こんな世界は滅べば良いのに 作:闇落ち精霊
ソレは出久が爆豪に自殺教唆をされた翌日の事だった。
「ねェ出久……私が雄英に行くよ。爆豪の事……許せて無いでしょ?」
「霊下ちゃん……?」
「爆豪は素行はともかく個性の質と学力は高い。入試まで問題を起こさないならほぼ合格出来る実力がある。でもそれだけ。アイツは多分簡単には挫折しない。合格すれば有り余る才能で雄英でも上位層に食い込める実力はある。ソレをリアルタイムで追うなら雄英に行くべき。そして私はソレだけの実力がある」
「……確かに霊下ちゃんなら余裕で合格出来ると思う」
「適材適所……まぁこっちは私に任せてよ。出久は普通科の高校で自力をつけて社会性を身につけて。まぁ……私達が社会を壊すまでの辛抱だと思ってさ」
そんな時にヘドロの悪臭が、ガード下の薄暗いトンネルに充満していた。
「——もらったァ! 極上の隠れ蓑だぁ!」
背後からの不意打ち。液状のバケモノが出久の細い体を飲み込もうと襲いかかった瞬間、隣を歩いていた私の瞳に、底冷えするような殺意が灯った。
「外道が出久に気安く触るな……ッ!」
私は咄嗟にバンテージを巻いた腕で出久を強く引き寄せ、同時に虚空から『
「がァッ!?」
強烈な衝撃波に弾け飛び、壁に激突するヘドロ。本来ならここで扇風によってに微塵に消し飛ばすこともできたが、私の意識は腕の中で咳き込む最愛の少年に完全に奪われていた。
「出久! 大丈夫!? どこか痛いところは……っ」
「け、ゲホッ……僕は平気だよ、零下ちゃん。でも、アイツが……!」
出久が指差した先では、体勢を立て直したヘドロの敵が、マンホールの隙間から下水道へと逃げ込もうとしていた。
「クソッ! あの女なんなんだ……! 覚えてろよ!」
這いずるように逃走する【
「まぁ良い……アイツの処理なんて簡単に出来る」
◆◆◆
30分後……出久を近くの公園のベンチに休ませ、「すぐ戻るから待っててね」と優しく告げたて、逃げたヘドロを単独で追跡していた。出久を恐怖させたゴミを、このまま生かしておく理由などどこにもない。
「とはいえヘドロの個性で下水道は……
下水道の匂いと微かな残滓を辿り、商店街の路地裏へと差し掛かった時——鼓膜を揺らす爆発音と、野次馬の悲鳴が聞こえた。
「なんの音……あぁ、そういう事ね」
燃え盛る炎の中、巨大化したヘドロの敵が誰かを体内に取り込み暴れ狂っている。駆けつけたプロヒーローたちは「相性の良い個性がない」と言い訳を並べ、ただ指をくわえて見ているだけだった。
「相性が良くないのは事実だけど他人任せにするのが当たり前なの……ほんっと人間の醜さが溢れてる」
そして見つけたヘドロの中で窒息しかけ、恐怖と屈辱に顔を歪めている被害者の正体を確認して私の足がピタリと止まった。
「爆豪勝己……か。じゃあここはなぞれてるんだ」
出久の幼馴染であり、彼を「無個性」と嘲笑い、日々理不尽な暴力を振るい続けている元凶だった。
(……あはっ。勝己は……そのまま死ねばいいのに)
私の心の中にひどく冷たい歓喜が湧き上がる。このまま数分見過ごせば爆豪は確実に窒息死する。出久を傷つける世界で一番の害悪が、ヒーローたちの無能さのおかげで何の苦労もなく消えてくれるのだ。
「でもそれじゃあつまらないか」
踵を返そうとした私の脳裏に公園で待つ出久の顔がよぎった。——もしここで勝己が死ねば、優しい出久はどう思うだろう? このまま奴によって誰かが殺されれば心優しい出久は『僕たちが敵を逃がしてしまったせいだ』と、自分のせいでもないのに出久は絶対に自責の念に駆られて泣いてしまう。
「う〜ん……それは……出久が望まないか」
出久が泣くくらいなら私はヒーロー社会ごと世界の方を壊す。それが私の絶対の行動原理だった。それに……と私は暗い瞳で窒息寸前の爆豪を見つめ直す。
「やっぱ何度考えてもつまらないね」
ここでヘドロに殺されるのは勝己にとっても私にとっても『あっけなさすぎる』のだ。出久の心をこれほどまでに傷つけてきた彼には今後、社会的な地位も自慢の個性も、自尊心も……その全てを白日の下に晒して徹底的に踏みにじり、完膚なきまでに絶望させるという『正当な報い』を与えなければならない。
「じゃあこのぐらい我慢しないとやってけないね」
不本意だけど私がここで救うことで、彼が最も重要視する「強者のプライド」に致命的なヒビを入れることができる。無個性の出久の『おまけ』だと見下し続けている自分に命を救われる屈辱は、勝己のちっぽけな自尊心をひどく歪めるはずだ。
「……そっちの方が面白いってやつだね」
打算と冷酷な計画がまとまった瞬間、私はプロヒーローの制止を無視して、炎上する路地裏へと軽やかに踏み出した。
「おいバカ! 君、死ぬ気か——!」
「——退いて」
木偶の坊と化した大人たちの悲鳴を置き去りにし、私は無造作に右手を横に薙ぎ払った。武闘派とはいえ見た目少女の可憐な姿からは想像もつかない、圧倒的な暴力の奔流。不可視のまま顕現させた『
「あ……、がはっ、ゲホッ……!!」
地面に転がり、肺に空気を求めて激しく咳き込む爆豪。周囲のヒーローや野次馬が一瞬の出来事に言葉を失って静まり返る中、零下はゆっくりと爆豪を見下ろした。その瞳には、出久に向けるような甘い愛情は微塵もない。ゴミ以下の汚物を見下ろす、絶対零度の冷徹さだけが張り付いていた。
「大丈夫、勝己くん?」
声だけは心配そうな幼馴染を完璧に演じて駆け寄る。だが爆豪の耳元に身を屈めた時、誰にも聞こえない声で彼にだけ届くようにひどく甘く囁いた。
「出久の優しさに感謝してね勝己。いくら勝己が傍若無人でも殺されたと知ったら出久がきっと悲しむから、生かしてあげただけだよ?」
爆豪が屈辱と恐怖に目を見開くのを満足げに見届け、零下は何事もなかったかのように、駆け寄ってきたプロヒーローたちに向けて無邪気な笑顔を振りまいた。
打算に満ちたこの救出劇こそが、私……天聖零下による『爆豪勝己・徹底蹂躙』の、冷酷で完璧な第一歩だった。
次は雄英入試編を出来れば……
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