加速馬鹿はやがて最強へ至る 作:待雪草
「ケツがイテェ。なぁ、俺だけ走って向かってもええんちゃう?」
「……」
「なんやその手は……げっ、センセイがこっち見とるやんけ。まさか愚痴が聞こえたんか?」
「……」
「頷くってことは合ってるんやな。わーってる、そないなツノをわざわざ指で作らんでも馬車から飛び降りる真似なんてせーへん。ちょっと言ってみたかっただけや」
重っ苦しい前髪の向こうからほんとぉ?って言いたげな圧を感じる気がするが無視や無視。
しかし、馬車はこんなにも乗り心地が悪いんやな、わざわざ学園が用意して乗らんと怒られるから大人しく乗ってるが次回からはセンセイに相談して、俺だけ走れるか聞くことにしよ。
「……」
「これ見よがしに肩を竦めんなや。お前だってケツが痛いんやろ?さっきから身じろぎしとるん、気がついてるでッッ、なんや!!よっわいパンチ打って」
よっわぁ……ポスポスいってるだけで脇腹が殴られてる気全然せん!!
せめてもうちょい強く打ってくれるなら、腰あたりを殴ってくれるとちょうどええんやけどな。
「おっ、ちょっと威力上がったか?もうちょい強く頼むで」
「……!!」
「お前ら仲良いな。昔から付き合いがあったのか?」
「いや全く。なぁ、サトリ」
「(コクコク)」
こんなメカクレ女、一度何処かで出会ってたらなかなか、忘れられん濃いキャラしとるしなぁってなんや、アインの俺らを見る目がどんどん信じられんもんを見るような目になってるが。
「それでその距離感か」
「距離感?」
まぁ、確かにクラスの人数が多いからと大体、半分くらいに分けて馬車に乗ってる都合上、俺とサトリの距離は近いが……そないに気にすることか?
つうか改めて考えたら二十名前後を乗せて、走れる馬車ってデカいよな。
「……いや良い。俺が悪かった、そう納得する」
「なんや変なアイン」
「(コクコク)」
サトリも同じ気持ちみたいやな。
「俺がおかしい訳じゃないよな?カナデさん」
「えっと、うん。私も同じ気持ち、かな」
「だよな」
なんやあの二人、コソコソ俺らを見て話しよってからに。
軽く触れ合えそうな距離というんやったら、アイツらだって同じようなもんじゃね?
「……!!」
「ゴッ!?な、なんやいきなり後ろ首を締めてって外、見とるんか?」
グイグイと引っ張り続けてる感じからして、俺にも外を見ろって言うてるんやろか?
……このまま、締め付けられ続けたら俺が窒息死してしまうし、何を見せたいんか気になるからしゃーない、見てやるとするか。
「っと……意外と風が強いな。おぉ……緑が広がってて綺麗やな」
「……」
「ん?おぉ、大きな森が見えてきおったな。アレが今回の訓練場になる『葉隠の大森林』かぁ」
事前に聞いてはあったが、デカい森やな。
噂ではいついかなる季節でも、不思議と青々とした見上げるほどに大きな木々が生えているとかなんとかで色んな動物や魔物の住処になっとるらしいと聞いたな。
「……!?」
「おっと……ちっこいのに身を乗り出すから止まった時にバランス崩すんやでサトリ。まぁ、今回は運ちゃんが悪い部分もある気はするけどな」
顔から落ちる前に首根っこ掴めて良かったで。
これから訓練本番だってのに相方がはしゃいで馬車から顔を覗かせていたところ、顔面から落下して鼻血ブー、欠席ですなんて、笑い話にもならん。
「……!!」
「おいこら暴れんなや。どうせならこのまま運んでやるから」
「……!!!!!」
「うおっ!?猫かお前は!!」
運ばれたくないからって顔面を引っ掻きにくる奴があるか!!
しかし、残念やったな!!俺とお前の体格差なら、こうやって持ち上げて腕を伸ばしてしまえばおチビの手なんか全く届かんのよ。
「ハハ!!残念やったなサトリッッイッタァッッ!!!!!」
「はぁ、メテオリック。お前は人の運び方を知らんのか」
「(コクコク!!)」
「センセイもそろそろ、出席簿は打撃武器やないって学ぶ頃やと思うでッッッッッ!!!!!」
流れるようにもう一発叩き込んできよったでこの人!?
しかも今度は完全に振り切ってるし、俺の脳細胞が死滅したら責任とって貰うでほんま。
「ほらとっとと整列しろ。開始前に注意事項を説明するから」
「邪魔してたんは「ん?」……へいへい、分かりました。行くでサトリ」
「(ペコリ)」
律儀にセンセイにお辞儀するなんて真面目やなサトリ。
ええんやで?俺らは別に馬車を降りて、ちゃんと列に並ぼうとしとったのに出席簿アタックして邪魔してきたんはあっちなんやからそないに礼儀きっちりせんでも。
「……」
「なんやジッとこっち見てきて」
「……」
「お前、俺見て肩を竦めるの好きやな……」
馬鹿にされとるみたいであんまし好きやないんやけどなそれ。
そんなやりとりをしながら、俺らが列の最後尾に並んだのを確認したセンセイはパチンっと手を鳴らして、みんなの気を集めると話し出したんで背を伸ばす。
「お前らも知っての通り、この葉隠の大森林は数多くの動物たちが住処としている。ネクストで提供される猪や熊の肉、新鮮な果実は大体この森で採られたものだ。間違えても魔物と判断して殺さないように!!ただし、向こうから仕掛けてきた場合は自分達の命を最優先しろ」
好き勝手は許さんが、自衛なら認めると。
俺なら振り切れるけど、他のすっとろい連中はそうはいかんからなぁ大変やで。
「次に基本は事前に振り分けたペアで行動すること。気が付いている者もいると思うが、今回のペアはこちらで意図的に前衛と後衛、あるいはサポートが得意な者達で組ませてある。上手く協力して魔物を討伐すること」
ほぉ、そんな意図があったんか。
俺はどう考えても前衛向きのギフテッドやし、サトリが後衛かサポート向きって事やな。
「そして最後になるが今回、討伐が目標となる魔物の資料を配る」
前から順番に渡されてきた資料を受け取る。
えーと、今回の目標は全部で三匹か。
「先ず、一匹目『ビッグ・ビートル』、こいつは名前通り大きなカブトムシだ。既に森で狩りを行っていたハンターが何人もコイツに襲われて喰われている。頭上からの強襲に注意しろ」
虫の癖に肉喰うんかコイツ、大人しく蜜を吸ってろや。
「二匹目『ゾンビベア』、死してなお動く熊だ。そのくせ、生きている時と同様に肉を求めて生態系を破壊する。コイツは頭部を破壊しない限り、動き続ける為、頭部の破壊を最優先にしろ」
はぇー、キッショ……死んでんのに肉を求めてどうすんや。
「三匹目は『マジカルウッド』、魔物の専売特許とも言える魔法を扱う木の魔物だ。その辺に生えている木に擬態している事が多いが、この大森林では少し高さが低いからよく観察しろ」
コイツが一番厄介ちゃう?
他のはデカいのとゾンビってだけやけど、魔法に擬態を使いこなすとか面倒やな。
「万が一、死ぬかもしれないと思ったら、迷うことなく事前に配布してあるペンダントを地面に叩きつけろ。即席の防御壁が展開され、位置情報が私の元に届く。その場から動かず、私が合流するまで耐えろ。いいな──では、これより訓練を開始する!!」
「……うし。んじゃ、ちょっと失礼するでサトリ」
「……?」
「ウズウズしてたんや!!呑気に歩いて行けるかってな!!」
「……!?!?!?」
うはは!!最速で森の中を駆け抜けて魔物をぶっ倒したるで!! って、こら腕の中で動くなや落としてしまうやろ。
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