香穂ちゃんをブチギレさせちゃって、私のことが好きな確率が0.001%から0%になっちゃってから3日目。
ごめんねって謝ることすら気まずくてできないまま、私は校舎の隅っこで陰キャクソいじけ虫になってたの。
香穂ちゃん、甘織姉妹以外で唯一のお友達だったのに……。
大切な友達を激怒させちゃって、碌に謝れもしない私は合わす顔なくて、香穂ちゃんから逃げ回りながら、コソコソ過ごしてたの。
今日も、香穂ちゃんからジーって見つめられてるのに気付いてたのに、私は何も言えないまま教室を後にした。
仲直りしたいけど、ちょっと自信なくて。
ガバガバなお口が悪さして、また香穂ちゃんを怒らせちゃわないかなって。
このまま、香穂ちゃんと仲直りできないまま、高校3年間過ごすことになるのかな。
そんなの、イヤだよぉ……。
悲しくて、ションボリしながら下足まで来た。
今日もダメダメでしたって思いながら、自分の靴箱を開けて靴を履き替えようとした──そんな時のこと。
靴箱の中に、何かが入ってた。
気になって手にしてみると、それは手紙だった。
私の靴箱に、お手紙?
一瞬、それが何なのか分からなかったの。
でもね、靴箱とお手紙って記号をつなぎ合わせたら、ちゃんと答えが分かっちゃった。
もしかして──ラブレター!?
こ、こんなの人生で初めてのことだよ、ビックリだよ!
ウジウジしてた頭が、あわあわして白くなっちゃう。
慌てて中身を確認すると、手紙にはシンプルに、"体育館裏で待ってます♡"と可愛い文字で書いてあったの。
……ハートマークがあるってことは、やっぱりラブレターさんな可能性が大なんだよね?
わぁ、って気持ちと、ほにゃぁって気持ちで、なんかいっぱいになっちゃう。
チビでガリ勉で顔面はがねタイプな上に、覚えている技が"かたくなる""まるくなる""めいそう""からにこもる"しかない陰キャ殻篭り虫にラブレターくれる人なんかいるんだって、ちょっと感心しかけて。
まじまじと手紙を眺めた後、一つ頷いたの。
これはきっと何かの間違い、隣の靴箱と入れ間違えちゃったんだなって。
だから、お手紙を──れな子ちゃんの靴箱にそっと入れ直して、帰ろうとしたのでした。
「って、こらーーーっ!!! なにしとるんじゃーーーっ!!!」
そしたらね、急にブチギレちゃってる声が聞こえてきて。
れな子ちゃんのフォーくんに、道端で拾ったブルーレイを読み込ませたら、えっちなビデオが再生された時のれな子ちゃんくらいにキレちゃってる声。
ビックリしながら振り返ると、そこには……。
「香穂、ちゃん?」
あの日、怒らせちゃってから会話出来てない友達が、肩を怒らせながら現れたのです。
「ソーちゃん、こっち来て!」
「???」
そうして、そのまま私は、有無を言わせず(言えないともいう)連行されちゃったのでした。
……もしかしてあの手紙、香穂ちゃんがくれたの?
もしそうだったら、ラブレターじゃなくて果たし状だったのかもしれないね?
体育館裏、誰もいなくて私達2人だけ。
そんな場所に連れて来た香穂ちゃんは、ムスッてしたまま私にジト目を向けちゃってた。
「ソーちゃんさ、ほんと信じられないことするよね」
「れな子ちゃん、きっと、モテる。誤配送」
「全然あってる、誤配送じゃないから。今度ふざけたら……」
香穂ちゃんは、落ちてたまあまあ大きな石を拾って、ガン! って地面に叩きつけたの。
地面がドスンって音がして、まるで頭蓋骨陥没……は痛そうすぎるね。妥協して、陥没乳首さんを連想させられるくらいの抉れっぷりだったの。
「ソーちゃんの頭、昭和のテレビみたいな直し方するから」
なんてとってもバイオレンス。
香穂ちゃんの真顔を前にして、私はカチンコチンになっちゃった。
ふふ、12歳くらいの時の私なら、恐怖のあまりお漏らしが止まらなくなっちゃってたかもしれない脅し文句だね?
……ちょっと緩んだだけで、全然我慢できてるんだよ?
だ、だからね、許して香穂ちゃん!
私まだ死にたくないよ!!
「言うこと、聞く。命乞い、する」
「無表情で言われると、なんか真剣味を感じないけど……ま、良いや」
……土下座する準備まではできてたけど、なんとか回避できたみたい。
ふへへ、生きてるって素晴らしいね?
「で、そーちゃん。ここに連れて来たのは、お話があるからだよ」
生を実感してた私に、香穂ちゃんは段々と近寄って来て、文字通りに目と鼻の先くらいまでやって来たの。
それから、ジロジロって見られちゃう。
思わず腰が引けちゃうけど、そしたら香穂ちゃんに腕を掴まれちゃって、下がれなくなっちゃったの。
な、なんなのかな、これ。
私、何されちゃってる訳なのかな?
「ソーちゃん、ジッとしててね」
「ん」
そうして、香穂ちゃんは私の耳元に近づいて来て、一言。
「ソーちゃんは、陰キャじゃなーい♡」
とっても蕩ける、れな子ちゃんのパイみたいなお声を出して来ちゃったの。
にゃ、にゃ、にゃにかな今の!?
背筋がゾクゾクってして、脳がガクガクってしたんだけど!!
「ソーちゃんは、カワイイ女の子だぞ♡」
…………まさか、洗脳!?
私、香穂ちゃんに洗脳ボイスを脳みそに流し込まれちゃってる!?
え、なんで、なんでなのかな!?
私を洗脳して、道行く陰キャの殻を破壊し、パリピに転生させる仕事に従事させようとかしちゃってたりするの!?
「だからぁ──自分が格下で、れなちんや香穂ちゃんに絡めないザコだなんて、2度と思っちゃダメだゾ♡」
──なんか、ゾクってした。
すごくカワイイ声なのに、怒ってるのが伝わってくる声。
香穂ちゃん、ニコニコ笑ってるのに、笑えなくしてあげよっかなって言ってるのが伝わってくる、ライオンさんの笑みを浮かべてた。
「あたしさ、前にソーちゃんと話した時、陽キャは近付いちゃダメって言われて、話しかけるなーって言われた気持ちになって……結構、傷ついた」
でも、話し始めた内容を聞いて、ビクって背中がなっちゃった。
私、そんなつもりじゃなかったもん。
香穂ちゃんのこと、友達だって、ちゃんと思ってるから。
「……ごめ、ん」
「良いよ。れなちんと話して、誤解だーってのは、もう分かったから」
許してもらえて、心底ホッとする。
この前のアレで、香穂ちゃんに嫌われちゃったって、ずっと悲しかったから。
れな子ちゃんが、誤解を解いてくれたんだね。
ありがとう、本当に助かりました。
今度、お礼に道端で拾ったゲームディスク、持ってくね?
48種類のゲームが楽しめたりしそうなタイトルだし、れな子ちゃん喜んでくれたら嬉しいなぁ。
「でもさ──だからって、まだ許してあげてないから」
「……???」
けど、許してくれたんだって油断したところで、香穂ちゃんに全然そんなことないって言われちゃう。
誤解って、分かってくれたのに?
……私、香穂ちゃんに嫌われちゃったってままなの?
状況が理解できてなくて、頭がこんがらがっちゃう。
香穂ちゃんは、そんなピヨピヨ頭な私の手に握って。
「私、これからもソーちゃんと話したい。ソーちゃん自身の自信が無くても、あたしは素敵な子だって思ってる」
許してないって言われた直後に、いっぱい褒めてくれてる。
香穂ちゃんの言いたいことが、全然分かんない。
ニュルニュル鰻さんみたいに、掴みどころが無くて。
「だから、逃げないで。一人でいようとなんて、そーちゃんには100年早いよ」
「なん、で?」
「雲、眺めてた時の顔──つまんなそうだったから」
でも、そんな私に、やっと香穂ちゃんは核心を話してくれた。
そして、ちょっと言葉がでなくなっちゃう。
……そっか、見られちゃってたんだね。
学校で私を見つけてくれたの、香穂ちゃんが初めてだもんね。
流石は、私の友達さんだね。
「退屈から、救いに、来てくれた、の?」
「同盟を結びに来たのかもね」
香穂ちゃんはオタクの鏡で、とっても上手に言葉のキャッチボールができちゃう女の子だった。
うん、今の、なんかグッと来ちゃった……。
香穂ちゃんてば、賢くてお上手だね?
「二人きり、なら、いい、よ」
だから、ね。
クラスのみんなには内緒なら、いいよ?
「──香穂ちゃん、は、特別」
人前だとやっぱり怯んじゃうけど、他に人が居なかったら。
「またお話、して、くれる?」
私はボッチで、もう陰キャを極めちゃおうって思ってる。
けど、そんな私でもいいのなら。
優しくされたら嬉しいし、仲良しさんとは手を繋ぎたいもんね。
「……今日のところは、これくらいで許してあげますかにゃー。特別って言葉に免じて」
何が香穂ちゃんの方は、納得しきれてないって不満顔。
だけど、明るい笑顔を作って、良いよって言ってくれたのでした。
「教室でも、たまーに声かけるから、逃げちゃダメだからね。ソーちゃんは恥ずかしい子じゃないんだし」
「…………」
それはー、話……別かもしれないね?
「あっ、そうだ。ソーちゃん、仲直りの印に、アレやろうよアレ!」
「……なに?」
アレじゃ分かんなくて首を傾げると、香穂ちゃんはわざとらしいくらいに、両手を広げたの。
さあ、来てって感じに。
それを見て、なんだか懐かしい気持ちになっちゃった。
「香穂、ちゃん」
「そよぎちゃん!」
あ、これ、塾でお別れした時に、最後にしたやつだって、分かったの!
「にゃん……にゃん……」
「ごろにゃーん!」
懐かしい気持ちで、とっても嬉しくなりながら、私たちはひしって抱きしめあったのでした。
……香穂ちゃん、そよぎちゃんって呼んでくれたね。
ソーちゃんも素敵だけど、約束覚えててくれて、とっても嬉しいんだよ?
そうして仲直りした私達。
けどね、毎日は劇的には変わらないの。
……ただ、たまーに教室で、香穂ちゃんに捕まっちゃうことは増えちゃったかも。
「ソーちゃんは今、あたしのネコソウルと共振してる。だから、にゃんにゃん♡ って鳴かないといけないのだー!」
そうして、すごい無茶振りを振ってくるのです。
誠、困り倒しちゃうね?
でも、鳴かねば教室出れないなら……仕方ないよね?
「にゃ……………にゃん、にゃん……にゃー?」
すっごく震え声になっちゃって、これじゃあ風邪引いちゃってる不健康ネコさんみたいな鳴き声。
恥ずかしくて、今すぐ逃げ去っちゃいたい。
周りから、おぉって声や黄色い悲鳴が上がってるのが、それに拍車をかけて来ちゃう。
けどね、そんな中でも、香穂ちゃんはとっても可愛く笑ってくれて。
「ソーちゃんは、カワイイ。たまには思い知れー!」
いっばい、いっぱい褒めてくれるのでした。
香穂ちゃんは、やっぱり私のことが0.001%くらいの確率で大大大好きなのかもしれない。
……えへへ、私、昔から香穂ちゃんにはデレデレだったんだよ?
隠の気配がある時も、今の陽キャな香穂ちゃんも。
だから、構ってもらえてとっても嬉しい。
だからね、これからもよろしくね!
香穂ちゃんは、私のとっても自慢な友達なのです。
……陰キャな私でも、いつかは香穂ちゃんが自慢できる友達に、なれちゃえるのかな?
分かんないけど、そうなれたなら素敵かもしれないね?
第一章は、これにて終了です!
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