加速馬鹿はやがて最強へ至る 作:待雪草
「ではこのまま授業を始めるが……そうだな。ちょうど良い。おい、メテオリック」
「なんやセンセイ」
こちとら、まだあんたに引っ叩かれた頭がジンジンしとるから、そんなにややこしい問題やと答えるのは難しいんだが。
「お前の敵が速度を封じるために地面を柔らかくしたとしよう。どうやって対処する?」
「そんなん考えるまでもないな!!速度が殺される前に加速してぶん殴る!!」
「……では、毒を用いた場合は?」
「俺が死ぬより速くぶっ飛ばしてとっとと解毒するに限るわな」
相手がどんなギフテッドだろうが俺には関係あらへん。
俺の速度ならどんな問題もぶっちぎって解決できるからな!!
「……はぁ、よく分かった。メテオリック」
「あん?」
「お前、馬鹿だな?」
「なんやと!?!?」
センセイと言えど失礼じゃないか!?人のことを心底、呆れ返ってますみたいな目で見んじゃねぇ!!
俺はちゃんと聞かれた通りに返事したやろが。
「納得できてないって顔と態度だな」
「当たり前や!!」
「どんな敵だろうと倒せるという自負があるのは良いことだ。だが、それは決して思考停止して良い事じゃないぞ」
「思考停止やと……俺のことをなんも知らんセンコウが言ってくれるやないか!!」
ギフテッド持ちが自分の能力をどう活かすか考えていないわけがないやろ。
どんな状況下であろうと、自分に与えられた手札を最大限に活かすように立ち回る……それがギフテッド持ちの戦い方ちゃうんか。
「そう言えば先ほど、アイアンと随分好戦的なやり取りをしていたな」
「……先生もしかして」
「なんや?まさか戦えっていうんやないやろな」
おいおい、俺達の返事を聞いてこのセンセイ、笑みを浮かべやがったで。
別に俺としては構わへんけど、初手の授業でやる事やないやろ。
「理解が早くて何よりだ二人とも。残りの一限の時間と続く二限の時間を使って実技といこうか」
はー、マジかぶっ飛んでるで流石はギフテッド持ちの学校やな。
「完全に巻き込まれたな俺」
「気ぃ進まんならセンセイに言ってやろか?」
「いや。お前と戦ってみたいのは事実だ。それより良いのかギルバート──負けた時の言い訳を考えなくて」
ほぉ?大きく出るやんけこいつ。
くそ真面目なツラしか出来んのかと思ったら、随分とまぁ挑発的な笑みを浮かべてこっちを見てくれるやん。
「それではグラウンドに移動を」
「悪いなセンセイ。
「は?おいメテオ──」
俺達の教室は都合よく、窓側がグラウンドに面している──つまり、どういう事か分かるよなアイアン……いやちゃうか。
「俺をがっかりさせないでくれやぁ!!アイン!!」
「そう来たかッッ!!」
床を蹴る。
そのたった一つのアクションで、素早く俺の身体は前へと押し出され立ち上がったアインにぶつかり、諸共窓を叩き割りグラウンドへと飛び出す。
「ガラスが刺さったらどうしてくれる」
「はっ!!そんな軟弱な身体しとらんやろ!!」
突撃の瞬間、明らかにあいつの身体は肉の感覚をしとらんかった。
冷たくガチガチに固まった金属をぶち飛ばしたような感覚……ほぅ、砂埃の向こう側から立ち上がってくる黒い鉄の塊みたいな姿はちょっと絵になるやんや。
「俺のギフテッドは甲鉄──見ての通り、全身を黒い鉄へと変える事が出来る」
「かっこええのぅ……まっ、そんなガチガチで俺の動きについて来れるのかは別問題やけどな!!」
まずは様子見や。
最初から全速ではいかん、まぁせいぜい30%くらいってところか?
地面を蹴り上げ、ピクリとも動かんアインの周りを様子を伺いながらどんどん加速していく。
「……」
動かんか──なら、もう一度こっちから仕掛けたる!!
真正面から仕掛けると思わせて、直前で方向を右へ変更、真横からこめかみ目掛けてぶん殴ってやるわ!!
「せらぁぁ!!」
「ッッ!!」
「硬ッッ!!」
狙い通りにぶん殴れたが、思っとったよりカテェ!!
今の速度じゃこいつの甲鉄をぶち抜くには威力が足りん!!なら、もっともっと速度を上げていくでぇ!!
「全く……私的な決闘じゃなく授業の一環だという事を忘れているんじゃないだろうな」
「うわっ、なんだあの動きはやっ!!」
「一歩踏み込むたびにくっきりと足跡が出来てるよ……どれだけの力で踏み込んでるんだろ」
ちょうどギャラリーも到着したようだし、仕掛けるのにはもってこいやな!!
今度は60%ぐらいに加速した状態で動きを止めずに連撃や!!お前の硬さは一回、殴って理解したからな!!
「オラオラッッ!!」
「全く見えないけど……!!」
「金属をぶん殴る音でアイアンが殴られてるのは分かるぞ!!」
真正面、右、一気に左へ回り込んでストレートからの真下からアッパーを叩き込んで、次は後ろから後頭部に向けて右ストレートォォ!!
「──そこか」
「なっ!?」
完全に不意を突いた一撃だった筈や!!こいつ、俺の動きを追えていたかのように振り返って手首を掴み取りおった!!
「気持ちよく人をぶん殴ってくれたなギルバート」
「遅いお前が悪いねん」
「ふっ、それはそうだな。確かに俺はお前ほどの速さはない」
掴まれた腕がピクリとも動かん。
単純に硬くなるだけやと思ったが、この感じからしてかなり力もあるやんアイン。
「だが、こうしてお前を捕まえる事は出来るぞ」
「はっ!!一度掴んだくらいで調子に乗るなや!!」
グッと、足を沈め今度は両足で力強く地面を蹴り上げる。
重いのぅ!!金属の塊になってる訳だから納得やけども、両足で蹴って普段よりも速度が出とらん!!
「まぁ──関係ないけどなぁ!!」
「ぐっ!!」
今の速度が足りんなら、次の一歩、それでも足りんのならまた一歩!!
俺のギフテッドは加速!!足が動いて、地面を蹴り続けられるのなら速度に上限はない、どんな重さもやがて振り切れるって訳や!!
「振り切るでぇぇ!!アイン!!」
「ぬっ、おぉぉぉ!!!」
数えて7歩目、アインはついに踏ん張りの限界を迎え、身体が浮かび上がる──仕掛けるならここや!!
速度はパワー!!確かにアインのやつはアホみたいに硬いが、このまま速度を乗せた状態で勢いよく地面に叩きつければ流石に効くんとちゃうか?
「身ぃ、硬くしとけよアイン!!」
グラウンドにヒビが入るぐらいには力んだ速度や!!
グチャグチャになったグロテスクな死体なんぞ俺は見たくないからな!!
速度が乗った瞬間、地面へアインを叩きつけそのまま走り抜け、手に感じていた圧がなくなってから立ち止まる。
「っと、離れたか……ゲホッ、俺のせいやけど砂埃がひっどいのぅ」
あかん、呼吸するたびに口に砂が入り込んで咳が止まらんわこれ。
やっぱ、砂はあかんな……俺の速さのせいで簡単に舞い上がってしまうわ。
「おーい、アイン。生きとるか?」
返事が聞こえん。
おいおい……マジか、マジで死んどるんか?アインのやつは。
「おーい?」
「……生きてるぞ。少しお前の速度に酔っていただけだ」
「へぇ……無傷かい。心配して損したやんけ」
「いや、擦り傷くらいはしている。久しぶりにこのピリピリとした感覚を味わっているよ」
「これだけ振り回されて擦り傷だけかい……ええなぁ!!おもろいやんけ!!」
つまり、もっと遠慮なくやって良いって事やな!!
口には出さんが、お前の硬さを下に見ていた事は謝っておくですまんのアイン。
「おもろいか。あぁ、そうだなギルバート」
構えが変わったな。
さっきまではただ立ってるだけやったが、右足を前に出して深く腰を落としよった。
手はまるで剣を持ってる様にも見える形やけど、ちゃうなアレは俺らの住んでる大陸から遥か東にあるっちゅう、国に伝わってる『武道』とかいう無手の戦い方をする構えか。
「俺は今、お前と戦えている事を喜んでいる」
「本気っちゅう訳やな」
「あぁ。お前の速度に俺がどれだけ戦えるか、試したい」
「……なら、俺もお前を最高速度でぶん殴ったるわ!!」
構えが変わろうともアインはこっちに先手を譲るっぽいな。
なら、存分に加速してお前のそのクソ真面目な顔面をぶん殴る!!
地面を蹴る──景色が後ろへ流れていく。
「……」
アインの目が俺を追う。
再び、地面を蹴る──砂埃が俺の後を追いかける様に流れる。
そうやって、何度も何度も地面を蹴り続けるうちに、アインの目は俺を追えなくなったのかゆっくりと閉じられた。
なんや?目を閉じて俺の速度に振り回されるのを阻止したっちゅうか?
振り回されて自分の軸を失うくらいなら、確かにそっちの方がええとは思うが……なんやろなそれだけやない気がする。
そんな事を考えながら、地面を蹴り上げれば俺の動きで砂埃にはポッカリと穴が空き始めた。
もはや砂では俺の動きについて来れない。
「……」
それでもアインの目は開かん。
音は聞こえている筈……武道には詳しくないからなぁ、これ以上は考えても無駄や。
俺に出来るのはアインのやろうとしている事ごと、纏めて速度でぶち抜く!!ただそれだけや!!
「アイン!!」
世界が後ろへ流れる。
一直線に真っ直ぐにアインへ速度の乗った拳を突き出す。
「ッッ!!」
アインの手が俺へ触れる──瞬間、世界がブレた。
「あぁ?」
なんや……この感じ、まるで水面を殴ったみたいに手応えがない。
本来、真っ直ぐに伸びる勢いを横から逸らされた?有り得ん……あいつの身体はガチガチの金属みたいになっとる筈や!!こんなグニャリとした手応えになる訳が。
「ガッ!!」
そっと置かれる様に目の前に現れたアインの手のひらが俺の頭を掴み取り、地面へと叩き伏せる。
「……凄まじいな。たった一回、受け流しただけで腕が痺れて動かないなんて」
「負けたんか俺は」
「地面に倒れてるって意味なら。けど、俺ももう腕が動かせないし引き分けかな」
そう言ってアインもバタッと俺の横に倒れる。
引き分け……アインはそう言ったが俺の速度が足りんかったのは事実や。
「もっと速くならんとな……お前が触れるだけで吹き飛ばされるぐらいには」
「……ふっ、速度バカだなギルバート」
「あ?」
構わへんやろ速さが俺の力なんや!!どんなもんが相手だろうと、俺の速さはぶち抜ける!!ぶち抜けないのは今の俺が遅すぎるってだけの話や。
「……馬鹿はお前ら二人だ。教室の窓をぶち破って出ていくな!!」
「「うっ」」
この暴力教師!!俺らの脳細胞が死滅したらどうしてくれるんや!!
感想をいただけると嬉しいです