アンブレラが管理する地下施設には、俺専用の治療室や訓練室がある。 幼い頃から先天性のウィルス耐え性を持って、産まれた俺は、アンブレラの連中の興味や関心を寄せるには、十分な存在だったらしい。
「…お前とも……もうすぐお別れしないといけないんだな」
『………』
白一色の無機質な部屋。 昔から見慣れた景色を壁にもたれながら、独り言のように呟いた。 すると、腕から触手の先端が表れると花のように開いた。 俺の言葉を理解しているのか。 触手の目は、若干揺らいでいるように見える。 肥大化した腕から数本の触手が生えてくると、俺のもう片方の腕にある指に絡んできた。
まるで――別れることを惜しんでいるかのようだった。
「……俺も寂しいよ。 けど……お前とお別れしないと……俺は……家族に会えなくなるんだ」
『!』
触手の動きが止まった。 触手の目も俺の言葉に驚いているのか。 大きく目を見開いていた。
触手の反応は予想していたので、俺はため息をひとつつくと、呟くように言った。
「これが、アイツらの……アンブレラのやり方なんだ。 昔から何も変わってない。 自分たちの失態さえ隠そうとする連中なんだ」
『………』
「…と言っても……お前には、分からないよな」
―ああ……クソ……意識が、飛びそうだ。
父に打たれた麻酔が効いてきたのか。 唐突に、ディーンは、強い眠気を感じ始めた。
心の中で悪態をつくと、腕の触手にもう片方の腕を伸ばすと、手を置きながら言った。
「……じゃあな。 相棒。 世話になった」
『…………』
プツリと、糸が切れた人形のようにディーンは、意識を失った。 倒れそうになった彼の体を腕の触手は、支えるとそのままゆっくりとディーンの体を横にした。 ディーンの寝顔を見ながら、触手の目も閉じてくと花も閉じていった。
数本の触手も腕の触手に収まったのを見たノアは、別部屋から出てくると早足で、ディーンの傍に行き、かがみ込んだ。 そして、彼は、注射器で、腕の触手の細胞を吸い取ると、試験管へと移した。
「…よくやった。 ディーン」
息子の寝顔を見ながら、ノアは呟くと、彼の頭を優しく撫でた。
「……宿主の意志を殺さず……共生することができる……今まで見たことがないTウィルスの症例だよ」
ノアの瞳は、冷たく爛々と輝きながら、細められた。 ディーンの腕が元に戻っていくのを見守っていると、突如として、試験管の中に収められた触手の目が大量に現れた。 触手の目は大きく見開いたかと思えば、ノアを睨みつけるように細くなっていった。
その現象を見たノアは、喉で笑うと試験管を見つめながら言った。
「…素晴らしい生命力だな。 どうした? ディーンのことが心配か?それとも――その目は、私に対する憎悪を向けているのか?」
触手は答えない。 いや。 答えられない。
それを知っていて、わざとノアは聞いていたのだ。
「安心しろ。 ディーンには、何もしない。 あの子は、私のかわいい子どもだからな。
そして――お前も、冷凍保存して……永遠に、私のモノになってもらうぞ」
ノアは、もう一度喉で笑うと、触手の入った試験管を上着のポケットにしまった。 ディーンを愛おしげに見つめたあと、治療室をあとにしたのであった。
END