生きたければ飯を食え~とある料理人の異世界繁盛記~ 作:混沌の魔法使い
メニュー7 アイスクリーム
レナに祖父の伝で俺の予想よりも多くの客が来てくれたのは嬉しい誤算だった。正直に言えば祖父がおらず追詰められているレナをだましているのではないか? と警戒されると思っていたのでこれは本当に嬉しい誤算だった。だがその嬉しい誤算は朝時だけで今ギリアム・ウェルナは閑古鳥が鳴いていた。
「全然お客さん来てくれないですね」
「朝が順調すぎただけだ。俺としては朝の売り上げでも驚いてるよ」
朝訪ねてきた客は全部で22人。売り上げとしては銀貨25枚と銅貨が40枚ほど……円じゃないから良く分からんが、売り上げとしてはそう悪くないと思う。
「もう少し儲かるかなあって思ったんですけどねぇ……」
「暫くは朝と夕方が勝負所だ。狙いは冒険者だからな」
米があれば昼時も勝負時だが、今の段階では朝のモーニングと依頼から帰ってきた空腹の冒険者が主なターゲットだ。だからそのターゲットがいない昼間で儲けようっていうのが今は高望みというやつだ。
「昼間の客をとるにはまだ知名度が足りないからな」
朝はやっている店が少ないので来てくれたが、昼間は有名な店も開いているので長い間休業していたギリアム・ウェルナに来ようと思う、あるいはギリアム・ウェルナが再開していると知っている人が少ないのも暇な原因だと俺は考えている。
「お爺ちゃんがいた時はお昼もお客さんが来てくれたのにい……」
「それでも爺さんとか来てくれたじゃねぇか」
「身内じゃないですかぁ……」
「最初はそんなもんだ。まぁこれからこれから」
客の半分くらいはレナの身内だったのでこれからの営業の為の資金を客という形で落として行ってくれたのだろう。これでそれなりの食材を集める事が出来ればまた次の手が打てる。
「レナ。シチューとかは売れるのか?」
「シチューですか? んー牛乳臭いから私はあんまり好きじゃないですね」
「じゃあ牛乳臭くないシチューならどうだ?」
牛乳臭い理由として考えられるのは高温で加熱しているとか、牛乳が多すぎるとか、牛の加齢とかが考えられる。臭いを消すとなればハーブ類やチーズ等を加えたり、香味野菜を多く使うとか、そういう方法である程度は改善出来る。
「それならまぁ良いかな? でも好んで頼むことはないかなあ……あ、でもカワサキが作ってくれるなら飲んでみるよ?」
俺の表情を見て飲むとは言ってくれたがあんまり乗り気じゃないのはその表情を見れば分る。
「いや俺が作れる料理で何が受けるかなって思ってな。じゃあビーフシチューはどうだ?」
「ビーフシチュー……ですか? シチューと何が違うんです? 牛肉を使うとビーフシチューになるんですか?」
「あーうん。それだけで分ったよ、ありがとう」
レナはビーフシチューは知らないようだ。高級志向のレストランや王都ならあるかもしれないが……いや、ここにもあったが値段が高くて根付かなかったのかもしれない。
「じゃあカレーはどうだ?」
「カリーですか! あれは良いですねー。たまに舟で来る商人さんが売ってる時がありますけどパスタの上に掛けたり、パンにつけたりしても美味しい……あ、もしかして作れるんですかカリー!?」
「作れるぞ、香辛料も揃えてるからな」
「それ良いですね! カリーは売りになると思いますよ!」
カリーは露骨にテンションが上がったのでカリーは売り物として成立すると羊皮紙にメモする。今日の客の反応、そしてレナの反応を見てどんな料理がこの街の住民に受けるのかのある程度の指針は出来た訳だが……。
(米がないカレーはテンション下がるよなあ……)
俺としてはやはりカレーは米の上に掛けて食べたいと思ってしまう。やはりこれは日本人の性だと苦笑する。
「もうお米買いに行きます? ちょっと予算も使う事になりますけど……必要なら買いましょうよ」
「いや、今はまだ良い。ある材料でやりくりしよう、買うなら調味料で良い」
レナがいるから冷蔵庫が使える。それは紛れも無いメリットであり、他の店にはない特色だ。他の店は仕入れ多分をその日の内にほぼ使いきらなければならず、古い食材はスープや煮込みに使われる。だがレナの氷の魔法で食材の鮮度を維持出来るので料理のバリエーションを広くもてるのが大きな利点。その利点があるので自家製ケチャップなども大量に作って保存出来ている。確かに米は欲しいが、まだ営業再開して1日目――米があれば冒険者が喜ぶであろうガッツリとしたメニューも出せるようになるが、知名度がない中で、しかも不味いという先入観をもたれている米を買い込むのはリスクが大きい。
「米に関してはロウガやリオンに試食して貰ってからで良い、少しは味の調整もしたいしな」
「でもお米と醤油があれば有名にする自信があるんですよね?」
「それは勿論ある。だがこれで大人気になって食材が足りなくなったりしたら評判を落とす事になる」
丼やレバニラなどのメニューで冒険者の胃袋を掴んだとして、それを提供出来ないとなれば評判を大きく下げる事になる。
「まずはしっかりと準備して、足場を固めてからだ。まだ1ヶ月はあるんだ。そう焦ることはないだろ?」
「でも朝だけの営業じゃ……それに本当に1ヶ月で何とかなるんですか?」
長い間苦労していて上手く成果が出せなかったレナからすれば1ヶ月「も」ではなく、1ヶ月「しか」ない。それに俺に自信があってもレナには自身の根拠が分らないから不安になっているのだろう。
「良し、分った。じゃあ今から人気が出るであろう物を作るか!」
「人気が出るものですか……あ。もしかしてパンケーキですか?」
「いやあれよりも人気が出るかもしれないぞ? レナがいるから出来る冷たくて甘い菓子だ。どうだ? 冷たくて甘いお菓子食べたくないか?」
湿度は低いがそれでも太陽の日差しはかなり暑い。厨房から出ていてもじんわりと汗を掻いている時にこそ冷たいアイスクリームが美味しくなる。
「甘くて冷たいお菓子なんて作れるんですか!?」
「簡単だぞ。レナが氷魔法が使えるから出来るもんだ。今から教えてやるからレナも作れるようになる、厨房に来いよ」
「は、はい! 今行きますッ!」
レナの不安と自信の無さは今まで何をしても失敗して来たからだ。なら少しでも前を向けるように、自信を持てるようにレナにしか作れない料理を教えてやろうと思ったのだ。自分にしか作れない、そしてそれが人気になれば間違いなくレナの自信になる。過信は良くないが、それも自信があれば前を向ける。失敗の連続だったレナには今成功の体験が必要だ。
「やっぱりバニラエッセンスとかも欲しいなあ」
エプロンを掴んで厨房に入ってくるレナを横目に俺は冷蔵庫から材料――牛乳と卵を取り出した所で思わずバニラエッセンスが欲しいと呟いてしまうのだった……。
おじさんや市場の皆が訪ねて来てくれたおかげで銀貨25枚と銅貨40枚とかなりの額を稼ぐ事が出来たが、材料の仕入額などを考えると完全に赤字だ。私が獲物を捕まえてきてるから肉関連は問題ない、調味料はしばらく買い足さなくても大丈夫。だが野菜などはいくら氷の魔法で食材の鮮度をある程度維持出来るとはいえ日が経てば当然鮮度は落ちる。
(大儲けしたい訳じゃないけど、安定して仕入れが出来るだけの予算は欲しい)
カワサキの料理の腕を生かす為には食材と調理器具が必要だ。せめてカワサキが欲する食材を安定してカワサキに渡せるだけの予算が欲しいと思っていた所でカワサキが冷たくて甘いお菓子の作り方を教えてくれるという。しかも私の氷の魔法が無ければ作れないのだと言うのだ。カワサキに頼りきりで申し訳ないと思っていたのでここで名誉挽回と気合を入れて厨房に足を踏み入れたんだけど……。
「牛乳と卵と砂糖だけですか?」
「いや、あと香り付けのブランデーも使うぞ」
「……これで甘いお菓子本当に作れます?」
教えてくれると言っていた甘いお菓子だが、材料を見ただけではとても甘いお菓子になるとは思えなかったのだ。
「作り方自体は火に掛けて混ぜるだけ、まぁ俺を信じて作ってみてくれ。上手くいけばギリアム・ウェルナの新しい売り物になるぞ」
「分りました」
甘いお菓子は希少だ。その上冷たくて甘いなんて間違いなく王都でも食べれる代物ではない、作り方をしっかりと覚えて1人でも作れるようになろうと手帳を手にカワサキの手元に視線を向ける。
「牛乳は500ml。これで大体4人前くらいだ」
重さを量る道具はないのか? というカワサキに教えた計りの前でカワサキが先に錘を乗せて、重量を計りながら説明してくれるのだが、500ml? とかいうよく分らない単位を口にした後に、カワサキはそこから100mlを計り、400mlと100mlの2つに分けた。
「500をつかうんじゃないんですか?」
500を使うと言っていたのに2つに分けた意味が分らなくて、思わず尋ねる。500を使うなら500で使えば良いのに、何故態々2つに分けるのかが私には意味不明すぎた。どうして態々面倒事と洗い物を増やすのかと首を傾げているとカワサキは調理を進めながら理由を教えてくれた。
「全部で使う量は500だが、1回で全部使うわけじゃない。だから2回に分けるんだ」
別々の入れ物に100mlと400mlに牛乳を分け、100mlの牛乳を私の方に向ける。
「ここに卵1つと砂糖100gを加えて混ぜる。これで殆ど作業は終わりだ」
「……え? これだけですか?」
牛乳と砂糖を計って卵と混ぜるだけ……簡単というか馬鹿にしてる? と思うほどに簡単だ。
「これだけって言うがこれからが意外と難しいぞ? 鍋にこの混ぜた卵液を漉しながら入れて、最初に用意しておいた牛乳も漉しながら加えて弱火にしてヘラを鍋の底につけたままゆっくりと焦げないように混ぜる」
カワサキの説明を聞いて私はそれだけ? と思った。本当に簡単なんだなと思った……だけど全然簡単ではなかった。本当にゆっくりと掻き混ぜ、熱せられた牛乳の甘い香りが厨房に広がる。だけどカワサキは全く手を止めない。
「これどれくらい温めるんですか?」
「トロミがつくまでだ。まぁ全然まだまだって所だな」
トロミがつくまでとカワサキは言った。焦げ付かないように、零さないようにじっくりじっくりと火を通す。
(え、まだ? まだ煮詰めるの?)
かなりの時間火に掛けているがカワサキは手を止めない、もう厨房には濃厚なんて言葉で片付けられないほどの香りが充満しているが、それでもカワサキは手を止めなかった。
「良し、こんなもんか。レナ氷作ってくれ」
「あ、はい。分りました」
氷を作るとカワサキはその氷を水を張った桶の中にいれ、その中に鍋底を沈める。
「これで粗熱を取る。この時に香り付けでブランデーを入れて軽く混ぜておくのを忘れるなよ?」
香り付けのブランデーを少量加えてさっと混ぜ、粗熱が取れた鍋の中身をカワサキは金属の箱の中に流し入れて蓋を閉めた。
「後はこれで冷やせば完成だ。多分リオン達が帰ってくる頃には食べれるだろう」
「結構長いですね」
「中途半端に凍ると美味くないからな。それに後で食べる楽しみも出来ただろ?」
「まぁそうですね。どんなのになるのか楽しみです」
何もかも想像出来ない冷たいお菓子――一どんな物が出来るのか本音を言うと楽しみでしょうがない。
「ちなみにこれを発展させるともっと美味い菓子が作れる」
「その話詳しく聞かせてくれます?」
お菓子は基本的に高い、それを自分で作って食べれる。しかも王都でも食べれないような代物を自分で作って食べれる。しかもそれを発展させれると聞いて興奮しない女子はいない。いや、いるはずがない。料理はあんまり得意では無いが、これは絶対に覚えてやると気合を入れる。
「やる気があるのは良い事だ。好物を作りたいっていうのはモチベーションになるからな」
「それじゃあ!」
「でもその前に少し飲食店とかを見て回りたい。どんな店が繁盛しているのか、どんな物が売れ筋なのかとかも1度確認しておきたいんだが良いか?」
「分りました! 後ついでに市場ももう1回案内しますね!」
料理人のカワサキだから店の前を通ったり、出店の品を食べることで分る事があるのだろうと思い。市場とディナプトの街をもう1回案内する。
「何か気になることありますか?」
「ん? リオン達に出す晩の献立を考えていた」
「何を作るんですか?」
「シチューでも作ろうかなとな。俺なりのシチューだ、多分レナ達の知ってるシチューとは全然別物だから期待してて良いぞ」
期待しても良いぞと言われてもなぁ、いやでもただの野菜スープでもあそこまで美味しくしてくれるカワサキのシチューなら美味しいのかな? と不安に思いながら歩いているとカワサキがまた足を止めた。
「そう言えばドルイドがいると野菜が美味くなるって言ってが、あれの事か?」
カワサキの視線の先には杖を持った老婆が畑に杖の先を立てて魔法を使っていた。
「はい。畑に魔力をあげてあげる事で畑の状態も良くなるし、野菜も美味しくなるんです。高位のドルイドが魔力を分けてくれるとやっぱり野菜の質も良くなるんですよ。それでそこで取れた野菜の種を使って育てると質のいい野菜が出来るんです」
詳しい事は知らないけどずっと昔の大飢饉の時にカルシュファム神が人間に与えた知識らしい。大地に魔力を与える事で大地が元気になり、実りが増えるとの事らしい。魔力を与えた土地とそうじゃない土地では明らかに収穫量に差がでたらしく、それから何百年もそのやり方が守られている。
「ふーん。土壌改良と品種改良を兼ねてるのかね」
「まぁ私も良く分らないんですけどね! まぁ皆そうしているので、皆そうしてるんです。さ、次に行きましょう」
「おう。出来れば出店通りとか見て見たいな」
「それなら大通りか、宿場通りですね。こっちです」
また意味が分からない事を言ってるなぁと思いながらカワサキがみたいと言っていた出店通りの前を通り、ぐるっとディナプトの市場を見て回ってギリアム・ウェルナに戻ると店の前に馬車が停まっているのをみて思わず顔が引き攣った。
「ちょっとめんどくさいのがきちゃった……」
「うん? 友達じゃないのか?」
「友達ですよ? 友達ですけど……ちょっと色々癖のある子なんですよ」
悪い子ではないし、頼れる子でもある。だけどそれとは別にめんどくさい相手が私を尋ねてきていた。
「レナさん! お久しぶりですわ!」
馬車から降りて来たのは燃える様な赤い髪をした、青色の瞳の少女……私と同じ冒険者学校の生徒で私の友人の1人。仲も良いし、一緒に実技も行うことも多いが……それ以上に厄介事に巻き込まれることが多いそんな友人が目の前にいたので少し気が重くなってしまう。
「セレス。久しぶり」
「ええ、お久しぶりですわ! レナさんもお元気そうで何よりですわ!」
「元気なのは良いけどちょっと落ち着いて……」
手を口元に当てて高笑いをするセレス……いや、セレスティア・ムーン=ヴェイル。貴族であるヴェイル家の長女であり、私と同じ生まれ付きの魔法使い。高い身体能力に魔法の才能、そして誇りある貴族として己を磨き続ける努力する天才……なのだが……。
「あらッ!? きゃーきゃーッ! レナさん! レナさん! たすけてくださいましーッ!」
「火ーッ!! 火は駄目だってぇッ!!」
「なんで急に火が!? 水か、水を汲めば良いのか!?」
「桶に水を汲んでください! それを使って私が消火しますから!」
「あわわわああーーッ!」
「少しは落ち着きなさいバカーッ!!」
「水はぶっ掛ければ良いのか!?」
「違います! 私の足元に置いてください!!」
私とカワサキの前で髪から火が出て助けを求めているセレスに右往左往しながら私達は必死にセレスが暴走させた炎魔法の鎮火に奮闘した。感情の高ぶりで炎の魔法を暴発させてしまう問題児であり、天才であり、天災、そしてディナプトの周辺の土地を守る侯爵家の娘――それが私の友人セレスティア・ムーン=ヴェイルなのだった……。
久しぶりにレナさんに会えたのが嬉しくて魔法を暴発させてしまうとは……ムーン=ヴェイルの娘として恥ずかしい限りだ。
「ほい。紅茶」
「ありがとうございますわ……」
レナさんが雇っているという極東の料理人の方――カワサキさんが淹れてくれた紅茶を口にして目を見開いた。鼻に抜ける香り、口いっぱいに広がるコクと程よい渋み――どれもが1級品でした。
「ミルクと砂糖ください!」
「レナさん!?」
「あいよ」
「良いんですの!?」
良い紅茶なのにミルクと砂糖をドバドバ入れているレナさん、そしてそんなレナさんに嫌な顔をしないカワサキさんに良いのかと尋ねる。
「美味いと思うように楽しむのが一番だよ。よほど他人に迷惑を掛けないなら俺は気にしない」
「そ、そうなのですか……」
なんというか器の大きな方ですわね。普通はこれほどの紅茶に砂糖とミルクを入れられれば声を荒げてもおかしくないのですが……。
「とても美味しい紅茶でしたわ。私はセレスティア・ムーン=ヴェイルですわ」
「ご丁寧にどうも、改めてレナに雇われている料理人のカワサキだ。よろしく」
黒髪黒目の典型的な極東人のカワサキさんは慣れた手付きでコーヒーの豆を挽いていて、それが少し気になりました。
「極東は緑色のお茶が主流と聞きましたがコーヒーも作れるのですわね?」
「料理を極めたくてな。いろんな国を渡り歩いたからコーヒーだって淹れれるさ」
目付きが悪いから怖い印象を受けますが実際に会話して見るとカワサキさんはとても穏やかな方で、コーヒー豆をゴリゴリとすり潰している姿がなんというかとても様になっていました。
「セレス。魔法の暴発癖全然治らないのね」
「うっ……訓練はしているんですけどね。こればっかりは生まれつきの魔法使いの宿命ですわ」
「生まれつきの魔法使い? それは普通の魔法使いと違うのか?」
コーヒー豆を挽いていたカワサキさんが顔を上げてそう尋ねてきました。思わずレナさんに視線を向けるとレナさんは苦笑いをしていました。
「カワサキは料理の事以外は全然興味ない人だから」
「失礼だな、食材の事も気にしてる」
「それは一緒なのではッ!?」
思わず笑ってしまう。どこか抜けているようで、でもしっかりと人を見ている。カワサキさんの印象はとても不思議な方でしたわ。
「こほん。では生まれつきの魔法使いについて説明しますわ。通常の魔法使いは契約書や、魔法陣を用いて魔法を習得し致します。それに対して生まれつきの魔法使いは精霊に愛されており契約無しで魔法を扱えるのです。威力が出しやすかったり、コントロールしやすかったり、精神力の消費が少なかったりと、大成する魔法使いの多くは生まれつきの魔法使いが多いですわ」
生まれつきの魔法に加えて、契約さえ出来れば他の魔法を扱うことも出来るので相反する属性なども扱える。だからこそ生まれつきの魔法使いは重宝されるのです。
「契約した魔法使いは精霊の臍を曲げるとその魔法が不安定になったりするけど、その点私とかセレスは精霊に嫌われる事は殆どないから安定して魔法を使える。だけどセレスは感情的でそれに引っ張られて魔法が暴発しちゃうの」
「そりゃまた大変だな」
「うう……頑張ってはいますのよ? ただそのちょーっと私の精霊は過保護で心配性なのですわ」
私が泣いたり、怒ったりすると誰が私を苛めたと言わんばかりに魔法を暴発させますし、逆にモンスターを倒してやると気合を入れると魔法の威力を上げたりしてくれるので本当に頼りになる精霊なのですが、どうも空回り気味なのがたまに瑕だ。
「……なんというか大変だな。レナの精霊は?」
「んー? 良くわかんない。そもそも精霊っていうのも迷信みたいなものだし」
「でも精霊はいると思いますわ」
精霊がいる・いないは魔法使いの間でも議題になります。魔法が精霊の力を借りるのだから守護精霊という人もいれば、精霊に自我はないという方もいればそもそも精霊はいないという人もいます。
「それに魔法と言っても詠唱が必要な人、必要ない人、杖が必要な人、必要ない人、使い捨ての紙を使う人もいれば、特定の言葉を発するなど地方や生まれた国によって魔法の体系も違うので精霊信仰のある人も、いない人も居るのも当然ですわ」
「魔法使いと一言に言っても全員違うって事か」
「そういうこと、私も精霊は信じてるけどね。それよりカワサキ。もうお菓子出来てるんじゃない? 私とセレスで味見するよ」
「いや、レナさん。それよりで終わらせて良い話では」
「俺料理人だから詳しく説明されても分からんよ。じゃあアイスクリームを持ってくるから話でもして待っていてくれ」
じゃあ持って来ようかと笑い厨房に消えていくカワサキさん。しかしお菓子……お菓子ですか……。
「レナさん。私はお菓子にはうるさいですわよ?」
「分ってるよ、でもセレスが美味しいって言ってくれるなら売り物になるって思ってね。まぁ楽しみにしててよ、冷たくて甘いお菓子らしいからさ」
冷たくて甘い……? もしやそれは北方の氷菓子では? いや、しかし暖かい地方のディナプトで冷たいお菓子を持ち運ぶのは不可能だ。レナさんの氷魔法でも無理なはずですが……冷たくて甘い菓子とはなんだろうと考えていると私とレナさんの前に小さな皿が置かれた。
「ちゃんと出来てたぞアイスクリーム」
「へえ! これがアイスクリーム……えへへ、どんな味か楽しみだなあ」
レナさんは何でもないように言われますが、私は目の前の皿を前に完全に硬直していた。雪国である北方の地方から冬場だけ運ばれてくる希少な菓子――アイスクリンが目の前にあったからですわ。
「こ、これ……あ、アイスクリンですか!? え、作れるんですの!?」
「そう難しいもんじゃないさ。さ、さ、溶ける前に食べな」
何でもないように言われますが、アイスクリンはヴェイル家の令嬢である私でも早々口に出来ない代物……間違いなく金貨クラスの代物だ。それを作れる料理人がまさか極東出身でいるとは……ッ。
「んんー♪ これ美味しい! 冷たくて甘くて口の中でスッと溶けて……これ本当に美味しいです!」
「そりゃ良かった。フルーツソースもあるからそれも掛けるか?」
「是非!」
レナさんは美味しい美味しいとパクパクと食べていますがッ! その1口でどれだけのお金が吹き飛ぶのか間違いなく理解していない。
「溶けるぞ? 甘い物は苦手か?」
「あ、いえ。いただきます」
スプーンで小さく、本当に小さく掬ってアイスクリームを口にする。口の中でスッと溶けるのはアイスクリンと同じ、だけどアイスクリンよりも滑らかで、そして牛乳臭くなく、濃厚な甘みと香り付けのブランデーの香りが口の中一杯に広がる。
「お、美味しいですわ! いつも実家で食べるアイスクリンよりずっと美味しいですわ!」
高いお金を出して買っているアイスクリンがなんだったのかと思うほどにこのアイスクリームは美味しかった。
「このブルーベリーのソースを掛けるともっと美味いぞ」
「い、いただきますわ」
ブルーベリーの鮮やかな紫と酸味と控えめな甘みがアイスクリームに加えられ、その味わいだけではなく存在を別物にまで変えていました。
「本当に美味しいですわッ! これだけの代物は実家は勿論、王都でも食べられませんわ。これが食べれると分れば間違いなくお客さんは山のように来ますわよ。これはギリアム・ウェルナを有名する一手になりますわ」
嘘偽りのない本心だ。北方から高額で輸入するしかないアイスクリンが食べれる……それが分れば金貨をいくら積んでも良いから食べたいと思う貴族は多い。これを作れるカワサキさんがいればギリアム・ウェルナは安泰だと思ってそう言ったのですが、レナさんが大喜びしながら予想外の事を口にしたのだ。
「本当! いやあカワサキに教えてもらって作ったけど大成功だね!」
「良かったな。これで少しはレナも安心だろ?」
「うん! セレスがそこまで言ってくれるなら私も安心だよ」
カワサキさんが作ったと思っていたのだが、これを作ったのはレナさんだと知らされた私は一瞬何を言われたのか理解できなかった。
「え? これレナさんが作ったんですの!?」
ただのレシピではない、ヘタな黄金よりも価値のある物をカワサキさんが何でもないように手放したことが信じられなかった。
「そう! 量って混ぜて冷やすだけで簡単だった。あ、でも煮込むのが少し面倒だったかな……」
何を馬鹿なと言いたくなった。だってそんな手順で作ったお菓子が……。
「金貨8枚なんですよッ!? アイスクリンってッ!?」
「ぶほおっ!? え、え!? き、金貨8枚ッ!? 嘘でしょ!?」
「本当ですよッ!? な、なんでレナさん作れちゃうんですかッ!?」
これがあれば一財産得るなんて簡単だ。それほどの価値がこのアイスクリンにはあるのだ、そしてそんな財産を何でもないようにレナさんに渡したカワサキさんにも問題があると思います。
「まぁ地方によって価値は違うから。ほら、この苺のソースをかけると美味いぞ?」
「話題を変えるのがへたくそすぎますわよッ!? って火ぃッ!!!」
おかわりのアイスクリームと苺のソースを差し出してきたカワサキさん。明らかに無理すぎる話題転換に思わず叫んでしまった、それが良くなかった。さっきも話したとおり私はレナさんと同様に生まれつきの魔法使い。その能力と火力は契約で魔法を得た人よりも遥かに上……ですが、そのかわりに感情の高ぶりで暴発しやすいという欠点を抱えています。そして食い意地が張っているようで恥ずかしいですがアイスクリンの作り方についての話が私の許容範囲を超えてしまった事で髪の先から炎があふれ出してしまった。
「店の中で炎を出すのは駄目だってぇッ!?」
「なんでそんな突っ込みで火が出るんだ!?」
「氷で消すからちょっと待ってぇッ!!」
「きゃーきゃーっ!! レナさん、カワサキさん助けてくださいましーッ!!」
アイスクリンの作り方を伝授したカワサキさんに動揺してしまい、髪の先から炎が出てしまい、それが服に燃え移るか、店に燃え移るかで午後の穏やかな時間は一気に騒がしくなってしまうのでした……。
メニュー8 クリームシチューへ続く