ここは俺に任せて先に行けを繰り返し人々の脳を焼いた転生者の末路 作:葱ラーメン大盛A定食セット(旧竜騎兵)
でも初見殺しの技の対処は彼らでは無理でした。
後、そもそもの話技術力の差がありすぎて勝てない相手もいます。
そして誤字脱字報告や感想などありがとうございます、励みになります。
深夜の住宅街へとライトも付けずに一台の車がゆっくりと侵入した。
スモークフィルムによって外からの視線は遮られ、中を確認することはできない。
車両には、完全武装のデルタフォース隊員が乗り込んでおり、装備の最終チェックを行っている。
隊員の一人は、緊張した面持ちで自分の愛銃であるHK416へと弾倉を装着し、出撃の時を待っていた。
しかしながらも、どうにも腑に落ちないことがある。
今回の作戦、日本という仮にもアメリカの同盟国内での拉致実行作戦となる。
作戦が表沙汰になれば、国際的な非難は免れない。
だからこそ、今回の作戦には失敗は許されない。
緊張によって冷や汗が銃身にぽたり、と音を立てて零れ落ちた。
「隊長、発言の許可を」
「うむ、構わんぞ」
「ターゲットを確保した後に、ポイントアルファで待機してる【運び屋】に彼女を送り届ける、でいいんですよね?
予想される障害は、オンミョウジ? と呼ばれる彼女の両親、そして兄」
「ああ、それで間違いはない。
ただし、できる限り殺傷は避けろ。
そのアサルトライフルの安全装置を解除するのは最終手段にしろ、穏便に【確保】できるに越したことはないからな」
「はぁ……」
正直、まだ若い特殊部隊の隊員は納得がいってなかった。
そもそも、異世界という存在自体も彼は半信半疑だ。
日本がでっち上げたデマであるという風説までアメリカではしているのだから。
「……お喋りはここまでだ、そろそろ目的地だ」
車内で装備の最終点検をしていた隊員たちに覆面を被るように指示を出す。
目標の家が見える位置で、車が停車。
音もなく中から完全武装の特殊部隊員たちが降りて、屋敷を取り囲むように展開する。
家の電気は付いてない、恐らくは寝静まっているのだろう。
これから派手に家に侵入する事を考えると、流石に若干申し訳ない気持ちに彼はなった。
隊長からの通信が通信機に入る、作戦決行と。
安全装置はまだ解除せず、アサルトライフルを構えて他の隊員たちと共に一斉に家の中へと侵入しようとする、が。
ここで彼らはある事に気が付いた。
咄嗟に緊急事態を知らせるために声を張り上げようとするが、声が出ない。
まるで、家の周辺だけ音が消え去ったかのようだ。
しかしながらも、流石は特殊部隊の隊員たち。
超常現象に見舞われながらも、二人一班となって背中をカバーし合う警戒隊列を組む。
銃の安全装置も外し、臨戦状態だ。
だが、音が完全に消えた筈の世界の中で、
咄嗟に、デルタフォースの面々が音が聞こえてきた方向に視線と銃口を向けると、そこにはローブを被った少女が一人。
ふわり、と射線から逃れるように彼女の体が揺れ動くと同時に、ローブが捲れる。
月明かりに照らされた見目麗しいその姿を見て、一瞬だけ若い隊員は引き金を引くのを忘れてしまった。
そして、その次の瞬間に急激な眠気に襲われる。
一人、また一人と恵理子を拉致しようとしていた特殊部隊の隊員たちは眠りに落ちる。
最後まで膝を屈すまいと立ち続けていた若い隊員も、その手から銃を落とし、その視界はブラックアウトした。
「ふぅー……この世界でも魔法が使えるのはありがたいね」
眠りに落ちた特殊部隊の隊員たちが、異世界からやってきた冒険者たちによって縛り上げられていく。
それを見ながら、異世界では勇者として名の通ったレイがその場に落ちていた銃を拾い上げた。
「おお……銃って結構重いんだね」
「あ~レイ。
よく知りもしないものを拾い上げようとしない方がいいよ?
ダンジョン探索した時に罠に引っかかって死にかけた時の事もう忘れたの?」
「あはは……分かったよ、ごめんね」
神官の衣装を身に着けた少女にそう返して、そこら辺に銃を投げ捨てる。
「我々が警戒していて正解だったね!
車両で待機していた面々を捕獲して、空き地へと連れてきたエルフ耳の斥候はにんまりと笑みを浮かべて、捕獲した兵士の懐をあさる。
財布の中身を見てチッ、と舌打ちしてその場に投げ捨てて兵士の横腹を軽く蹴り上げた。
「あはは……捕虜なんだからあんまり酷い事しちゃ、ダメだよ?」
そう言って、同僚の非道を咎めながらも、レイの目も笑ってはいなかった。
運よく、いや、運悪く意識を取り戻してしまった若い隊員に気が付いて、満面の笑みを浮かべて近づく。
「ねぇ、外国の人」
異世界において、翻訳魔法は一般的なものである。
多種多様な種族、人種が暮らす世界であるため、多少魔法の才能があるならば子どもでも習得しているほどだ。
その為、アメリカ人である彼にも彼女が何を言ってるのか聞き取れた、聞き取れてしまった。
「師匠の偉大さ。
聞きたいようですね?
頭に師匠の偉大さを植え付けてあげますので覚悟してくださいね。
それと私が師匠の正妻であるということも今日覚えて帰って貰いますから」
「ひっ……!」
「まず師匠との出会いはですね。
私が村娘として両親と平和に暮らしてて、魔王軍が村にやってきて村を焼き始めたんです。颯爽と魔族に襲われていた私の事を助けてくれたのが最初の出会いでした。
その後は――」
後日、アメリカに帰国することになった彼は勇者という単語に極度に恐怖を覚えるようになり、勇者は師匠の嫁であるという意味不明な単語を繰り返すようになるのだった。
同時刻、東京埠頭の一画。
スペツナズの集結地点として指定されていた埠頭の倉庫内では、集結した面々が全員縛り上げられて逆さづりにされていた。
「あまりにもか弱い。
ブラスター抜くまでもなく素手で制圧できるとはな」
サイボーグ忍者である彼は逆さづりにされた哀れなスペツナズ隊員の腹部を軽く殴りつけた。
銀河連邦の装備と、彼らの装備とでは文字通り次元が違う。
バウンティーハンターが身に着けている戦闘にも使える普段着でさえも、スペツナズが装備している銃では貫く事さえもできない。
戦いは一方的なものとなった。
埠頭に集結したスペツナズ五十人に対して襲撃者はたったの三人。
だというのに、彼らが制圧されるまで三分もかからなかったのだから。
「癪ですが、彼女の読み通りになりましたね。
各国の特殊部隊がマスターの身柄を狙う。
全く……マスターは私だけのものだというのに、身の丈を知らない連中には困ったものですね?
そうですとも、私だけのもの……他の女共には渡さない。
私だけのものですから」
いや、別にお前のものでもないぞ、とバウンティーハンターとしてそれなりに経験を積んでいる彼であったが、その言葉を実際に口に出すことはできなかった。
メイドアンドロイド特有の無表情なマリーの顔に恐怖を覚えたからだ。
無表情だが、戦闘用殺戮アンドロイドに似た強烈な殺気に、彼の額には冷や汗が滲んだ。
「殺すなよ? マリー」
「死んだほうがマシだと感じさせる方法はいくらでもあります」
そう言って彼女が取り出したものを見て彼は顔を一気に青ざめさせた。
「お、おい、待て、それってまさか。
スペースサルミアッキ……!」
多種多様な人間がひしめく銀河連邦内に何の為に作ったのか一見すれば分からないような食品が存在してる。
銀河連邦市民に三つ、存在意義が分からない食品を挙げさせたら必ず入るであろう食品がこのスペースサルミアッキである。
一言で言えばマズイ、だがこのマズさが癖になるという事で一部のニッチな層が買い支えてるせいで未だに入手可能な食品だ。
別名食べる拷問器具。その名に違わず、拷問用道具として銀河連邦情報局が常備してる事でも有名だ。
「はい、あーん♡」
んー、んーっ! と、必死に首を振って拒絶してるスペツナズの隊長に満面の笑みを浮かべてそれを放り込むと、体がびくびくと釣り上げられた魚のように跳る。
隊長が目を見開いて目から血を流しながら悶える。
必死に口を開けて吐き出そうとしているが人類全自動虐待マシーンと化したマリーの怪力によって口が閉じられてるせいで吐き出すことができない。
この世の全ての苦痛が詰まった味とまで形容される、体に有害な物質が入ってないだけのそれによって味覚神経が麻痺していく。
暫くすると、白目をむいて意識を失ってそのまま脱力した。恐らく今後数週間は何を食べてもスペースサルミアッキの味しかしないだろう。
「うーわ……えっぐ……」
新たな犠牲者の聞くに堪えない悲鳴から逃れるように、東京の夜景へと視線を向けることにした。
赤坂の迎賓館、そのソファに霊亀の最高権力者が腰かけていた。
対応しているのは、外務大臣だ。
「うん、良い茶葉を使っているね。
大儀である。
さて、お忙しい中、接待をしてくれたんだ。
朕もそなたを尊重して手短に話そう」
笑みを浮かべながら大臣は茶を飲んでいたが、正直味は分からなかった。
突然の霊亀側からのコンタクト。
しかも、国家の最高権力者である皇帝が直々にやってきて内密に話したいというのだ。
急遽会談の場をセッティングして、こうやって話す場を整えることができたのは外務省職員の奮戦のお陰だ。
彼らには臨時でボーナスを支給するべきだろう。
「ありがとうございます。
それで、ご用件というのは?」
少し現実逃避気味にそんな事を考えつつ、にこやかに彼は対応する。
あくまで用件を聞いたのは、外交的な社交辞令でしかない。
彼女がここに来た理由の見当は既についているのだから。
「ああ、日本政府も転生者が誰なのか、見当を付けたようだからね。
少し釘を刺しにね」
「おや……?
何のことか分かりませんね、ははは。
後で部下に確認させておきましょう。
ただ、手続きが煩雑でしてね、少し時間がかかるかもしれません」
「はははは、君は中々狸だね。
知ってる事を知らない風に装うのも中々大変だろう?」
チッ、と、内心外務大臣は舌打ちした。
既に公安を使って身元の特定は成功させたが、予想通りというべきか、こちらの動きが察知されている。
「まぁ、良いさ。
朕が頼みたいのはだね、彼女に平和な日常を送らせて欲しいんだよね」
「……と、言いますと?」
「ああ、君達の考えは何となく分かるよ?
身柄を政府の力を使って【合法的】に確保して、我々への交渉のカードにしたいんだろう?」
「……」
「まぁ、良いさ。
それは良いんだよ、朕だって君達の立場だったら似たような事はしただろうしねぇ。
圧が増した。
怯えた表情の上から笑顔を重ねて取り繕う。
「ま、それでも彼女に親しい人間から見ると。
気分はよくないよね~?
私はできる限り彼女を尊重して、彼女に自分の意志で選んで貰いたいんだよ。
だから、今は彼女には平和に暮らさせてあげて欲しいな。
朕への配慮はしてくれるかな?」
「はは……私の一存では何とも……。
時間を貰っていいですか?
そうですね、数時間ほどで完了すると思います」
実際は防衛省と共同して特殊作戦群を派遣して確保に動いている。
陰陽師の連中の機嫌を損ねるリスクもあるが、それだけの価値はある作戦だ。
「ああ、君達の装備は随分と進んでいるね。
でもこの世界に【秘術】や霊力が存在するのと同じように、だよ。
我々にも仙術というものがあるんだ」
「……ええ、話には聞いております。
なんでも、天候や精霊を操ると」
「ところで、だよ。
運悪く朕が引き連れてきた禁軍の特務の子達がね、彼女の周辺で銃を持って不審な動きをしていた人達を捕獲したらしいんだ。
いやいや、全くもって双方の相互理解が進んでいなかったせいで起きた不運な事じゃないかな?
朕はとっても悲しいな~、ははは」
「ははは……」
声は笑ってはいたが、その表情からは微笑みの仮面が剥がされて急激に胃が痛み始める。
「日本語は喋ってはいたけど、国籍や名前は分からなくてね~。
君達の所に引き渡す前に、尋問して話を聞きだして良いかな?
あ、因みに霊亀の尋問方法は結構残虐だよ、生きて帰れるのは何人いるかな、ふふ」
「……」
外務大臣は、降参の意を示すように両手を挙げた。
「……ええ、全くもって不幸な行き違いですな!
彼らは我が国の国民です、どうかお返しいただきたい」
「いいよ、次からは気を付けてね?
今回は不幸な行き違いって事にしてあげるからさ」
「正式に、彼女の去就が決まるまでは、我々は彼女の身柄には直接触れない。
それでよろしいですね?」
「うん、構わないよ。
ただ、彼女周辺の身辺警護はしてほしいな~?
勿論、我々の警護にも話を通してね。共同して彼女の身柄を守ろうね?」
秘匿で行われた会談は、最終的には双方が笑顔で終える事になった。
そして、翌日。
『朝の定時連絡だよ。
おはよう諸君。
それにしても便利だね、銀河連邦の技術は。
こうやって脳波を飛ばすことで連絡することができるんだから』
『……おはようございます。
旧式の外付け式の連絡デバイスを気に入っていただける安上がりな女でよかったです。
皇帝陛下殿』
『おはよう! そして!
○○○○(王国スラング)!』
『随分な挨拶だね、君達。
まぁいいさ、無知な異世界人の無礼を許してやらないで何が皇帝だというのだ。
こちらは外務省に話を付けておいた、そちらは?』
『ふん……。
スペツナズの連中も警察に引き渡しておきました。
一応言っておきますが、あくまで目的が一緒だから一時的に共闘してるにすぎませんからね?
そこは勘違いしないように』
『えーと、アメリカの人達も警察に引き渡したよ。
これでよかったんだよね?
まぁ殺すのはかわいそうだし、殺さないのは賛成だったけど』
『うん、百点満点さ。
君達の実力だけは評価しないでもない』
『それはどうも。
……我々の力を思い知ったのならば抜け駆けは考えない方がいいですよ?
勇者さんも、そして皇帝も
その気になったら瞬きする間に皆殺しです』
『ふふふ』
『……くすくすっ』
『何がおかしいんですか? 二人とも』
『いや、笑うだろう?
科学という君には過ぎたオモチャでイキってるに過ぎないポンコツ木偶人形がジョークを言ってるんだから』
『笑わないのが失礼ですよね?
魔法も使えないゴブリン以下の下等生物が何言ってるんですか?』
『……貴様ら』
『まぁいい、茶番はこの辺にしておこう。
ところで、今は異世界における社会不適合者で屑のゴロツキ共が私の大切な彼女の身辺を警護するという身の丈に似合わない大役を務めてるらしいが、報告はあるかな?』
『うん、不自由な皇帝と違って自由な我々冒険者はしっかりと任務を果たしてるよ?
皇帝の椅子はさぞ座り心地は良いだろうね、自分の思うがままに行動することはできないだろうけど。
鳥籠にしては随分と豪勢じゃないかな?』
『……。
情報は簡潔に伝えてくれ、僕も暇じゃあないんだ』
『五分前までは教室に居たのを確認してるよ。
ただ、そこから姿は確認してないね、お手洗いに行ってるのかな?』
『……』
『どうしたんだ、急に黙って』
『いや……念には念を入れて、彼女の席を密かに調べておいてくれ。
それと、女子トイレの中の捜索も頼む』
『ん……んー?
それは構わないけど、どうして?』
『……もし、彼女の親しい人間が人質を取られたらどのように行動すると思う?』
『……あ』
護衛任務をこなして以来、妙に私の周辺が平和になった気がする!
日常が戻ってきたー、的な!
……まぁ、実際は昔の冒険者仲間やら、バウンティーハンター仲間やら、禁軍の特務やらの気配を感じるから護衛はされてる感じなんだろうけどね。
「完全に日常が戻ってきたわけではない、かぁ」
学校に登校する途中で顔を合わせることになった友達に声をかけて、下駄箱へと向かう。
あ、下駄箱の中に手紙がある。
なんだろ。
中身を確認する。
えー、何々?
『桜子の身柄は預かった、本日午前10時までに東京港の◯◯倉庫に来るように。
来なかった場合は彼女の身柄は保証しない。
監視も連れてきたら桜子の命は無い物と思え』
手紙を閉じる。
目を閉じて、神経を集中させて気配を探る。
ここから五百メートル以内に、冒険者の気配は幾つか。
「うーん……困ったねぇ」
今の自分の立場は分かる。
異世界から自分の為に来てくれた、前世で縁深かった人たちにまた余計な心配をかけてしまう事が分かる。
それでも、だ。
私が私であるために、桜子を見捨てることなどできるはずがない。
「まずは、監視を振り切る必要がありそうだな~」
皆、私の身勝手を許してくれるかなぁ……。
いや、多分許してくれないか、どうしようかな。
言い訳と、監視の目を欺く方法を考えつつ、ひとまずは私は教室に向かう事にするのだった。