#異世界に転生して最強ヒーロー能力を手に入れ活躍してたら18回再生する親父が追ってきた 作:喪失者2
# エピソード2 英雄(ヒーロー)
私が異世界に来て、17年が経った。
この世界は、剣と魔法が存在する、いわゆるファンタジー世界だった。
アリア大陸には、私の本拠地であるマスラ王国をはじめ、人類が暮らす国々がある。そして、インダストリア大陸の森にはエルフ族が、バンコラ王国にはドワーフ族が住んでいる。
ほかにも、さまざまな種族が存在していた。
しかし、そんな世界にも、異質な存在がいた。
魔神王が率いる魔族だ。
他種族を敵とし、さらには糧として捕食する、恐るべき存在。
奴らによって潰された街や村は、一つや二つではない。
多くの犠牲の上に、今日という日が成り立っている。
各種族は魔族に対抗するため、それぞれ軍を組織し、冒険者ギルドを設立した。そして、勇者や英雄と呼ばれる者たちが、魔法やスキルを駆使して世界の盾となっている。
その一人として、私は今日も戦い続けていた。
「ユリカ様、先行し過ぎです! 少しは我々を信頼していただけないでしょうか!」
声を上げたのは、サイ副団長だった。
王国内でも指折りの剣の使い手であり、王国騎士団を率いる実力者の一人だ。
「私のスキルは、先行してこそ真価を発揮する! 貴方たちは、この街の防衛に専念しろ!」
目の前には、魔族の中でも下位に属する尖兵たちが数十体いた。
獲物を捕食することしか頭にないのか、奴らは獰猛で下劣な表情を浮かべ、舌なめずりをしながら、じりじりとこちらに迫ってきた。
私は腰に手を当てた。
「変身! 火のメンタル!」
“FIRES!! MOTION!!”
どこからともなく、派手な音声と効果音が鳴り響く。
「おおっ! ユリカ様の天啓だ!」
王国騎士団の団員たちが歓喜の声を上げた。
私の全身が光り輝く。
次の瞬間、身体は赤い全身コスチュームに覆われていた。
変身完了。
その瞬間、足元の石畳が砕け散った。
私は魔族の集団へと飛び込み、燃え盛る脚を振るう。
一撃。
それだけで、魔族の集団は一瞬にして塵と化した。
「お見事です、ユリカ様」
地面に降り立った私の前に、ルート団長が佇んでいた。
「戦況はどう?」
「西と東は、私たちが到着する前からユリカ様が奮戦されていたこともあり、部隊による制圧が進んでおります。北のこの区域も鎮圧できましたので、次は南へ向かわれるのが最善かと」
「わかった。後のことはお願い」
私はルート団長に背を向け、報告された南の詰所へと飛び立った。
その姿を一瞬見送った後、ルート団長は振り返った。
「防衛隊を残し、サイと共に全員で東の詰所へ向かってくれ。私は西へ向かう」
「お待ちください、団長! お一人で行かれるのですか!? せめて何名か……」
サイ副団長が声を上げた。
長い黒髪をなびかせながら、ルート団長は振り向いた。
「貴殿、私のことを忘れたか……? ユリカ様の破格の強さに霞んでいるが、私もそれなりの実力者だぞ」
「し、失礼いたしました、ルート団長!」
サイ副団長は慌てて姿勢を正した。
「まったく……」
ルート団長は小さく息を吐いた。
「第三部隊を残し、東の詰所へ向かう! 続け!」
サイ副団長の号令とともに、騎士団員たちは一斉に動き出した。
それから数時間後。
街に攻め込んできた魔族の部隊は、どうにか撃退された。
しかし、この戦いには、私たちの知らない一面があった。
後になって知ることになるのだが、街から数キロ離れた森の中では、戦いの様子を遠くから見つめていた者たちがいたのだ。
「やはりな……英雄の段階に至りつつあるか」
黒いフードをかぶった男が、静かにつぶやいた。
その背後から、同じく黒いフードをかぶった男が二人、暗闇の中から姿を現した。
「よろしかったのでしょうか。かなりの損失です……。しかも、たった一人の勇者に、これほどの被害を出すとは。魔神王様に、何とお伝えすれば……」
「構わぬ」
先頭の男は、意に介した様子もなかった。
ただ、戦場となった街を真っすぐに見つめ続けている。
「次の行動へと移る」
後ろに控える二人は、恭しく頭を下げた。
その頃、魔族の襲撃を受けた街では、住民たちが避難した教会で、王国騎士団の治療魔術師たちが負傷者の治療に当たっていた。
「住民の被害は?」
私が尋ねると、ルート団長が答えた。
「八割の住民は無事です。街の治安部隊が、身命を懸けて奮戦してくれたおかげかと……」
「治安部隊は……?」
「我々が到着した頃には、ほぼ壊滅状態でした……」
ルート団長の表情が曇った。
「最後まで残った兵士の中には、両腕を失いながらも雄叫びを上げ、魔族を威嚇していた者もいたと聞いております」
居たたまれなかった。
私は、手に入れた力で人々を守りたかった。
けれど、現実は無情だった。
「そう……。もっと早く駆けつけていれば……」
そのとき、そばにいたサイ副団長が拳を握り締めた。
「街が急襲されたと知り、ユリカ様がお一人で飛び出されたときは、確かに動揺しました。しかし、我々も決死の覚悟で、まともな準備もできないまま駆けつけました。敗走する者が出る中、できる限りのことはしたつもりです……! それでも、やり切れません!」
「ユリカ様、お気持ちはわかります。しかし、我々にできることには限りがあります……」
ルート団長が諭すように言った。
そんなことは、わかっている。
「……ごめんなさい。無体なことを言ってしまいました」
私は二人に向き直り、頭を下げた。
「サイ副団長。今、できる最善は、救える命を救うことだ」
「はい、団長!」
二人は、それぞれの務めに戻っていった。
その夜。
私は、冷え切った街の中、焚き火の前に佇んでいた。
『助けて!』
『助けられないよ』
『母さん!』
『お前に何ができる?』
『役立たず』
久しぶりに聞こえる声。
いや、この世界に来てから、初めて聞く声だった。
「やめて……。許して……」
思わず、耳を塞ごうとした。
そのとき――。
『ユリカ、大丈夫か!!』
聞き覚えのある声が響いた。
私のことを、心配する声。
……誰?
胸の奥が、ざわついた。
思い出せそうで、思い出せない。
「ユリカ様?」
背後から声をかけられ、私ははっとした。
振り返ると、飲み物を二つ持ったサイ副団長が立っていた。
「……あっ」
「どうされました?」
私の様子を見て、不安そうに尋ねる。
「いや、すまない。少し疲れたようだ……。進言どおり、素直に休ませてもらう」
私はそう答え、野営用のテントへと向かった。
わかっている。
今夜は、きっと眠れない。
だけど、さっきの声は……。
いったい、誰の声だったのだろう。
夜風が私の身体を冷やしていく。
心までも、冷たくなっていくようだった。
けれど、そのとき。
ほんの一瞬だけ。
誰かに背中から抱き締められたような気がした。
私は、思わず足を止めた。
……気のせい、だよね。
そう自分に言い聞かせ、再び歩き出した。
その温もりの正体を、まだ知らないまま。