トゥオネタル…否、ロノヴァと共にカスラは稲妻から璃月の領土まで影から手配された渡船を利用し、一日かけて璃月港に到着した。
影の言う通り、アビスの件で璃月港は未だに混乱している様子が窺える。
その後はモンドへ向かう道中で苦しむ者たちを助けながら、モンドの未知へと繋ぐ『石門』に到着した。
「ここが石門か…魔物の死体だらけで台無しだな…」
災い後から戦ってきたのか、アビスの魔物などの死体が所々にあった。
中には人の屍もあり、肉体の部位を食い千切られて殺られた者もいる。
「でも、この先に向かえばモンドの領土になる」
「さっさとモンドに入ってイス…時の執政に会うぞ」
『貴方になら、イスタロトと呼んでも良いよ』
石門から一歩前へ進むと、イスタロトの声が聞こえた。
周りを見渡して探すと、上から砂時計のような形のゲートが現れ、そこからイスタロトが姿を見せる。
「イスタロト…!」
「よう、思ったより速く会えたな。見てたのか?」
彼女からカスラを守るように前へ出て、ロノヴァは警戒する。
そんな彼女に、イスタロトは何かを見定めるように視線を向けたが、直ぐに視線をカスラの方へ愛おしそうに向ける。
「わざわざ自ら迎えに来たのか?イスタロト」
「そんなに不思議?」
「そりゃあそうだろ。アビスの被害で忙しい状態で、俺一人なんかに時間を割く必要がねぇだろ」
天理の執政たちは七神でさえ真名を呼ばれるのを嫌う。
人間も勿論、真名で呼ばれるだろうから、常に見られているカスラは相手を不快しないよう彼女の真名を呼ばないでおく。
「同じように言うけど、貴方が私にとって
「特別ねぇ…初めに会った時も言ってるが、俺にはこれっぽっちも実感が沸かねぇよ…何が目的だ?」
出会った時から友好的で何が目的なのか、カスラにとって敵か味方か分からないイスタロトは、底が見えない上位者だ。
少しでも知らないと、これからの事も考え、剣を向ける可能性を余儀なくされる。
「教えてあげる。だけど、もう少し話すのに相応しい場所へ変えようかな」
そう言ってイスタロトはパチンと指を鳴らす。
その時、一瞬で世界が変わった。
「うお!?すげぇなここ…何処かの闘技場か?」
あまりの一瞬に思わずカスラは目を見開いて驚いた。
闘技場のような未知の場所に好奇心を抱き、念の為に人の気配がないか探すも感じない。
ロノヴァは彼の傍へ離れないように寄り添いながら答えた。
「ここは千風の神殿…かつて吹雪と竜巻の魔神たちが争った時代に建てられた神殿だ」
「あ、それカーンルイアで読んだことあるぞ。確か魔神戦争ってやつだろ?」
当時、冒険心のあるカスラはテイワットを冒険したいからここに出ると、エフティルヴィットに言った。
そんなカスラの性格を理解しているから、世界を知れと彼に歴史本を片手に、一ヶ月くらい脳味噌に叩き込まれた記憶は今でも鮮明に残る。
どうやら教育が今、ここで一番生かされたようだ。
「つーことは…少なくとも最低2000年前以上か。にしても災いの後にしちゃあ綺麗すぎだろ」
「そうだよ。今では僅かに面影がある程度で、これは私の力で一時的に過去の姿を再現しているから」
「へぇ、過去の時間から姿を引っ張ってるのか…流石は時の執政だなデタラメだ」
時間に関する神なだけあり、彼女の力に納得する。
千風の神殿の災い後に起きた被害は、カスラも想像に容易い。
「んじゃ、本題に入るぞ。単刀直入に言うが…あんたは何を企んでやがる?」
「きみ…流石に直球にも程かある」
「回りくどい言い方は得意じゃねぇからな。ロノヴァは兎も角」
「何故そこでわたしの名前が出る」
「だって回りくどい言い方する時あるじゃねぇか」
そう答えたら、納得いかず不満そうな顔でロノヴァにベシっと頭を叩かれた。
2人のさり気ないコントをお気に召したのか、クスッと笑ってから答えてくれた。
「貴方が運命を変える英雄にする…て言ったら信じる?」
「俺が運命を変える英雄だぁ?」
それは彼にとって遠回しに救世主と言われているようなものだった。
しかし、ロノヴァの反応は中々見ない驚愕の表情だったが、すぐに納得した。
「なるほど…
「理解が早くて助かるよ」
「おい待て!あんたらだけで理解してんじゃねぇよ!?俺にも教えろ!」
察し良く理解した彼女たちに、置いてけぼりの彼は思わず突っ込む。
「簡単に言えば、貴方は私が見てきた未来を変えれる可能性を秘めているんだよ」
「んだそれ…救世主みてぇな扱いだな」
「現に、貴方は定められた運命を
イスタロトは稲妻での運命を彼に伝えた。
初代雷神はカーンルイアで死亡し、御輿千代は友に責務を負わせぬよう何者かに殺される形となる。
そして、彼も会っていないが亡くなっているものの、地脈が浄化したことにより間接的に狐斎宮の記憶などを守った形になった。
今を生きる彼にとって、聞いた所で分からない事には変わりないが彼女に疑問を口にする。
「それくらい知ってんなら、あんたが助けりゃ良かったんじゃねぇのか?時間の力を使えば、最悪な出来事は
「カスラ、執政の力はきみが思っている以上に安易に扱えない」
「どう言うことだ?」
ロノヴァは執政たちの力について、詳しく語った。
執政の持つ強大な力であり、世界の在り方を変えてしまうため、天理は制約をかけた。
理由は異なれど戦いの道を歩む彼は納得した。
「成る程ねぇ。確かに力には責任が伴う…天理が制約を課せるのも納得だ」
「理解してくれて何よりだよ」
「まあな…現に身近にいたクソったれスルトロッチ共が悪い例だからな」
アビスの力を手に入れ、多くの犠牲者を生み出した。
天理もそのように力の種類が違えど最悪な可能性を切り捨てる為に、執政たちに制約を課せたのだ。
(人も神もアビスも…面倒くせぇの一言に過ぎる)
世界は美しいが、同時に残酷だなと彼は思い、深呼吸してから、彼女と目を合わせて言う。
「これから先の事を考えるなら、どうせ俺はカーンルイアがやらかした後の始末をやる事実なのは変わりねぇ」
「なってやるよ。救世主にな」
イスタロトの願いとも言える企みに乗ると、彼女は目を見開いて驚いた。
「てっきり断るかと思った」
「どちらにせよ厄介事に突っ込むからな。だったら乗った方が都合が良い」
「…死ぬかもしれないのに?」
「どうせ不死の呪いだ。簡単には死なねぇよ。…まあ、無茶振りしたらロノヴァに心中されるからしねぇが」
「良く分かっているな」
良くも悪くも猪突猛進な所があるのは、彼も自覚している。
これから、アビスはテイワット全てに暗躍する形で徐々に侵略してくるし、無茶する事もあるだろう。
ならいっその事、彼女の企みに乗るのも一つの手だと彼は決めた。
「なにより、あんたの見てきた未来を利用すりゃあ、かなり楽だろうしな」
「私の力を利用するんだ」
「別に、ただ未来で起こる出来事を教えてくれりゃ良いだけだ。問題でもあるか?」
「そのくらいなら特に問題ないよ」
「ならいい」
彼女に過度な干渉を求める必要はない。
しかし、カスラにとって2つの問題があった。
「問題は不死の呪いで記憶と肉体って所か…」
人間としての摩耗。
長く生きていても魂が擦り減り、肉体は老いていくことは避けられない。
ここにきて一番悩ましく思うところだ。
「記憶に関してなら、方法があるよ」
そんな問題を解決してくれるのは、意外にもイスタロトだった。
彼女は両手で力を込めると、そこから植木鉢に入った小さな苗木が生み出され、苗木に砂時計が埋め込まれている。
興味深そうに、カスラは親指と人差し指で顎に触れながら苗木を見る。
「んだこれ?」
「記憶の苗木。砂時計に触れば、貴方の記憶を苗木が保存してくれる」
「へぇ〜便利だな!どうやって使えば良いんだ?」
「やり方はね」
イスタロトが分かりやすく彼に使い方を教えた。
隣でロノヴァが忘れた時を考慮してメモ帳を手にし、使い方をイラスト付きで記録しておく。
「取り敢えず、やり方は分かった。あとは肉体って所か…」
「それについては、きみの左手が何より解決だ」
「これか?確かにアビスとかで力は問題ねぇが…老いってなると話は変わるだろ」
「忘れたか?これはナタで創られた兵器だ。その身で燃素により常に活性化され、不老長寿と然程変わらない」
「んだそれ初耳なんだが?…て、おいそれ普通にナタ人くらいじゃねぇと死ぬだろ」
「そうだ。だが、きみは■■■■■の血を色濃く引き継いでいる」
ロノヴァの話いわく、燃素は引っ括めて原初の光の力であり、普通の人間なら肉体に大きな過負荷となって猛毒だ。
だが、それでも平然としていられるのは、先祖の特別な血筋とアビスを吸収して光界の力を身に宿して適正するように彼はなったらしい。
「強靭な肉体によって、光界の力が馴染んだ今のきみは、もはや
「俺…既に人間やめてたのか…」
ロノヴァから人間やめている宣言に、まだ人間だと思っていたカスラは何処か複雑な感情に渦巻く。
だが、少なくとも問題は既に解決していた事になる。
ボソッとイスタロトは彼に聞こえないくらいの声で呟いた。
「いずれ、■■■■■の後釜になった時、2つは役割として終わるだろうからね」
「なんか言ったか?」
「なんでもないよ。それより、少し彼女と2人きりで話したいから良いかな?」
「ロノヴァと?」
「うん、分霊でも彼女とは個人的に話したいことがあるから」
カスラにとって、その個人的な部分が気になる。
しかし、ロノヴァと2人きりで話したいとなると、イスタロト個人のプライバシーだ。
「ふ〜ん…念の為に言うが、ロノヴァに変な事するなよ?」
「安心して、私のお願いに応えてくれた貴方の信頼を失うような行為はしないから」
「…ならいい。んじゃ、俺はあっちで休んでるぜ」
カスラは跳躍し、闘技場の観戦席へ座って、会話を始めた2人の様子を両腕を組んで見守るのだった。
カスラ
国のやらかしとかも含めたイスタロトの企みといえる救世主になるよう乗った。
聖土した世界を堂々と生きれて、人間やめていた事実に割とショックを受けた。
イスタロト
カスラを気に掛け、何処か知らない部分を知っている秘密も知ってる。
貴方は私にとって相棒だから。