ここは俺に任せて先に行けを繰り返し人々の脳を焼いた転生者の末路 作:葱ラーメン大盛A定食セット(旧竜騎兵)
「という事なんで私!
なんとなんと外交という公の場で護衛を担当することになりました~。
山崎家の栄誉だと思っていいよ、えっへん」
「何が! と、いう訳だ!
このバカ娘め!」
「転生者ってどういうこと……?」
二人とも困惑してる。そりゃそうか。
「えーと、まぁ、その、はい。
実は私、色々な世界を転生して~、前世がある人間なんです、はい」
「恵理子。
お前にどんな前世があるのかは知らん。
だが、なんであれだ。
お前は可愛らしい我々の娘だよ、少し抜けてる所はあるがな。
まぁ、今まで黙っていたのは少し気に入らんがなっ!」
「ぐぉぉぉぉぉぉぉ……お父さんやめてぇぇぇ……。
こめかみぐりぐりしないでぇぇぇぇ……」
「はぁ……。
昔から変わったところがある子だと思ってたけど、そんな前世があったとはね。
3つだったわよね、転生した世界。
1つ目は魔王が存在してそれに対抗する勇者がいる世界、2つ目は『皇帝』が存在する世界、そして3つ目が銀河連邦が存在するスペースオペラのような世界。
それで間違ってないわよね?」
「後、この世界だね」
嘘は言ってない。
この世界で2度の生を受けてはいるけどね。
でも、私が陰陽師たちの宿敵である【利剣】の創設者だとは口が裂けても言えない。
言えるはずがない、私の両親は陰陽師で、彼らとの抗争で傷つき、仲間も失っているのだ。
不本意ながらも、私が作った組織が長続きしすぎたせいで色々な人を傷つけてるのは確かなんだ。
どうにかしたい気持ちはあるけど、今の私は戦闘向きの【秘術】を持ってる訳でもないし、昔のように膨大な霊力を持ってるという訳でもない。
普通の女子高生なんだよ、ちょっと秘密が多い。
「……まだ何か隠してそうね?」
「あははは!
そんな事無いってば、本当本当!」
やっば、私の隠し事バレた?
流石は私のお母さん、勘が鋭いな~。
「本当だよ~本当本当」
「……はぁ、まぁ良いわ。
魂というのは巡るというけど。
少し不思議な魂が我々という夫婦の元にやってきたのも、巡り会わせというものでしょう。
どんな事があっても、私たちは貴女の味方よ」
「……ありがとう、お母さん」
ちょっと秘密を隠そうとした自分の浅ましさにズキン、と心が痛んだ。
「……この世界では随分と愛されているのですね?
マスター」
「マリーのその絶対零度の視線何!?
普通に平和に暮らしてるだけじゃん!」
「……いえ。
バウンティーハンターとして『おふくろ』の仇を取るために銀河を駆けまわっていたマスターの方が輝いていましたよ」
「それはそれ、これはこれ!
今は男でもなくて女の子なんだから!」
「男としての人生の方が長いのに十数年ほど女の子になってるからって自認まで女の子になるのははっきり言ってどうかと思いますよ。
魂が肉体に引っ張られてるんですか?」
「その可能性はまぁ、否定できない、かも?
でもまだ微妙に男としての意識が残っててー、男性を恋愛対象にはまだ見れないんだよね」
「恵理子……お前……」
「貴女の趣味は否定しないわ、今は多様性の時代だもの」
「お父さんとお母さんが私の事を物凄く誤解してる気がする!
マリーのせいだよぉ~!」
まぁ実際、今生では女の子として生まれたけど今までの人生はずーっと男性だったんだよね。
女の子からは女の子らしくないと言われ、男の子からはガサツだと言われる今の私に悲しき過去現在。
ま、友達は多いからそこまで気にはしてないけどね~。
「あ、奥様。
夕食にするなら私も手伝いますね」
「ふふ、ありがとうマリー。
恵理子もマリーを見習いなさい、自分から家事を手伝ってくれるのよ?
そんなんじゃ嫁の貰い手が居ないわよ~」
「うっさいなぁ!
んもぅ、手伝うよ!」
今までの人生に比べて平和すぎる日常、でもこの日常が本当に私は大好きなんだ。
平和万歳、日常万歳ってね!
寝室に戻り、ぽふん、と音を立ててベッドへと腰かける。
当然の権利のように入ってくるマリーに頭を抱えそうになる!
「あのぅー、そろそろ帰ってもらえませんか?」
「おやすみからおはようまでお傍に仕えますよ、マスター」
「帰れ!」
「そうだぞ~、そろそろ副議長の胃に穴が開くからな。
帰る時間だぜ、ベイビー」
突如として部屋の中に男性の声が響いた。
この声は……!
「それにしても、マリーが親分が女子高生になってると言った時は本当に驚いたよ。
しかもマジだったとはなぁ」
不気味な機械音を響かせて、今まで姿を隠していた虚空から現れた。
銀河連邦の最新鋭技術、ダークマタークローク。
姿だけではなくレーダーからも映らなくなるこの技術を埋め込んで、そして私の事を親分と呼ぶ奴はアイツしかいない。
「おお~久しぶりじゃん!
マイヤー! 元気にしてた!?」
「おう、元気にしてたぞ、子猫ちゃん」
漆黒のフードに身を包んだ大柄な男性、見間違えるはずがない。
共にバウンティーハンターとして組んでたマイヤー本人だ。因みに偽名らしい。
「マイヤー。
私は帰るつもりはありません、副議長にもそうお伝えください」
「そうも言ってられねぇだろ、一応俺達の仕事は特使なんだし。
特使の一人がずっとどっか行ったら色々とまずいだろ?
……それに、不穏な噂もある。転生者の身柄を各国が狙ってるとな。
お前が派手に動き回ったらここにターゲットがいるって伝えてるようなもんだろうが」
「むぅ」
「え、あの噂マジなの?」
「少なくとも俺が調べた限りではマジだ。
この世界の大国の特殊部隊が非合法な手段で日本に潜入してるという情報もある。
親分。アンタに護衛を付けたい所なんだが、生憎戦力が足りなくてな。
ヤバくなったらパルコホテルが俺達の拠点だから、そこに逃げてきてくれ」
「りょーかい、まぁ大丈夫でしょ」
「……アンタの変に呑気な所は前世のままだな。
半信半疑だったが今確信に変わったよ。
ああ、ところで事態が落ち着いたら俺におすすめのカフェを紹介してくれ、可愛い女の子とのデートなら――。
いててっ何すんだよ!? マリー!」
「本当に!
貴方は! 女の子となれば見境がありませんねっ。
……すいません、マスター、暫くは離れさせてもらいます。
ですが、マスターは必ず私達の元へと来てもらいます。そのつもりでお願いします」
マリーに頬を引っ張られながらマイヤーたちは去った。
これで私の平穏は戻ったね、うん!
「……ま、そんな訳ないか~」
ピロリン、と音が響いて仕事用のスマホに着信が入る。
メールの送り主は内務省第十三室の偉い人。
私も面識がある、現代を生きる陰陽師たちの元締めだ。
内容は至ってシンプル、一週間後に行われるホテル『アレクサ』での異世界からの外交使節団を交えてのパーティーの護衛メンバーに私が選ばれたということ。
名だたる陰陽師の先輩たちが呼ばれる場に私も呼ばれて光栄です、と適当な社交辞令を並べたメールを送り返して、そのままベッドへと寝転がる。
「私の日常……! どこに!」
まさか前世の因縁が今生にまで追いかけてくるとは思わなかった!
そりゃあ、前世の人達が私の事を想ってくれるのは嬉しいんだけどね。
死は、人として当然の別離なんだ。
それを乗り越えて、私の事をたまーにでいいから思い出してくれるだけでよかったのに。
「はぁー。
マリーも諦めてくれてないし、姉上は絶対に私の事を連れ戻そうとするだろうし。
私は普通の女子高生として暮らすだけで本当にいいのにな~」
たまーに桜子と一緒にカフェに行ったり、家族旅行したり、中間テストで一夜漬けしたり、まぁ普通に暮らせたらよかったんだけどね。
今までの人生変に重い物ばかり背負ってきた気がするし。
背負い込んだのは自分の責任? クククク……。
「とりあえず寝よ」
パジャマに着替えて、リモコン式のスイッチを調整して光量を落とす。
アイマスクを付けてベッドへと潜り込もうとした所で、窓が叩き割られる音が響いた。
「なにっ、なんだぁ!?」
慌ててアイマスクを外して、不躾にダイナミックエントリーを決めてきた奴に視線を向ける。
ローブを被った、体のシルエット的に女性らしき人。
そのシルエットは妙に見覚えはあったけど、あえて触れないようにする。
「……ついてきてください」
「あの、明日早いんですけど」
「ついてきてください!
近くの空地に!」
「はい!」
彼女の勢いに押し切られて頷くしかない。
頷いた私の体はひょい、と彼女に軽々と持ち上げられて、叩き破られた窓から飛び降りる。
そして家の近くにある空地へと私は連れてこられた。
「あのぅ、何の御用でしょうか……?」
困惑してる私の目の前に、剣が投げつけられる。
地面に突き刺さる見慣れたロングソード。
あ、これ私が偽勇者だって名乗ってた時に持ってた剣だわ、懐かし。
死んでた兵士の剣を拝借してこれを聖剣だと言い張って勇者として戦ってたんだったな~。
「それを持って、構えてください」
ローブを被った少女が、剣を握りしめる。
刀身が淡く青色に輝く剣、聖剣だ。
「……はは、私、剣なんて握った事は……」
「早く!」
「あ、はいっ、これでいいでしょうか!?」
ロングソードを引っこ抜いて、剣を構える。
数えるのも億劫になるほど振る事になった愛剣は、この体だと握って構えようとするだけで重心が崩れそうになった。
「――参ります! 本気で守らないと、怪我しますからねっ」
「ちょっとぉー!? 話を聞いてよ、私は戦う気なんてっ」
うおっ、本当に剣振ってきた!?
でも、太刀筋は見え見え、迷いのある一撃!
後ろに地面を蹴って飛んで、寸前で回避。あっぶな、前髪ちょっと切れた。
「殺す気ぃぃぃぃぃ!?」
「黙ってくださいっ、まだまだ行きますからっ」
飛び込んできた彼女の一撃を、剣を垂直にして構えることで受け止める。
激しい衝撃音、手がしびれて剣を落としそうになるが、何とか踏ん張る。
少しずつ、昔の感覚が戻ってきた!
「そっちが、その気なら、こっちも行くよっ」
反撃とばかりに、こちらも相手の足を踏みつけて、頭突きを食らわせて怯ませた後に剣を横薙ぎに振るう。
が、相手もかなりの腕利き、こちらは回避されちゃった。
そのまま何度か剣がぶつかり合う音が、夜の闇の帳が落ちた空地に響き渡る。
段々、戦闘の感覚は取り戻してきたけど……女の子の体だとやっぱり限界はあったね。
「くっ!?」
十六合目、私の愛剣が弾き飛ばされて宙を舞い、地面へと突き刺さる事になった。
降参、とばかりに私は両手を上げる。
「……強く、なったでしょう?
――師匠。
私、物凄く頑張ったんですよ。
師匠が私たちの為に体を張って、魔王への道を切り開いてくれた後も。
魔王を倒した後の、残党との戦いも、その後も、ずっと、ずっと。
2年、戦い続けてきたんですよ?
あの時みたいに、よく頑張ったねって、褒めてもくれないんですか?
なら私はなんのために頑張ってきたんですか?
教えてください、師匠」
ローブを被った少女の声に嗚咽が混じり始める。
咄嗟に、私は彼女を抱きしめていた。
「……ごめんね。
よく頑張ったね、レイ。
ありがとう、魔王を倒してくれて。
ありがとう、
「うっ、ぐす、うわぁぁぁぁぁん!
師匠! 師匠っ、ずっと会いたかったですっ」
彼女が私の事を強く抱きしめた拍子に、ローブが外れて素顔が露になる。
私が稽古を付けて、まだまだ見習い戦士だった彼女の顔は以前よりも凛々しくなっているように見えた。
でも、泣いてるとその凛々しい顔も台無しだ。
「ほら、落ち着いて。
……ハンカチあげるから」
「うわぁぁぁん!
師匠! 師匠がここにいるぅ!」
「ちょっと泣きすぎだってば!
鼻水も私のパジャマについてるし!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
「あ、これヤバいかも。
ちょっと、ちょっといいですかレイさん!
ほら、近所迷惑だからね! 他の人にも迷惑かかっちゃうからっ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん、びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!」
パトカーのサイレン音がどこからか聞こえてくる。
ふと、周囲を見回す。
聖剣、そして私の愛用のロングソード。
そして泣き叫ぶレイ。
この場面を警察に見られたらどうなるのかは明白だ、かなりヤバい!
「ちょっと飛ぶよっ」
今度はレイと剣を抱え上げる。前にだっこした時よりも重くなってる気がした。
【秘術】を使ってその場から転移! 警察の人が血相を変えてこちらに近づいてた気がするけど、顔までは見られてない筈、多分!
「で、寝てる友達の寝室に押しかけてきやがったと」
「ごめんて桜子。
私の【秘術】は【親しい】と思ってる人の所にしか飛べないんだわ」
桜子の超広い寝室へとレイと共に飛んできた私は、ご機嫌斜めな様子の桜子に言葉を尽くして謝罪していた。
「すいません、夜分遅くに……」
「レイはマジで反省してね」
「はい……」
「はぁー、まぁいいよ。
私と恵理子の仲だしね~。
それに私もお嬢様、多少の無礼は許すよ?」
「持つべきものは友達だよね~。
サンクス桜子!」
桜子の実家は有名企業の創業者に連なる家系だ。
そう言えばなんでお嬢様で金に困って無さそうな桜子がバイトしてるのかちょっと気になったけど、今はそれよりも重要な事がある。
「えーと、もう夜も遅いし、レイは自分の拠点に戻ったら?」
「え?」
「え? じゃないよ?」
「私と一緒に来てくれるんじゃないですか?
私をまた置いていくんですか?
私をまた、孤独にするんですか?
私には貴女しかいないのに。
私には貴女だけいればいいのに。
貴女さえいれば。
だというのに、さっきの女といい、この人といい、どういうことなんですか?
詳しい説明をしてください、私は今、冷静さを欠こうとしています」
「こわ」
ハイライトが消えているレイから放たれる凄まじいプレッシャーに体が竦む。
これほどのプレッシャーを感じたのは魔王軍四天王最強と戦った時以来だ。
うおっすっげぇ重力ブラックホールかな? 師匠想いで可愛いね♡
もうその師匠は死んだんだから受け入れろ、今の私は恵理子だ。
「こほん。
レイ様、と申しましたか?
もう夜も遅いですわね、夜更かしは肌の天敵ですわよ?
貴女を送り届けるための車を手配しておりますわ、貴女のお仲間も、きっと心配してるでしょうね」
お、久々に見た桜子のお嬢様モード。
最初に会った時の事を思い出すな~、中学の頃だった気がする。
やたらと高圧的なテンプレ悪役お嬢様だったけどー、いつの間にか私相手にはこんな芝居がかった言葉遣いをしなくなったんだよね。
「……。
分かりました、仕方ありません。
夜分遅くに押し掛けたこちらに非があります。
また日を改めて、お伺いさせてもらいますね」
「分かってくれて嬉しいよレイ……」
「ですが、私は師匠の事は諦めておりませんので。
師匠は、必ず私達が取り戻します」
お、お前変な師匠信仰でもしてるのか……。
メイドに連れられて去っていく彼女の背中を見送りつつ、ふぃー、と息を吐いてクソデカソファに腰かける。
「私の日常……!」
「まー、気にしないで恵理子。
何があったか知んないけど、最悪私の家の力使って匿うからさ。
だから、恵理子、どういう事なのか説明して?」
「友達にそこまで頼れないよぉ~。
説明も、これは私の個人的なものだしぃ~、できないよ。
巻き込みたくないしね」
実は過去に彼女を陰陽師の案件に巻き込んでしまった事があるせいでちょっと負い目があるんだよね。
「……そう」
俯いて、目を逸らした彼女は。
「じゃあさっさと帰れこのクソボケ女!」
笑いながら私の頬を思いっきり引っ張ってきた!?
「いひゃい~!」
あはは、と彼女の寝室で私と桜子の笑い声が木霊する。
彼女との関係は至って健全、私のマブダチだ!
因みに家に帰ったら窓が割れてる事に鬼の形相を浮かべたお母さんから死ぬほど詰められたのは完全なる余談!
副議長は頭を抱えて溜息を一つ吐いた。
外交特使として選んだアンドロイドが勝手に任務を放棄して別の場所に行っていたんだから当然ではあるが。
「君、自分の立場を分かってるのかね」
「分かっていますよ。
ですけど、副議長。
彼が本当にあの人だったのか、確かめる必要がありました」
「確かめるだけだったら、わざわざ彼、いや、今は彼女か。
彼女の元に押し掛ける必要は無かったんじゃないかね」
この世界のブランデーは美味いな、と思いながらグラスを傾ける。
銀河連邦と比べたら技術は比べるまでもないほどに劣ってはいるが、食の品質はかなりのものだ。
これを輸入出来たら我が連邦の利益になるかもしれんな。
と、自分の派閥に属する企業への利益配分を考えていた副議長は特使の一人の言葉に現実に引き戻された。
「それで、いつ決行します?」
「何をだ?」
「彼女を力づくで連れて帰る作戦です」
ブランデーを思わず吹き出してしまって、哀れなホテルのソファを汚してしまう事になった。
「待ちたまえ、どういう理屈でそうなるんだ!?
そもそも、下手に彼らを威圧しないために我々は少数で来てるんだぞ?
護衛は確かにいるが、それでもその拉致作戦だったか?
そこに回す戦力などない」
実際、銀河連邦が使う装備の数々はこの世界の人間から見れば魔法にしか見えないだろう。
1個連隊と巡洋艦が1隻あれば国を1つ制圧する事も訳ないだろうが、銀河連邦は民主主義国家だ、武力による他の惑星への侵略を民意が許すはずがない。
この惑星の人間を拉致するというのは全面戦争の引き金になりかねない凄まじいリスクがあるのだ、汚職してるとはいえ副議長である要職につく彼が許すわけにはいかない。
「ですが、彼女の身柄を狙う人間は大勢います。
彼らよりも先んじて行動するべきです。
英雄を連れ戻すことに成功したら、民衆の支持を得られるのでは?
……汚職疑惑がバレて、今は苦しい立場なんでしょう?」
この宇宙コックローチがと、悪態を付きそうになるのを何とか堪えて、グラスを机に置く。
「まだ、ダメだ。
考えてみろ、彼女は今回の外交交渉における最大のカードだ。
他の異世界の勢力とも交戦することになりかねん。
まずは、彼らの出方を見て、その上でどうするか決めるべきだろう」
「では、本国に増援の要請を」
「もうしておいた。
1個小隊が近日中にこちらに到着する予定だ」
ま、使わないに越したことはないがね。
そう呟いて、ブランデーをグラスに注ぎ、一気に飲み干す。
異世界との交渉を成功させて支持率を取り戻そうとしていたのに、とんだ厄ネタだなと呟き、小さく副議長は舌打ちした。