ンドゥールが。
※オリキャラ登場。
呪術界の最上に位置する御三家の一角、五条家。その屋敷を取り巻く冷厳な空気の中で、五条顕の人生は十年前、ひとつの命の誕生によって決定的に歪められた。
十年前。五条悟という「天の寵児」がこの世に生を受けるその瞬間まで、五条家という巨大な呪術一族の中心にいたのは、他ならぬ五条顕であった。
当時、顕は五条家において誰もが認める「最強の術師」であった。
御三家という血統主義が色濃く残る閉鎖的な世界にあって、顕の存在感は突出していた。相伝術式である無下限呪術こそ発現していなかったものの、彼が独自に昇華させた惨烈な術式『蝕域呪法』の冴えと、幾重もの凄惨な実戦で培われた圧倒的な呪術センスは、並み居る術師たちを遥かに凌駕していた。
任務に出れば確実に成果を持ち帰り、一族の脅威となる呪詛師や強大な呪霊を次々と討ち払う。その卓越した手腕と揺るぎない実力から、五条家の上層部をはじめとする長老たちも、顕を次期当主の最有力候補として讃えていた。誰もが、次の五条家を背負って立つのは顕であり、彼の統治のもとで五条家はさらなる隆盛を極めるのだと疑っていなかった。
顕自身もまた、己の才能と積み上げてきた苛酷な研鑽に絶対の自負を持っていた。
日々の修練で血を吐くような努力を重ね、己の術式を極限まで磨き上げる姿勢。周囲からの崇敬と期待。それら全てを一身に受け止めながら、顕は五条家の未来をその肩に背負う覚悟を確固たるものとして抱いていたのだ。五条家という巨大な権力と伝統を統率し、頂点に立つ者に相応しい者として、彼は自らを厳しく律し、栄光の道を歩んでいた。
―――だが、たった一つの赤子の産声が、その全てを暴力的に粉砕した。
数百年に一度しか現れないとされる「六眼」と、五条家至高の相伝術式である「無下限呪術」を同時に携えて生まれた男児―――五条悟。
その規格外の胎動が世界に響き渡り、赤子の存在が公になった瞬間、五条家の世界は一変した。
昨日まで顕に向けられていた絶賛の眼差し、尊敬の念、そして次期当主としての期待は、まるで掌を返したように冷ややかに去り、全てがその生まれたばかりの赤子へと注がれたのだ。
顕にとって、それは突如として訪れた残酷な暗転であった。
一族の長老たちは赤子の周りに群がり、あたかも神を迎えたかのように平伏した。世界が五条悟という太陽を中心に回り始め、顕がこれまで積み上げてきた血汗の歴史は、あたかも最初から存在しなかったかのように影へと追いやられた。
当主の座という約束された未来を奪われてなお、顕は挫けなかった。
胸に燃え上がる困惑と焦燥を押し殺し、彼は己の価値を証明するためにさらなる修羅場へと身を投じた。
どれほど危険な特級案件であっても進んで引き受け、傷だらけになりながらも圧倒的な成果を持ち帰った。血を吸うような修錬を重ね、己の術式『蝕域呪法』の精度をより高く、より惨烈に研ぎ澄ませた。
「自分こそが五条家を牽引する真の術師である」
「血統の偶然などではなく、研鑽と結果こそが当主の資格である」
そう己に言い聞かせ、顕は圧倒的な結果を五条家の上層部へ提示し続けたのだ。己の誇りと、鍛え上げた術式の全てを賭して。
しかし、血と汗を流し続けて成果を持ち帰る顕に対し、五条家の老害どもが向けたのは、冷淡で心のない視線ばかりであった。
ある日、死線をくぐり抜けて命がけの任務を完遂し、その報告を行った顕に対し、上層部の幹部たちは労いの言葉すら掛けず、ただ冷酷な宣告を突きつけた。
『顕殿。どれほど功績を重ねようと……六眼と無下限を持たぬ者に、当主の資格などないのだ』
『貴殿の修錬や成果は見事だが、六眼という絶対の才能の前には、貴殿の術式も、積み上げた功績も、全ては無価値な砂利に過ぎん』
取りつく島もない徹底的な拒絶。顕という存在そのものに対する、冷徹な全否定であった。
幾重にも重ねた血汗とプライド。五条家を支えてきたという自負。それら全てが、「六眼がない」というただ一点の理由によって踏みにじられたのだ。
顕が命を削って磨き上げた術式も、くぐり抜けてきた死線の数々も、赤子の誕生という偶然の奇跡の前には「無価値な砂利」として切り捨てられた。
その瞬間、顕の中で何かが決定的に壊れた。
五条家という一族が抱く、歪んだ血統絶対主義。生まれて間もない赤子を絶対の神として盲信し、個の努力や意志を平然と踏みにじる腐敗しきった構造。そして何より―――自分から栄光の全てを奪い去った五条悟という赤子に対する、ドロドロとした暗い殺意と苛烈な憎悪。
十年前のあの日、五条家の「最強の術師」であった五条顕は死んだ。
後に残されたのは、血統の呪縛に狂わされ、無下限という絶対の太陽を歪んだ憎悪で睨みつける、一人の狂執の鬼であった。
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五条悟という太陽が生を受け、自らの栄光が灰燼に帰してから十年。そして、その怨念が破滅的な破綻を迎えたのは―――二年前のことであった。
その日、顕の胸中で永らく爛れていた闇の狂気は、ついに破裂の時を迎えていた。
八歳となった五条悟に、公の場で御膳試合を挑む。
表向きは一族の親睦と若き至宝の意気を示すための組手であったが、顕の意図はただ一つ―――幼少の五条悟を殺害し、その首を刎ねること。そして「六眼」という五条家の絶対の希望を根絶やしにし、この歪んだ血統主義の権化たる一族を根底から解体することであった。
観客席を埋め尽くす五条家の幹部や老害どもは、呑気に茶を啜り、無邪気に場へ立つ八歳の悟に熱い視線を注いでいた。
「顕殿も大人気ない。八歳の幼子相手に組み手など」
「フッ、六眼の神童に対し、己の無力さを思い知るが良い」
嘲笑交じりの私語が飛び交う観客席。彼らは、顕の背後に渦巻く凄惨な殺気など、ただの敗北者の嫉妬程度にしか捉えていなかった。
しかし―――「始め」の合図が響いた瞬間、観客席の空気は一変した。
「死ねぇぇぇっ、五条悟ぅぅッ!!」
顕の口から爆発したのは、理性を完全に削ぎ落とした獣のごとき咆哮であった。
試合の枠組みなど端から無視し、隠しきれない苛烈な憎悪と殺意、そして狂気的な執念を露わにした顕は、全身の呪力を暴走させるように練り上げた。
―――『
それは発動と同時に、自身を中心に球体状の「万物を削り取る暗黒空間」を展開する惨烈極まる術式であった。その球形の領域内に触れた一切の物質や呪力は、存在ごと喰らい尽くされて「無」へと還り、跡形もなく消滅する。不可視にして絶対的な破壊力を秘めたその球状空間であったが、発動中、球体内にいる間は外部の光すら遮断され、外の景色を見ることができないという致命的なリスクを伴っていた。己の視界を捨て、自身を中心に広がる暗黒領域ごと突進し、ただ殺気と感覚のみで標的を殺め尽くす死の毒牙。それこそが、六眼を持たぬ顕が五条家という血統の絶壁を穿つためだけに研ぎ澄ませてきた術式であった。
周囲の大気が激しく削り取られて歪み、顕自身を中心に完璧な球体を描く禍々しい暗黒空間が展開される。顕の視界は瞬時に完全なる漆黒へと塗り潰された。
「貴様の肉体も、その忌々しい六眼も……ッ! 一片も残さず、暗黒空間にばらまいてやるっ!!」
正気を失った男の惨絶な叫びに、観客席の幹部たちは「な、なに……!?」と杯を落とし、顔面を蒼白にさせた。
「顕!?貴様正気か!? 殺意を隠そうともせんとは……!」
「止めろ! あれは組み手の範疇ではない! 我らが至宝を呑み込む気だ!!」
万物を消滅させる球形の暗黒領域が悟の細い身体を呑み込もうとした、その瞬間。
顕の視界を覆う漆黒の闇の中で、突如として圧倒的な「違和感」が走った。
自身を中心として展開された球体状の暗黒空間。その内側にいる間は外の景色など一切見えず、音も光も届かぬ無の世界である。球体の内側から外へ向けて攻撃を及ぼすことなど不可能であり、この絶対破壊の領域そのものを叩きつける突進こそが顕の必殺であった。
しかし、標的の肉体を削り取り、その生命を断ち切る確かな手応えが―――どこまで突進し、空間を削り取ろうとも一切返ってこない。
「……な、に……!? なぜ届かん……! なぜ消えんのだぁぁッ!?」
五条家の人間である顕は、無下限呪術の理を誰よりも理解していた。対象に近づくほど減速し、絶対に触れさせない「不可侵」の絶対防御。だからこそ、顕は無限の概念そのものを空間ごと削り取り、喰らい尽くすためにこの『蝕域呪法』を死力で鍛え上げてきたのだ。
万物を「無」へ還す暗黒の球体が、ただの八歳の子供が展開する「不可侵」を前に、領域ごと阻まれ空を切り続ける。
「ふざけるなッ……ふざけるなぁぁぁッ!! 死ね!死ね!!五条悟を喰らえッ! 喰らい尽くせぇぇッ!!」
顕は術式を解除することすら忘れ、狂乱のままに球体領域を維持し続けた。
暗黒の球体の中で視界を奪われながら、ただ悟の命を呑み込むためだけに、血を吐くような思いで練り上げた全呪力を注ぎ込み、何度も、何度も、泥臭く空間を削り取り跳躍する。
だが―――どんなに死力を尽くそうと、空間を無へ還そうと、その暗黒空間が悟の皮膚一枚に届く気配すら存在しない。
外の景色が見えぬ暗黒空間の中、顕はただ己の呼吸音と激動する鼓動だけを感じながら、無限という果てしない深淵に向かって不毛な打撃を繰り返し続ける。
その時、死角となる外部から、すっと細い指先が暗黒領域の境界面に触れた。
顕が命を削って維持している絶対破壊の球体。その至近距離に立ち、球体の表面を冷ややかに見つめる人物がいた。
五条悟が傲岸不遜に見つめていた。
悟は身じろぎ一つせず、髪を風になびかせながら、顕が狂乱のままに暗黒空間を暴走させている様を、まるでガラスケースの中の虫を眺めるかのような退屈な瞳で見つめていた。
顕の「絶対破壊の領域」そのものが、悟の展開する「不可侵」の数センチ手前で完全に削り取りを阻まれ、虚しく空回りしている。
「……もう終わりかよ。つまんな……」
外から届いた幼子の声は、呆れ果てた失笑を孕んでいた。
暗黒の球体の中で、顕は己の全存在を懸けた術式が、一握りの傷すら与えられていないという凄絶な無力感に襲われた。視界すら遮られた暗闇の中で、己がどれほど惨めに、どれほど虚しく踊らされているかを理解させられた瞬間であった。
人生の全てを捧げた死力の研ぎ澄まし。血を吐くような努力。それら全てが、八歳の天の寵児にとっては「退屈な時間稼ぎ」にすらなっていないという、圧倒的な絶対者との隔絶。
観客席の幹部たちは、その圧倒的な断絶と無力感の光景に絶句し、やがて歓喜の声をあげ始めた。
「見たか! あれが六眼と無下限の絶対防壁!」
「恐ろしい……八歳にして、顕の暗黒空間を前にして、微動だにせず完全に防ぎ切るとは!」
悟は退屈そうに大きく溜息を吐くと、暗黒球体へ向けて小さな指先をすっと掲げ、冷淡に呪術を紡いだ。
「―――術式順転、『青』」
―――ドツンッ!!
暗黒空間の外部から打ち込まれた強力な吸着と圧縮の呪力波が、顕の展開する球体領域ごと容赦なく破壊し、その体躯を強烈に穿った。
術式を強制解除された顕の視界に暗黒が晴れ、激痛とともに圧倒的な破壊力がその肉体を打ち据える。
骨が砕ける不吉な音が体内で響き渡り、顕は盛大に吐血しながら無様に畳の上を転がった。
成すすべもない惨敗。大人と子供、術師と素人という立場は完全に逆転し、顕はただの惨めな敗北者として床に伏せることしかできなかった。
御三家の至宝を殺めようとした惨絶な謀反。
取り押さえられた顕に対し、五条家の老害どもは顔を激怒に歪め、即座に処刑を決定しようとした。
死を覚悟し、血反吐を吐きながら床を睨みつける顕。だが、その命を繋ぎ止めたのは、他ならぬ八歳の悟の発した一言であった。
「殺さなくていいよ……これだけ俺に勝とうと必死に鍛えてきたんだ、殺すにはもったいないじゃん。成長したら、また俺の良い暇つぶしの相手になりそうだしさ」
それは、憎悪すら含まれていない、純粋で無邪気な「哀れみ」であった。
殺す価値すら感じていない。命を奪うまでもない「遊び道具」としての免除。
一人の術師として、男として生き、血を吐くような努力を重ねてきた五条顕の誇りは、その幼い一言によって木っ端微塵に踏みにじられた。死以上の屈辱。憤死せんばかりの過酷な感情が胸を焼き、顕の目からは涙とも血ともつかぬ雫が滴り落ちた。
「ふ、ふは……ハハハッ……! 暇つぶし、だと……? この私を……貴様の退屈を凌ぐ玩具として生かすというのか、五条悟ッ……!!」
床に血を吐き散らしながら、顕の口から漏れたのは掠れた狂気の笑いと、地獄の底から響くような怨嗟の叫びであった。
「覚えておけ……! 命を拾われたこと、感謝などするものかッ!! 貴様がどれほど高く飛ぼうと、六眼を誇ろうと……私は必ず、貴様の喉元を食い破る死神となって舞い戻ってやる……!! 貴様のその高慢な蒼い眼を、この手で抉り出してくれるわッ!!」
その夜。命を拾わされた惨めさと狂乱、そして激越たる怨嗟の末に、顕は五条家の屋敷を脱走した。
二年前のあの暗い夜、顕は五条家を捨て、悟への狂おしい憎悪だけを胸に抱く呪詛師へと身を落としたのである。
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暗い夜の静寂が支配する部屋の中、顕はただ一人、刃を研ぐように己の呪力を練り上げていた。
十年前の失脚。二年前の屈辱。
あの日、八歳の五条悟に全てを踏みにじられ、命を拾われたあの日から、顕の時間は止まったままであった。
五条家を脱走し、暗闇を生きる呪詛師となって二年。身を隠しながら請け負う凄惨な仕事の数々は、彼にとって己の『蝕域呪法』を研ぎ澄ますための過酷な実験場に過ぎなかった。自身を中心に球体状の暗黒空間を展開し、外部の視界を捨て、ただ感知と殺意のみで対象の存在ごと万物を削り取る。無限の壁すら食い破るために磨き上げられた漆黒の領域は、二年間の血と狂気によって更なる惨烈さを増していた。
「五条悟……必ず、貴様のその高慢な眼を抉り出してやる……」
口から漏れるのは、粘着質な呪詛と怨念。
顕の瞳には、かつて五条家最強と謳われた誇りの欠片もなく、ただ「太陽」を地に引きずり下ろすことだけを望む狂執の闇が深く沈んでいた。
そんな折、顕のもとへ闇の仲介者経由で一つの奇妙な暗殺依頼が持ち込まれた。
ターゲットは、御三家が一角・加茂家の人間。
だが、名を馳せた相伝術師でもなければ、当主の座に近い重鎮でもない。加茂家の奥底で忌み子として蔑まれながらも、異質な力を異形のごとく振るい始めているという十五歳の少年——加茂帝我。
仲介者が差し出した薄暗い資料の写真を、顕は冷淡な眼差しで見下ろす。
そこに写っていたのは、年不相応に冷徹で、周囲の全てをなめ腐ったような不遜な眼光を宿す青年の姿であった。
「加茂の忌み子……か」
御三家という血統の呪縛。家柄と天賦の才だけが全てを決定づける歪んだ呪術界。
顕の胸中で、かつて自分を打ち捨てた五条家の老害どもの顔と、目の前の資料に記された「加茂帝我」という存在が静かに交錯する。
「……フッ、面白い。五条悟へ辿り着くための余興としては、悪くない暇つぶしだ」
顕の口元に、歪んだ笑みが浮かぶ。
狂気の暗黒を纏う元五条家の異端と、加茂の影に潜む不吉な異形。
交わるはずのなかった二つの牙が、闇の中で静かに噛み合わさろうとしていた。
オリキャラ、ンドゥールっぽい奴かと思ってた奴ら残念だったなぁ!?
正解は