ぎこちない体 作るキャラがミスマッチだからだ1
芦ケ谷高校に入学してから、もう一か月。
新しい学校は、ビックリするほど穏やかだった。
中学時代みたいな、陰湿な感じが全然ない。
同級生のみんな、カラってしてるっていうか、ほわってしてるって感じ。
何というかね、とっても平和。
何かあったら、れな子ちゃんと逃げる場所探さなきゃって思ってたから、正直いうと拍子抜け。
でも、これで一安心。
最初のうちはずっと緊張してたけど、一か月経ってほのぼの空気のままで、ホッとしちゃった。
あ、あとあと、ホッとしちゃったのは、高校でのれな子ちゃんを見たからってのもあるんだ!
れな子ちゃんは、元から可愛い美少女さん。
れな子ちゃんが通り掛かれば、10人中7人は振り返ってお顔を見て、その内2人くらいはれな子ちゃんのおっぱいをガン見する。
そんな美少女の化身が、遥奈ちゃんプロデュースで本来のスペックを取り戻し、高校生になっちゃったら、一体全体どうなっちゃうの?
──答えは簡単、スーパー陽キャ星人として高校デビューに成功しちゃったのです!
教室や学校の端っこにいた中学時代からは一転、一夜にしてみんなから憧れられちゃう立場へとなっちゃってました。
れな子ちゃん、まるでシンデレラさんだね?
それにね、それだけじゃないの。
れな子ちゃん、自分からお友達作ろうって、クラスメイトさんに話しかけたんだよ!
入学初日に、スーパーキラキラしていた王侯貴族みたいなクラスメイト、王塚真唯さんに!
れな子ちゃん、自分から勇気出してた。
新しい自分になる、素敵な自分を目指すんだって。
新しい学校では、中学みたいなのは嫌ってれな子ちゃん言ってた。
絶対お友達作って、あんな悲しい思いは二度と繰り返さないって。
だから、思いっきり陽キャになって、自分がお友達になりたい〜って思った人に声掛けるんだって。
れな子ちゃん、ちゃんと成功してた。
勇気を出した声掛けに、王塚さんはキョトンとした後に、すごく明るいお顔になって、勿論ってお返事してたから。
れな子ちゃんにお友達になろうって言われて、王塚さんも嬉しかったんだね。
私も、そんなれな子ちゃんが見れて嬉しかった!
れな子ちゃん激推し団扇とか持ってたら、頑張れーってパタパタ振っちゃったかもしれない。
あの時、周りからどよめきとか黄色い悲鳴とか上がっちゃってたし、激推し団扇くらい何でもないもんね?
そうして、れな子ちゃんは高校での初お友達をゲットしたの。
これで早々にハッピーエンド! って私は思っちゃってたんだけど、それだけで終わらなかったのがれな子ちゃんと王塚さんだった。
二人の周りには、次々とキラキラ個性の持ち主みたいな人たちが集まって、クラスのスーパー美少女戦隊が結成されたの。
五人組の、仲良しグループの誕生。
いっぱい、友達できちゃってた。
れな子ちゃんてば、晴れてトップカーストの一員だ。
陽キャ街道をバクシン中、凄いし偉すぎるね?
「れな子ちゃん、凄い、ね」
「そっかなぁ、やっぱりそうなのかなぁ! そよぎちゃんはそう思っちゃうのかなぁ!!」
「思う、偉い」
「え〜、そよぎちゃんがそう思うなら、そうなのかもねぇ!」
「陽キャ、陽キャ」
「あ〜、やっぱりぃ?」
「お姉ちゃん、そよぎちゃん、うるさい!」
れな子ちゃんの鼻は、高々となってた。
ピノキオじゃないのに、よく伸びる鼻だね?
花と一緒で、栄養(自尊心)をあげると、成長していくタイプなんだよね。
でもね、花は綺麗に蕾が開くけど、れな子ちゃんの鼻はおっきく開いたら美少女台無しだから、程々にのびのびしないとダメなんだよ?
けど、れな子ちゃんの色々が順調そうで良かった!
一方の私は、れな子ちゃんと一緒のクラスにはなれたけど、語彙力が赤ちゃんまで退行しちゃってて、友達なんて一人もできなかった。
いっそのこと、にゃーんって鳴いて暮らそうかって思ったけど、れな子ちゃんが私は猫じゃなくて人間って言ってくれてたから、頑張って人の言葉を喋り続けています。
でもね、そんな私に対しても、クラスのみんなは優しい人ばっかり。
コミュ障の化身で困ったちゃんでも、辛抱強く声をかけ続けてくれてる。
だからね、クラスのみんなは嫌じゃない。
……ううん、すっごく感謝してる。
クラスのみんなは、みんな味方だって思ってる。
れな子ちゃんも、これなら安心して過ごせちゃう。
教室が怖くないのって、凄く素敵だね?
「天風さん、お弁当おにぎりだけなんですか?」
「……そう」
「そ、そうなんだ……。えと、ミートボール、どうぞ!」
「別に、良い」
「でも、それだけだと、お腹……」
「へいき」
ずっと、話しかけて、優しくもしてもらえてる。
なのに、私は素っ気なくしか返せない。
私は相槌を打つだけで、親切だって受け取れない。
本当は、ちゃんと嬉しいって伝えたいの。
『平野さん(隣の席の女の子だよ)、ミートボール凄くおいしそうだね! でもね、私ってば、いっぱい食べちゃうと眠くなって授業受けられないから、大丈夫なんだ。でも、お気持ちすっごく嬉しいです。ありがとう!』って。
思ったことを、全部じゃなくても少しは伝えられたらって、そう思ってるのに……。
なんかね、れな子ちゃんや遥奈ちゃんじゃないと、お口が上手く動いてくれない。
緊張して、お口がチャックされたままで、そうしてる間にお話ししたいなって思った勇気も、直ぐにどっかへ旅立っちゃう。
喋れなくて周りを困らせちゃう自分が、どこか居た堪れない。
でもね、そんな私にも、隣の席の平野さんはいっぱい話しかけてくれるの。
平野さんだけじゃなくて、長谷川さん(クラスメイトの女子だよ!)や清水くん(クラスメイトの男子だよ!)とかも。
中学時代は無視されてたから、気にせずに参考書を広げられてたけど、高校のクラスメイトの皆さんは、とってもフレンドリー。
私がれな子ちゃんのことをよく見てるからか、れな子ちゃんの仲良しグループ、顔面キラキラ5人組のお話を振ってくれる。
そのお話を聞いてると楽しくて、私もついウンウン頷いちゃう。
「天風さん、さっきの見ましたか! 琴さんのお弁当をみんなで褒めている、陽キャの皆々様のお姿を!! 琴さんのお顔、一瞬だけ赤くなっていましたよ!!!」
「……なか、よし」
「そう、仲良しなんです! はぁ~、キラキラ指数が高すぎて昇天する~!!」
「ん」
でもね、そんな楽しいお話でも、聞いてばっかりの私が申し訳なくて。
つまんない自分が嫌になって、ふらふら〜って教室から逃げちゃうのです。
このクラスでは、なんでもない一般人代表なんて顔してる人でも、殆どの人が優しい陽キャ属性持ちで、暗黒陰キャ属性の私には定期的にパッシブダメージが発生しちゃうの、恐ろしいね?
中学時代に過剰適応し過ぎた私には、この光の世界は中々厳しかった。
あとね、れな子ちゃんの邪魔しちゃいけないから、定期的に教室から脱走してるっていうのもあるの。
時々、れな子ちゃんは私のこと、チラッて見てくれるから。
見守ってるだけでお話しないのは、前もって、れな子ちゃんに言ってたから。
高校では自分でお友達作るから、れな子ちゃんは心配しないでって。
……本当はね、お友達を作れる自信なんて、ミジンコもなかった。
でも、そう言わないとれな子ちゃんが心配しちゃうから、見栄を張って言っちゃったのです。
でも、残念なことに私はこの有様。
だから、れな子ちゃんも安心できなくて、私を時々チラッて見るの。
そのせいか、最近はれな子ちゃんの友達の小柳さんも、私のこと気にして、チラチラって見てくる様になっちゃったし。
クラスメイトの皆さんが、私にいっぱい話しかけてくれてる、寂しくなんてないの。
だからね、れな子ちゃんにおかれましては、そこまで心配しなくても大丈夫なんだよ?
あと、れな子ちゃんは、私が世界一の超ド級陰キャでも気にしないって言ってくれてたけど、
"キャー、甘織さんってば陰キャの天風さんとお喋りしてる〜。付き合ってるのかしらー!"
とか、根も歯もない噂をたてられちゃったら可哀想だし。
もう、足は引っ張らないって決めたんだもん。
私は、頑張っているれな子ちゃんを見れているだけで、とっても幸せなのです。
素敵な毎日送れてるねって、心が笑顔になれちゃいます。
れな子ちゃん、頑張ってるね。
一生懸命、今を楽しく出来てるみたい。
私もね、安心したよ。
心配してくれてるけど、心配してたのは私だって一緒だったんだから。
そうして今日も、ふらふら〜と教室を出た。
れな子ちゃんはもう大丈夫だし、私のことなんか気にせずに、新しくできたお友達といっぱいお喋りして欲しいから。
それにね、陰キャはぼっちの時間が大切。
一人でいないと、流れ込んでくるみんなの情報や情緒で溢れて頭がパーンってなっちゃう。
だからね、ボッチになるのは必要事項なの。
静かな時間が、陰キャの憩いだから。
誰も来ない校内のポイントを見つけ出すのが、私の最近のトレンドでもあるし!
冒険してるみたいで、結構楽しいんだよ?
例えば、体育館の裏側。
例えば、図書室を出て直ぐの階段。
例えば、何でか常時開放にしっぱなしになってる書道室。
探せば結構、おひとり様ポイントは存在してる。
そんな中、今日私が選んだぼっちポイントは、地学教室とか視聴覚室とかが並んでるエリアの廊下。
ここら辺は、あんまり使う教室じゃない。
文化系の部活動の拠点になってる場所だけど、放課後になるまでは人通りが少ない場所。
窓を開けてから、窓枠に顔を乗せる。
それから、軽く息を吐いた。
……うん、なんか落ち着くね。
人がいないと、なんかホッとしちゃう。
勿論、れな子ちゃんと遥奈ちゃんは別だけどね!
ぽやーって出来て、ぽやぽやしてくる。
あ〜、風に乗って雲が流れてくの、見てると癒されるよ〜。
あ、あっちの雲は、何処となくれな子ちゃんのデカパイに見えるね。
れな子ちゃんのおっぱいが、お空を流れてく。
将来的に、流しれな子ちゃんのデカデカパイパイも夏の風物詩になる日も来るかもしんないね。
そんな、れな子ちゃんの雲パイ流しについて考えてた時のこと。
──急に誰かが、私に目隠しをしてきたの。
ふぇ、誰ぇ?
「えっへっへ〜、だーれだ?」
「…………誰?」
「うわ、声冷たい〜」
目隠しした手が離れたから、振り返る。
小柄で可愛い美少女さんが一人、お茶目な笑顔を浮かべてた。
──小柳さん、小柳香穂さん。
れな子ちゃんの、新しいお友達。
いつも笑顔で明るい、クラスの元気印さん。
みんなの妹系アイドルさんなクラスメイトが、何でか立っていたのでした。
……うにゃ?
うにゃっ、うにゃにゃにゃにゃ!?
何かの間違いかなって思っても、目の前の小柳さんは可愛いままで居なくならない。
通りすがりじゃなくて、どう見ても私にご用事があるみたいだった。
あわ、あわわわわっ。
困っちゃうよ、私ってばお話しヘタクソ侍なのに!
「ソーちゃん、お話ししよ?」
でも、小柳さんは私をロックオンしてて、聞いたこともないあだ名で私を呼んだの。
どうしたって、逃げられそうになかった。
…………あぅ。
私、悪いメタルスライムじゃないです。
どうか、見逃してもらえませんか……?
ランキングに載って、読者の方が増えてくださって嬉しいです。
今後とも頑張りますので、応援の程よろしくお願いします!