三機の無人機がまるで連携を取るかのように動いた。近距離型が前に出て、中距離型がそれを援護し遠距離型が後方から狙撃する。それは、人間が操縦しているかのような、精密で無駄のない動きだった。
「近距離型、行くぞ!」
箒の声と共に紅椿が加速する。展開装甲を機動に全振りした紅椿は、近距離型の無人機に肉薄した。近距離型が剣を振り上げる。だが、箒の方が速い。
「遅い!」
紅椿の展開装甲がエネルギーソードへと変形し、近距離型の胴体を袈裟懸けに斬り裂いた。火花が散り、機体がぐらりと傾く。そこへ一夏の白鴉が追撃を叩き込む。リニアライフルの連射モード。徹甲弾が、近距離型のコアを貫いた。
「一機!」
一夏が叫ぶ。だが、その瞬間にはもう中距離型が迫っていた。中距離型の腕部から、無数のミサイルが放たれる。白鴉と紅椿の周囲を、ミサイルが取り囲むように飛び交った。
「くっ……!」
一夏は白鴉のパルスブレードを展開し、迫り来るミサイルを斬り払う。紅椿も展開装甲を盾に変形させて、爆発を防いだ。だがその隙を遠距離型が狙っていた。遠距離型のレーザーキャノンが、正確に白鴉を狙い撃つ。
「一夏!」
箒の叫びが聞こえた。白鴉がレーザーをかわす。だが、中距離型のミサイルがその動きを封じていた。一夏は歯を食いしばる。白鴉の背部スラスターが唸りを上げ、強引に軌道を変えた。レーザーが、装甲をかすめていく。
「中距離型、先に落とす!」
一夏はそう叫ぶと、白鴉のレーザーキャノンを中距離型に向けて放った。収束したレーザービームが、中距離型のウィングを貫く。そこへ箒の紅椿が追撃を加えた。エネルギーソードが、中距離型の機体を両断する。
「二機!」
だが、その瞬間だった。一夏の体に、激しい疲労感が襲いかかった。視界が霞み、手足が鉛のように重くなる。聖天月華の効果時間が、切れたのだ。
「まずい……!」
一夏は白鴉の機動が鈍るのを感じた。その隙を、遠距離型の無人機は見逃さなかった。遠距離型の全身から、無数のレーザーが放たれる。一夏は必死に回避しようとしたが、体が動かない。
「一夏!」
箒の叫びが、遠くで聞こえた。レーザーが白鴉の装甲を貫く。背部のスラスターが爆発し、機体のバランスが崩れる。白鴉は、まるで羽をもがれた鳥のように、空中で姿勢を制御できなくなった。
「一夏!」
もう一度、箒の声が響く。白鴉が海面に向かって落下していく。一夏の意識が、遠のいていく。最後に見たのは、箒の紅椿が遠距離型の無人機に向かって突進していく姿だった。
「よくも……一夏を……!」
箒の声は、怒りに震えていた。紅椿の展開装甲が、すべてエネルギーソードへと変形する。全身が刃と化した紅椿が、遠距離型の無人機に襲いかかった。その一撃は、まさに渾身の一撃だった。遠距離型の機体が、真っ二つに斬り裂かれる。爆発と共に、無人機の残骸が海面へと落下していった。
箒は、すぐに海面へと目を向けた。白鴉が、ゆっくりと海に沈んでいく。その中に、一夏の姿が見えた。気を失っている。箒は迷わず紅椿を急降下させた。海面すれすれで機体を停止させ、展開装甲を伸ばして一夏の体を掴む。そして、ゆっくりと高度を上げた。
「一夏……! 一夏、しっかりしろ!」
箒の呼びかけに、一夏は反応しない。その顔は青白く、呼吸は浅い。箒は唇を噛みしめた。だが、その時だった。銀の福音が動きを止めたのだ。第二形態の翼を広げたまま、銀の福音は箒と一夏をじっと見つめていた。そして、ゆっくりと機体の向きを変えると、どこかへと飛び去っていった。
「逃げた……?」
箒は、銀の福音の去っていく方向を見つめた。だが、追うことはしなかった。今はそれどころではない。腕の中の一夏が、弱々しく息をしている。その体は、聖天月華の反動でひどく消耗しているようだった。
「一夏。今、連絡するからな」
箒はそう言って通信を開いた。声が、少しだけ震えていた。
「こちら箒。一夏が……一夏がやられた。至急、回収を頼む」
通信の向こうから、千冬の声が返ってきた。その声は、どこか焦っているように聞こえた。
『分かった。すぐに向かう。箒、お前はその場を動くな』
「分かりました」
箒はそう答えて通信を切った。そして、腕の中の一夏をそっと抱きしめるようにして支えた。海風が、二人の周りを優しく吹き抜けていく。その風は、どこか冷たく感じられた。箒は、一夏の顔を見つめながら小さく呟いた。
「馬鹿者。無茶しすぎだ」
その声は、どこか優しかった。そして一夏の胸に手を当てて、その鼓動を確かめる。まだ生きている。それが、箒にとっては何よりの救いだった。遠くから、救援の機体が近づいてくる音が聞こえてきた。箒は、一夏をしっかりと抱きかかえたまま、その機体を待った。
―――
薄暗い一室。窓には厚いカーテンが引かれ、外の光はほとんど入ってこない。部屋の中央に置かれた机の上には、複数のモニターが並んでいる。そのうちの一つに、男は目を凝らしていた。
画面に映っていたのは、一夏と箒が三機の無人機と戦っている映像だった。赤い機体と白い機体が、三機の無人機を相手に奮戦している。男は腕を組み、その戦いをじっと見つめていた。やがて、最後の一機が箒の紅椿によって撃墜される。男は、興味をなくしたように一夏の方へと視線を移した。
「……ふむ」
男は小さく呟いた。その声には、どこか確信のようなものが込められている。男は、一夏の戦い方を見てある結論に達していた。あの戦い方。あの機動。あの判断力。間違いない。男は、脳裏にある光景を思い浮かべていた。かつて自分たちの計画を、たった一人で覆したイレギュラーの姿を。
――あの傭兵。
ACと呼ばれる兵器を操り圧倒的な戦闘能力で自分たちの思惑を打ち砕いた男。あの時、男は確かに見た。人の限界を超えた、異常なまでの戦闘能力を。そして今、この画面の中の少年もまた同じ匂いを放っていた。いや、あの傭兵以上の何かを感じさせる。
「認めない」
男は、低い声でそう言った。その声には、静かなしかし確かな怒りが込められている。
「人の可能性など、僕は認めない」
男は、モニターから目を離さない。画面の中では、箒が気絶した一夏を抱きかかえ、銀の福音が飛び去っていく。その光景を、男はじっと見つめていた。
「人は人によって滅ぶ。それが必然だ」
男の言葉は、まるで呪詛のようだった。部屋の空気が、より一層重く沈んでいく。モニターの光だけが、男の顔を照らしている。その表情は、どこか冷たくそしてどこか哀しげだった。やがて、一夏に向かって言った。
「だがもし、君が例外だとするなら……」
男の声は、静かだった。だがその静けさの中に、確かな重みがあった。
「その時は生き延びるが良い。君にはそれをする権利と義務がある」
そう言い終えると、男は再びモニターへと向き直った。画面の中では、救援の機体が近づき箒と一夏を回収しようとしている。男は、その光景をじっと見つめながら、小さく息を吐いた。部屋の外では、波の音が聞こえていた。静かな、そしてどこか物悲しい夜だった。