「はぁ…はぁ……はぁ……はぁ……」
―油断した。 あれほど父に『隙を見せるな』と言われてきたのに。
ラクーンシティの路地裏。 片腕を抑えながら、ディーンは走り続けていた。 息を荒らげながら、適当な壁を見付け、背中を押し付ける。
そこから、ズルズルと力無く座り込んだディーンは、自身の片腕を見つめた。
「クソッ……!!」
ラクーンシティに入った直後に、泣いている女性がいた。 彼女は、妹の……レイシーと同じ年頃だった。 だから、『大丈夫か?』と声をかけた瞬間――彼女は、襲いかかってきた。 感染者だった。 片腕を激しく噛まれてしまったが、何とか撃つことはできた。 その直後から急激な体温の上昇、ここまで来るまでの疲労からの若干の免疫低下。 これらの現象から感染が一気に片腕を覆い、肥大化していったのだ。
震える手でポケットバックから、抗生剤を取り出すと、片腕に抗生剤のシリンジを突き刺した。
すると、徐々に、ディーンの呼吸が落ち着き始めた。 深呼吸もできるようになってきた。
『ディーン? 大丈夫か?』
「……あぁ……なんとか……生きてるよ……」
無線機から父の心配そうな声が響き渡る。 無線機に手を伸ばし、生唾をひとつ飲み込みながら、応えた。
『抗生剤で感染は止まったようだな……腕の50%は、肥大化してしまったか……』
「そうみたいだ」
『なにか変化はないか?』
「何かって言われても――」
ディーンが周りを見回した時だった。 『目』と目が合った。 最初は、気のせいだと思った。 ここに自分以外の人間だといるはずがないと思っていた時だった。
「なっ…!?」
(俺の腕から……!?)
肥大化した片腕から、触手が何十本と生えており、その内の1本の先端から花のように開き、その『目』は中央に位置していた。
「な、なんだよ……お前……!!」
ディーンは、もう1つの腕で触手に向けて銃を向けた。 だが、触手は素早くディーンの手から銃を奪い去ると地面にほおり投げた。
「おい!!」
銃がダメなら、ナイフで応戦しようとしたディーンの腕を数十本の触手たちが覆い尽くした。力は凄まじく、ディーンの力では解けない。 ますますディーンは、混乱していると、無線機から父が話しかけてきた。
『落ち着け。 ディーン。 そのまま触手たちの好きなようにさせるんだ』
「は…? どういうことだよ?」
『すぐに分かるさ』
「…………」
ナイフを持っていた手の力を抜くと、変化はすぐに起きた。 数十本の触手達は、ディーンの顔の近くにやって来ると、頬を撫で始めた。 くすぐったくなったディーンは軽く目をつぶる。
一先ず触手達は、敵では無いことを確認するため、ディーンは、触手たちに話しかけた。
「……お前は、俺の味方……なのか……?」
その言葉に、先ほど目があった触手は、ゆっくりと頷いたような仕草を見せた。 その触手の返事に、ディーンはまたため息をついて、頷くと、立ち上がると、独り言のように言った。
「…なら、行くぞ。配達員の男を追うんだ」
ディーンの言葉に、触手の目は頷いた。ハンドガンを拾うと、ディーンは、駆け足で路地裏を後にしたのであった。
***
END