超えた性能を有している」

 

千冬の声は淡々としていた。だが、その内容は、聞く者すべてを驚愕させるに足るものだった。

 

「最大の特徴は、その機体構造とシステムがISの設計思想とは根本的に異なる点にある。ISが『シールドエネルギーによる絶対防御』と『拡張空間への武器格納』を前提とするのに対し、白鴉は『物理装甲による耐久』と『固定武装の最適配置』を前提とする。拡張空間の使用は最小限に抑えられ、代わりに機体各所に直接搭載された武装群が、柔軟な運用を可能としている」

 

女子たちが、息を呑んだ。

 

「ちょっと待って……物理装甲による耐久って……それって、シールドエネルギーに頼らないってこと?」

「そんなの、ISの常識を覆してるじゃない……」

「ジェネレーター出力も、第三世代を大幅に上回ってるって……ありえない……」

 

そんな声が、あちこちから聞こえてくる。千冬は、そんな声を気にした様子もなく、説明を続けた。

 

「武装は、右腕に大型リニアライフル。右背部にレーザーキャノン。左背部に六連装垂直ミサイルポット。左腕にパルスブレード。そして、任務に応じて特殊兵装を一つ選択装備する。アサルトアーマー、パルスアーマー、パルスプロテクション。いずれも、実戦における生存と殲滅を想定した兵装だ」

 

千冬がそこまで言った時ラウラが、小さく息を吐いた。その目はグラウンドの中央で戦う白鴉を、じっと見つめていた。

 

ラウラが一歩前に出た。その姿勢は、先ほどまでの敵意をどこかに置いてきたかのように、どこまでも真剣だった。

 

「教官。質問があります」

 

千冬がラウラの方を見た。

 

「言え」

「白鴉の特殊兵装、アサルトアーマー、パルスアーマー、パルスプロテクション。その効果について、詳しく説明していただきたい」

 

ラウラの声は軍人そのものだった。その目には、純粋な技術的興味が浮かんでいる。千冬はそんなラウラの問いに、短く頷いた。

 

「まず、アサルトアーマー。これは機体を中心とした球状のパルス爆発を発生させる攻防一体の兵装だ。発動と同時に周囲にEN属性のダメージを与え、爆発範囲内の銃弾・ミサイル等の実弾兵装をかき消す。至近距離での被弾を強制的に無効化する、攻勢転換の切り札として機能する」

 

ラウラの眉が、わずかに動いた。

 

「次に、パルスアーマー。一定時間機体を球状のバリアで包み込む防御兵装だ。バリアは全方位を覆い、物理・エネルギー双方の攻撃を無効化する。持続時間中は攻撃も可能だが、バリア展開中は機動性が低下する。防御に特化した守りの切り札だ」

 

ラウラが、小さく息を呑んだ。

 

「そして、パルスプロテクション。半径5メートル以内の任意の位置に、球状のバリアを設置する兵装だ。バリアは敵の攻撃を内側からも外側からも阻む。逆に、味方の攻撃はバリアの内外どちらからでも通過する。つまり、味方にとっては透過する防御壁、敵にとっては貫通不可能な障壁として機能する」

 

千冬の説明が終わるとグラウンドにしばしの沈黙が落ちた。その沈黙を破ったのは、ラウラの低い呟きだった。

 

「……ありえない」

 

その声は、震えていた。恐怖ではない。信じられないものを見た時の、純粋な驚愕。ラウラは続けた。

 

「アサルトアーマーは、あらゆる実弾を無効化する? パルスアーマーは、全方位の攻撃を無効化する? パルスプロテクションは、任意の位置に敵味方を選別するバリアを展開する? ……そんなもの、ISの技術体系では実現不可能です」

 

ラウラの呟きは、他の女子たちにも波及した。

 

「ありえない……ですよね? だって、そんなの、ISの常識を完全に無視してる」

「アサルトアーマーって、要は絶対防御の上位互換じゃない……? しかも、攻撃も兼ねてるなんて」

「パルスアーマーも、パルスプロテクションも……こんなの、戦術の常識が根本から変わるじゃない……」

「ちょっと待って。パルスプロテクションって、味方の攻撃だけ通すんでしょ? それって、防御壁の内側から一方的に攻撃できるってことじゃない……」

「そんなの、ずるすぎる……」

 

女子たちの声が次第に大きくなっていく。その声には、驚愕とそしてどこか畏怖の色が混ざっていた。

 

シャルルは、黙って白鴉を見つめていた。その目には、ラウラと同じ驚愕の色が浮かんでいる。だが、それだけではなかった。どこか、考え込むような探るような色も。

 

「織斑先生」

 

シャルルが、静かに口を開いた。

 

「白鴉の特殊兵装は、任務に応じて一つだけ選択装備するとのことでしたが……それはつまり、同時に複数は使えないということですか?」

 

千冬はシャルルの問いに、短く頷いた。

 

「その通りだ。白鴉の特殊兵装は、いずれも強力だが同時運用はできない。状況に応じて、一つを選び使い切る。それが白鴉の運用思想だ」

 

シャルルはその答えに小さく頷いた。その表情には、まだ考え込むような色が残っていた。

 

グラウンドの中央では一夏と真耶の戦闘が続いていた。白鴉がパルスブレードを振るい、真耶のラファール・リヴァイヴがそれをかわす。そのたびに、女子たちから小さな悲鳴が上がる。だが、その悲鳴の中にも先ほどまでの純粋な驚きとは違う、どこか複雑な色が混ざり始めていた。

 

ラウラは、白鴉を見つめながら小さく呟いた。

 

「……あの機体、一体、誰が設計したんだ」

 

その問いに、答える者はなかった。千冬はそんなラウラの呟きを聞きながら、静かにグラウンドの中央を見つめていた。その目には、どこか複雑な色が浮かんでいた。

 

グラウンドの中央では、まだ一夏と真耶の戦闘が続いていた。

 

白鴉がリニアライフルを放ち真耶のラファール・リヴァイヴがそれをかわす。もう何度目の攻防か、数えるのも馬鹿らしくなってくる。一夏は息を切らしながらも、その目は冷静だった。対する真耶も、額に汗を浮かべながらもその動きに衰えはない。

 

千冬は、そんな二人の戦いをしばらく黙って見つめていたが、やがて小さく息を吐いた。

 

「そこまで」

 

その声は、グラウンドに静かにしかし確実に響いた。一夏と真耶は、同時に動きを止めた。白鴉のリニアライフルが、ゆっくりと下ろされる。ラファール・リヴァイヴの推進翼も、その唸りを止めた。

 

「時間だ。引き分けとする」

 

千冬のその言葉に、一夏はほっと息を吐いた。真耶も、同じように安堵の表情を浮かべている。

 

「はあ……さすがですね、織斑君。まさかここまで追い詰められるとは思いませんでした」

 

真耶はそう言って柔らかく笑った。その笑顔には、どこか楽しさが混ざっている。一夏はそんな真耶の笑顔を見て、頭をかいた。

 

「いや、俺も必死でしたよ。山田先生こそ、さすが元代表候補生って感じでした」

 

一夏がそう言うと真耶は少しだけ照れたように笑った。そんな二人のやり取りを見ながら、千冬はグラウンドに集まる生徒たちの方を向いた。

 

「全員、聞け。これからグループに分かれて実習を行う」

 

その言葉に、女子たちの表情が一斉に引き締まった。千冬は続けた。

 

「グループは五つ。各グループのリーダーは、専用機持ちが務める。織斑、セシリア・オルコット、凰鈴音、シャルル・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒ。お前たち五人だ」

 

その名を聞いて一夏は少しだけ驚いた。まさか自分がリーダーを務めるとは思っていなかったからだ。だが、千冬はそんな一夏の様子を気にするでもなく、話を続けた。

 

「各グループには、山田先生が打鉄三機ラファール・リヴァイヴ二機のどれかを一機ずつ配備する。まずはISの装着、起動、歩行。基本中の基本だ。だがこの基本ができなければ、何も始まらない。各リーダーは、自分のグループのメンバーをしっかり指導しろ」

 

千冬のその言葉に一夏は小さく頷いた。ISの装着、起動、歩行。確かに基本中の基本だ。だが、一夏自身もまだまだ未熟な身だ。人に教えるなど、できるのだろうか。そんな不安が、一夏の胸をよぎった。

 

(——案ずるな)

 

頭の中の声が、静かに告げた。

 

(基本は、基本だ。お前が知っていることを、そのまま伝えればいい。それで、十分だ)

 

一夏は心の中でその声に頷いた。そうだ。難しく考えることはない。自分が知っていることを、そのまま伝えればいい。それだけのことだ。

 

「グループ分けは、私が指名する。呼ばれた者は自分のグループの場所に移動しろ」

 

千冬はそう言って次々と生徒の名を呼んでいった。一夏は自分のグループのメンバーを確認しながら、ふとあることに気づいた。ラウラが、こちらをじっと見つめている。その目には、まだあの敵意が宿っていた。だが、その中にどこか別の色も混ざっているような気がした。

 

(——ラウラ・ボーデヴィッヒ。お前は、何をそんなに敵視しているんだ?)

 

一夏は心の中でそう呟いたがそれを問いかけることはしなかった。今は、グループの指導に集中しなければならない。

 

グループ分けが終わると真耶が各グループに機体を配備していった。打鉄三機、ラファール・リヴァイヴ二機。それが、各グループに一機ずつ均等に分配される。

 

「それでは、各グループ、実習を開始してください。最初はISの装着、起動、歩行です。慣れない人はリーダーの指示に従ってくださいね」

 

真耶のその言葉を合図に各グループが一斉に動き始めた。一夏は自分のグループのメンバーを集めて、まずはISの装着から始めることにした。

 

「ええと、まずはISの装着からだ。腕輪を嵌めて、展開するんだ。初めての人は緊張するかもしれないけど、落ち着いてやれば大丈夫だから」

 

一夏はそう言って自分の腕輪を掲げて見せた。グループの女子たちが、真剣な表情で一夏の説明を聞いている。その中には、さっきまでとは違う純粋な好奇心の色が浮かんでいた。一夏はそんな彼女たちの様子を見て、少しだけ嬉しくなった。

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