合宿二日目の朝。海沿いの訓練場に一年生たちの活気ある声が響いていた。女子生徒たちはISの各種装備運用とデータ取りの準備に追われている。装甲の点検、エネルギーラインの確認センサーの校正。やることは山のようにあるが、誰一人として不平を言う者はいなかった。これも合宿の訓練の一環なのだ。
「各班ごとに振り分けられたISの装備試験専用機持ちは、専用パーツのテストを行うように」
千冬の指示が訓練場に響き渡る。女子生徒たちはそれぞれに返事をして、自分たちの班の作業へと戻っていった。一夏も自分の担当する機体の点検を始めようとした。
「箒」
千冬がそう呼びかけた。ISの装備を運んでいた箒が顔を上げる。一夏は首を傾げた。鈴音も、セシリアも、シャルロットもラウラも、同じように不思議そうな表情を浮かべている。
「何でしょう、先生」
「お前には、今日特別な機体が届いている」
千冬がそう言いかけた時だった。
「ちーーーちゃーーんっ!」
甲高い声が訓練場に響き渡った。全員がそちらの方を見る。束が、凄まじい速さで走ってくるではないか。その姿は風のように砂浜を駆け抜け、あっという間に千冬の目の前へと到達した。
「ちーちゃん! 会いたかったよー!」
束はそう叫ぶなり千冬に飛び掛かった。千冬は小さくため息を吐くと、束の顔面にアイアンクローを叩き込んだ。
「ぐふっ」
「相変わらずだな、束」
「いひゃい! いひゃいよ、ちーちゃん!」
束はじたばたと暴れるが千冬の手はびくともしない。やがて、千冬が手を離すと束はその場にへたり込んだ。
「毎度のことながら、手加減というものを覚えろ」
「ちーちゃんのスパルタン! でもそこがいいのよねー」
束はそう言ってけろりと立ち上がると、今度は箒の方へと歩いていった。
「おー、箒ちゃん。昨日ぶりー」
「そうですね」
箒がそう答えると束はにやにやと笑いながら箒の肩に手を回した。そして、そのまま腰のあたりへと手を滑らせる。
「やっぱり箒ちゃんはいい体してるねー。剣道で鍛えてるだけあるわー」
「……っ!」
箒の顔が一瞬で赤くなった。そして、次の瞬間、箒の刀の鞘が束の頭を殴りつけた。
「いてっ!」
「セクハラはやめてください」
「箒ちゃん、相変わらず容赦ないなー」
束は頭をさすりながらそう言ったが、その顔はどこか楽しそうだ。その時、摩耶が歩み寄ってきた。
「あの、ここは関係者以外立ち入り禁止ですが」
「えー、私も関係者だよー。」
「そ、そうですか……」
摩耶は小さくため息を吐いた。千冬が束の方を見た。
「束。一応、自己紹介をしておけ。お前を知らない者もいる」
「えー、面倒くさいなー」
束はそう言いながらも、一夏たちの方へと向き直った。
「はーい、どうもー。篠ノ之束でーす。ISの生みの親でーす。よろしくねー」
そのあまりにも簡潔な自己紹介に、生徒達は一瞬言葉を失った。ISの生みの親。つまり、この人がすべてのISの開発者なのだ。
「それで、束。箒に用があると聞いたが」
千冬がそう言うと、束は手をぽんと打った。
「そうそう! 箒ちゃんにプレゼントがあるんだった!」
束はそう言って空を見上げた。そして、指を鳴らす。すると空から銀色のコンテナが一つ、ゆっくりと降りてきた。訓練場の砂浜に、静かに着地する。束はコンテナの扉に手をかけると、その扉を開けた。
「じゃじゃーん!」
中には、赤い機体が納められていた。
「箒ちゃんの専用機、その名も紅椿! 白鴉を除けば、全スペックが現行ISを上回ってる、最新鋭の第四世代型ISだよー」
「第四世代型……」
「机上の空論って言われてた、即時万能対応機のコンセプトを実現した、完成形の展開装甲を搭載してるの。まあ、細かい話は後でねー」
束はそう言って、箒の背中を押した。
「じゃ、早速だけど。箒ちゃん乗って乗ってー」
「え、ちょっと……!」
「フィッティングとパーソナライズ、ちゃちゃっと終わらせちゃうからー」
束はそう言って箒を紅椿のコックピットへと押し込んだ。そして、手元の端末を操作する。あっという間の出来事だった。一夏も、鈴音もセシリアも、シャルロットもラウラも、ただ呆然とその光景を見つめていることしかできなかった。
「はい、完了ー!」
束がそう言って端末を閉じた。コックピットから、箒が降りてくる。その表情はどこか夢見心地のようだった。
「どうかな、箒ちゃん」
「……すごい。この機体、私の動きを先読みしているみたいです」
箒はそう言って自分の手のひらを見つめた。その目には、確かな驚きとそして、どこか誇らしげな光が宿っていた。一夏は、そんな箒の姿を見ながらふと頭の中の声を聞いた。
(——紅椿。第四世代のISか)
(ああ。全スペックが現行のISを上回っているらしいな)
(——面白い。だが油断するな。あの機体、只者ではない)
一夏は、その声に心の中で頷いた。そして、改めて紅椿を見つめた。赤い装甲が、朝の陽射しを受けて輝いている。その姿は、まるでこれから始まる戦いを予感させるかのようだった。
そして紅椿の設定を終わらせた束は、満足そうに端末を閉じた。そして、くるりと一夏の方へと向き直る。
「ねえねえ、いっくん。白鴉のデータ見せてくれない?」
「え? 白鴉の?」
「そ。ちょっと気になってることがあってさー」
束の声はいつもの軽い調子だったが、その目はどこか真剣だった。一夏は少し迷ったが、千冬が小さく頷くのを見て了承した。
「分かりました。ちょっと待ってください」
一夏は腕輪に手を触れる。白式の待機状態である腕輪が、淡く光を放った。そして次の瞬間、白亜の装甲が一夏の全身を包み込む。角張った装甲板の集合体。背部の大型スラスターユニット。肩部、腰部、脚部に埋め込まれた推進器。その姿は、IS学園のどの機体とも似つかない、異質なものだった。
「おおー。これが白鴉かー。噂には聞いてたけど、実際見るとすごいねー」
束はそう言って、白鴉の周りをぐるぐると歩き回った。その目は、どこか子どもが新しい玩具を前にした時のような輝きを宿している。だが、その輝きの奥には研究者としての鋭い観察眼が光っていた。
「じゃあ、ちょっと失礼するねー」
束はそう言ってポケットから一本のコードを取り出した。その先端を白鴉の背部装甲の隙間に接続する。すると、空中にいくつものディスプレイが浮かび上がった。白鴉のデータが、次々と表示されていく。
「ふむふむ……。なるほどねぇ……」
束はディスプレイを食い入るように見つめながら、時折小さく呟いた。その表情は、さっきまでの陽気なものとはまるで違う。真剣で、どこか集中している。箒が一夏の隣で小さく囁いた。
「……一夏。姉さん、様子が変だぞ」
「ああ。何か、いつもと違う」
一夏もそう答えた。束は普段はあんなに自由奔放で、掴みどころのない人物なのに今はその姿からは想像もできないほど真剣な表情をしている。それが、一夏にはどこか不思議だった。やがて、束が「なるほどねぇっ」と小さく呟いて、ディスプレイを閉じた。空中に浮かんでいたデータが、すっと消えていく。
「束。何か分かったのか」
千冬がそう聞いた。束は少しだけ考え込むようにしてから、口を開いた。
「うん。面白いことが分かったよ。この白鴉のフラグメントマップ、他のISと全く違う構造で構築されてるんだよねー」
「フラグメントマップが……?」
「そ。普通のISは、コアから供給されるエネルギーを各パーツに分配する形でフラグメントマップが構成されてるんだけど、この子は違う。まるで最初から各パーツが独立して動くことを前提に設計されてるみたいな構造になってるの。それに……」
束はそう言ってもう一度ディスプレイを開いた。今度は、別のデータが表示される。
「VOBにUNAC。それにオーバードウェポン。どれも詳細不明の構築中データ。これ、白式から移行しただけじゃ説明がつかないよ。明らかに、別の設計思想が組み込まれてる」
束の言葉に、一夏は言葉を失った。VOB。UNAC。オーバードウェポン。聞いたことのない言葉だが、なぜか頭の奥がずきりと痛む。まるで、忘れていた何かを思い出そうとするような、そんな感覚だった。
(——VOB。オーバードウェポン。懐かしいな)
(知ってるのか?)
(ああ。だが、今は深く考えるな。お前にはまだ早すぎる)
(どういう意味だよ)
(そのうち分かる)
頭の中の声は、それ以上何も言わなかった。一夏は、そんな声の主にどこかもどかしさを感じながらも、目の前の束の話に意識を戻した。
「とにかく。この白鴉には、まだ私たちが知らない技術がたくさん詰まってるってこと。ちーちゃん、これから面白くなりそうだねー」
「そうだな。だが、油断はするなよ束」
「分かってるってー」
束はそう言って、いつもの陽気な笑みを浮かべた。だが、その笑みの奥には確かな警戒の色があった。一夏は、白鴉の装甲越しにそんな束の表情を見つめていた。
(——どうやら。俺の機体は、思っていた以上に厄介な代物らしいな)
(ああ。だが、それがどうした)
(……そうだな。俺が乗る限り、関係ないか)
(その意気だ)
一夏は、心の中でそう答えた。そして白鴉の装甲を解除した。腕輪に戻った機体を、一夏はそっと見つめる。
「いっくん」
束が、そんな一夏に声をかけた。
「その白鴉。大事にしてあげてね。この子は、きっといっくんの力になるから」
「……はい」
一夏は、そう答えた。束はその言葉に満足そうに頷いた。訓練場の空は、どこまでも青く澄み渡っていた。海風が、白鴉の装甲が消えた後の一夏の頬を、優しく撫でていった。
束は白鴉のデータを閉じると、くるりと箒の方を向いた。その顔には、もういつもの陽気な笑みが戻っている。
「じゃあ箒ちゃん。せっかくだから、紅椿の試運転をお願いねー」
「試運転……ですか」
「そ。フィッティングとパーソナライズは終わったけど、実際に動かしてみないと分からないこともあるでしょ? データ取りも兼ねて、ちょっと飛ばしてみてほしいの」
箒は少しだけ考え込んだ後、静かに頷いた。
「分かりました。……ですが、姉さん。私、この機体の扱いをまだよく理解していません。いきなり飛ばせと言われても」
「大丈夫大丈夫。紅椿はねー、操縦者の動きを先読みしてサポートしてくれるから。箒ちゃんなら、すぐに馴染めるって」
「そういう問題ではないと思うのですが……」
「まあまあ。とりあえず乗ってみて。話はそれからだよ」
束はそう言って、箒の背中をぽんと押した。箒は一瞬だけ一夏の方を見た。一夏は小さく頷く。
「やってみろよ、箒。俺も見てるから」
「……分かった」
箒はそう答えて、紅椿のコックピットへと向かった。赤い装甲が、朝の陽射しを受けて輝いている。コックピットが開き、箒がその中に乗り込む。シートベルトを締め、コンソールに手を置く。その動きは、すでに何度もこの機体に乗っているかのように自然だった。
「じゃあ、起動するよー」
束が端末を操作すると紅椿の機体が淡く光り始めた。赤い装甲の各部が、まるで呼吸するように膨張と収縮を繰り返す。展開装甲が、起動したのだ。
「うわ……」
一夏は思わず声を漏らした。紅椿の全身が、まるで生き物のように動いている。肩部、腕部、脚部、そして背部。それぞれの装甲が独立して動き、そして再び元の位置に戻る。その姿は、まさに「全身が武器の塊」という言葉にふさわしいものだった。
『起動確認。紅椿、オールグリーンです』
箒の声が、訓練場のスピーカーから聞こえてきた。落ち着いた、しかしどこか誇らしげな声だった。
「よし。じゃあ、まずは基本の機動からいってみよー。ゆっくりでいいからねー」
『了解しました』
紅椿が、ゆっくりと浮かび上がった。その動きは実に滑らかで、まるで重力を感じさせない。箒は慎重に、しかし確実に機体を操作している。旋回。上昇。下降。その一つ一つが、丁寧で正確だった。
「おおー。さすが箒ちゃん。飲み込みが早いねー」
「本当に……。あれだけの機体を、あんなに自然に動かすなんて」
セシリアがそう呟いた。その声には、どこか悔しさと感嘆が混じっている。鈴音も、シャルロットもラウラも、それぞれに複雑な表情で紅椿の動きを見つめていた。
「次は、武装の展開を試してみよっかー。展開装甲をエネルギーソードに切り替えてみてー」
束の指示に、箒が応じる。紅椿の腕部の装甲が変形し、光の刃が形成された。それは、美しい曲線を描くエネルギーソードだった。
『これは……すごい。私の動きに、装甲が追従してくる』
「でしょ? それが紅椿の展開装甲の真骨頂。攻撃にも防御にも機動にも、瞬時に切り替えられるの」
箒はエネルギーソードを一振りした。その軌跡が、空中に光の線を描く。続いて背部の装甲が切り離され、ビットとして展開された。二機のビットが、箒の周囲を飛び回る。
「おおー。ビットもちゃんと動いてるねー。箒ちゃん、センスあるわー」
束はそう言って、満足そうに頷いた。一夏はそんな箒の姿を見ながら、ふと頭の中の声を聞いた。
(——見事だ。あの機体、操縦者との一体感が半端ではない)
(ああ。箒、すごく自然に動かしてる)
(——ふむ。あの機体とあの娘、相性がいいのかもしれんな)
一夏は、その声に心の中で頷いた。そして、改めて紅椿を見つめた。赤い機体が、青い空の下で優雅に舞っている。その姿は、まるで一輪の花が風に揺れているかのようだった。
「はい、お疲れさまー。箒ちゃんどうだった?」
『……すごい機体です。私の動きを、ここまで理解してくれる機体は初めてです』
箒の声には、確かな感動が込められていた。束はその声を聞いて、満足そうに笑った。
「でしょー。紅椿は、箒ちゃんのために作ったんだからねー」
「私のために……」
「そ。箒ちゃんが、この機体をどこまで使いこなせるか。楽しみにしてるからねー」
束はそう言って、端末を閉じた。紅椿がゆっくりと着地する。コックピットが開き、箒が降りてきた。その顔にはどこか達成感のようなものが浮かんでいる。
「お疲れ、箒」
一夏がそう声をかけると、箒は少しだけ照れくさそうに笑った。
「ああ。ありがとう、一夏」
「すごかったな。あの機体、お前とすごく合ってると思う」
「……そうか。そう言ってもらえると、嬉しいな」
箒はそう言って紅椿の機体を見上げた。赤い装甲が、朝の陽射しを受けて輝いている。束は、そんな箒の姿を見ながら小さく頷いた。
束が端末を閉じ、箒が紅椿から降りたその時。
「織斑先生!」
摩耶が慌てた様子で駆けてきた。その手には端末が握られている。普段の穏やかな表情はどこへやら、その顔には切迫した色が浮かんでいた。
「どうした」
「これを見てください」
摩耶はそう言って千冬に端末を差し出した。千冬はそれを受け取り、画面に目を落とす。その表情が、一瞬で変わった。眉がわずかに寄り、目が細められる。それは一夏が今まで見たことのない、千冬の表情だった。
「……特務任務レベルA」
「はい。試験中に……」
摩耶がそう言いかけたところで、千冬が手を上げてそれを制した。
「分かっている」
千冬はそう短く答えると、端末を摩耶に返した。そして訓練場にいる全員に向き直る。その背筋はいつも以上にぴんと伸び、声には有無を言わせない力が宿っていた。
「全員、聞け」
千冬の声が訓練場に響き渡った。女子生徒たちは一斉に手を止め、千冬の方を見る。
「IS学園教員は、これより特殊任務行動に移る。テスト稼働は中止。各自、ISを片付けて旅館に戻り待機しろ」
「え……?」
「急にどうしたんですか」
「静かにしろ」
千冬の一喝でざわめきが一瞬で収まった。しかし、女子生徒たちは戸惑った表情を浮かべている。突然の中止命令に、誰もが理由を知りたがっている。だが、千冬はそれ以上何も言わない。ただ、鋭い視線で全員を見渡した。
「戻れ」
その一言に、女子生徒たちは慌てて片付けを始めた。ISの装甲を解除し、装備をまとめ訓練場の出口へと向かう。足音が、砂浜に響く。そのどれもがどこか焦っているように聞こえた。
千冬はそんな女子生徒たちの姿を一瞥すると、一夏たちの方へと向き直った。
「専用機持ちは全員集合。箒も来い」
そう言って、千冬は訓練場の端にある仮設の指令所へと歩き出した。一夏は箒と顔を見合わせる。箒も同じように、何が起きたのか分からないという表情をしていた。
「行くぞ」
「ああ」
一夏と箒は、千冬の後を追った。鈴音、セシリア、シャルロット、ラウラも、それぞれに緊張した面持ちで続く。六人は、千冬の後に従って仮設指令所へと入った。
中は、外とは打って変わって静かだった。机の上には何台もの端末が並び、いくつもの画面が光っている。千冬はそれらの前に立つと、一夏たちの方へと振り返った。
「これから話すことは、他言無用だ」
千冬の声は、低く、静かだった。だがその静けさの中に、確かな緊張が込められている。一夏は、思わず息を呑んだ。
「先ほど、摩耶教諭から報告があった。特務任務レベルAが発令された」
「特務任務レベルA……?」
「ああ。これは、IS学園が保有する最高レベルの警戒態勢だ。詳細はまだ分かっていないが、どうやらISに関わる重大な事態が発生したらしい」
千冬はそう言って端末の一つを手に取った。画面には、一夏には見慣れないデータが表示されている。
「これから、私たち教員はその対応に当たる。お前たちは旅館に戻り、待機していろ」
「待機って……。俺たちも何か手伝えることは」
「ない」
千冬は一夏の言葉を、短く切って捨てた。
「お前たちはまだ生徒だ。そして、この事態の全容も分かっていない。むやみに動けば、危険が及ぶ可能性もある」
「ですが……」
「これは命令だ」
千冬の目が、一夏を射抜いた。その目にはいつもの厳しさとは違う、どこか心配するような色が混じっている。一夏は、それ以上何も言えなかった。
「いいな。全員、旅館に戻って待機。指示があるまで、外に出るな」
「分かりました」
「はい」
「了解ですわ」
「分かった」
「ええ」
五人がそれぞれに返事をすると、千冬は小さく頷いた。
「では、行け」
一夏たちは、仮設指令所を後にした。外に出ると、女子生徒たちがまだ片付けをしている最中だった。その顔には、どこか不安な色が浮かんでいる。一夏は、そんな彼女たちの間を通り抜けながら、改めて千冬の言葉を思い返していた。
(特務任務レベルA。一体、何が起きているんだ)
(——分からん。だが、只事ではないことだけは確かだ)
(ああ。千冬姉があんな表情をするなんて、滅多にない)
(——油断するな。何かが起きるかもしれん)
一夏は、心の中でそう答えた。そして旅館へと続く道を、箒たちと共に歩いていった。海風が、どこか冷たく感じられた。