加速馬鹿はやがて最強へ至る 作:待雪草
ギルバート・メテオリックの朝は早い。
まだ太陽が顔を覗かせ始めたかどうかも怪しい夜の終わりと、朝の目覚めが混在している時間にはベッドから飛び上がり身軽な格好へ手早く着替えると寮から飛び出し、外周を走り始める。
「ふっ……」
ギフテッドである加速は使用せず、一般的な人よりやや速いぐらいの速度で走る。
大言壮語とも取れる言動や、視線だけで人を射抜けそうな目つきの悪さ、そして生まれつきのどぎつい金髪のせいで傲慢で不真面目という印象を抱かれやすい彼だが身体を鍛えることはギフテッドに目覚めてから一日も欠かした事はない。
「……うし。十分に暖まったな」
走行距離にして10キロほど走ってから、グッと力強く踏み込むとギルバートの姿がブレた。
次に行うのは、ギフテッドを使用した運動で、その速度は徐々に上がっていく。
「急に人が飛び出てきても止まれる程度には加減しとかんとな」
本当なら息切れするほどに速度を高めて走りたいが、既に明るくなり始めた時間帯。
春先ということもあって、涼しさを利用して運動する人と遭遇する可能性も考え速度は50キロ辺りで停滞し、一度も足を止めずに走り続けること二時間、寮の前で彼は足を止めた。
「ま、こんなもんでええやろ」
僅かに頬こそ赤くなっているが、呼吸は全く乱れておらず彼はスキップする様な軽い足取りで部屋へと戻り、汗を流すと制服に着替え学園へと向かい始める。
「しっかし、寮生活と聞いてなんも知らん奴と同室やったら面倒やと思っとったがまさか個室とはのぅ。金があるところにはあるっちゅうことか」
ギフテッド専門学園『ネクスト』、ギフテッドに目覚めた者達の中でも、より優れた者達を集め様々な分野で活躍できる人材を育て上げるのを目的とされた学園であり、その規模は一つの街にも匹敵する広さを誇る。
その為、ギルバートがこうして歩いて向かっている間にも目につく店には一級品の品々が並び、その店を営む者達も何かしら優秀なギフテッドに目覚めた者達で構成されているのだ。
「……ま、そうでもなきゃギフテッドを集めるなんざリスクが高いわな」
ギルバートの視線先、そこにはこの街でも一際大きくそして頑丈な作りをした鉄門が聳え立っており、耳を澄ませば向こう側の世界からの声が聞こえてくる。
「俺達の仕事を返せ!!居場所を返せ!!」
「お前らなんか生まれてこなければよかったんだ!!」
「自然の摂理に逆らう怪物どもめ!!」
ギフテッドに目覚める事が出来なかった者達の憎悪と悲痛に満ちた声が。
「……今日も元気やのぅ。『ナチュラリスト』とか言うんやっけ?ああいう連中」
そんなものはどこ吹く風と、もう視線を向けず歩き去っていくのだった。
「む。おはようギルバート」
「なんや早いやんけ」
てっきり俺が一番乗りかと思ったんやが……ノートに書かれてる文字の量からしてこいつ、随分と早めに来とるな。
「そのまま返そう。お前は遅刻常連かと思ってたぞ」
「人の事を馬鹿にすんなや!!」
「っと、乱暴に座るな。危ないぞ」
「どの口が言ってんねん」
このまじめ面、人の事を貶してんのか、単純に誂ってきとるんかよーく分からん。
「何時くらいに来てるんや?」
「お前の一時間くらい前だ。自室だとついついだらけてしまうからな」
「ほーん。そういや、来るときにナチュラリスト共のデモを聞いたんやが、お前の時もしてたんか?」
「……していたな」
「はぇー、暇人やのぅ」
俺も絶賛、暇人なんやけどな!!
まだ終わらせるべき課題も特にないし、アインみたいに予習をする気は起きんしなぁ……トレーニングルームは事前講習が必要とかでまだ使えんし。
「……お前はそう見るのか」
「あん?」
「ナチュラリスト達の主張だ。彼等とて失いたくないものは多くあった筈だ。だが、ギフテッドという己ではどうする事も出来ない選別に振るい落とされた……俺には彼等の言葉も分かる気がするよ」
ほーん、クソ真面目はこんなところまでクソ真面目なんやな。
まっ、俺かてアインの言っている事は分かるが。
「だから同情しろって言うんか?その大切なもんを奪った俺らが、上から可哀想だと憐れんであげればええんか?」
俺やったらそんな奴がいたら顔面ぶん殴ってボコボコにしてやりたいけどな。
ギフテッドはそら、便利な力やし敵をぶっ飛ばせる強い力やと思うで。
せやけど、その力を持つ重さがナチュラリスト達に分かる訳がない……それと同じで俺らもナチュラリストの気持ちを理解するのは無理や。
「お前は強いなギルバート」
「なんや突然そんな分かりきった事言って」
「少しは謙遜しろ。お前のその強さは誰もが持てるものじゃない。人は誰だって自分にはないものを羨ましく思ってしまうんだ」
「ほーん」
無いものねだりをしたところでなんの意味があるのか俺にはさっぱり分からんな。
「つうかアイン」
「ん?」
「なんや無いもの側に立って物言ってるが、お前もこっち側やで?この俺の速度を見切った奴なんやからな!」
「……ふっ、あぁそうだな」
「え、キショいなその笑顔」
「失礼な」
うおっ!?わざわざ甲鉄化させた腕で殴ってくるなや!!
そっちがその気なら俺だって高速の目潰しをお見舞いしたるで!!
「ッッ、目は無しだろ」
「先に仕掛けたんはそっちやろ?」
「「……!!」」
この後、シャイング先生が来るまで俺らのこの最もくだらん争いは続くのやった……出席簿で殴られる瞬間に甲鉄化はズルやと思うでアイン。
ほんで、そのせいで反省文が課されたのは完全に俺は関係ない自業自得や。
「んんっ、さて馬鹿者共のせいで余計な時間が取られたが、今日は私の方から指定した相手とペアを組んで近くの森で魔物との実戦訓練を行う。これから名を呼び上げる者達がペアだ。まずA班──」
ほぅ、魔物との実戦訓練か。
随分と早い気がするんやけど、まぁネクストに入ってる時点で自分のギフテッドはある程度使いこなせてる前提やろな。
「次、E班!!アイン・アイアンとイブキ・カナデ」
「俺か」
「は、はいっ!!」
流石にアインと組む事はなかったか。
えーと、アインの相手は……緊張しとるんか、ガチガチの動きやな、あんまし実戦向きのギフテッドじゃないんやろか?
「次、F班!!ギルバート・メテオリックとサトリ・サイレント」
「うす」
「……」
「ん?」
返事が聞こえんのやが欠席か?……ちゃうな。
少し離れたところで座っとるやつが静かに手を上げとるわ、目が見えんほどに紫色の髪が伸びとるが鬱陶しくないんかあれ?ってうおっ、こっち見た……見たよな?目が見えんから分からん!!
「……」
「いや、親指グッ!!やのうて!!つか、やっぱりこっち見てたんかお前」
「……」
「ちゃうちゃう。一本じゃ足りんって意味じゃない!!二本にしても……っておい、下に向けるんは喧嘩売ってんのかワレェ!!」
「メテオリックうるさいぞ」
「俺が悪いんか!?」
な、なんで俺が怒られるんや……納得いかん。
嘘やろ、今日の授業、俺こんな喋らん奴と組まなあかんのか。
「……」
だからぐっ!!じゃないねんて。
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