―――京楽春水の許可を得て現世へと降り立った。集中する。僅かに霊力が密集してる場所を感知した。現場へと急行する。古びた倉庫のような場所、間違いない、結界も張られていることを確認した。閻魔刀で結界を斬り裂く。そのまま扉も切断し蹴り飛ばす。
「邪魔するぞ。」
「誰やおどりゃあ‼」
赤いジャージを着た金髪の小娘が怒鳴りつけるのを始めとして一斉に俺に視線が集中する。
「お前らが藍染惣右介被害者の会で間違いないか?」
「うちは『誰や』って聞いとんのや。質問を質問で返すなやハゲ。」
「俺はバージル、苗字か名かもわからん。ただのそれだけだ。お前らが藍染惣右介被害者の会で間違いないか?」
「うちらの前でその名前を口にするたあええ度胸しとんなあ若僧が。その上クサレ死神ときた。生きて帰れると思うなや。」
ため息をついた。主に藍染惣右介のせいだろうが自分たちを迫害した尸魂界の死神全員を恨んでいるらしい。並々ならぬ怨念を感じる。
「ため息ついてスカしとんちゃうぞこのハゲ‼ ブチ殺すぞわりゃあ‼」
「つまり…お前ら全員を叩きのめせば話してくれるということだな?」
「ぶっ手切れ『馘大蛇』 お前ら! 手ぇ出すなや‼」
小娘の斬魄刀が巨大な刀に変化する。殺気を感じる。素早い踏み込みから振り下ろす。半身になって避ける。斬り下ろし、斬り払い、薙ぎ払い、袈裟斬り、下からの袈裟斬り、刺突、ジャンプしてからの斬り下ろし、全て避けた。
「……なんで手ぇ出さんのや? 舐めとんのかハゲ。」
「女を、ましてやガキに暴力を振るうのは性に合わん。それだけだ。お前は敵ですらない。」
「それを舐めるいうんじゃハゲ⁉ もう許さへん⁉」
小娘が仮面を被ると共に霊力が増大する。あれが虚化というものだろうか。口を開く、赤い光線が放たれる。納刀したまま鞘で軌道を逸らす。倉庫の屋根が爆発する。
「なっ⁉ 何もんやお前…⁉」
「こいつが言うには俺の前世は半分は化物の血が流れていて大罪を犯したらしい。それ以上のことは俺にもわからん。」
閻魔刀を突き出しながらそう答えた。
「ま、まだまだぁ⁉」
さっきよりも格段に速い速度の踏み込みと剣速で刀を振り回す。その全てを悉く避けた。小娘のスタミナも相当なものだった。だから納得するまで付き合うことにした。数時間もそうしていただろうか。ついに小娘の仮面が消える。
「満足したか?」
「はあ…⁉ はあ…⁉ クソッタレ⁉ ほんま何もんやお前⁉」
「そうだな…俺の経歴だけ紹介しておこう。流魂街の北80区更木で腹が減って喉が渇いては住民を襲っては食って血を飲んで空腹と渇きを癒していたら死神に目を付けられて最終的に本気の更木剣八と殺り合ってトドメを刺そうとしたところに京楽春水と浮竹十四郎という男の邪魔が入った。そして京楽の誘いで真央霊術院に入学し1年で卒業、ついでに言うと鬼道は破道は九十九まで、縛道は八十一まで詠唱破棄で使えるぞ。つい最近護廷十三隊八番隊第三席になった。」
「「「「「なっ⁉」」」」」
「嘘だろ…⁉ あの更木剣八を…⁉」
「鬼道も滅茶苦茶だぞ…⁉ マジかよ…⁉」
ついでに魔人化した。
「「「「「なっ⁉」」」」」
再び全員が驚く。
「ほんまもんのバケモンや…⁉」
「お前…卍解しとらんのやろ? それでそんなに強いってか…⁉ うちの完敗や…⁉」
「卍解? 何だそれは?」
「知らんのかい…。斬魄刀の二段階目の解放形態、斬魄刀戦術の最終奥義とも呼ばれとる。戦闘能力は数倍にも膨れ上がるそうや。」
「生憎そこまでには至っていない。もっと強くなるしかないだろう。藍染惣右介を殺すためにもな。」
「……ほんまに言うとんのか?」
「ああ、奴に実際に会って感じた。ドス黒い悪意と底知れぬ実力と何かを企んでいるのを隠しながら生きていると。そろそろ何があったのか話す気になったか?」
「その前に死神の姿に戻ってくれんか? ものごっつう怖くて堪らん。」
魔人化を解く。以前は更木剣八に胸を貫かれたようにしないと出来ないと思っていたが鬼道の修行中に自分の意思で自在にコントロールできるようになった。赤ジャージの小娘が安心したようにホッと息を吐く。それから全員に約100年前の事件について聞いた。被害者の彼らから得た情報は京楽から得た情報と大差はなかった。だが疑念は確信に変わった。
「本当に協力者は市丸だけなのか?」
「……いや…あの時…確かに…いきなり視界が真っ暗になって物音も聞こえなくなった…⁉ てっきり藍染の仕業かと思ってたがあんな能力は見たことがねえ…⁉ 他にもつるんでる奴がいてもおかしくはねえ…⁉」
「いわゆる5感を奪う3人目か…面倒なことになった。だがこれでハッキリした。藍染惣右介は生かしてはおけん。悪かったな、嫌なことを思い出させて。礼を言う。」
「礼には及ばへんよ。あんたみたいな死神もおるって知って安心したわ。」
「バージル…っていったか。あんたに会うて欲しい人がもうひとりおる。付いて来て。」
赤ジャージの小娘に手を引かれるまま倉庫から連れ出される。
「ねえ、唐突なんだけど…悪魔の存在って信じる?」
「本当に唐突だな、今まで信じてなかったがたった今から信じることにした。あいつの姿を見ちまったからな。」
「でも変だよね、悪魔が人助けするなんて。」
「死神が死神同士で殺し合うんだから変じゃねえだろ。でもあいつにある『心』ってもんは信じられる。俺たちが未だに生きてられてるのがその証拠だ。」
ここは…駄菓子屋というところだろうか…。小娘が扉を開けて名前を呼ぶ。中から店主らしき男が出てくる。
「ええっと…貴方、何者ですか?」
「死神だ。藍染惣右介について知ってることを話せ。」
「いえ、そういう意味ではなくて…もっと根本的なところから教えてもらえないっスか?」
「俺の前世は半分が化物の血を受け継いでいたらしい。生まれ変わった後でもその血は引き継いでいるようだ。」
「『化物』とは?」
「こいつの中の奴は『魔王ユリゼン』と自称していたぞ。それ以外は知らん。」
「『魔王』…『魔王』…うーん…聞いたことないっスね…。」
「藍染惣右介について知ってることを話せ。お前も被害者か?」
「まあ…そうっスね…。虚化の実験の濡れ衣着せられましたっス。」
「奴の実力はどのくらいだ?」
「今の貴方では…勝てるか…いや…どうかってとこっス。彼が成長していなければ…の話ですが。あ、もしよろしければ採血させていただいてもよろしいっスか? 貴方に興味が湧いたっス。」
「いいぞ、好きなようにしろ。」
注射器で採血される。小娘が男に何か耳打ちする。何かに驚いたように頷く。小娘に手を引かれるまま奥へ、下へ進む。地下室らしき場所に連れていかれる。
「なぁ…バージル…。ひとつ頼みがあるんやけど聞いてくれる…?」
初対面の時の強気な態度は見られない。顔を赤らめて俯きながら話しかける。
「何だ?」
「うちを…抱いて…⁉」
「……意味を分かって言っているのか? そもそもお前はまだ子どもだろう?」
「死神は長寿な反面、肉体的成長が遅いんよ…。今は成長が止まってる…。でも…男を受け入れるくらいの体には成長したと…思う。」
「万が一子供が出来たらどうする? 俺には育てる程の余裕などないぞ。」
「その時はうちが喜んで産んで育てる…⁉ それくらいあんたに惚れこんでもうたんや。」
「……分かった。初めてで上手く出来るかわからんがよろしく頼む。そういえば名前を聞いてなかったな。」
「猿柿ひよ里…。うちも初めてや。」
見つめ合い唇を重ねる。こうして生まれて初めて女とまぐわった。飽きることなく快楽に身を委ね何度も行為を重ねた。ひよ里が眠って動かなくなるまで行為を続けた。そっと起き上がり着替える。階段を登り店主に分かれの挨拶をする。
「ひよ里さんとは上手くいきましたか?」
「ああ、礼を言う。お前の名前も聞いてなかったな。」
「浦原喜助と申します。以後お見知りおきを。藍染惣右介には気をつけてください、貴方の力に目を付けているでしょう。従来の死神とは異なる力を持つ貴方に。後、彼には謎の催眠、幻覚能力があるようっス。くれぐれも彼の斬魄刀の発現には引っ掛からないでください。それではお気を付けて…。」
「分かった。さらばだ。」
瀞霊廷に戻った。出迎えたのはやはりと言うべきか予想通りだった。
「どこへ行っていたのかな、バージルくん?」
「約100年前の魂魄消失事件の被害者に会って来た。浦原喜助という男にもな。」
「……それで、何か分かったことはあったのかな?」
「お前が首謀者で市丸ギンともうひとり協力者がいることが分かった。」
「裁判でも僕の無実は証明されたよ。」
「浦原喜助がこうも言っていたぞ。『彼には謎の催眠、幻覚能力があるよう』だと。俺にも試してみるか? その隙にお前の首を撥ねるがな。」
「……僕にそんな能力はないよ。それに…君を敵に回すなんて恐ろしいことは出来ない。」
「そうか? 俺の体質に興味があると思っていたんだがな。」
「既に有能で将来有望な君を部下にしたかったのは事実さ。ただのそれだけだよ。」
「お前たちを疑っているのは俺だけだと思うなよ。俺は忙しい。」
藍染惣右介を背に立ち去った。殺気は感じなかった。今のところは、だが。そのまま八番隊隊長室を訪れた。
「帰ったぞ。」
「どうだった?」
「首謀者は藍染、協力者は市丸と5感を奪う謎の死神がいるらしい。犠牲者たちは死神そのものを恨んでいたぞ。自分たちを処刑しようとした中央四十六室とやらへの恨みが根深いと見た。揃いも揃って無能の集まりなのか?」
「それはしょうがないよ。状況証拠と物証が全てを浦原喜助…って知ってる? 彼が犯人だと証明しちゃってたんだから。」
「浦原喜助なら俺も会ったぞ。そして忠告された。『彼には謎の催眠、幻覚能力があるようっス。くれぐれも彼の斬魄刀の発現には引っ掛からないでください』と。奴の斬魄刀はもう見たのか?」
「うん、彼曰く鏡花水月っていう霧と水流の乱反射により敵を撹乱・同士討ちさせる能力らしいけど。」
「そうか、ではもうお前も手遅れか…。」
「どうして?」
「奴の言うことは全てが信用ならん。奴の斬魄刀の発現を見てしまった時点で術中に嵌まってしまったと見ていいだろう。俺が会った藍染とお前らが会っている藍染が同一人物とも限らんだろう。」
「それは…そうだね…。悔しいけど…。」
「それから…卍解とやらを習得するにはどうすればいい?」
「えっ⁉ もう卍解習得したいの⁉ 死神になって1週間も経ってないよ⁉」
「何かが起こってからでは遅い。俺もまだまだ強くならなければならない。俺の鍛錬に付き合ってもらうぞ。拒否するなら十一番隊を襲撃して今度こそ更木剣八の首を取る。」
「わかったわかったから⁉ 変な気起こさないでよもう…⁉」
それから訓練場でひたすら京楽と斬り合った。俺の傷は自然に治るので遠慮なく斬ってもらった。京楽の傷は四番隊の隊長を呼び出して治癒してもらった。京楽が疲れて眠っている間に彼女に話しかけた。
「お前は戦わなくていいのか?」
「私の部隊は救護・補給専門ですので。」
「とぼけるな。お前は誰よりも闘争に飢えている。俺と京楽の戦いを見て抑えていた本能が目覚めたか?」
「…………そうですね。貴方の言う通りです。貴方の戦いぶりを見てかつての自分を思い出しました。殺戮と血を求めた過去を…。どうやら千年経っても変われなかったようです。初めまして、私の名は『卯ノ花八千流』どうぞ本気で殺す気でかかってきてください。」
「言われるまでもない。」
魔人化する。
「その姿…⁉ 何者なのですか…⁉」
「問答無用。」
疾走居合で縦横無尽に高速移動しながら卯ノ花を斬りまくった。途中で斬魄刀で受け止められながら鬼道で回復する。左手だけで鍔迫り合いしながら右手にミラージュエッジを召喚し腹を突き刺す。大きな隙が出来た。再び閻魔刀だけに持ち替え両手で袈裟斬りを振り抜く。俺も同じように斬られた。手首を返し逆袈裟斬りをする。またしても同じように斬られた。斬り払い、薙ぎ払い、斬り上げからの斬り下ろし、ノーガードでの斬り合いが続く。彼女の真っ白な隊長羽織が真っ赤に染まる。
「どうした? 貴様の力はこんなものではあるまい! 卍解とやらを出せ!」
「そうですね、座興は 此にてお仕舞 卍解『皆尽』」
周囲が血で覆われる。彼女の斬魄刀も同様に血に溢れている。俺も卯ノ花の返り血を浴び続けた影響なのか、この血だまりの影響なのか力が漲る感覚が止まらない。着実に強くなっている。俺の気分は高揚し続ける。彼女が斬魄刀を連続で振る。血が斬撃となって襲ってくる。トリックドッジで躱した。また血の斬撃、瞬時にミラージュエッジを手にしてドライブ&オーバードライブで相殺、卯ノ花の胴体を両断するがすぐに再生する。トリックダウンで背後を取り首を撥ねようとした…ところに身を屈めて水面蹴り、ジャンプして躱しながら兜割り、斬魄刀で受けられる。右手だけで押し合い左手に召喚した閻魔刀で腹を突き刺す。五月雨幻影剣で拘束しながらディープスティンガーを叩きこむ。ミラージュエッジで胴体を抉られながら夢中で反撃に出るが悉く閻魔刀で弾かれる。輪切りにされていく傍から再生し続ける。鞭のようにしなった斬魄刀で体を縛られ引き寄せられる。咄嗟にトリックアップで頭上に移動し流星脚をブチ込む。ガードする両腕を弾き飛ばし顔面を陥没させる。エネミーステップで再度ジャンプし流星脚を顔面に当てる。頭部が破裂し頭蓋骨と脳ミソと脳漿をまき散らしながら再生する。だが…
「みご…と…。」
と言い残し白目を剥いて倒れる。周囲が元の訓練場に戻る。反射的に閻魔刀で手首を切り卯ノ花の口内に溢れ出る血を流し込んだ。どうにかして飲みこませた。化物の血が流れているという俺の血…毒か薬になるかは賭けだった。静かに見守った。ここで隊長格に死なれたら困る。俺の…いや八番隊の責任問題になる、俺が罪人になる、色々な事を想定した。そうならないように祈った。卯ノ花が咳き込みながら起き上がる。とりあえずホッとした。
「私は…死んだはずでは…? 何をしたのですか?」
「化物の血を受け継いでいるらしい俺の血を飲ませた。ギリギリ半分の賭けだったがな。」
「『化物』とは…なんですか?」
「俺の前世は『魔王ユリゼン』を名乗る化物の血を半分受け継いでいたらしい。どうやら前世からそのまま血を受け継いだらしいな。」
「『魔王ユリゼン』…聞いたこともないですね…。」
「それより傷の方はどうだ? 平気か?」
「はい…。死ぬ程の傷を受けたはずなのに不思議と元気です。」
「ならば良かった。責任問題になったらどうしようかと困っていたところだ。」
「ふふっ、貴方もそんなことを気になさるんですね…!」
「それはそうだ。今の俺は護廷十三隊八番隊第三席、それだけだ。決闘でもないのに隊長格を殺してしまったら大問題だろう。」
「私は…楽しかったです…! 久しぶりにあんな戦いが出来て貴方に感謝を申し上げます。」
正座してお辞儀された。何だか照れ臭い。そんな時、閻魔刀が呼応した。脳内に言葉が響く。
「済まないが急用が出来た。お前も隊舎に戻ってゆっくりと休め。」
「はい、おやすみなさい。」
俺は急いで瀞霊廷のひと気ない所まで駆けつけた。