働きたくない自宅警備員が、滅亡寸前の異世界領地をステ振り育成しているようです 作:黒おーじ
本郷ハヤトは自宅警備員である。
大学卒業後から3年。
毎日、なにをするワケでもなく家でゴロゴロしっぱなし。
「アンタねえ……」
彼の母はそんな彼を見かねて言った。
「まだ若いのに、いつまでダラダラしてるの?」
「別に、いいだろ」
母はため息をつく。
「そんなんしてるんなら、おじいちゃんの異世界の領地で領主でもやりなさい!」
「えー、面倒くせーよ」
「行ってあげなさいって。ちょうど滅亡しそうらしいのよ」
母がどうしてもというので、ハヤトは「チッ、しょーがねえな」と、しぶしぶ了承した。
「でも明日からな」
「さすがニートね」
翌日。
ハヤトは旅行用のキャリーケースを引きながら、祖父の家へ向かった。
「ふぁああ、眠い。10時起きなんてしんどすぎだわ~」
日の下に出るのも久しぶりのことである。
ハヤトは黒髪、肌色、中肉中背で、清潔感だけはあるフツーの若者であったが、一挙手一投足のしぐさや醸し出す雰囲気に『無気力』がまざまざと見え、徒歩5分の祖父の家への道のりさえけだるそうにしていた。
「へあぁぁ……」
太陽の光に目がチカチカするらしく、まるで土から顔を出したモグラのようである。
……もっとも、彼は別に無能な男ではないし、カネを得ていないワケですらなかった。
卒業した大学は一流であり、その学生時代に始めた株取引で3億もの資産を形成している。
贅沢しなければ一生暮らしては行けるだろう。
そして、そもそも市民社会や地球全体になんの価値も感じないタチだったので、当然、就職はスルー。
恋人なども別にいらなかった。
ただし、家族愛だけはあるので、実家に残りニート暮らしに落ち着いていたというワケだ。
「じいちゃん、ばあちゃん、来たヨー」
「おお、ハヤト!」
「よく来たね〜」
祖父母の家へ着くと、目じりを下げてこれを迎えた。
孫というのは大層カワイイものらしい。
祖父はハヤトを奥の和室へ連れ、祖母はお茶と饅頭を持ってきてくれる。
「異世界で領主なんて、大変ねえ」
「気を付けるんだぞ」
「うん。ありがと」
祖父が和室の掛け軸の向こうにある隠し扉を開くと、そこには亜空間のようなものが広がっていた。
「じゃあ行ってくるわ」
そう言って、ハヤトは亜空間へ足を踏み入れた。
◇
亜空間を抜けると青空と爽やかな木々が目に入る。
見渡すと、ハヤトは大きな石板の上に描かれた魔法陣に立っていた。
人気はなく、ただ一人、牛を引いた農夫がギョっとした顔でこちらを見ている。
「あの……」
「ひ、ひえええ……!!」
彼は去っていってしまったので、どうしたものかと思っていると、しばらくして女が一人やってきた。
「異世界の方でしょうか?」
タイト・スカートのレディスーツに、銀メガネをかけた、デキる女って感じな風体である。
ポニーテールに結んだ銀髪も凛として規律めいていた。
「ああ。本郷家の者だけど……」
「タダオ様は?」
「じいちゃんはトシだから、代わりに俺が来たんだ」
そう言うと、女は片膝をついてひざまずいた。
「お待ちしておりました。わたくし、秘書を務めるラパンツと申しますわ」
「そ……そう。よろしくね」
ラパンツは、そのまま領主の館に案内してくれた。
それほど大きな建物ではない。
一階建てで、部屋は四つしかなかった。
「おふくろに言われるがまま来ちゃったけど……俺、領主なんてできるのかなあ」
「大丈夫ですわ」
女秘書はそっと彼の背に手を当てて言った。
「ハヤト様もホンゴーの……伝説の勇者様の血筋を引いていらっしゃるのでしょう?」
そう。
ハヤトから四世代前の先祖、本郷タケル。
彼は、神隠しでこの異世界に迷い込み、そのとき授けられたスキルと、仲間たちとともに魔王を倒したのだそうな。
その功績により得た領地がホンゴー領なのだが……
その後、タケルは次元転移の魔法陣を編み出し日本へ帰ってしまったので、これまで代わりに代官が治めてきたのである。
「……つっても、俺自身が勇者なわけじゃないからなあ」
「しかし、勇者様が転移の際に女神様から付与されたスキルは、その子孫にも継承されているはずですわ」
ラパンツが言うには、ハヤトが継承しているらしい本郷家のスキルは三つ。
完全同時通訳。
ステータス鑑定。
そして、固有スキルの《経験値分配》である。
祖先のタケルはこの経験値分配で仲間の戦闘ステータスを上げ、パーティを強くして、魔王を倒した。
「ハヤト様の場合、その分配の対象が数人のパーティではなく、領民全員となりますわ。経験値をうまく配分して、領地を強くしていってください」
「……なるほど」
まだまだわからないことだらけだが、ぼんやりイメージはつかめた。
あとは少しずつ詳細をつめればいい。
「まず、領地がどんな感じか知りたいな……」
ハヤトは椅子に座ると、ラパンツに尋ねた。
「滅亡寸前って聞いたけど?」
「恥ずかしながら……」
女秘書はうつむき、ポニーテルを揺らす。
「先月、隣の領地に攻められ、村をひとつ取られてしまったところですわ。うちの代官も逃げ出してしまいましたの」
「大変だったねー。乱世なんだって?」
ホンゴー領が所属するラインハルト王国は長らく平和が続いていた。
ところが、近年の魔物の出現数の増加と、王権が弱体化したことで、領地と領地が相争う戦国時代の様相を呈してきたらしい。
「つーか、こんなのんびりした領地に兵なんているのか?」
「もちろんですわ」
と、女秘書は銀メガネを正しながら答える。
「数は?」
「……です」
「え?」
ラパンツはタイトスカートの膝をもじっとさせて、もう一度言った。
「兵……5名ですわ」
ハヤトは思わずガクっとなる。
「5人って……隣の領地とやらはどれくらいの兵だったん?」
「隣のネモ領の兵力は40ほどあったそうですわ」
そりゃあ勝てない。
「そのネモ領から村を取り戻すのが当面の目標になります」
無理じゃね?……と言いかけたが、あまりにも真面目に言う女秘書のまなざしの前に言葉が出なかった。
「ひとまず現状の5名の兵をご覧いただいたらどうでしょう?」
「ああ、そうだね……」
そう答えると、ラパンツはひとたび部屋を出ていった。
しばらく後。
兵の5名が館に集まる。
「戦士が3名、弓士が2名ですわ」
「ふーん……」
それぞれ皮の鎧をまとっていたり、弓を背負っていたりするが、あまり強そうには見えない。
体つきもだが、目つきがボンヤリしている。
「実際どれくらいの強さなんだろうな……」
そう思うと、ふいに彼らのそばの空間にステータスが浮かび上がった。
ステータス鑑定のスキルである。
名前:ガウス
役職:戦士
パワー:E(41)
スピード:G(12)
防御力:F(30)
名前:リーア
役職:女戦士
パワー:G(17)
スピード:E(42)
防御力:G(9)
名前:ナルー
役職:戦士
パワー:F(23)
スピード:F(20)
防御力:F(37)
名前:セナ
役職:弓士
射程:G(11)
コントロール:F(31)
名前:ルドルフ
役職:弓士
射程:F(37)
コントロール:G(16)
ハヤトはノートとペンをだし、彼らのステータスを書き写していった。
女秘書ラパンツにも見せてやると彼女は目を丸くする。
「なッ……みなさんの能力値がこんなにハッキリと!?」
「うーん……」
素人目にも、GとかFばっかりで強そうには見えない。
はっきりと言えば、超弱そうだ。
低ランクながらちょっとパワー型だったりスピード型だったりの個性があるのにこざかしさすら感じる。
「コイツらのこのどーしよもねーステータスに経験値を配分して上げて行かなきゃいけねえってコトかぁ」
ノートを見つめながらつぶやく。
「で、経験値ってどう得ればいいんだ?」
「はい。一番手っ取り早いのは戦いに勝つことですわ」
見た目に反して血の気の多い女秘書だ。
「いや、でも40の兵には勝てねえって」
「では魔物を狩ってみてはどうでしょう?」
魔物か……
そう、ここは異世界なのだった。