ここは俺に任せて先に行けを繰り返し人々の脳を焼いた転生者の末路 作:葱ラーメン大盛A定食セット(旧竜騎兵)
私の目の前にいるのはもふもふとした可愛らしい狐。
ではなく牙を剥きだしにして殺意を隠そうともしない妖狐!
咄嗟に霊力で身体能力を強化して横に飛んで回避。あっぶな。寿命ちょっと縮んだわ。
恐るべき強敵だった、でも倒した。
相手の口の中に霊力込めたお札を叩きこんで中から爆発させて終わり! ウルトラ上手に焼けました~。
「これぐらいは余裕だよね~」
伊達に前世ではそれなりに名のある坊さんをやっていた訳ではない。
この程度の敵なら余裕で蹴散らせる。
実にイージーなミッション!
「余裕だったから!
私傷一つついてないから!
そんなに心配しなくていいよ! マリー!」
「……私も同行させてくれてもよかったのでは?」
「んー!
マリーの装備は確かにこの世界には不釣り合いなほど凄い装備だけど!
妖獣相手には霊力纏わせた攻撃じゃないと通らないんだよね~」
「……そうですか」
狐の化け物を退治した帰り道、夜道を歩くマリーは不服そうな表情をしていた。
まぁ私がまた無理したと思ってるのかもしれないけど~、全然そんな事は無いんだよね。
「ま、これがうちの家業だからさ~。
陰陽師家業! 普通に生きる人々を日夜裏から助けてるのです」
「今すぐその家業から足を洗うか、私に無理やり連れていかれるのかどちらか選んでください」
「何その究極の二択~!? ちょっと横暴じゃない!?」
「私はもう貴女が戦場に出て傷つく姿は見たくないと言ってるんですよ!
貴女が死んだとき、私はどれほど後悔して、悲しんだと思っているんですか!」
「それについてはごめーん!」
「……もういっそ、本気で連れ去りましょうか……。
いや、そうなると副議長の説得も……。
この世界の人を無理矢理拉致するとなると、外交問題に発展する可能性も……。
いや、それならいっそこの星自体を銀河連邦の加盟国にすることも……?
それならば自国民という扱いになりますし、帰ったら副議長を説得してみましょうか」
何やらぶつぶつと不穏な事を呟いてるマリーに肝を冷やしてるのが私なんだよね。
さりげなーく地球侵略の算段を立てるのやめてもらって良いかな?
まぁ実際、宇宙戦艦に標準搭載されてる熱核ミサイルを地球の適当な国に落として武力で威圧したら銀河連邦に地球は下るしかないけど!
一応民主主義国家ではあるし、そんな野蛮な手段を取らないと信じたいな~。
あの副議長も私一人の為に戦争を仕掛ける案を議会に上げるほど馬鹿じゃないだろうし。
ただ、このままマリーを放置するとマジで強硬手段を取って来そうで怖い。
切実に。
「……よーし! マリー、明日は行きつけのカフェにいこっか?
マリーに心配かけちゃったお詫びに~、私がパフェご馳走するよ?」
「……むぅ、分かりました」
ふぅー、ひとまずは危機は去ったね。
少なくとも問題は先延ばしにすることはできた!
駅前のカフェへと足を運び、ドアを開いて中へと入る。
休日のお昼という事もあって、お客さんは沢山入ってるらしい。
やー、こんにちは~、と気さくに顔なじみの店長に挨拶して窓際の席へと座る。
「今日は何でも食べていいよ~。
こう見えても私、陰陽師の仕事で結構お金持ってるからさ!」
「……。
ならばこの特大パフェを一つ」
「おーけー、じゃ、私はイチゴパフェ食べちゃおうかな~」
店員さーん、と声をかけると、彼女はこちらにやってきた。
「恵理子、アンタの家にメイドさんが住み着いてるって話は聞いてたけど。
マジだったとはねぇ~。
注文は何にする?」
「こっちの子は特大パフェ、で、私はイチゴパフェで!」
「はいはい、食べ過ぎないようにね」
厨房へと向かっていった同級生の背中を目で追う。
いやぁ、私の行きつけの店で桜子がバイトしてるなんてすごい偶然だなぁ~。
「……あの方は、確かマスターの同級生の方でしたよね。
行く先々で出会うような気がします。
ストーカーされているのでは?」
「転生先までストーカーしてくるアンタらじゃあるまいし、そんな事無いでしょ」
しばらく待っていると、重さ一キロぐらいはありそうな巨大パフェと、可愛らしいイチゴのパフェが乗せられたトレーと共に桜子がやってきた。
この子も結構力持ちだよな~。
何か目標があって筋トレしてるらしいけど、なんだろ?
「はい、注文の品お持ちしました~」
「ありがとね~。桜子~流石は我が心の友~」
「はいはい、バイトしてるだけだからそういうの良いって。
ごゆっくりどうぞ~」
いただきます、と手を合わせる。
目の前に置かれたイチゴによって彩られたパフェへとスプーンを突き立てる。
一口頬張る、おいしい~。
「ん……銀河連邦の食材よりもいいものが使われてますね。
オーガニック素材ですか」
「そーそー、違いが分かる女になってきたじゃん、マリー。
地球での食事は基本的にオーガニック素材ばかりだよ~。
連邦のバイオ生成された食材も悪くはないんだけどね」
あれはちょっと味が大味になるんだよな~。
まぁ、食料のバイオ生成が一般化されてるから飢える人は少ないのはいい事だけど。
パクパク、と無表情ながら目を輝かせて巨大パフェを凄い勢いで食べ進めてるマリーの姿を見てると、ふふ、と私も笑みを浮かべてしまう。
この子は昔から食べるのが好きだったからな~。
アンドロイドは食べた食材を自分の体を動かすためのエネルギーに転換することができる。
これってもうほぼ人間な気がするけど、このメイドアンドロイドを大量生産して一般家庭に供給できる連邦の技術力はやはり凄い。
流石は数多の星系を束ねる、人口十五兆人の銀河最大国家なだけはあるよな~。
「はい、あーん」
「ん、ふふ、こうやって食べさせてもらうと、貴女が小さかった頃の事を思い出しますね」
「前世の話でしょー?
今は関係ないよ~」
私が差し出したイチゴパフェをぱくり、と頬張ると無表情ながらも、その目はキラキラと輝いた。
うんうん、上機嫌みたいだね。
冷静に考えてみたら感情が宿らない筈のアンドロイドに感情らしきものが芽生えてるって凄い事なのかもしれない。
これが噂のシンギュラリティって奴かな?
人類に牙を剥かないことを祈りたいところだ。
「――失礼、相席いいでしょうか?」
「ん……?
私は構わないけど……あ」
「……?」
トレンチコートを着て、シルクハットを被ってサングラスを付けた不審者がそこに居た。
明らかに怪しいその人に、マリーも困惑したように頭上に?を浮かべている。
だが、この声……聞き覚えがある!
間違いなくあの人だ、なんでこんなところに???
こんな所に居たらおかしい人でしょ、だってこの人は……!
「……。
マスターの顔色が悪いですね。
単刀直入に聞きましょう、貴女はマスターの敵ですか?」
マリーが立ち上がり、私と『彼女』の視線を遮るように立った。
「おっと、
それに、だよ、ここで暴れたら何の関係もない人たちも傷ついてしまうかもしれない。
争うのは得策じゃないだろう?
――君も銀河連邦とやらの使者の一人なんだからね、本格的な交渉の前に外交関係の悪化は避けたい。違うかい?」
さぁ、座りたまえ、という『彼女』の言葉に、マリーは不承不承といった様子で頷くしか無かった。
「あ、あのぉ……わ、私急用を思い出しましたので!
そろそろ失礼しますね、あははは!
今日の内に片づけないといけない宿題があるの忘れてた~!」
逃げるように席から立ち上がり、そのまま伝票を取って会計に向かおうとする。
「おや、麗しいお嬢さん。
そんなに急いでどこに行くのですか?
――独り言だけど、今年は大規模な蝗害は発生せず、民は平穏に暮らせたよ」
その言葉を聞いて、足が止まる。
愚帝の何もしないという治世によって、度々発生した水害、蝗害、疫病。
【一人でも多く民を救おう】と、
「さぁ、君も積もる話があるんじゃないのか?
愚弟」
「……お見通しなんだ、どうして?」
席へと引き戻される。
やはりこの人には敵わない。
「
ま、それでも精度は高いとは言えないがね。
君が匿名掲示板で尻尾を出さなかったら、見つけることは困難だっただろうさ」
「あはは……」
「相変わらずだね、君は。
肝心な所で詰めが甘い」
「だからこそ、皇帝の地位は譲ったんですよ。
貴女に」
「……この人、誰ですか?」
今まで沈黙を守っていたマリーがついに我慢できなくなった様子で、話を切り出す。
いつでも武器を抜けるようにしてるマリーの姿を見て、我が親愛なる姉上はサングラスを外して、にこり、と笑みを浮かべた。
「【霊亀】八代皇帝、李 秀民さ。だが、これは仮の名。
凛と呼んでくれたまえ」
「――皇帝自ら、何の御用ですか?」
正体を聞いて、よりマリーの警戒心が刺激されたようで、射るように彼女の瞳を見つめる。
全てを見通すかのような金色の瞳が、マリーを見つめ返した。
「分からないかな?
政務をほっぽり出して別世界で遊んでいた愚弟を取り戻しに来たんだ」
「彼女は、我々の世界の英雄です」
「ほぅ、ほぅほぅ。
なんで銀河連邦の特使が弟に付きまとっていたのか気になっていたが。
そういう事か?」
にこにこと姉上は柔和な笑みを浮かべている。
が、これはヤバい。
本気でブチギレてる時は彼女は怒り狂うのではなく必ず笑うんだ。
「いや、ははは……。
ま、まぁ、そんな感じですね!
私、実は何度も世界を転生してましてぇ……。
マリーとは前世で共に死線を潜り抜けた仲間でぇ……」
「訂正してください、マスター。
私は貴女の姉です」
「はい、姉です」
くっくっくっ、と愉快そうに彼女は笑い声を漏らした。
うーわ、宦官を散々言い負かして憤死させた時と同じ笑い声だよこわ。
気まず、帰っちゃダメかな?
「何が面白いんです……?」
「いや!
流石は我が片腕だなと思ったのだよ!
傑物だと思っていた、物心ついた時からね。
彼に足りなかったのは王になる才能だけだと僕は思ってるぐらいさ。
宦官勢力、青林派、後宮、我々の敵対者を次々と失脚させた権謀術数の人が今はのんびりと学生をしてるのか、ははは」
「ははは……」
今は女子高生として暮らしてる私に愛や平和とは無縁のような過去……。
いや、昔は姉上を皇帝にするために手段を選んでられなかったんだって。
我々に尽くしてくれる工作員を育てて、その子たちを使って色々とヤバい事をしたのも確か!
「あ、そう言えば【梟】は元気ですか?」
「うん? 彼はもう引退して故郷で畑を耕してるよ。
引退する時に君の墓の前で号泣してたよ。
他の子たちは今でも働いてもらってる。
安心したまえ、先帝と同じように彼らを使い捨てにすることはしない」
「……よかったです」
彼女が頼んでいたコーヒーが運ばれてきて、ゆっくりとコーヒーカップを傾ける。
「ほぅ、このコーヒーと呼ばれるもの、初めて飲んだが中々どうして、いいものだね。
花茶と比べると苦みが強いが、ふむ、味わい深い」
「……何の用ですか?
マスターに、世間話をしに来た訳ではないでしょう?」
「銀河連邦の特使殿。
世間話をしに来たのも目標の一つだが、その通り。本当の目的は別にある。
彼には我々の国に戻ってほしいと思ってるんだ。
しかも、自分の意志で。
僕は国のトップだ。報告を聞く事が出来ても、実際に目で見て治世が行き届いてるか確認することはできない。
そこで、弟の力を借りたいんだよ。
彼には僕の代わりに国を見て回って、治世が行き届いているのか確認してもらいたいんだ」
「……随分とマスターを買っているんですね。
ただのバウンティーハンターですよ?」
「君の世界では、そうなのかもしれないな。
だが賞金稼ぎだったか?
そんな傭兵紛いのゴロツキとは比べ物にならないほど責任が重く、弟にしか頼めない仕事なんだよ」
「……」
「マリー、ダメだよマジで、ブラスター抜いたら」
ブラスターが収められたホルスターに手を伸ばしたマリーに殺気を向けられても、我が姉上は怯んだ様子はない。
宮廷ではこの程度の修羅場など文字通り五万と経験したからね。私も一緒だったけど。
「だがまぁ、弟よ。
戻るつもりは無いだろう?」
「……ええ、まぁ。
霊亀においては、私は死んだ存在ですから。
今更戻ってどうするんですか、私が居なくても国が回るように手筈は整えられていたでしょう?」
「縁故採用ではない公平な官僚制度。
それは確かに育ちつつあるが、成果が目に見えるようになるのは次の世代になるだろうね。
それまでの間、君の力を借りられれば心強いんだけど」
「お断りします」
「金、女、名声、君の欲しいものが全て手に入るよ?」
「結構です、そもそも今の私は女ですから。
というか、金と女と名声で私が揺るがないって事は姉上が一番知ってますよね?」
「変わってなくて、安心したよ」
コーヒーを飲み終えて、姉上は立ち上がった。
去り際に、私の肩が叩かれる。
「ああ、そうだ。
僕は諦めるつもりは無いから。
必ず自分から、霊亀に戻る事になると思うよ。
――皇帝の権力をあまり舐めない方がいい」
「文明後進国の酋長風情が……!」
マリーがもう一度ブラスターのホルスターに手を伸ばそうとするが、やめるようにその手に自分の手を重ねた。
そして、周囲を見回すように彼女に促す。
いつの間にか、カフェは黒づくめの官服に身を包んだ者達に囲まれていた。
「君が残してくれた、皇帝禁軍の特務はいつも役立ってるよ」
「はは……優秀な人材を集めた甲斐があるというものです」
会計を済ませて、彼女が去ろうとする。
頼むからもう来ないでくれとは思うけど、あの人の事だから欲しいものは絶対に手に入れようとするよなぁ~……。
「ああ、言い忘れてた。
近いうちに、異世界からの来訪者と日本政府の要人を集めてのパーティーが開かれる予定だよ。
我々霊亀外交団の護衛に君を指名するつもりだから、準備しといてね」
そう言い残して、今度こそ彼女は去っていった。
「見てよ、この汗。冷や汗でぐっしょりだよ~」
「……あの人、只者ではありませんでしたね。
……なんで貴女、過去のできごとを話してくれなかったんですか?」
「ん~……。
ま、あんまり誇らしい事は私はしてないからさ」
暗闘に次ぐ暗闘、謀略に次ぐ謀略。
できる限り人死には避けたけど、彼女の敵を排除するために手を汚してきた。
それについて語るのはちょっと嫌だったんだよな~。
「……帰ったら私に全てを話してください。
貴女の隠してる事、全部です!」
「あ、会計よろしく、桜子」
「はぁ~い。モテモテだね、アンタ」
「女の子にモテてどうするのさ~」
会計を済ませて、さっさとその場から離れる。マリーが慌てて追いかけてきた。
「話してくださいよ!?」
「女の子には色々な秘密があった方が綺麗に見えるでしょ?」
頬が抓られた。
痛い。
「本当に……! 貴女という人は……!」
「聞いたら嫌うと思うよ~?
どんな風に手を汚してきたのか知ったらね」
「それでもいいですから、教えてください。
貴女の罪を少しでも私も背負いたいんです」
今日は寝かせてくれなさそうだな~。
明日は日曜でよかった、と心の中で呟いて、カフェから家への道を進む。
それにしても霊亀側からの指名で護衛任務かぁ……絶対ひと悶着あるだろうなぁ~。
次に来るだろう護衛任務に内心、頭を抱えている私は気が付かなかった。
マリーと私の背中を、愕然とした様子で見つめる女勇者の姿に。
寝取られた訳でもないのになんで寝取られた側の顔してるのさ!?
皇帝に仕える若手官僚の一人は、奔放な皇帝の行動に頭を抱えていた。
外交使節団の一人として皇帝自ら来るだけで胃が痛むというのに、勝手に出歩くとか本当に勘弁してほしい。
漏れそうになった溜息を堪える。
それでいて、仕事ができるのが尚更厄介な所だ。
「まだ先帝の統治の傷跡は残っている。
下瑞群は今年は税を免除とする。
商人にも税は取らず、その土地で産業を育ててもらおう。
必要とあれば国庫からある程度産業振興の為に予算を割くように」
政務においては公明正大。
不正を許さず、粛清した官僚の数は四桁に及ぶ。
悪徳官僚は彼女を恐れ、民は彼女を称える。
まぁ、ここまで民からの支持を集めているのは先帝があまりにも無能だったからという事は否定できないが。
「何か言いたそうな顔をしてるね、君。
僕に意見を述べていいよ」
「一応政務中ですので、一人称は朕でお願いします」
「慣れないんだよなぁ~。
では、朕に発言することを許そう」
「失礼ながら、陛下。
私の浅慮をお許しください。
陛下には必ずや我々のような下々の民には思い至らないような深い――」
「あー、いいよいいよ、ここには私の派閥の人間しかいないし。
長口上は不要だよ」
「では単刀直入に。
はっきり言いましょう、陛下が自らここに来るのは無駄な事です。
合理的な判断を行う陛下らしくもない」
確かにこの人は寛大な皇帝だ。
だが、皇帝の勘気に触れれば自分だけではなくその三族にまで被害が及ぶ。
冷や汗がたらり、と若手官僚の額を伝った。
「んー。
どうしても弟は手元に置いておきたくてさ。
たまにはいいだろう?
朕だって国の歯車として働いてるんだし、我儘の一つ言って」
「しかし……」
「食事だって質実剛健、後宮で囲っていた美女たちには銀を与えて放逐。金食い虫だった後宮は削減して、国家財政はかなり健全化したと思うけど?」
「……」
「本来、皇帝は国の全ての権力を担う天の意志とやらの代理人だ。
多少の我儘ぐらいは許されていいと思うけど?
君達のような真面目ぶってる官僚に受けるような政策ばかりしてるんだ」
「ですが……。
陛下が会った人が、皇弟様だったとしましょう。
彼を手に入れようとするならば、銀河連邦との外交問題になりかねません。
官僚として、それは止めねばなりません。どうか、お許しください」
「んー? 大丈夫だよ、愚弟には自分から来てもらうつもりだからさ」
有能な皇帝であるこの人には致命的な問題がある。
それは弟の事となると、周りが見えなくなることだ。
哀れな若手官僚は、これから皇帝が行おうとしてる事を想像して、胃を痛めることになるのだった。