君もゴッデスだ、ピナ 作:ピナの強化素材になりたい
「__だから、少し休みたかったんだよ。」
戦い続きで疲れきった紅蓮の心からの言葉だった。
誰にも言えなかった言葉がついに誰かへ伝わった。
「たくさん休めましたか?」
「あぁ。たくさん休んだ。…だからまた立って戦わねば。」
「はい。」
「…ドロシー、君はなぜ戦うのかね?」
今度はドロシーへ紅蓮が問う。
「自慢したいからです。」
「ほほう。」
「かっこいいじゃないですか。勝利の女神って。私、周りに自慢するのが大好きなんです。」
即答だった。迷いなく、簡潔に。
そして知る。一見鼻に掛ける物言いだが、それだけを理由に地獄を歩めた勇者であると。
「誰かの憧れになりたいし、誰かが人生の目標にしてくれたら嬉しいです。」
「それでリーダーに名乗り出たのかい?」
「そうですね。…私の理想をこの目に見たから。私もそうなりたかったのです。」
ドロシーの脳裏にあるのは無敵のニケ。
美しく頼もしかった後ろ姿と、振り向きざまに太陽の光を散乱させどこまでも輝いていたその瞳。
彼女が永遠に眠ったとしても決して色褪せない勇姿。それが記憶に焼き付いた。
「ふ〜む…2割くらいはリリスに近づいたといえるかもしれんな。」
「ふふ、ありがとうございます。」
「だがリリスはリリスで、君は君だ。」
「もちろんです。」
リリーバイスが最強になった過程とドロシーがゴッデスとなった過程は初めから違う。当たり前のことである。あくまでも近づきたいのであり、同一化ではないのだ。
「……ところで、つかの間に降って湧いた興味で知りたいのだが。来たばかりのアレはどういった戦い方をしてるか君は知ってるかね?」
あくまでも好奇心だと重ねて尋ねる。
「
「そうか。……あぁ、そうか。」
紅蓮は目を細める。少しだけ何かを思い出したのだろう。
その記憶とあのロボットに繋がるものはないと知っていても。
「…では酒もたっぷり飲んで、ぐっすり休んで、おしゃべりも楽しんだことだし、そろそろ動こうかのう。」
酒と呼んでいた透明な液体は役目を終え、水となる。本当はただの飲料水なのだから。
心が乾いてもいまだ残った役目を遂げるために。
「はい。」
紅蓮が立ち上がった。
今まで見守っていたピナが呟く。
「…あれは?」
「どうしたのかね?」
指を指す。
「あそこに…」
指した場所はただの地面。しかし荒れ地には決してないものがあった。
小さな植物の芽吹きだ。
「ほほう…こんな場所にも新しい命が芽生えるのだな。」
少しの間、3人は地上に出た小さな芽を眺める。
壊れた世界にも確かに芽吹きがあった。それは僅かでも安らぎを感じられるものだ。
「__いきましょう。やることがたくさんあるのですから。」
ドロシーの一言でそれぞれ任務遂行のために復帰するのだった。
ドロシーのめっちゃ頑張る娘だけど、部下以外の立場で隣に立っていたいと思いたくない感を間近で見られるとは。
キラキラしてないと死んじゃう病とでも命名したい。
……別にサボってはない。監視所の地形や建物のデータをスキャンしたり、巡回してたりとやることはやってる。
それに並行して機材の充電とかも頑張ってる…車形態の電源が。
いつの日かどっかの青いネコ型ロボットと、それについてる腹のポケットではどちらがより必要か、みたいな問題になってしまう。
コンセント>本体
こんなのはいやだ。
次どうなるかあんまりはっきり覚えてないし、とりあえずピナちゃんの死やクソ看板がドロシーを『芸術』にする前にできることをしたい。
善は急げ。
そして曇らせはなるべくゆっくり丁寧でなおかつしっかり晴らす展開でないといけない。もう既に曇ったでしょ?晴れなきゃ……。
そのためにピナとコミュニケーションをとれるときにはしっかりとらねば。
ゴッデス部隊に合流した量産型ニケの一人、ピナ。
正式名称はプロダクト23
唯一無二の性能を誇るゴッデスのニケとは異なり量産型のニケ達は同じ型式ならある程度均一で似通った性能をしている。
もちろん量産型だとしても並の人間を凌駕する性能は確保されてある。
彼女は今、ドロシーやラプンツェル、紅蓮に聞いてある者へ声をかけに来た。
突然合流した謎の人型ロボットに。
今の時間はそこにいると言われてピナは来た。
空は夕焼けのオレンジ色。雲がかかり少し暗いがそれを除くと視界は至って良好。
……いた。少し前までスノーホワイトが居座りラプチャーの侵入を警戒していた高台、…大きすぎて登れないのかその下に。
相手も認識して赤く光る4つの視覚センサーと目が合う。
ラプチャーとも異なる外見だが全身が純粋な機械なのに生物的に感じられ、それを本能的に危険だと思ってしまった。
「あのっ、改めて挨拶にきました!」
『……あ、はい。』
それは大きく、厳つい容姿とは裏腹に意外と間の抜けた返事だった。
ここからでは聞こえにくいかもしれないとピナは高台へ登る。
「えぇっと。先ほどぶりですがこんにちは。…いえ、こんばんは。」
『こんばんは。』
「…すみません、いろいろお話ししたいですがその前に、私たちニケについてどれくらい知ってますか?」
いきなりニケだのラプチャーだの言っても分からないかもしれない。だからどの程度知っているかピナは把握したかった。
質問するとロボットは考える素振りをする。
『…ドロシーさんから教わりヒトの脳の一部を摘出して素体に移植した存在とは理解してます。今ではラプチャーと戦う主力的戦力とも。』
ちゃんと返答をくれるし大雑把なことは知っているようだった。なら自分から解説することはそう多くないと少し安心して自己紹介を始める。
「答えてくれてありがとうございます。私は量産モデルのプロダクト23と呼称されるニケ達の一人です。ピナと呼んでください」
『ピナさんですか。自分は…名乗ってくれたところ申し訳ないですが名乗れる名前がありません。……量産モデル?……ですか?ゴッデスのニケなんですよね?』
彼は思いのほか丁寧に答えてくれた。普通のロボットにはない独特な考える仕草、見ていてそれには妙に生きている感じがした。
「私はゴッデスではないですよ。そう呼ばれるのは恐れ多いです。…私以外にもいたんですが量産型のニケ達で集まり、ゴッデスの方々の守るこの場所で一緒に戦うために残ったのです。」
『……貴女達の勇姿と使命に敬意を。』
ロボットは夕日に照らされて輝く手を胸に礼をする。
ピナは少しだけ笑った。
「ありがとうございます。」
ここで散ったニケを含む兵士達が遠くの誰かに知ってもらえて、少し報われたように思えたからだ。
「__湿っぽくなりそうなので続けますが量産タイプのニケは、ニケを造る時に元となった人の資質や精神の反映が少ない場合に生まれるニケです。身体が生産する企業によって指定された姿になるんです。」
『ならピナさんはそのプロダクト23という型、という感じで生まれたということですか?』
「はい。合ってますよ。」
『なるほど。……ピナさんは教えてくれるのに、自分はどこで作られたかや目的もわからないので申し訳ないですね。』
「大丈夫ですよ。ロボットさんにどんな出来事があったのかは気になりますけど。ドロシー様のために駆けつけてくれてありがとうございます!」
純粋な感謝を受けてロボットは手を後頭部に当てて摩る。
『いえ。……そう言われると嬉しいですけどね。起動したら荒野が見えたのが最初ですから、自分のことすら曖昧ですよ。』
「なんだか記憶喪失みたいですね。…ドロシー様は名前を考えられたりしてないですか?」
『いえ。紅蓮さん、ラプンツェルさんの二人を立ち直らせるのに心血を注いでいたのでそんな余裕はなかったのでしょう。』
「ドロシー様からはなにも…。あの、もしよかったら……もし、ですからね!」
ピナは少し嬉しそうに、それと申し訳なさそうさが揃ったような表情をみせた。
『ピナさん…?なんでしょうか?』
「私が、ロボットさんの名前を考えてもいいですか!」
『……』
目に輝きが入ったような目が、口と同じくらい興味と熱意を主張している。
ロボットはしばらく考えた。
『_いいですよ。』
「本当にいいんですか?」
『名前がないのは不便と思いましたので。お願いします。』
本当に了承してもらえると考えていなかったのかむしろピナが驚く。頭まで下げられて少し冷静になった。
「…わかりました。うん~っと、名前を…。」
ピナは考える。
名を与えるからには意味をつけて、かつ自分の願望をそこまで乗せてはならない。そしてあまりにも対象から乖離しているものだって止めたほうがいい。
いざ名付けるとなれば熟考してしまうようだ。
「……」
『……すぐに思いつく必要はないですよ?』
あれこれ思いついては他によいのがないかと巡り、ついには座って考え込む。
「……」
『……』
真剣さを認めたのかロボットもなにも言わなくなった。
沈黙が続く。
それからピナは周囲を見回す。
日の沈む空と臨時監視所、やがて目を閉じて、なにか本人の中で納得したのか何度か頷いた。
「……ネル。」
『……?』
「ロボットさんの名前、決めました。」
『おぉ。』
謎のロボットへ自信ありげに笑う。それと時を同じくして雲の端から太陽が差し込む。
地上は一気に夕焼けは明るく、眩しくなった。
「_センチネル。…どうでしょうか!」
『…!!』
伝え終えるとこれが正解かといわんばかりに自慢げな表情をピナは見せる。
『ピナさん。』
「はい?」
『名前、ありがとうございます。そして…新しい目標が出来ました。』
ロボット、もといセンチネルは付けられた名前に納得したようだ。声は相変わらず低くくぐもった怪しいもの。だが、どこか優しげに聞こえる。
「いきなりですか?目標…どんな目標ですか?」
鋭く鋭利な人差し指を立てて答えた。
『…ゴッデスは選りすぐりの部隊と聞いてます。その中でピナさんと組んで皆さんと同じく特記戦力となる。つまり、最強の領域に踏み入る、ということです。』
「……はい?」
ピナは笑顔のままで固まる。センチネルが何を言ってるのか処理できていないからだ。
固まるピナ、それを置き去りにする言葉を叩き込まれる。
『共にあちら側の世界に行きますよ!』
「え…。え?」
量産型のニケにとってあまりにも傲慢で無謀な挑戦を宣言されたのだ。
さもできて当然とばかりの様子が更に困惑を大きくする。
当然ピナはゴッデスへの恐れ多さから組むことへ首を振って拒否しようとするが、悪魔はそんな敬虔な者にこそ囁く。
『ドロシーさんは何人もの死にゆくニケたちを見送って来たのだろうと思います。それでも未だに折れず人類のために前線で戦ってくれています。』
「それは……」
でもドロシー様のように自分はなれない、ピナはそう答えようとした。何か返事を答える前に悪魔がまた冷たく囁く。
『でも、次誰か死んだらきっと折れるでしょう。死を受け入れるのはあの人にとってもう限界かと。だからこそもう誰も死ねません。』
「……」
眼前のロボットは上を見あげた。
『それこそ死者が化けて出ない限り立ち直れないくらい、きっと心は傷つくでしょう。』
「……わかるのですか?」
『ドロシーさんの音声データを勝手ながら受信してますからね。でも、ピナさんを怖がらせたい訳ではないです。』
それは頭を下向きに戻し、優しい声に戻った。
『ただみんなに忘れないで欲しいんです。個で強くあろうとも限界はあるのですから。だからこそ、みんなで協力できる場面は協力しないと行けません。』
優しい正論が嫌悪を薄れさせる。さらにセンチネルは優しくも現実的なことを伝える。
『ピナさんはとても協調的と聞いてますので戦闘の面でもより遺憾無くそれを押し出してもらいたいのです。名前をくれたお礼にそのお手伝いを自分はしたいです。』
「私の…ために?」
『はい。』
自分だけが置いていかれてる。彼女にとってそれは百も承知。1番最後に入った非正規の新米ですら単騎で武器を持たず、補修もなく合計五十機近いラプチャーを相手にして稼働に問題ない超戦力部隊となってる。
だからこそ一般モデルの域を出ないピナは尊敬するドロシーにも戦力としては背を預けるなどしてはくれない。
……本当は自分だってゴッデスのニケ達の隣に立ちたい。そう心の底から思っている。できるならあの人の隣で胸を張って戦いたいから。
「__わかりました。お願いします。」
『いい覚悟です。では早速明日から訓練といきましょう。見張りは兼任しますのでご心配なく。』
「え?明日からですか?」
次の日、朝早くからピナとセンチネルは監視所の端側にいた。
「…お願いします。」
昨日のうちに内容を聞いているためかぴ何は特に驚きは見受けられない。
『始めますよ。』
ピナの見る景色が急変する。
監視所も何も無いひたすら荒野が続く景色。何故か自分の隣には他モデルの量産型ニケが4人いた。
当然そこにはいない。実態のないホログラムだり
「本物みたいですね。」
『私のラプチャーとの交戦記録を参考にしたシュミレーションです。目標はラプチャーの殲滅。ほら、エンカウンターですよ。』
「……エンカウンター!」
「……それであの銃撃戦の大音量を垂れ流していた、と?」
『……はい。音響的には局所集中型のスピーカーなので音漏れは限定的であり、監視に影響はないかと。少し離れてたラプンツェルさんは聞こえてませんでしたし。』
「……そうですか。」
なんかピナと一緒にドロシーから叱られてる。無許可だし仕方ないね。
「ピナは何かありますか?」
「何も言わずに始めてすみません。」
「……防衛に支障がない程度であれば認めましょう。」
うん。ちょっとピナちゃんに甘いね。そこがドロシーのいいところだけど。
なんか自分を見る目がゴミみたいな目なことは心が痛いなぁ。
助けて、自分だけ助からないよ。クソが♡
ちゃんとシュミレーションの結果から電子レポートも作ってるよ♡
……こうやって強化素材ってできるんだ。
なんかファイルの画像が青い…記憶メモリは…緑っぽい水色のを使っておこう。なんかそれなりに臨時監視所に空のメモリあるし。
未来のちしかん、ピナの訓練データをもし見つけてくれたら使ってあげてね…。
……センチネル、か。
ピナからもらった名前だけど、この顔でセンチネル……。
うん、やろう。
歴代シリーズでどうだろうと今の自分には十分過ぎる贅沢な名だ。