生きたければ飯を食え~とある料理人の異世界繁盛記~ 作:混沌の魔法使い
メニュー6 ホットドッグ
リオンさん達が店を出た後は分っていた事だがお客さんは殆ど来てくれなかった。ちらりと店内を覗いて行く人はいたけど、店の中にまで入ってきてくれる人は残念だけど1人もいなかった。
「まぁ初日はこんなもんだろうよ」
「ですかね?」
もう少しお客さんが来てくれると思っていた私に対してカワサキは今の状況を予測していたのか、落胆した様子を見せず羊皮紙に何かをメモしている。
「何をしてるんですか?」
「欲しい道具とか調味料を考えてた。1回こうしてメモしておくと後であれがない、これがないってなることもない。あとどこに何が売っているのかって言うのも分らんから探す時は頼むぞ」
「はい! 任せてください」
私に出来る事は余りないけれど、カワサキがその腕を十全に振るえる環境作りは雇っている私の仕事だ。これでも顔は広いし、カワサキが探している物も見つけることが出来ると思う。
「あーあの食材を細かくする機械ですが……あれ、私とロウガで壊しちゃったんですよね……」
「もう1回買えたりしないか? それか修理とか」
何とかしないとと考えて、お爺ちゃんの真似をした時に壊した機械。カワサキはその機械がどうやら欲しいらしいのだが……。
「エルドの商人が来たら買えると思いますけど……エルドの国の人は中々こっちに来ませんし、来ようともしないですしね。おじさんに声を掛けてみますけど、今すぐは難しいかもしれないです」
「そのエルドって国に行くのは?」
「いやあ……無理ですよ、あの国は基本的に人間が行くのは難しい国ですから」
海上王国エルド。あらゆる道具を作り出したとされる異形の神カルシュファム様を絶対の神として崇拝する国で、魔族やドワーフ、龍人、ダークエルフなどの所謂「人ではない」種族の国だ。別に外交がない訳ではないけれど……行こうと言い出してすぐ行ける国ではないのだ。
「人種差別とかでか?」
「あーいえ。そうじゃないんですけど……行きだけで最低半年は掛かりますよ?」
「……確かにそれは無理だな。そんなに遠いのか?」
「遠いって言うか、神様の技術で作られた移動国家なので、今どこにあるのかも分からないんですよね」
技術で作られた海上の王国なので魔法や、使い魔、空を飛んで向かうのが基本。しかも飛んで行ったとしてもいつも海上を移動しているので見つけるのも困難なのでエルドに向かうのは非常に困難なのだ。と私が説明するとカワサキはファンタジー極まれりだなと苦笑いを浮かべていた。
「1ヵ月後の極東の姫の来日に合わせて来てくれるかもしれませんけど……それでもすぐは使えないと思います」
「そうか……爺さんの伝に頼るしかないわけか……あると色々と楽なんだけどな……」
凄く落胆している様子のカワサキを見て、私とロウガのやらかしはとんでもなかったのだと改めて実感した。
(不味い不味い……なにか、何か……)
カワサキのメモを見てカワサキが欲しがる物で何とかフォローをッ! と思っていると羊皮紙を見つめ、私は思わずあれ? と声を上げた。
「米……あんなの欲しいんですか?」
硬い麦みたいな奴、極東の主食らしいけどお爺ちゃんでも上手く使えなかった米。それが欲しいのかとカワサキに尋ねると凄まじい勢いで顔を上げた。
「勿論米だけじゃない、醤油や味噌も欲しい」
「醤油……ああ。あの極東の人がたまに売ってる辛くて黒い水ですか」
調味料とは聞いているが、辛いし色が黒くなるし全然使われない黒い水――醤油をカワサキは欲しいと言うことに驚いた。だが醤油の事を言った私へのカワサキの反応に更に驚かされた。
「欲しい! めちゃくちゃ欲しい! 米と醤油があれがあれば俺は1ヶ月といわずにギリアム・ウェルナを有名店にする自信があるッ」
子供のように目を輝かせて米と醤油が欲しいというカワサキ。その顔自体は子供に見えたが、その目は爛々と輝いていた。自分の料理に絶対の自信を持ち、誰に食べさせても美味いと言わせて見せると言っていたお爺ちゃんの目にそっくりだった。
「分りました! 明日で店が来るのでそこで買いましょう!」
リオンさん達のモーニングセットの分とお弁当の代金だけで予算は不安だけど……私はお爺ちゃんにそっくりな目をしたカワサキに賭けると決めた……んだけど。
「ちなみに米で何が出来るんですか?」
「冒険者が飛びつく物が作れる。牛丼とかカツ丼とか焼肉丼とか、断言する。男の冒険者は昼飯をここ以外で飯を食わなくなるッ」
丼が何か分らないけど相当なレパートリーがあるみたいだ。これなら大量に買い込んでも大丈夫かな? 手持ちのお金と心の中で相談していると店の扉が勢いよく開いた。
「小僧! 飯を食いに来たぞ!」
「レナちゃん! 営業再開おめでとう!」
「朝ご飯を食べに来たよ」
「へー本当に極東の人だ。どんな飯を食わせてくれるのか楽しみだな」
「いやあー誰かの作るご飯を食べるなんて久しぶりだねぇ」
「疲れてるから美味い飯が楽しみだよ! よろしくな極東の人ッ!」
おじさんが知り合いの人を沢山連れて朝ご飯を食べに来てくれたおかげでお金の不安は解消した。それに……。
「ミキサー? ああ、確かあるよ」
「お? お前の言ってるのは良く分らんが、確かそんなのあったぞ? 持って来てやろうか?」
「面白そうな道具だな! よっしゃ! 俺が作ってやるぜッ!」
この街で長く商売している市場の皆の人脈や、貰いはしたが使わなかったという事で放置されていた調理器具、それにカワサキが自分の世界で使っていた調理器具を作ってくれるという人まで出て来てくれた。
「野菜が欲しいならあたしに任せておくれよ、これでもドルイドだからね! 野菜つくりは任せておくれ」
「ドルイドだと野菜が美味くなるのか?」
「そりゃそうさ! 魔法で土の状態を良くしてやれば野菜も元気に育つ。美味い野菜を作る農家には腕の良いドルイドが付き物さ」
「なるほどなあ……勉強になる」
ドルイドの説明を聞いてしみじみと頷いているカワサキを横目に、皆を連れてきたおじさんに向かって頭を下げる。
「おじさん。ありがとう皆を連れてきてくれて」
お爺ちゃんと同じでこの街の顔役でもあるおじさんの助力がなければここまでお客さんは来てくれなかったに違いない。私とカワサキだけの力ではこんなに早く起動に乗ることはなかった。だからおじさんには感謝しても仕切れない。だがおじさんは私の頭をわしゃわしゃを撫でながら気にするなと笑ってくれた。
「俺は連れてきただけだぜレナ。あいつらが力を貸そうと思ったのはカワサキなら公益社の連中を何とか出来る。そう思わせることが出来たからだ。礼を言うのは俺じゃねえよ」
「うん……分ってる」
私とカワサキが出会ったのは偶然だ。だけどその偶然がこの街を、サガーク公益社が支配しようとしているこの街を何とかしてくれるかもしれない……何の理由も根拠もないのに私は不思議とそう感じていた。
「レナー。出来たぞ! 配膳してくれッ!」
「はーい! 今行きまーすッ!」
昔お爺ちゃんの店を手伝っていた時ほどの活気はない。だけど私が1人だけで試行錯誤していた時よりも多くの人がいる。
(1人でやろうとしていたから駄目だったんだ)
おじさんが手伝ってやろうか? と心配してくれた時も、ソラおばさんが声を掛けてくれた時も私は「大丈夫」と笑った。だけどあれは大丈夫じゃなかったんだと思う。私1人で何もかもやろうとして上手く行く訳がなかったのだと思い知らされた。
「お待たせしました。モーニングです」
「おほッ! 思ったよりしっかりしてるじゃんッ! こりゃ美味そうだッ!」
「違うな。俺の料理は美味そうじゃない、美味いんだ」
「はっははははッ!! そりゃ悪かった! 美味い料理食わせてもらうよ、兄ちゃん!」
「レナちゃーん! お店再開したんだって!? 私も来たよ!」
「カリンさんいらっしゃいッ! こちらへどうぞー」
店が再開したと聞いて訪ねてくれる顔馴染みの人達、そして美味しいという声と笑顔が広がる食堂――これだと、これが私が見たかった光景であり、守りたかった物で、私1人では守れなかったものだと実感した。
「まだご飯食べれるかな?」
「はーい! 大丈夫ですよ! ようこそッ! ギリアム・ウェルナへッ!」
そして美味しいという声につられてやって来たお客さんを私は心からの笑顔で出迎えるのだった……。
今日の依頼は簡単なモンスターの駆除でした。正直に言えばリオンさんが引き受けるような依頼ではなく、ムーナさんの新しい武器のテストと僕の為の依頼でした。
「ベジュッ! ホーンラビット相手に真正面に立つな馬鹿ッ!」
「は、はいッ! 分ってますッ!!」
「グルウッ!!」
ロウガさんのアドバイスがなくても分かっている。額に1本の角を持ち、恐ろしい脚力を持つホーンラビットですが、直進しか出来ないという弱点があり決して強いモンスターではないんですけど……。
「とっとッ!?」
運動神経があんまり良くない僕ではそのダッシュに反応しきれず、軽く脇腹を裂かれてしまった。
「馬鹿ッ! もっと余裕を持って動けッ!」
「は、はいいッ!!」
脇腹を押さえながらもホーンラビットに視線を向ける。鼻息荒く、後ろ足で地面を掻いているホーンラビットの姿勢が低くなった瞬間に横っ飛びする。
「ギャンッ!?」
「よーしそうだッ! 相手の動きを良く観察しればそうそう怪我なんてしねぇッ! 覚悟を決めろッ! 兄貴みたいになるんだろッ!」
「は……はいッ!」
角が大木に刺さってもがいているホーンラビットに向かって右手を突き出し、左手で右手首を掴み意識を集中させる。
「喰らいつけッ!!」
「あ、馬鹿ッ! それは駄目だッ!」
ロウガさんの叱責が飛ぶが、既に僕は魔法を使ってしまっていた。右手から放出された魔力が狼の頭部を模した形状に変わり、ホーンラビットの首元に喰らいつくと同時に炸裂しホーンラビットを消し飛ばし……。
「あいたッ!?」
「角まで消し飛ばしてどうすんだ馬鹿ッ! 換金素材までふっ飛ばしちゃ駄目だろうがッ!」
「うう……す、すみません……」
ロウガさんに拳骨を落とされ頭を抑えて蹲る。地元では獣人の魔法使いは少なく、獣人で神官になったとリオンさんを頼ってディナプトまで来て、事情を説明して入団を認めて貰いましたけど……リオンさんの指導を受けても僕の魔法の腕前は上達しなかった。
「そう言うなロウガ。魔法が形になって来た点は評価出来る」
「団長でも理解不能の魔法形式だし、暴発は視野に入れておけって言われてるでしょ? ロウガ」
「いや、分ってるんだぜ? でも乱戦で巻き込まれるって可能性を考えるとよ、練習の段階から意識させた方が良いと思ったんだよ」
リオンさんでも理解出来ない魔法……それが僕の魔法だ。既存の魔法は精霊と契約し精神力を対価に魔法を発動させる。契約した段階で魔法の構築式は無意識に習得出来るのが普通なのだが……。
「古代魔法ですもんね……しかも安定性が皆無ですし……ロウガさんの心配も分かります」
僕は普通の魔法は使えない。言葉が魔法の構築式になり、それを僕のイメージと魔力で魔法として出力される。つまり僕は魔法を使う度に毎回構築式を自分で作らないといけないのだ。それ故にコントロールが難しく、威力のかなりぶれ幅が大きく安定しないのだ。ロウガさんのいう通り味方を巻き込む可能性が余りにも高いのも事実なのだ。
「いや、俺は良いんだぜ? 避けれるし、でもよ。ほかの冒険者と連携することを考えるとな……もう少しコントロール出来たほうが良いんじゃないかって思うだけだぜべジュ。だがまぁほれ、威力は安定して来てるし! 後ちょっとだって……多分」
「うう……が、頑張ります」
ほかの団員が付き添い拒否。ムーナさんとロウガさんとリオンさんだけが同行してくれるのはやはり僕の魔法の制御が余りにも危ういからだ。
(少しでも早くコントロール出来るようにならないと……)
リオンさんにも迷惑をかけているし、他の団員にも迷惑をかけているので何とかしたいと思っているけど、前例がない魔法なので上達の糸口すら見えないのが現状だ。
「次に行くぞ。小型モンスターを余り狩り過ぎるなよ。大型モンスターが街道に出現しやすくなるからな」
リオンさんの指示に頷き、再び森の中へと足を踏み入れる。今回の依頼内容は増えすぎたモンスターの討伐。口にするのは簡単ですが、実行するのは経験と深い知識が必要になる専門的な技能が必要な依頼です。
「レッドベアね。どうします? 団長」
「あれはそのままで良い、子連れのモンスターはヘタに討伐すると親が凶暴化する。討伐依頼なら良いが、今回は間引きの依頼だ。無理に
手を出す必要はない」
「じゃあハウンドウルフは良いだろ? 兄貴」
「ベジュには少しレベルが高いが……良いだろう、2人でやってみろ」
「うっし! 行こうぜベジュッ!」
「は、はい!」
ロウガさんに連れられてハウンドウルフの討伐に挑んだんですけど……。
「切り裂け……あ……」
「ガアアアッ!!」
さっきの反省でもう少し威力を調整したせいでイメージが弱くなったのか、攻撃とも呼べない弱い一撃になってしまった。そのせいでハウンドウルフが更に凶暴化し、凄まじい勢いでこっちに突進してくる。
「だーッ! 全然駄目じゃねぇかッ! オラアッ!!」
切り裂けという言葉と共に発動した魔法はハウンドウルフの毛皮に弾かれ、飛び掛って来たハウンドウルフの横っ面にロウガさんの回し蹴りが叩きこまれ、呻き声と共にハウンドウルフが吹っ飛び木に叩きつけられて絶命する。
「うう……すみません」
「怒ってねえよ。だけどやっぱりお前の魔法って使い勝手悪いよな……イメージが弱くなると全然威力も出ないしよ」
「それに言葉の選択も大事だしね。前の爆発しろはちょっとやばかったわね」
「ううう……すみませんすみません」
数日前の依頼で慌てて爆発しろと叫んで魔力を暴発させて周囲を焼け野原にした事を思い出し、僕は小さくなりながら謝罪の言葉を繰り返し口にするとリオンさんが僕の頭に手を置いた。
「失敗を糧にすればいい。同じ失敗は2度しなければ良い、それに失敗しなくては何が駄目かも分らない。失敗は成功の糧にすればそれは
意味のある失敗だ。ロウガもムーナも駆け出しの時は同じだったんだ。最初から何もかも上手く行く奴なんて居ないんだからな」
「は、はい! が、頑張りますッ!」
「でかい獲物は弱らせてやるからちゃんと狙ってやれよ!」
「こっちも毒矢で弱らせてあげるから頑張りなさいよ、ベジュッ」
「は、はい! よろしくお願いしますッ!」
失敗続きの僕だけど見放さずに頑張れと言ってくれるリオンさん達。失敗続きで、思うように魔法もコントロール出来ないのに仲間として受け入れてくれているリオンさん達に失望されないように頑張ろうと僕は気合を入れたんですけど……。
「ふむ。やはりコントロールと威力が問題か、イメージとやらはどうやって鍛えれば良いんだろうな……」
「わかんねぇなぁ……なんかこうちゃっちゃっと出来ないもんかねぇ……」
「それが出来れば楽でしょうに……でもどうしたら良いのかしらねぇ……」
「すみませんすみませんすみません」
気合を入れても上手くいく訳ではなく、半日戦った間に成功と呼べたのは片手で数える程度で、獣人族の天才と呼ばれるリオンさんでさえも解決策が見出せずどうすれば良いんだろうなと頭を抱えるリオンさん達に向かって何度も何度も頭を下げるのでした……。
ダークエルフと魔族の国である地下王国メラディナの近くの生まれのベジュは古代魔法に分類される魔法を生れつき習得しており、同族は勿論。メラディナの魔法使いも指導できず、獣人族の神童と呼ばれていた私を頼ってディナプトまで遠路はるばるやってきた。私もベジュの苦労を知って何とかしてやろうとは思っているのだが……。
(言霊とイメージ……か。さてどうしたものか……)
言葉が構築式でイメージは指向性を持たせる物という所までは分ったのだが、今日の依頼はベジュとムーナを中心にやらせたがベジュの魔法の威力はぶれ幅が余りに大きく実践的ではなかった。
「兄貴とか俺の攻撃を魔法のベースにするのはどうよ?」
「リオンさんとロウガさんは強いっていうイメージが強くて、それに引っ張られて制御不能になるんですよ。じゃあ他の団員の人の訓練を
見てやってみようと思ったんですけど……」
「練習ってイメージがついちゃって威力がでないと」
「うう……そうなんです」
私やロウガ、私のギルドの上澄みの攻撃を参考にすれば威力がありすぎ、かといってルーキーの攻撃を参考にすれば牽制にもならない……ベジュの魔法はイメージが全てだ。攻撃だけではなく、回復や補助も出来る可能性がある以上早くコントロール出来る術を見つけてやりたい所だな。
「焦る事はない。皆でアイデアを出しながら考えれば良い。それより昼食にしよう。ロウガ弁当を出してくれ」
「待ってましたッ!」
ベジュはまだディナプトに来て数ヶ月。新しい技術を物にしようとしているのだからそう焦る物じゃないと話を切り上げ、カワサキが用意してくれた弁当をロウガに出すように頼み近くの切り株に腰掛ける。
「おおッ! 兄貴見てくれッ! 美味そうだぜッ!」
目を輝かせてバスケットをこちらへ向けてくるロウガ。バスケットの中には細長いパンに太いソーセージとキャベツが挟まれた物と炒めた卵とソーセージが挟まれた物が2本ずつ用意されていた。
「これもお弁当みたいですね」
ムーナが4つの箱を取り出して、それを1つずつ私達へと配る。ソーセージが挟まれたパンが2つと料理のセットと言っていたが……一体何が入っているのかと期待しながら蓋を開ける。
「おほっ! すげえッ!」
「確かにこれは凄いわね。値段設定間違ってないかしら?」
パスタと揚げられた2種類の肉が箱の中に敷き詰められていた。当然銀貨8枚で買える内容ではない。
「少し口引きしておくか、もう少し値段設定を上げても良いと」
「ですね。これだと利益は殆ど無いでしょうし、カワサキさんもレナさんも余り商売には向いてないのかもしれません」
違いないと思わず笑ってしまう。冒険者は外で活動する事が多いので当然食事困ることが多い。獲物を自分で捕らえて料理することもあるが塩を掛けて焼くか、煮るくらいだ。だからそういう冒険者を相手に商売する行商人がいる。だがモンスターがいる危険域にまで売りに来るので当然値段は高くなる。そうなると依頼両を貰う所か払うほうが大きくなってしまうこともあるくらいだ。冒険者の事を考えた商売というのは悪くないが利益が余りにも少なくなってしまうのでもう少し値上げするように助言するべきだろう。
「これからはカワサキに頼めば良いな! いただきまーす」
ロウガが笑いながらバスケットからパンを取り出し、大口を開けて齧り付いた。
「うっまッ!? このソーセージめちゃくちゃ美味い! それにこの赤いソースも美味いッ!」
よほど美味いのか大声を出すロウガ。同じ様に休憩していたほかの冒険者の視線がこちらに向けられるのを感じる。
(なるほど、これが狙いか。商魂たくましいな)
私達が食べている事自体がギリアム・ウェルナのアピールに繋がる。私が通ってる店ということで見に行って見るかという冒険者が増えるのでこの弁当は善意ではあるが、純粋な善意だけではない。1ヵ月後に向けての準備も兼ねていた。
「ん、この卵の奴美味しいわね。このなにかしら? 独特の色のソース。酸っぱいのに甘くて何か癖になるわ」
「多分自家製のソースなんですね。こんなの食べたことないですし」
ムーナもベジュも絶賛しているので卵とソーセージが挟まれているパンを手に取り齧り付いた。小麦の香りと甘さを感じられる柔らかいパンに、香辛料をたっぷり使ったスパイシーなソーセージ、そしてムーナとベジュが美味いと言っていた独特の色のソース。
「なるほど、美味い」
「だよな! やっぱり美味いよなあ兄貴ッ!」
派手ではない、それこそ家でも作れるような簡単な料理だ。だがそれが返って美味いと思わせてくれる。
「なんか不思議。お母さんとかが作ってくれた料理みたい」
「あ。それ何か分ります。なんか……上手く言えないんですけど優しい味なんですよね」
私に振舞ってくれたように王都で食べれるような高級志向な料理もカワサキは作れるのだろう。だがカワサキはそれではなく、あえてどこか懐かしい、例えるのならば実家や故郷で食べるような料理を出してきた。
「……美味い」
引き肉が大量に詰め込まれパンパンになったソーセージ。それは子供の時に母が作ってくれた物を連想させる。
「いや、これ本当に美味いなあ……すげえ懐かしくて美味い」
「分る。なんなのかしらね、この感じ」
「優しい料理だからじゃないですかね。僕はそんな気がします」
「その通りだな。私もそう思う……ただマスタードは多すぎだ」
マスタードが多すぎて辛いなんて物じゃないパンを齧った私の一言にロウガ達が笑い出す。昼からもモンスターと戦わなければならないので気を緩めすぎてはいけないが、それでも適度にリラックスしながらもう1口齧ったパンは冷めているのにとても美味く感じた。
「この揚げ物も良いな、歯応えがあって美味い」
塩胡椒で味付けされたシンプルな豚肉を揚げた物は肉らしい歯応えと豚の旨味と甘みが衣の中に閉じ込められていて実に美味い。上に掛けられているトマトのソースも良い、トマトの酸味と甘みが衣に染み込んでいて豚の味を1ランク上げている。
「兄貴。俺はこの鶏肉を揚げた奴が美味いって思うぜ。なんだろうな、塩とにんにくだけなのにめちゃくちゃ美味いッ」
ロウガが美味いという鶏肉の揚げ物。それを1つ摘んで頬張って噛み締める。時間が経っているはずなのにカリカリの衣に包まれた鶏肉は噛み締めると肉汁が口の中に溢れ出す。味付けはロウガのいう通りにシンプルに塩と胡椒とにんにくだけなのに驚くほどに美味い。
「このパスタも美味しいですね。ソースは多分豚肉の揚げ物と同じだと思うんですけど……」
「味の深みが全然違うわね。それにソースが殆どないパスタってあんまり見ないわよね」
パスタに揚げ物に使っているのと同じソースを使い、それを絡めながら炒めたパスタはなんというか安っぽい味なのだが……。
「不思議と舌に馴染むな」
具材は玉葱とピーマンと薄切りにされた燻製肉とどこでも手に入るものだ。だがパスタに絡まっているトマトのソース、それが具材の旨味を纏め上げていて安っぽいのになんともいえない旨味を感じさせてくれる。
「これパンに挟んでも絶対美味い! 俺今度作ってもらおうっと」
「今食べてるのにもう次の話? でもまぁ……確かに美味しいかもね」
このパスタを挟んで食べるサンドイッチもロウガの言う通り美味いだろうなと思いながら口についたソースを拭う。すると俺達の反応を見ていて我慢しきれなかったのか若い冒険者が私達に近づいてきた。
「あのリオンさん。その弁当どこの行商ですか?」
「ギリアム・ウェルナだ」
「え? ギリアム・ウェルナ再開してるんですか!?」
「ああ。良かったら明日行ってみると良い。腕の良い極東の料理人がいるぞ」
私達の反応を見てどこで買ったのかと尋ねてくる同業者にギリアム・ウェルナの事を紹介しつつ地図を広げる。
「キラービーの出現情報が多い。あれはモンスターでも死ぬほどの猛毒だ。確実に処理する」
「分かったぜ兄貴。それで蜂蜜はどうする?」
「あれは高く売れるが、カワサキに持っていけば何か作ってくれるだろう。私達で回収しよう」
キラービーは巨大な蜂のモンスターで毒を持つが、キラービーが集める蜂蜜は高値で取引されるが、カワサキならば何か美味い料理にしてくれるだろうし、レナ嬢の助けにもなるだろうから今回は持ち帰ることに決めた。
「となると甘い物ね。どんなのを作ってくれるか楽しみ」
「なんかホットケーキとか言うのを作ってたけど美味かったぜ。ムーナ」
「ならなおの事楽しみね」
「僕はキラービーの前に行くのが怖いですよ、ロウガさん。ムーナさん」
「余り気を緩めるなよ。よし、では出発ッ!」
私の号令で顔を引き締めたロウガ達を引き連れ、私達は再び神域の森へと足を踏み入れる……。キラービーの巣の密集地帯は神域の森でも深い場所にあるのでそこを目指して進んでいたのだが、途中から雲行きが怪しくなってきた。
「リオンさん。やっぱりちょっとおかしくないですか? 神域の森に出現しないモンスターがちょっと多くないですか?」
「確かにな、アンデッド系のモンスターが出てくるのは俺もおかしいとは思ってたんだ兄貴。こんな事あるのか?」
神域の森はその名の通り神聖な魔力が満ちている森とされている。神アルパーナの神殿もある事でアンデッドや悪魔と言ったモンスターは出現しない筈なんだが……ここに来るまでに何度もスケルトンに襲われている。下級スケルトンならまだしも、剣や弓矢を持った個体まで出てきた。さっきなんかは全身鎧を身に纏った個体まで出てきた事を考えるとここら辺が引き際だろう。
「確かに異常事態だ。1度戻ろう」
「それが良いと思います。森のざわめきが大きくなって来てる……凄い嫌な予感がします」
間引きと調査の依頼だったが、アンデッドが出現してくると今のままの装備では心許無い。キラービーの討伐も急務だが、アンデットの出現という異常事態は一刻も早くギルドへと報告し、ディナプトの冒険者にこの情報を共有しなければならない。
「急ごう。日が暮れるとアンデッドが活性化する。今のままだと危険すぎる」
日が大分傾いて来ている。このままだとアンデッドが活性化した森の中で一晩を過ごす事になる。装備が万全なら不可能では無いが、4人しかいない事、そして装備が心許無い事を考えれば日が出ている内に撤退するしかなかった。
(カワサキの事と良い、アンデッドの出現と良い……何が起きている?)
結界が張られている筈の神域の結界からカワサキが出てきた事、そして出現しないはずのアンデッド種のモンスターの出現。間違いなく何かがこの世界で起きようとしているのを感じ取りながら私はロウガ達を連れて着た道を引き返していくのだった……。
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