こんなテンポでダラダラやってたら本編に追いつけないよトホホ……
「どうして私たちが不良たちと戦わなきゃいけないのよー!!」
ユウカの叫び声が木霊する。だが、それも爆発や銃声によって埋もれていく。
「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためには、あの部室の奪還が必要ですから……」
「それは聞いたけど……! 私これでも、うちの学校では生徒会に所属してて、それなりの扱いなんだけど! なんで私が……!」
「散開しろ、一斉射がくるぞ」
チナツとハスミが素早く遮蔽物に隠れるが、ユウカは咄嗟の事に反応できずに行動が遅れる。
「え?」
ユウカがその弾幕に晒される。
「いっ、痛っ! 痛いってば! あいつら違法JHP弾を使ってるじゃない!」
「伏せてください、ユウカ。それに、ホローポイント弾は違法指定されてはいません」
「うちの学校ではこれから違法になるの! 傷跡が残るでしょ!」
『……レイヴン。通常、人間はあれ程の銃弾を身に浴びれば命を落とすのでは?』
(彼女たちは通常の人間ではない、という事だ)
この世界の住民は、銃で撃たれても死なない。これほどまでもの銃社会になるのも当たり前だ。
「今は先生が一緒なので、その点に気を付けましょう。先生を守ることが最優先。あの建物の奪還はその次です」
「ハスミさんの言う通りです。先生はキヴォトスではないところから来た方ですので……、私たちとは違って、弾丸一つでも生命の危機にさらされる可能性があります。その点ご注意を!」
「分かってるわ。先生、先生は戦場に出ないでください! 私たちが戦っている間は、この安全な場所にいてくださいね!」
「そうはいかない。俺の仕事は戦術指揮だ」
リンから受け取ったタブレット端末とドローンを起動すると、ドローンがひとりでに戦場の上空へと飛んで行った。程なくして、上空からの映像がリアルタイムで端末に映し出された。
『広域レーダーはありませんが、領域が狭い分これでも十分そうですね』
「敵は手当たり次第に乱射している。連携も甘い」
こちらも寄せ集めには違いないが。
「ユウカと……」
「スズミです」
「悪い。ユウカとスズミは敵の掃射が終わり次第撃ち返せ。チナツは前衛2人の援護、ハスミは後方からの火力支援に回れ」
「分かりました。狙撃に適したポイントに移動します」
「銃声が止みました、行きましょう」
「ええ。さっきの恨み、晴らしてやるんだから!」
「あまり前に出ないで下さいね」
聞けば、チナツとスズミはそれぞれの学校で治安維持組織に所属しているらしい。成程、確かに不良に比べて動きが良い。
だがそうではないユウカもなかなかの戦果を上げている。サブマシンガンを2丁持ちしているようだ。
《ハスミです。狙撃位置に着きました》
「了解した。後方にいる敵を減らしてくれ」
《分かりました》
着実に敵の数が減っていくが、何せ数が多い。遮蔽物に隠れる余裕があった者は激高し、一斉に身を乗り出してくる。
「撃って来た!」
再び遮蔽物に身を隠す3人。
さて、さっきのようにリロードの隙を突くか。
そう考えていたところ、スズミがこちらに向かって何かを掲げているのが見えた。閃光手榴弾だった。
俺はスズミに向かって頷きを返した。
「ユウカさん、チナツさん、目と耳を塞いでください!」
「えっ!?」
「閃光弾、投擲します!」
スズミの投げた閃光弾は敵の眼前で炸裂し、数秒の隙を生んだ。
「今です!」
彼女らの掃射によって、撃ってきていた敵は全員地に倒れ伏した。
「周囲の敵の無力化を確認。フェーズ1終了」
スズミとユウカ、チナツが道路中央に集まり、ハスミもその場から立ち上がる。
「なんだか、いつもより戦闘がやりやすかった気がします……」
「……やっぱりそうよね?」
《先生の指揮のおかげで、普段よりずっと戦いやすかったです》
「なるほど……これが先生の力……。まあ、連邦生徒会長が選んだ方だから当たり前か……」
そうやって関心されるが、俺は簡単な指示出ししかしていない。正直言って、凄いのは彼女らの順応性だ。殆ど初めて共闘する相手と連携するのは、簡単ではない。
『待ってください、この反応は……!』
エアの声を掻き消すように、キャタピラの音が近付いて来る。道路の向こうに、例の巡航戦車が迫っていた。
その砲口は、ユウカ達に向いていた。
「わわっ!ちょっ……ちょっと!?」
ハスミとチナツがユウカの後ろに回る。
「あなたたち何して……」
「前衛、退避しろ──」
その言葉が終わる前に、戦車の主砲は発射された。
『伏せてください!』
咄嗟に遮蔽物に身を隠す。瓦礫の破片が遮蔽物に当たるのが聞こえた。
「前衛、応答しろ」
端末からの応答は無かった。
「前衛、無事か」
いくらこの世界の住民が丈夫とは言え、流石に戦車砲を食らえばひとたまりもないだろう。
死にはしなくても、重症だろうか。
「……ケホッケホッ、あなたたち!?」
「すみません。咄嗟に身体が動いてしまい……」
「治療は必要ですか?」
「結構よ!」
煙の中から、青い光が姿を現す。それはユウカを起点に展開されたバリアのようだった。
『あれは……パルスアーマー?』
恐らく似たような物なのだろう。
《クルセイダー1型……! 私の学園の正式戦車と同じ型です》
「不法に流通された物に違いないわ! PMCに流れたのを不良たちが買い入れたのかも! つまりガラクタってことだから、壊しても構わないわ!! 行くわよ!」
学園に戦車、更には
これを、どうにかしろと?
「先生?」
「……仕事を続けるぞ」
取り敢えず、今はあれを片付ける事に集中しよう。
◯
「フフ、連邦生徒会の子犬たちが現れましたか。お可愛らしいこと」
狐の面を被った女が、嗜虐気味に嗤う。
「仕事はするが、本当に報酬は出るんだろうな」
「勿論。あなたたちが仕事を遂げられれば、きちんと支払いますわ」
連邦矯正局に収監された者の中でも凶悪な連中、『七囚人』。今や連中は自由の身となり、キヴォトス中に災いを振りまいている。
その中の1人がコイツ。
狐坂ワカモ。通称『災厄の狐』。
特に意味もなく破壊の限りを尽くすという一種の災害のような存在だ。
そんな悪党中の悪党が、私らに金を積んだ。
「にしても……」
「……何だ」
「珍しいな、と思いまして」
「何が?」
「……いえ、忘れてください」
意味深にはぐらかされる。私は返事をせずに目線を外した。
これ以上追及を続ける必要もなかったし、何より藪蛇を突っつきたくない。
「ここは任せます」
「ああ」
ワカモは振り向くと一度も振り向くことなく、背後にあるビルに入っていった。
「……おっかねぇ〜、おっかねぇ〜よ、災厄の狐」
私は胸をなで下ろした。あんな災害がすぐ隣に立っていたのだ、あれで緊張しないやつはいない。
「はぁ……やっぱり、この仕事は不味かったんじゃない?」
直ぐ側にいた参謀がそう言ってくる。
「仕方ねーだろ。金欠だったんだ、選り好みはできない」
「と言っても、雇い主はあの災厄の狐よ?」
「あの人ヤバイよー。私絶対に近寄りたくない!」
ウチの元気印がここまで言うのだから、本当に危険なヤツなのだろう。
《……宣伝にはなるかも》
インカムに雑音混じりの声が聞こえた。
《巡航戦車が撃破された》
「ウッソー!? ……残ってんの私らだけじゃん!」
「はぁ、確かにこれで無事に持ち堪えられたらもう少しは名を売れるかもね……」
「ヒィー、負け戦だー!」
皆、グチグチと言いながら銃の点検を済ませる。
「傭兵稼業の悲しいところだよなぁ……『金さえ積めば何でもやる』って看板でやってる手前、逃げる訳にもいかねー。まぁ、負けるにしてもマシに負ける方向でいこう」
ヘルメットのバイザーを下げ、全員に合図をする。
「ドムドムヘルメット団、ビジネススタートだ!」