異世界に転生して最強ヒーロー能力を手に入れ活躍してたら18回再生する親父が追ってきた 作:喪失者2
# エピソード3 私の
私は、この異世界に生まれ変わった。
マスラ王国の騎士副隊長を務める、ハイデル公の娘として。
私を産んだ母は、出産から数日後、この世を去った。
それでも、父と乳母の支えもあり、私は大切に育てられていった。
三歳になる頃、前世の記憶が朧げながら浮かび上がってきた。
「私、転生した……!」
五歳になる頃には、この異世界が剣と魔法が強さを決める、いわゆるファンタジーの世界だと理解していた。
そして、魔族と他種族が争い続ける、混沌と殺伐が渦巻く世界だということも。
前世の私であれば、泣き叫び、震えながら部屋に閉じこもり続けていたであろう世界。
だが、今の私は違う。
何もできない自分に嫌気が差し、あろうことか、自分自身を苦しめ続けた私はもういない。
あの声も、聞こえなくなっていた。
この世界で力を手に入れ、憧れた
私は、そう渇望した。
私は恵まれていた。
父は、王国騎士の中でも並外れた力を持つ、魔法騎士だった。
父から学ぶことは、私が目指す道を進むための、何よりも素晴らしい糧となった。
魔法に戦闘技術、体術、剣技。
あらゆる訓練は、女の子である私には耐え難いものだろうと、周囲からは苦言を呈された。
父は、私を産んだ後に妻を亡くしていた。それから再婚することもなく、ずっと過ごしてきた。
父は、母を深く愛していたのだろうか。
私は、それを聞くことができなかった。
父にとって、私が唯一の子供だった。
そんな父も、私が強くなりたいと必死にすがる姿に根負けしたのか、持てる限りの知識と技術を教えてくれた。
本当に辛かった。
何度も、くじけそうになった。
それでも、前世の自分に戻りたくないという思いが、私を支えてくれた。
そして、十二歳になる頃には、四大魔法をすべて中級まで修得していた。
ただし、治癒魔法だけは初級までしか使えなかった。
鑑定、感知、隠匿。
これらの魔法は、この世界でも使える者はいるものの、その能力にはかなりの差があるらしい。
そして、私の能力はかなり上位に位置するようだった。
剣技や体術も、父の指南によって、今の年齢からは想像もできないほどの腕前になっていた。
父の部下から指南を受けることもあったが、今では王国騎士たちと渡り合えるほどに成長したらしい。
そんなある日。
「御父上。一つ、お尋ねしたいことがございます」
「どうした、ユリカ?」
「御父上がよく扱う属性魔法に、物理的な力を加えて魔法剣として扱う御業がありますよね。それを武具ではなく、自らの肉体に宿すことは可能なのでしょうか?」
父は、一瞬驚いた表情を見せた。
しかし、しばらく考えた後、口を開いた。
「可能と言えば可能だが……肉体が保たないだろうな。支援や補助魔法のように魔力や筋力を上げるのとは違う。全身に火の魔法を宿せば、身体を焼かれることになる。たとえ治癒魔法をかけながら使役しても、じりじりと焼かれることになるだろう。自身に結界魔法をかければ……? いや、それなら武具や魔法具に付与するのが当然だと思うが……」
父は再び考え込んだ。
「御父上、申し訳ありません。私の浅慮な質問で、煩わせてしまいました……」
すると、父は私の肩に手を置いた。
「何を言う。魔法の極意は、深く考えることから生まれる。だからこそ、いろいろなことを試してみるのは素晴らしいことだよ」
「ありがとうございます」
私は、嬉しそうに頭を下げた。
……違う。
私が聞きたかったのは、そういうことじゃない。
私は、ただ、自分の考えを聞いてほしかっただけなのに。
まだ私は、人の顔色をうかがってしまう……。
そして、十三歳になった。
この世界では、その歳になると教会で儀式を受け、心の奥底に眠るスキルを確認することができるらしい。
前世の私が、初めてあの酷い罵詈雑言を聞くようになったのも、十三歳の頃だった。
偶然なのだろうか。
それとも、私はまだ夢を見ているのだろうか。
一人、そんなことを考えていると、司教が声をかけてきた。
「さあ、こちらへ」
司教に促され、私は祭壇の前へと進んだ。
司教は私に手をかざし、祈りを捧げる。
「神よ。貴方に仕えるこの娘に、御業を与え給え」
その瞬間。
頭の中に、声が響いた。
『勇者よ、目覚めよ。そして、想いを力にして
“REVOLUTION!!”
私の身体が、光り輝いた。
「おお……! 神からの天啓だ……!」
司教は両手を広げ、天を仰いだ。
そして、涙を流しながら叫んだ。
「勇者が誕生された! いや、いずれ英雄へと至る、我々の守護者よ!!」
「おお……っ!」
周囲から、歓喜の声が上がった。
私は、何が起きたのか理解できず、ただ立ち尽くしていた。
その後、父に迎えられて自宅へ戻ると、親族や知り合い、王国騎士の仲間や部下たちが集まり、盛大に祝ってくれた。
多くの人から、祝いの言葉をかけられ、挨拶を交わした。
……こういう場は、あまり慣れない。
私は前世から、こういう場にいると頭が働かなくなってしまう。気を張り続けた後の疲労感も辛いから……。
前世の自分とは変わったと思っていたのに。
私は、まだ人の輪の中でどう振る舞えばいいのか、よくわからなかった。
そんな中、少し印象に残った人たちがいた。
父が、ほかの人たちとは違い、屈託なく接している大人の男性。
父とはまた違う、強者のオーラを放つ人物だった。特に、顎髭が印象に残っている。
そして、その隣には、長い黒髪の女の子がいた。
カーテシーの所作が、とても美しかった。
名前を聞いたと思うのだが、よく聞き取れなかった……。
夜も更けた頃。
私は、自分のベッドの上で考え込んでいた。
「何が変わったのか……わからない」
重い身体を起こす。
「何が……」
頭の中に、前世で観ていたヒーローの姿が浮かんだ。
どんなに傷ついても立ち上がり、人々を守るために戦う存在。
もしかしたら、私にも力が……。
スキルは、もしかして……?
私が、ずっと憧れていた姿。
「……変身!」
何も起きなかった。
「……あれ?」
あのとき、教会で聞こえた声が、私に力を与えてくれたと思ったのに……。
私は首をかしげた。
そして、考え直した。
そんな都合のいいことがあるはずもない。それは、前世で嫌というほど経験していた!
「いや、違う。魔力を集めて、腰に集中する……!」
意識を集中させる。
すると、腰のあたりに何かが浮かび上がった。
「えっ!? これ、ベルト!?」
私は思わず声を上げた。
そうだ、まずは錬金術!
頭の中に浮かんだイメージを頼りに、私はさらに魔力を集中させた。
「そして、こうする……!」
片手に、得意な火属性魔法を宿す。
もう片方の手には、固有結界魔法を宿す。
そして、その二つの魔法をベルトへと注ぎ込んだ。
「うっ……!」
頭が痛い。
魔力を酷使しすぎたのだろうか……!
それでも、私はやめなかった。
さらに、片手に宿した火属性魔法をベルトへと注ぎ込む。
すると、ベルトが赤く輝き始めた。
この感覚。
この姿。
何度も観てきた、あのヒーローの変身シーン。
私は、思い切り叫んだ。
「変身! 火のメンタル!!」
“FIRES!! MOTION!!”
どこからともなく、派手な音声と効果音が鳴り響いた。
私の全身が、光り輝く。
「ああっ!」
そして、次の瞬間。
私の全身は、赤いコスチュームに覆われていた。
「やっと……やっとなれた……!」
目の前に映る、自分の姿。
私は、震える声でつぶやいた。
「私の……
そのときだった。
下の階から、階段を駆け上がる音が聞こえてきた。
「ユリカ、大丈夫か!!」
勢いよく、部屋のドアが開いた。
そこには、ベッドから落ちて尻もちをついた私がいた。
「……え?」
父が、呆然とした表情で私を見つめている。
私は慌てて立ち上がり、頭を下げた。
「申し訳ありません、御父上! あまりにも今日のことが嬉しくて、夢の中で魔法の練習をしていたようです!」
もちろん、嘘だ。
「申し訳ありませんでした、御父上」
私は、深々と頭を下げた。
「そ、そうか……。いや、驚かせたな」
父は、ほっとしたように息をついた。
「もう遅い。明日、また一緒に魔法の鍛錬をしよう。さあ、休みなさい」
「はい……」
父が部屋を出ていく。
私は、最後まで頭を下げたままだった。
ドアが閉まる。
そして、足音が遠ざかっていく。
……やった。
やったよ、私!
私の願いが叶った!
私は、込み上げてくる歓喜を抑えるのに必死だった。
何度も深呼吸をして、ようやく気持ちを落ち着かせる。
そして、ベッドに入り、身体を横たえた。
けれど、興奮は冷めやらない。
「今日から私は……!」
私は、ぎゅっと拳を握り締めた。
今日から、私は
誰かを守れる。
誰かを助けられる。
もう、何もできない自分ではない。
私は、あの頃の自分とは違うんだ……!
やがて、少しずつ興奮が落ち着いてきた。
眠りにつこうとした、そのときだった。
『大丈夫! ユリカは何でもできるから!』
……え?
聞いたことのある声だった。
優しくて、温かくて。
私を励ましてくれる声。
「……お母さん?」
思わず、つぶやいた。
けれど、返事はなかった。
その夜、私は、なぜか誰かに優しく抱き締められたような気がした。