昔育てた勇者・聖女・王女に「女扱いせず鍛えてくれた」と慕われてますが、全員男だと思っていた 作:だぶすと
「さっきは見間違いかと思ったんだけど……やっぱその聖剣本物だよね。えっ、あたし勇者と聖女とやんの!?」
「フフフ……悪いけどこの初陣、白星で飾らせてもらうよ!」
「じゃあそっちの金髪の人間は……まさか賢者!?」
「いや、正体不明の謎の女だ。ミステリアスでいいだろう」
魔王の問いを受け、ロイゼとエルシアに補助魔法を掛け終えたシルヴィーナも前に出る。
伝説の聖剣に選ばれし勇者、その身に神を宿す聖女、そして膨大な魔力で英雄達の力を底上げする王女。
「いくよ! 先生、見ていてほしい。ボク達の活躍を――!」
人類の希望となる勇者達と、人類の宿敵とされる魔王との邂逅。
後に伝説となるであろう歴史的な戦いが俺の目の前で始まって――普通に劣勢になった。
「ロイゼ?」
「違うんだ先生、聞いてほしい」
戦闘は聖剣……魔族への特効武器を持つロイゼを主軸に据え、回復役がエルシア、補助役がシルヴィーナといった陣形で進められた。これは勇者と聖女が共闘する際の伝統的な布陣らしいが、まぁそれはいい。
問題は魔王が想像以上に強く、そしてクレバーだった事だ。
「敵の攻撃は速いけど捌ける。シルヴィーナの補助魔法もあるし、エルシアの防護壁だってある。ただ……そもそも攻撃が届かないとどうにもならないと思わないかい?」
そう、魔王は戦闘が始まると同時に、シルヴィーナの補助込みでも跳躍が届かない高さまで高度を上げてしまった。ドラゴンがブレスを吐くような高さよりも更に上にだ。
そこから自然操作に特化した自身の能力を使い、風の刃を放ったり、地面から鋭い蔦や根を生やして攻撃してくる。攻撃がロイゼに集中しているのはやはり聖剣を警戒しての事なんだろう。
「おーい、魔王ー! 卑怯だぞー!」
「あはは。聞こえなーい! 人間はいつも『魔族の倒し方は先人から聞いてます』みたいな顔してるけど、あたしらは直接自分でその冗談みたいな剣を体験してんの! わざわざ近付くわけないじゃん!」
「……めんどくせぇなァ。もうオレが引っ捕まえて叩き落とすか? ロイゼが跳び上がった先でオレを更に投げ飛ばせば、魔王の所までギリギリ届くだろ」
「届……くだろうな。でも空を飛んでる敵の前で宙に身を投げ出すのは危険じゃないか?」
「まぁ、そりゃそうだけどよ。でも他にどうすんだ? 言っとくが、オレはまだ先代みたいなインチキ奇跡は起こせねーぞ」
「任せてくれ。俺に考えがある」
友人という対等な立場で魔族と接していたからこそ分かる。魔族はただ人を襲うだけの魔物とは違う。それぞれが俺達と同じように考え、目的を持って生きているんだ。
そんな彼らだからこそ、単純な暴力じゃない方法で訴えかける事ができるはずだ。
「シルヴィーナ、花畑を燃やしてくれ」
「任せろ――【ブレイズストリーム】」
答えは工夫した暴力。
俺の指示を受けたシルヴィーナが即座に魔法を行使する。浮かび上がった魔法陣から特大の火炎が放射され、花畑は一瞬で灼熱の奔流に飲み込まれた。
「あーっ!? ちょっ、お兄さんなにやってんの!? 森林破壊反対!!」
魔王が慌てた様子で地上へと降りてくる。位置は俺とシルヴィーナのいる後列だ。
これだけ取り乱してもロイゼの間合いにギリギリ入らない位置を保ってくるあたり、やはり戦い慣れている。
「どうせ高く飛んでる敵なんて仕留められないんだし、せめて目的を妨害しようと思って」
「こんなの許されるわけないでしょ! 勇者や聖女もなんか言う事ないわけ!?」
「先生……いい機転だね。また一つ学ばせてもらったよ」
「処分する手間が省けていいじゃねーか。あの花は燃やしちまえば厄介な成分も出ねぇ」
「あ、当代の勇者一行って終わってんだ」
魔王が何かを悟ったような顔をしているが、残念ながらこの三人は俺の教え子だ。敵前での考え方はよく似ている。
「取りあえず一旦火ぃ出すのやめよっか、そこの子」
放火を続けるシルヴィーナに魔王が視線を向け、その殺意に呼応して無数の巨大な蔦が地面から突き出てくる。一本一本が破城槌に並ぶ破壊力を持ったその蔦が、エルシアの防護壁に叩き付けられ、一時的にこちらの守りが揺らいだその瞬間――魔王が目にも留まらぬ速度でシルヴィーナに飛び込んできた。
「シルヴィーナ!」
無防備に攻撃を受けようとするシルヴィーナを助けようと手を伸ばしたが、届かない。
それを見た魔王が俺から意識を外し、傍を通り抜けた瞬間。俺はショートソードを抜き放ちながら大きく踏み込み、魔王の首を狙って背後から斬り下ろした。
「うえええっ!? 危なっ!?」
しかし僅かな空気の揺らぎで気付いたか、魔王は大きく体を捻って斬り下ろしを回避する。やはり強い。
咄嗟に手首を返して滑らせた刃が魔王の羽の一枚を掠め取るように捉え、ガラスが割れるような音と共に透明な羽が砕け散った。
「ああああっ!? あたしの羽っ!!!? なんで!? どうやって!?」
「どうって、剣を叩き付けただけだ。本当は首を狙ったんだが……流石は魔王、簡単にはいかないな」
「力で!? 聖なる力とかじゃなくてパワー!? リンドヴルムの知り合いってこうなんの? ってか羽いかれたの何気にヤバいんだけど!!」
「結果オーライだな。重力の味はどうだ」
「ごめん、一応まだ飛べる」
地面スレスレで浮いている魔王にもう一度斬り掛かると、魔王は先ほどまでと大差ない速さで飛び上がって俺から大きく距離を取った。羽が三枚でも飛べるようだが、さっきまでよりバランスは取り難そうだ。
「はぁ。……ま、花は一回分は収穫できたから別にいっか。オタク君もやられちゃってるし、これ以上羽毟られても困るからここは帰ったげる。あっ、でもあの火は森に燃え移る前にちゃんと消しといてよね!」
「……そっちこそ、次は人間の迷惑にならない遊びを考えてくれ」
「他に楽しい事見つけたらねー!」
どうにかロイゼと協力してトドメを刺せないか必死に考えたが、あの魔王が逃げると決めたならこっちから手を出すのは難しい。
俺の負け惜しみを聞いた魔王は何度か目を瞬かせた後、新しい玩具を見つけたような笑顔になって手を振りながら去って行った。騒がしい若者だ。服装に風紀の乱れを感じる。
魔王の撤退を確認して教え子達が集まってくる。騒がしかった周囲はいつの間にか落ち着き、オーク達との戦いも詰めの段階に入っているようだった。
「先生お疲れ様。やっぱり傍にいてくれると安心するね」
「やっぱ先生っつったらあの“暴”が出る瞬間だよな」
「うむ。色々理屈を捏ねても結局は力で済ませてしまうところがいい」
「……」
自分では割と機転を利かせた立ち回りをしたつもりだったのに、教え子達の反応が思ってたのと違う。黒歴史時代の印象が悪いよ印象がー。
花畑を燃やす判断は悪くなかったと思う。あの魔王は本当に開けた場所で戦うには厄介過ぎる性能をしていた。資金調達など裏工作じみた事までしていたので、本人の認識は別としてちゃんと魔王と呼んで差し支えのない脅威だったと言える。
「そうだ、魔王を撃退したこの功績を報告すれば、すぐに先生をAランクくらいに昇格させられるんじゃないかな?」
「でも先生とシルヴィーナは無許可で潜り込んでるからなぁ。冒険者ランクは上がるだろうが、そういう突っつく隙が少しでもあると組織内での推薦が難しくなるんじゃねぇか」
「急な活躍は必ず不信と反発を生む。この事を報告するとしても、せめて先生を各所に引き合わせてからにするべきだろうな」
「……色々考えてくれてるところ悪いが、勝手に参加してたのがバレると本当にマズいから絶対にやめてくれ」
簡単に消されたりするねん。一般人は。そういうので。
それに、結局のところ俺がやったのは時間稼ぎだ。真に深い闇を打ち払うには、勇者や聖女が持っているような特別な力が必要になる。本当に重要な場面で何もしてやれない俺は、せめて彼女達が動きやすくなるよう出来る事をするだけだ。
そんな一般人の俺が今望むものはたった一つ――Cランク昇格のためのオークの首(牙)だ。
「まだ間に合うか……?」
今なら分かる。ギルドにオークの討伐依頼が無かった理由は、魔王が周辺のオーク達をここに全て集めていたからだ。あれだけの数のオークが一度に討伐されれば、当分の間は見つけるのが困難になってしまう。
急いで討伐隊が戦闘している場所まで向かうと、最後の一体と思しきオークの背中が見えて――俺の目の前で双剣に貫かれた。
「よし、これで最後の一体だな! 隊列を組み直して周囲を警戒しろ!」
オークの体が崩れ落ちていく。それを尻目に再び双剣を構えたグディル様は、絶望に肩を落とす俺の事など視界にも入れず走り去って行った。
魔王の胸の大きさは想像にお任せします。
魔王
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爆
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巨
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普(美)
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小
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貧
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無