ここは俺に任せて先に行けを繰り返し人々の脳を焼いた転生者の末路 作:葱ラーメン大盛A定食セット(旧竜騎兵)
それと、今回から連載にしました。
「すいません。
敵の襲撃者たちを逃すことになりました」
その言葉を聞いた、日本政府の偉い人は頭を抱えているのが見えた。
今回の襲撃を阻止できなかった。
その上、異世界からの使節団が居る前でテロリストたちを逃すことになった日本政府の立場はかなり苦しいものになるだろう。
完全に面子が潰された形になった外交官僚の心労を想像するだけで胃が痛みそうになるなぁ。
「……それで、損害は?」
「負傷者が六人、いずれも軽傷です」
「それは、この最悪な状況の中でいい事だ」
日本政府もいよいよ本腰を入れて転生者の行方を探し求めることになるだろう。
……まぁ、遅かれ早かれ、私が転生者だってバレそうな気がするけど。
ちらり、とマリーを見る。
メイドアンドロイドが私に付きまとっていたって話は広まるだろうしなぁ~。
ちなみに、今回の襲撃については
とは言え、テロリストの襲撃というカバーストーリーで真実を覆い隠したといえど、各国の工作員は今回の襲撃が【利剣】の仕業であると気が付くだろう。
文月隊長は今後は忙しくなるだろうなぁ~と思ってしまうけど他人事ではない。
他ならぬ私も当事者の一人なんだ。
「恵理子」
「はい、隊長」
「これから忙しくなるぞ。
こちらからも連絡するが、日本政府の威信がかかっている。
君のお母さんとお父さんに出撃の準備を整えるようにと伝えてくれ」
「は、了解です!」
「【総力戦】になるだろうな、半年前のテロ以来だ」
ここまで陰陽師をコケにした連中相手に黙る訳にはいかない。
近いうちに日本政府に属する陰陽師に大々的な動員がかけられて、【利剣】相手に十数度目の総力戦が仕掛けられることになるだろう。
半年前の【総力戦】においては、幹部を何人か逮捕する事には成功したものの、結局組織のトップである蓮華の逮捕には至っていない。
そして逮捕した幹部たちも、殉教を阻止するために死刑にすることができてないのが現状だ。
まぁ、蓮華を何とかするだけだったら私で何とかできないことは無いんだけど。
うーん……それしちゃうと私と蓮華が間違いなく死ぬし、できれば避けたいんだよね。
「……はぁ、色々と悩みの種は尽きないが。
恵理子、君の交代要員は用意しておいたから、しばらく休憩してくれていいぞ」
「ありがとうございます、隊長」
……。
休憩に入れたとしても全然気持ちが休まらない!
くいくい、と手招きしてる姉上の姿が見えたからね。
「さて、僕を含む外交特使と、この場における重要人物が集まったね」
霊亀に割り当てられたフロア、その個室の一室。
盗聴対策用の妨害電波がマリーの端末から放たれる中、私たちは顔を合わせての会議に臨んでいた。
もう既に冒頭から空気の緊張感がヤバい。胃が痛む。
姉上は物腰柔らかに振舞って、笑みさえ浮かべてはいるがその目は全く笑っていない。
マリーの方は、今にも腰から下げているブラスターのホルスターへと手を伸ばしそうになっているほどだ。
レイの方は剣は持ってきてはいないが、ハイライトの無い目で姉上を睨んでいる。
ここは一つ、ちょっと空気を和ませた方がよさそうだね。
「異議あり。
私は普通の女子高校生です。
誰がなんと言おうと普通の女子高校生です」
「異議を却下する。
この意見に賛成の者は?」
「賛成」
「賛成です」
「よし、多数決が成立だな」
「ちょっと横暴じゃない!?」
「どうやら君は今の自分の立場を正しく理解できてないようだね?
まぁ君の前世も似たような価値観を持っていたから仕方ないが」
「さて、まずは状況を今一度確認するとしよう。
どうやら我々にとっての重要人物は、出来事の重大さを正しく認識してないみたいだからね」
「あのぅ、師匠を連れて王国に避難しましょうか?」
「あのぅ、銀河連邦で匿いましょうか?」
この子たちの発言も場を和ませるジョークだったらよかった。
でもマリーの方はこんなジョークを言う子じゃないし、レイの方は尚更だ。
目にハイライトが一切宿ってない、あの目をしている。
こわ。
「却下だ却下。
隙あれば君達は自分の下へと彼を連れて帰ろうとするな。
僕としても無理矢理連れて帰りたい所なんだが、彼、いや、今は彼女か。
彼女の自由意思が大切なんだよ、無理に連れて帰った所では意味がない」
「そうだよ」
思わず私は便乗した。
姉上の助け舟に大人しく乗る。
実際、ここで姉上の提案に乗ってなかったら彼女達が強硬手段を取ってもおかしくはない……!
「こほん。
まず大前提を整理しよう。
彼女の身柄が重要な理由は3つある」
「そんなに」
「そんなにだ」
頼むから平穏にこの世界で過ごさせてくれって言おうと思ったけど、ここでそんな事言ったら何されるか分からないので黙っておく。
「まず1つ目。
恵理子の身柄を押さえるという事は、各国が異世界との交渉窓口を得るためのカードとなり得る事。
今の所、銀河連邦も王国も日本以外の国との交渉に前向きであるが、まずは日本と交渉することになるだろう。
それに危機感を覚えている諸外国も多い筈だ」
「まぁ、それは認めざるを得ませんね。
銀河連邦側の特使に接触しようとする怪しい人は後を絶ちません。
アメリカ大使館からも正式にパーティーに誘われましたし、昨日だけで三十件以上の国、組織からコンタクトを取りたいと連絡がありました」
「王国側もそれは同じ、です!
魔法技術について知りたいという大学の関係者や、異世界に渡って現地を調査したいという研究者の人からひっきりなしに連絡が来てます!」
「霊亀側もそれは同じ。
仙術についての情報を知りたがってる人々も多い。
そして我が国の人口から巨大な市場として注目する商人もね。
今回の異世界人の来訪はこの世界の人々にとっては青天の霹靂のような出来事だろうさ。
まぁ何が言いたいかと言うと、だ。
我々と交渉して得ることができるかもしれない権益を今の所は日本政府が先んじて得ようとしてる事が気に入らない勢力はごまんと居る訳だ」
「はぇぇぇぇぇ……。
そんなに……」
魔王を倒そうとした時は偽勇者だと名乗っていた一冒険者だった。それなりに後輩の冒険者からは慕われてはいたけどね。
姉上の時もそう。私は皇位の継承権を捨てた、一官僚でしかなかった、そのつもりだった。
銀河連邦に居た頃なんて、自由気ままなバウンティーハンターでしか無かったし。
だから今の自分の立場にそんなに、としか答えられない! おかしいだろっ!
「君というカードを手に入れられたら、日本政府しか持っていない異世界との交渉パイプを自分の国に引くことができるかもしれない。
外交的なちゃぶ台返しを狙おうとしてる訳だね」
「世界中から狙われるだなんて私は人気者だなぁ」
現実逃避気味に私は可愛いから仕方ないよねとポーズをとってみる。
冷たい目で皆から見られた。
「こほん。
そして2つ目、君というカードを手に入れられた場合には我々への要求を通しやすくなるという事だな。
レイだったかな?
君はもし、恵理子の身柄を人質に取られたと仮定して、王国を揺さぶったらその要求は通ると思うか?」
「……。
人の生き死にが関わらない要求であるのなら、通る可能性は高いかな」
「ふむ。
ではマリー、君にも同様の質問をしよう。
どうなると思う?」
「私を含む銀河連邦の人間が、人質に取られる事を許すはずがない、という事は置いといて。
そうですね、核融合炉や、旧式戦艦程度ならばある程度は融通する可能性はありますね」
「うむ、そこが僕が危惧してる所だ」
因みに銀河連邦の旧式宇宙戦艦でも他の銀河系にワープできたり、超巨大な核融合炉が搭載されていたりで戦艦1隻あれば地球の制圧も余裕だったりする。
「君という身柄が押さえられることで、各国が異世界にギリギリ飲める程度の要求を突き付けてくる可能性も高い。
それほどまでに異世界から得られる技術というのは有用なものが多いのだろうさ」
「人気者過ぎて困るな~。
いや本当に滅茶苦茶困る。
えーと、それで3つ目は?」
「これは【利剣】に関連する事だな。
世界最悪の陰陽師テロ組織、【利剣】に先んじて君を確保する事が出来れば、君の事を神として崇めてるような組織だ。君の身柄を使って彼らをある程度コントロールできる可能性もある。
その面から見て非合法組織も君の身柄を狙う可能性は高いだろうさ。
君が今まで撒いてきた種がすべて芽を出した。多少の不自由は許容して貰いたいところだね」
「……はい」
いや、だって……。
今生にまで前世の因縁が巡って来るとは思う訳ないじゃん……。
普通に考えて、転生した先でも追いかけてくるとは思う訳ないじゃん……。
こんな大事になるとは思いもしなかった。
「そして、だ。
ここからが本題。
我々が恵理子に表立って付きまとうのは、彼女が重要人物であると物語っているも同然だ。
なので、マリーも、レイも、恵理子が公の場に居る時に接触することは禁止しよう」
「どうしてもですか?」
「嫌だといったら、どうする?」
三人の視線が交錯する。
バチバチと空中で火花が散ってるように見えるのは私の気のせいだと思いたい。
「……近いうちに正式な交渉の場が設けられるだろう。
そこで恵理子を誰が迎えるか、決着を付けようじゃないか」
あのぅ、私の意志は?
この世界以外のどこにも行きたくないんだけど。
なーんて言ったらまた睨まれそうなので黙っておく!
「それまでの間、我々外交使節団から戦力を抽出。
恵理子の周辺を密かに警備し、不審者への対処を行う。
という事で構わないか?」
「うーん、んー」
「何か意見がありそうだな、レイ」
「えーと、私が高校生に変装して、恵理子さん、だっけ、今は。
師匠のすぐ近くを警備するのはどうかなーって。
転入生という形で!」
「面白い案だが、それは却下だ。
あまりにも目立ちすぎるし、君にも外交特使としての立場がある」
「うーん! ダメかぁ」
おいマリー、その手がありましたかって顔をするんじゃあないっ!
もっと事態がややこしくなるだろうっ。
「あ、懸念が一つ。
マスターの正体をもし【利剣】の方々が知る事になりましたら、マスターの身柄は妖獣を使って狙われるのでは?
知っての通り、我々は妖獣への対抗手段は存在しません。
そうなったらお手上げになるのではないでしょうか」
「その場合は、恵理子には【秘術】を使って転移して逃れて貰う。
君の転移の【秘術】は大変便利そうだからね」
「あはは……。
人に見られるのはあんまりよくないんだけどね~」
陰陽師というものは世の中に存在してないことにはなってるし、本当に正体がバレるのは避けたい。
また始末書を書かされるのは嫌だし!
「あれ?
それなら転移を使って私達の所に定期的に顔を見せて話をしに来てもらうのはどうかな?
というか、転移の【秘術】があるんだったら、私達が護衛する必要はないんじゃないかな?」
「後者の懸念についてはごもっともなように見えるね。
でも実際はそうでもないのさ。
死角からの不意打ちが行われる可能性もある。
そうなった場合は、今はちょっと強いだけの女子高校生でしかない彼女では不安だ」
「あー……。
うーん、確かに、ちょっと平和ボケしてるような……?」
「それだけこの世界が平和ってことだよ、えへへ」
平和ボケしてるという意見にはもっともだね、と答えるしかない。
いててて、もちもちほっぺ引っ張るなよ~、レイ~。
「で、だ。
君の前者の意見は確かにその通りだね。
君には毎晩、私たちが宿泊してるホテルのフロアに来てもらいたいんだが構わないか?
三十分は私達と会話するように、いいな?」
「あのぅ、私だけの所に来てもらえませんか?」
「副議長がマスターと話したいと言ってましたよ。
私も話したいことがありますので、銀河連邦側に割り当てられた時間をもっと増やして貰う事はできませんか?」
「隙あれば君達は自分たちだけで恵理子を独占しようとするな」
私は私だけのものなんだけどなぁ~。
誰かに自分の人生を全て捧げたつもりもないし、前世では彼女達とは凄く健全な関係で、恋愛に発展していた訳でも無かったりするよ!
なので今の彼女達も、その手の恋愛感情は抱いてないと信じたい。
信じてる、信じるしかない。
「……それで、実際どうなんだ?
【秘術】を使って我々の所に毎晩来て30分は私達と話すというのは。
君の身辺警護を隠密で担当するんだから、それぐらいの労いはあってもいいのではないかな?」
「んー、んー……。
まぁ、それぐらいだったら構わないよ。
皆に迷惑かけちゃうことになるしね」
「よし、これで話は決まったな」
意外と理性的な会話で終わって物凄く嬉しい。
問題の先延ばし?
ククク……酷い言いようだね。
事実だから仕方ないけど。
「……それで、ですよ。
どうして貴女が主導権を握って、この話をまとめたのか。
その真意を聞きたい。
まさか単純な善意だけという訳ではないでしょう?」
「ん?
まぁ、そうだね。
ここで恵理子に貸しを作っておきたかったのさ。
私の知る弟は、借りは必ず返す人間だったからね」
実際、私は借金を作るのは本当に嫌だしね!
借金を残して死んだことなんて一度もないよ!
……無いつもりだったんだけどなぁ、【利剣】関係については私が完全に後継者の人選を間違えた節はあるかもしれない! それについては、申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。
「まぁ、確かに……。
私の師匠は絶対に借金は作らなかったですし、受けた借りは必ず返す人でした」
「……。
荒れそうな話を自分が主導権を握って解決することで、彼に貸しを作るという事ですか。
女狐ですね、貴女」
「僕の意図を知っても、だよ。
君達には僕の意図に乗らないという選択肢はない筈だよ。
だから僕なりに妥協したのさ、今は恵理子を巡る争いは棚上げして、ひとまずは共闘しようと」
もう一度、三人の視線が空中で交差し、火花が散る。
だが、マリーとレイは視線を逸らした。
「ふぅー……。
分かったよ、師匠が危険な目に遭うのは不本意だし。
仲間に話して、協力してくれそうな子を集めておくね」
「……銀河連邦の特殊部隊員を何人か付けられないか、話してみます。
ただし、毎夜私達の所に来ること、いいですね?」
私に拒否権は、無かった。
「よし、これで四者面談は終わりだね。
当面は恵理子の身辺警護を最優先に。
そして、正式な場で恵理子をどうするか取り決めると。
更に毎日30分間は我々と話して貰う、これで最終決定だ。異存は?」
「……ないよ」
「ありません」
「はい……」
机に置かれたグラスに、冷蔵庫から取り出した冷たいぶどうジュースを注いでいく。
「では、四者面談成功を祝って。
本来ならば酒で乾杯したいところだが、未成年も居るしね。
ジュースで乾杯といこうか」
グラスとグラスがぶつかり合う音が響く。
マリーとレイは終始、ペースを握られっぱなしであった事が気に入らないらしく、その眼光は鋭く。
私の方は、上等なブドウが使われたのだろうジュースの味は全く分からなかった。
銀河連邦の使節団に割り当てられたフロアに、マリーは珍しく不機嫌さを隠そうともせずに戻っていた。
フロアに置かれたソファに腰かけて、不機嫌そうに腕組みをする。
そんなマリーの姿を見て、腰からブラスターが収められたホルスターを2つぶら下げた女ガンマンが近づく。
「珍しいな、マリー。
そんなに不機嫌そうにしてるなんて」
「……会話の主導権を握られっぱなしでした。
私だけのものなのに。
私だけのマスターなのに。
私には、家族はもうあの人しかいないのに」
はぁ、とガンマンは心の中で一つ溜息をついた。
マリーのマスターが命を落として以来、マリーは自分の死を望むようになった。
この銀河に、もう自分の存在意義は無いと。
メイドアンドロイドとして誰かに仕えるというアイデンティティを失った彼女を説得するために力を尽くしたが、結局、彼女の塞ぎこんだ心を開かせることはできなかった。
自分の力不足を痛感すると同時に、彼女にとってマスターがどれだけ重要なのか改めて認識する。
「んまぁー、その、なんだ。
アタシもさ、マリーには何度も助けて貰ったし、友達だと思ってんだよ。
だから、もしアンタのマスターを奪うって言うんだったら、へへ、協力するよ? アタシ」
「……ありがとうございます。
ですが、今はまだ決行のチャンスではありません、しっかり計画を練って動きましょう」
「おう、まずはアイツの護衛だな。
ひとまずは協調するつもりであるという姿勢を見せて相手を油断させる、それでいいな?」
「ええ」
調停者を気取って、あの場を支配していたつもりなのだろう皇帝の思い通りになるつもりはマリーには無かった。
「と、いう事がありました」
偽勇者であった彼の薫陶を受けた冒険者たちは、使節団の代表である勇者の言葉に耳を傾けていた。
どこの馬とも知れない連中が、自分達の英雄を奪おうとしているのだと、その目には怒りの炎が宿る。
「皆さんの力を貸してください。
我々の英雄を守るために。
……そして、来る日には力づくでも取り戻すために!」
当然、勇者であるレイにも、大人しく今までずっと探していた人間を渡すつもりは無かった。
今は皇帝の言い分に従うしかない。
だが、必ずや取り戻してみせる。
その覚悟を決めて、魔王を打倒した聖剣の柄を撫でる。
そして胸に思い描くは、幸せな結婚生活とどこからか生えてきた子どもとの生活。そして老後には愛する人との愛の結晶に囲まれながら老衰で死ぬという存在しない記憶。
彼女は少々、妄想癖が酷かった。