蒼穹の異邦人 ~魔王を倒した勇者、1942年のミッドウェー海戦に降り立つ~   作:Monutaka

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第14話 勇者、戦争を止めに行く

 

 

 昭和十七年六月二十二日。

 

 東京、首相官邸。

 

「……撤兵準備を正式に進める、ということですか」

 

 山本五十六の問いに、東條英機首相は静かに頷いた。

 

「ああ。ただし、無条件にすべてを引き揚げるという話ではない」

 

 机の上には、対米講和に向けた政府の基本方針が置かれていた。

 

 中国大陸からの日本軍撤退。

 

 満州の将来に関する中国側との協議。

 

 占領地の行政権返還。

 

 そして、戦争の終結。

 

 それらを実現するための準備を、政府として開始する。

 

 ただし、これはまだ講和条約ではない。

 

 アメリカ側との交渉も続いている。

 

 中国側の意向も確認しなければならない。

 

 それでも、日本政府が進む方向は、ようやく定まりつつあった。

 

「陸軍内部の反発は?」

 

 嶋田繁太郎が尋ねた。

 

「……強い」

 

 東條は、短く答えた。

 

「特に関東軍だ。撤兵など認められんという声がある」

 

「でしょうな」

 

 山本は、静かに頷いた。

 

 長年にわたって大陸で活動してきた軍にとって、撤退は容易に受け入れられるものではない。

 

 現地の日本人居留民の安全。

 

 軍の威信。

 

 満州の統治体制。

 

 そして、これまでの犠牲。

 

 どれも、簡単に切り捨てられる問題ではなかった。

 

「しかし」

 

 東條は、書類に目を落とした。

 

「……今ここで戦争を終わらせる機会を失えば、次にいつ訪れるかわからん」

 

 山本は、ゆっくりと頷いた。

 

「そのとおりです」

 

「撤兵準備の命令を出す。現地の状況を確認し、段階的な帰還計画を立てさせる」

 

「承知しました」

 

 東條は、山本を見た。

 

「例の少年については?」

 

「天城君ですか」

 

「ああ」

 

 山本は、少し考えた。

 

「本人は、戦争を終わらせたいと考えています」

 

「うむ」

 

「ただし、軍を力で従わせるための道具として扱うべきではありません」

 

 東條は、静かに頷いた。

 

「……わかっている」

 

 そして、低い声で続けた。

 

「だが、もし軍内部で武力衝突が起きるならば」

 

「ええ」

 

「そのときは、力を借りることになるかもしれんな」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 六月二十三日。

 

 東京、海軍省。

 

「というわけで、撤兵の準備が始まることになった」

 

 山本の説明を聞き、悠真は嬉しそうに顔を上げた。

 

「おお! じゃあ、みんな帰ってくるんですね!」

 

「ああ。ただし、まだ準備の段階だ」

 

「なるほど!」

 

 悠真は、机の上の地図を覗き込んだ。

 

「中国って、広いですねえ」

 

「広いとも」

 

「ここにいる兵隊さんたちを、全部日本に運ぶんですよね?」

 

「いずれは、そうなるだろう」

 

「じゃあ、すぐ終わりますね!」

 

「……天城君」

 

「はい?」

 

「兵士を運ぶだけなら、君には簡単だろう」

 

「はい!」

 

「だが、現地には日本人の居留民もいる。軍が撤退した後の安全を、どう確保するかという問題もある」

 

「ああ……」

 

「武器を置いて帰れば、それで済むという話ではないんだ」

 

 悠真は、少し考えた。

 

「じゃあ、危ない人がいたら、僕が守ります!」

 

「ありがとう」

 

 山本は、静かに微笑んだ。

 

「だが、君一人にすべてを任せるわけにはいかん」

 

「はい!」

 

 そのとき。

 

 嶋田が、書類を持って入ってきた。

 

「山本君」

 

「大臣」

 

「関東軍から返答があった」

 

 その表情は、険しかった。

 

「どうでした?」

 

「撤兵準備命令に対し、一部の将校が強く反発している」

 

 山本は、静かに息を吐いた。

 

「……やはり、ですか」

 

「うむ。現地では、部隊の集結を求める動きもあるそうだ」

 

 悠真が、顔を上げた。

 

「集結?」

 

「兵士を集めている、ということだ」

 

「何のために?」

 

 嶋田は、少し言葉を選んだ。

 

「場合によっては、命令に逆らうためかもしれん」

 

「…………」

 

 悠真は、少しだけ表情を曇らせた。

 

「それって、また戦争するってことですか?」

 

「まだ、そうと決まったわけではない」

 

 山本は、静かに答えた。

 

「だが、注意は必要だ」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 六月二十四日。

 

 満州。

 

 関東軍のある駐屯地。

 

「東京は、撤兵の準備を進めろと言ってきた」

 

 一人の将校が、部下たちを前に話していた。

 

「だが、我々は、この地を簡単に捨てるわけにはいかん」

 

 兵士たちは、黙って聞いていた。

 

「満州の治安はどうなる? 現地の日本人はどうなる? 我々が撤退すれば、混乱が起きるかもしれん」

 

 その言葉には、現実的な懸念も含まれていた。

 

 だが。

 

「だからこそ、我々は東京の命令に従うべきではない!」

 

 将校は、声を強めた。

 

「必要ならば、武力をもってでも、この方針を撤回させる!」

 

 その瞬間。

 

 兵士たちの間に、動揺が広がった。

 

 命令に従うべきだと考える者。

 

 将校の言葉に賛同する者。

 

 ただ、無事に故郷へ帰りたいと願う者。

 

 その思いは、一つではなかった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 同日夜。

 

 東京、海軍省。

 

「状況は、悪化しているようですな」

 

 山本は、報告書を読みながら言った。

 

「うむ」

 

 嶋田は、静かに頷いた。

 

「一部の部隊が、撤兵準備命令に従わず、独自に武装を集めているらしい」

 

「武力行使の兆候は?」

 

「まだ確認されていない」

 

「……そうですか」

 

 山本は、書類を置いた。

 

「できれば、説得で収めたいものです」

 

「ああ」

 

 そのとき。

 

「あの!」

 

 悠真が、手を挙げた。

 

「何だね?」

 

「僕、ちょっと見てきましょうか?」

 

「満州へ?」

 

「はい!」

 

 山本は、少し考えた。

 

「偵察だけなら、頼めるかもしれん」

 

「わかりました!」

 

「ただし、勝手に武器を取り上げたり、人を移動させたりしないでくれ」

 

「はい!」

 

 悠真は、元気よく頷いた。

 

「まずは、様子を見るだけですね!」

 

「ああ」

 

「了解です!」

 

 ぱちん。

 

 悠真の姿が消えた。

 

 嶋田が、ぽつりと呟いた。

 

「山本君」

 

「はい」

 

「あの少年に『様子を見るだけ』と言う日が来るとはな」

 

「ええ」

 

 山本は、苦笑した。

 

「私も、少し不思議な気分です」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 満州。

 

 関東軍の駐屯地。

 

 夜。

 

 悠真は、上空から地上を見下ろしていた。

 

「ふーん」

 

 兵舎。

 

 車両。

 

 武器庫。

 

 そして、警戒に立つ兵士たち。

 

 悠真は、探知魔法で周囲の様子を調べた。

 

「あれ?」

 

 ある建物の中で、数名の将校が集まっていた。

 

 地図を囲み、何やら話し込んでいる。

 

 悠真は、耳を澄ませた。

 

「東京の命令に従うつもりはない」

 

「では、どうするのですか?」

 

「まず、撤兵を進めようとする部隊を止める」

 

「武力で、ですか?」

 

「必要ならば、そうする」

 

 悠真の表情が、少しだけ変わった。

 

「え?」

 

 将校は、続けた。

 

「明朝、部隊を動かす」

 

「はっ」

 

「抵抗する者がいれば、武器を使うことも辞さない」

 

 悠真は、しばらく黙っていた。

 

 そして、小さく呟いた。

 

「……それは、ダメでしょ」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 翌朝。

 

 六月二十五日。

 

 満州。

 

 駐屯地の一角。

 

 数台の軍用車両が、出発の準備を整えていた。

 

 兵士たちは、緊張した面持ちで並んでいる。

 

「本当に、行くのですか?」

 

 一人の若い兵士が、隣の兵士に尋ねた。

 

「命令だからな」

 

「でも、相手は同じ日本軍ですよ」

 

「わかっている」

 

 そのとき。

 

「全員、乗車!」

 

 将校の声が響いた。

 

 兵士たちが、動き始める。

 

 だが。

 

「ちょっと待ったー!」

 

 突然、上空から声がした。

 

「…………?」

 

 兵士たちが、一斉に空を見上げた。

 

 そこには。

 

 一人の少年が、空中に浮かんでいた。

 

「何だ、あれは!?」

 

「人が、飛んでいる!?」

 

 悠真は、ゆっくりと地面へ降り立った。

 

「おはようございます!」

 

「…………」

 

 将校が、前へ出た。

 

「貴様、何者だ!」

 

「天城悠真です!」

 

「天城?」

 

 将校の顔色が変わった。

 

 噂は、聞いていた。

 

 ミッドウェー海戦で、アメリカの空母を消した少年。

 

 海軍が保護しているという、謎の存在。

 

「まさか、貴様が……!」

 

「はい!」

 

 悠真は、にっこり笑った。

 

「皆さん、どこへ行くんですか?」

 

「貴様には関係ない!」

 

「でも、同じ日本軍の人たちと戦おうとしてるんですよね?」

 

「…………」

 

 将校は、険しい表情で悠真を睨んだ。

 

「東京の連中が、我々の苦労を無駄にしようとしているのだ!」

 

「そうなんですか」

 

「そうだ!」

 

 悠真は、少し考えた。

 

「でも、戦争を終わらせるために、話し合ってるんですよね?」

 

「それがどうした!」

 

「だったら、話し合いが終わるまで待てばいいじゃないですか」

 

「…………」

 

 将校は、怒りに顔を赤くした。

 

「子供が、軍の事情に口を出すな!」

 

 そして、拳銃に手を伸ばした。

 

 その瞬間。

 

 ぱちん。

 

「…………?」

 

 拳銃が、消えた。

 

 将校は、空っぽになった手を見つめた。

 

「……何?」

 

「危ないので、預かりました!」

 

「貴様!!」

 

 将校が叫ぶ。

 

 周囲の兵士たちが、小銃を構えようとした。

 

 だが。

 

 ぱちん。

 

「…………?」

 

 小銃が、消えた。

 

 機関銃も。

 

 弾薬も。

 

 車両に積まれていた武器も。

 

 すべて、跡形もなく消えていた。

 

「な、何が起きた!?」

 

「武器がないぞ!」

 

「弾薬まで!?」

 

 悠真は、にっこり笑った。

 

「大丈夫です! 誰もケガしてません!」

 

「何が大丈夫だ!!」

 

 将校が、怒鳴った。

 

 悠真は、首を傾げた。

 

「でも、これで戦えませんよね?」

 

「…………」

 

「だから、話し合いに戻りましょう!」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 同日。

 

 東京、海軍省。

 

「天城君が、関東軍の一部部隊を武装解除した?」

 

 山本は、報告を聞いて目を閉じた。

 

「はい」

 

 担当者が答えた。

 

「死傷者は?」

 

「確認されておりません」

 

「武器は?」

 

「人のいない場所に移され、厳重に保管されているとのことです」

 

 山本は、静かに息を吐いた。

 

「……そうか」

 

 そのとき。

 

 ぱちん。

 

「ただいま戻りました!」

 

 悠真が、部屋に現れた。

 

「……天城君」

 

「はい!」

 

「様子を見るだけ、と言ったはずだが」

 

「あっ」

 

 悠真は、申し訳なさそうに頭をかいた。

 

「……すみません」

 

 山本は、少年を見つめた。

 

「何があった?」

 

「同じ日本軍の人たちと戦おうとしてたので」

 

「うむ」

 

「武器だけ預かりました!」

 

 山本は、しばらく黙っていた。

 

 そして、静かに頷いた。

 

「そうか」

 

「……怒ってます?」

 

「少しな」

 

「ごめんなさい」

 

 山本は、ゆっくりと息を吐いた。

 

「だが、誰も傷つけずに済んだことは、よかったと思っている」

 

 悠真は、顔を上げた。

 

「はい!」

 

 嶋田が、静かに口を開いた。

 

「しかし、山本君。これで終わりではない」

 

「ええ」

 

「武器を取り上げられた将校たちが、素直に命令に従うとは限らん」

 

「そのとおりです」

 

 山本は、書類に目を落とした。

 

「政府として、正式な対応が必要でしょう」

 

 悠真が、手を挙げた。

 

「あの!」

 

「何だね?」

 

「その人たち、東京に連れてきましょうか?」

 

「…………」

 

 山本と嶋田は、顔を見合わせた。

 

「天城君」

 

「はい!」

 

「まずは、政府の判断を待ってくれ」

 

「了解です!」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 六月二十六日。

 

 東京。

 

 首相官邸。

 

 関東軍の一部部隊による命令違反と、武装解除の報告が届いていた。

 

 東條は、静かに書類を読んでいた。

 

「死傷者なし、か」

 

「はい」

 

「武器はすべて、回収されたと?」

 

「そのようです」

 

 東條は、しばらく考えた。

 

「……あの少年の力か」

 

「はい」

 

 机の上には、関東軍からの抗議電報も置かれていた。

 

 そこには、少年による武装解除を不当とする主張が記されていた。

 

 東條は、静かに息を吐いた。

 

「軍が命令に従わず、武力行使を準備したのであれば、看過できん」

 

 そして、担当者に告げた。

 

「関係将校を東京へ呼び戻せ。事情を確認する」

 

「はっ」

 

「現地の部隊には、撤兵準備命令に従うよう、改めて通達せよ」

 

「承知しました」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 翌日。

 

 満州。

 

 関東軍の駐屯地。

 

「東京へ出頭しろ、だと?」

 

 将校は、命令書を睨みつけた。

 

「ふざけるな!」

 

 部下が、慎重に口を開いた。

 

「しかし、正式な命令です」

 

「知ったことか!」

 

 将校は、机を叩いた。

 

「我々は、ここを離れん!」

 

 そのとき。

 

 ぱちん。

 

「こんにちはー!」

 

「…………」

 

 将校は、ゆっくりと振り返った。

 

 そこには、見覚えのある少年が立っていた。

 

「貴様……!」

 

「天城悠真です!」

 

「それは知っている!!」

 

 悠真は、にっこり笑った。

 

「東京から、お迎えに来ました!」

 

「何だと!?」

 

「出頭命令が出たんですよね?」

 

「誰が従うか!」

 

「そうですか」

 

 悠真は、少し考えた。

 

「じゃあ、仕方ないですね」

 

「何をするつもりだ!?」

 

「えいっ!」

 

 ぱちん。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 東京。

 

 軍の施設。

 

「…………」

 

 将校は、呆然と立ち尽くしていた。

 

 目の前には、憲兵たちが並んでいる。

 

「ここは?」

 

「東京です!」

 

「東京!?」

 

「はい!」

 

 悠真は、満面の笑みを浮かべた。

 

「お帰りなさい!」

 

「帰り方がおかしいだろうが!!」

 

 憲兵たちは、何とも言えない表情で、その光景を眺めていた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 六月二十八日。

 

 東京、海軍省。

 

「関東軍の一部将校は、東京で事情聴取を受けているそうです」

 

 山本の報告に、嶋田は静かに頷いた。

 

「うむ」

 

「現地の部隊も、撤兵準備に応じ始めています」

 

「そうか」

 

 嶋田は、少しだけ表情を緩めた。

 

「ひとまず、最悪の事態は避けられたようだな」

 

「ええ」

 

 山本は、机の上の地図を見つめた。

 

「しかし、これで講和が成立するわけではありません」

 

「わかっておる」

 

「中国側との交渉も、これからです」

 

「うむ」

 

 嶋田は、静かに頷いた。

 

「だが、少なくとも、我々自身の足元を整えることはできた」

 

 そのとき。

 

「山本さん!」

 

 悠真が、嬉しそうに声を上げた。

 

「何だね?」

 

「じゃあ、もう戦争は終わりですか?」

 

 山本は、少年を見つめた。

 

 そして、静かに微笑んだ。

 

「……まだだよ」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ」

 

 山本は、窓の外へ目を向けた。

 

「だが、終わらせるための準備は、ようやく整いつつある」

 

 悠真は、少し考えた。

 

「じゃあ、あと少しですね!」

 

「そうだな」

 

 山本は、静かに頷いた。

 

「あと少しだ」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 同日。

 

 アメリカ合衆国。

 

 ワシントンD.C.。

 

 ホワイトハウス。

 

「日本軍内部の反発は、ひとまず収まったようです」

 

 ノックスの報告を聞き、ルーズベルト大統領は静かに頷いた。

 

「そうか」

 

「日本政府は、撤兵準備を継続する方針です」

 

「うむ」

 

 大統領は、しばらく考えた。

 

「日本は、少なくとも行動を始めたということだな」

 

「はい」

 

「ならば、我々も次の段階へ進むべきだろう」

 

 ノックスは、顔を上げた。

 

「正式な交渉に?」

 

「ああ」

 

 ルーズベルトは、静かに頷いた。

 

「ただし、条件は明確にする」

 

「はい」

 

「中国からの撤兵。軍事的拡張の停止。そして、今後の安全保障」

 

 大統領は、書類を閉じた。

 

「それらが確実に実行されるなら、戦争を終わらせる道はある」

 

 ノックスは、静かに頷いた。

 

「承知しました」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 六月二十九日。

 

 東京、海軍省。

 

 山本五十六のもとに、一通の報告が届いた。

 

 アメリカ政府が、正式な講和交渉に進む用意を示したという。

 

 山本は、しばらくその書類を見つめていた。

 

 そして、静かに息を吐いた。

 

「大臣」

 

「何だね?」

 

「アメリカが、正式な交渉に応じるそうです」

 

「…………」

 

 嶋田は、ゆっくりと頷いた。

 

「……そうか」

 

 その声には、わずかな安堵が混じっていた。

 

「長かったな」

 

「ええ」

 

 山本は、静かに微笑んだ。

 

「ですが、ここからが本番です」

 

「うむ」

 

 そのとき。

 

「あの!」

 

 悠真が、手を挙げた。

 

「何だね?」

 

「正式な交渉って、どこでやるんですか?」

 

「まだ決まっていないが、第三国になるだろう」

 

「遠いですねえ」

 

「そうだな」

 

 悠真は、にっこり笑った。

 

「じゃあ、皆さんを運びますよ!」

 

「それは助かる」

 

「はい!」

 

 そして、少し考えた。

 

「あっ!」

 

「どうした?」

 

「向こうに、おいしいラーメン屋さんありますかね?」

 

「…………」

 

 山本は、思わず笑った。

 

「さあな」

 

「なかったら、どうしましょう?」

 

 嶋田が、静かに口を開いた。

 

「天城君」

 

「はい?」

 

「まさか、ラーメン屋ごと運ぶつもりではあるまいな?」

 

「…………」

 

 悠真は、少しだけ目を逸らした。

 

「えへへ」

 

「天城君」

 

「はい」

 

「それだけは、やめてくれ」

 

「はーい!」

 

 窓の外には、夏の青空が広がっていた。

 

 戦争を終わらせるための道は、まだ長い。

 

 だが、日本も、アメリカも。

 

 ようやく、その道を歩き始めていた。

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