ディーンは、警戒しながら、ラクーンシティの市街地を早足で歩いていた。 唐突に腕の触手の目が、大きく見開くと、唸り声のようなものを上げた。
「おい。なんだよ? 静かに――」
触手に注意しようとした時だった。
――どこから《自分のことを見ている》ものがいる。
咄嗟にディーンは、触手が見つめている先を見てみた。 そこでは、大量の感染者が息絶えており、車が燃え盛っていた。
「…………」
小型のハンドガンが落ちており、その先は、暗闇に支配されていた。 すぐに、ディーンは、小型ライトを手に取ると中を照らし出した。
そこには、無惨な姿となった女性らしい死体があった。
《らしい》というのも訳があった。 何故なら、上半身が無くなっており、《中身》が飛び出している状態だからだ。
ディーンは一瞬、胃の中のものがせり上がってきそうになったが、なんとか堪えることができた。 相変わらず、腕の触手は、唸り声を上げている。 花の中にある目も大きく見開かれている。
(これは……警戒している……ということか……?)
疑問に思いつつも、小型ライトを持ち、ハンドガンを構えながら、女性らしい死体の傍を通りすぎる。
ゆっくりとした足どりで暗闇の向こうに近付いていた時だった。 突然、女性らしい死体が、釣りの餌を高速で回収するかのような速さで、暗闇の奥に消えていったのだ。
「……なんなんだ……一体……?」
まるで『こいつには餌は通じない』と言っているかのようだと感じたディーンは、舌打ちしながら、後ろへと後退する。 すると、我慢の限界が来たのか。
腕の触手は、怒り狂ったような声をあげると、複数の触手を暗闇の奥へと向かわせると、攻撃しだした。
「お前……!! なにやって――」
腕の触手を咎めようとした時だった。 暗闇の奥で耳をつんざくような悲鳴が聞こえてきたのだ。
「おいおい……冗談だろ……」
暗闇の中から姿を表したのは――巨大な肉塊だった。 ぶくぶくと膨れ上がった体に巨大な顔。複数の触手や人間の足や手があちらこちらに生えている。
どう見ても普通の感染者ではないことは確かだった。 ディーンは、急いで武器をアサルトライフルに切り替えた瞬間に、無線が鳴った。
『ディーン!! 走りながら、応戦しろ!! お前の付近に他の感染者が近付いているぞ!!』
「クッソ!!」
ディーンが、走り出したのと、異形とかしたなにかがディーンのいた場所に襲いかかったのは、ほぼ同時だった。 アサルトライフルを化け物に放ったが、少し怯んだ程度で効いている様子はない。
―それでもなんとかしなければ―
ディーンはまた舌打ちすると、全速力で走り出した。 父の言う通り、他の感染者がディーンを指差し、走りながら、追いかけて来ている。
武器をハンドガンに切り替えると、追いかけてきた感染者の中のひとりで近付いてきた感染者の頭を撃ち抜いていく。
(弾がもたない……!!どうすれば――)
確実に感染者の頭は、撃ち抜けている。 しかし、弾は限られており、ここで無駄に消費する訳にもいかなかった。 どうすればいいのか、必死に頭を回していた時だった。 腕の触手が、感染者達を威嚇するような声をあげると、複数の触手が、ディーンを追ってきた感染者たちの頭や手足を引きちぎっていく。
その様を見て、思わずディーンは、足を止めた。
「お、お前……あんなことも出来るのか……?」
感染者たちを睨みつけていた花の中にあった目は、首を傾げると、ディーンを不思議そうに見つめていた。
ある程度感染者達が、腕の触手によって鎮圧された時だった。後ろの建物を突き破って、あの化け物が、ディーンのすぐ後ろにいた。
「これでも食っておけ!!」
素早く振り返ったディーンは、一か八かの賭けに出ることにした。 化け物の巨大な口が開いた瞬間――手榴弾を投げ入れたのだ。 両耳を塞ぎながら、アサルトライフルを構えていると、化け物の変化はすぐに起きた。 化け物の体が、一瞬だけ光ったかと思うと――風船のように弾け飛んだのだ。
大量の血飛沫がディーンにかかる寸前で、腕の触手が、ディーンを守るように盾となって防いでくれたのだ。
「……お前……」
『…………』
「……ありがとな」
『!』
化け物も感染者もいないことを確認したディーンは、一息つくと、腕の触手に、感謝の言葉を告げた。 花の中にあった目玉は、大きく目を見開くと、複数の触手が伸ばしかと思えば、ディーンの頬を優しく撫ではじめた。
「だからそれは……あー……もういい。 行くぞ」
くすぐったいからやめろと言いかけたところで、ディーンは途中で言葉を切ると、咳払いして誤魔化した。 おそらくブライアンもラクーンシティ総合病院に向かっているはずだ。
―早く追いつかなくては―
決意を新たに、ディーンは、アサルトライフルをしまうと、その場を駆け足で去っていったのであった。
END