加速馬鹿はやがて最強へ至る 作:待雪草
「〜〜!!!!!」
「お、ちょっとは声が出てきたか?なんか見つけたら教えるんやで!!」
俺からしたら慣れたもんやけど、高速で目の前に次々と木が現れては後ろへ流れていく光景とか悲鳴もんやろな。
森の中は思ってたより静かやな……魔物が暴れているもんだと思っていたが。
「……!!」
「うん?あぁ、真正面になんかおるな」
十秒もあれば接敵するぐらいの距離やが、見た目は熊やな。
しかもよく見れば右の腹にありえんくらい大きな穴が空いとるし、嗅ぐまでもない腐敗臭が漂ってきとる──間違いなく『ゾンビベア』や!!
「グロいもん嫌なら目を瞑っとき!!サトリ」
「(ギュッ)」
センセイの説明が確かならゾンビベアは頭部を破壊するんが最適。
俺の武器はどこまで突き詰めても加速が与える速度から生じる破壊力!!
「つまり──先手必殺や!!」
「〜〜!!!!!」
地面を蹴り上げ、ヒビ割れが生じると同時に、今まで以上に一瞬で景色が後ろへと流れていくのを眺め、右足を前へと突き出す。
腐りかけた柔らかいもんの破裂する音を聞きながら、地面を滑る様にして勢いを殺し、後ろへ振り向く。
「まっ、こんなもんや」
頭どころか首まで消し飛んでしもうたな。
高速で蹴り飛ばしたおかげで、ほとんど肉片も足に付いてへんし地面に擦り付けておけば綺麗になるやろ。
「……」
「おーい、大丈夫かサトリ?」
「……」
ピクリとも動かん。
ゾンビベアを蹴り飛ばす直前は悲鳴みたいなか細い声をあげておった気がするんやが、こりゃ完全に俺の速度に振り回されて気絶した感じやな。
完全に自業自得とは言え、魔物が潜んでる森にそっと休ませておくわけにもいかんよな。
「はぁ、しゃーない。ちょっと痛いかもしれんけどこれで起きてや」
軽い力でペチンと頬を叩いてみる……全く起きん。
んじゃ、さっきより力を込めてベチンっと、唸りはしたけどまだまだ起きんな。
「ほっぺ柔らかいのぅ。ほれ、起きんとベチベチ叩き続けるで」
ベチベチベチベチベチ……あ、やべっ、力加減ミスった。
「ッッ!?!?」
「あだぁぁぁっ!?!?」
そ、そないにいきなり飛び起きなくてもええやろ!!あかん、目の前が火花散ったみたいになっとるわ……これ、おでこ腫れとるんちゃうか?
サトリも痛かったみたいで、ごろごろ地面転がっとるし誰も得してないやんけ!!
「いつつ……運び方が荒かったんは認めるが気絶する程か?ギフテッドに目覚めてんのに」
「……」
「さすがにジッと見られても言葉にせんと分からんで」
ここまでなんとなく意思の疎通が出来てた気ぃするから、特に口にせんかったけどサトリのやつ全然喋らんな。
簡単に気絶するあたり、肉体を強化するようなギフテッドじゃなくて何か言葉を発する事がトリガーになるタイプなんやろか?それならまぁ、ずっと無言なのも分かる気がするけど。
「ま、なんにしろ起きたんなら他の魔物を探しに──「
聞き慣れん声に反射的に伏せた瞬間やった。
さっきまで俺の頭があった場所を火で出来た矢みたいなもんが勢いよく飛んでいきおったわ……少しでも反応が遅れとったら今頃、俺の頭はゾンビベアの仲間入りをしてたか、吹き飛んでたやろな。
「ほーん。初めて見たけどこれが魔法ってやつか」
『カタカタカタ』
「はっ、ほんまに木が動いとるで。しっかし珍妙やのぅ!!木ぃなら大人しく足は人様の真似せんで地面に埋めとくべきちゃうか?」
マジカルウッド、魔法を扱えるようになって人間を襲う様になった木らしいが生意気やな。
一丁前に後ろから遠距離で暗殺を仕掛けてくるとは。
「助かったでサトリ。ちょいと気を抜いてたわ」
「(フルフル)」
「なんや喋ってくれへんの?」
「……一体じゃない」
「あ?」
気配を探ってるなら、俺より優秀やなサトリ。
ゾロゾロとまるで虫の様に出てきおったわ!!あれか?ゾンビベアの血の匂いにでも釣られてきたんか、どこまで食性が木らしくないねんコイツら。
「音だって。さっきの蹴りも含めて移動、煩かったから」
「しゃーないやろ。効率よく加速していくにはその分踏み込む力を……って、なんで俺の考えてる事が分かるんや?」
「ギルバート君に魔法を撃った個体がこの群れのボスらしい。指揮も執ってそうだから効率よくいくなら一番先に仕留めるべきかも」
返事なしかい!!
まぁ、恐らくギフテッド由来の力やろな……俺の動きに振り回されて気絶していたあたり、後衛ってよりも純粋にサポートタイプの。
「そらなんとも俺向きな解決策やけど、その間ええんか?」
「……」
俺が加速を活かしてアタマを潰すんが早いってのは分かるで。
どういう理屈かは知らんけど、俺らを取り囲んでるこのマジカルウッドの群れが統制の取れた集団でやって理解してるサトリが言ってるんやし。
でも、それは
「(コク)」
……はっ、そないに頷かれたら信じるしかないやんけ。
「俺の速さを信じるってことやろ!!それなら裏切る訳にはいかねぇよなァ!!」
俺がこの世界の何よりも信じとる速さを信じるとサトリが決めたんや!!これ以上、サトリの心配をするんは俺の速さを疑うのと同義や!!
最速!!最短!!最短距離に真っ直ぐに駆け抜けて、とっとと戻ってくれば良いだけの話や!!
「はっ、コイツら全部片付けたらお前のギフテッドを教えて貰うでサトリ!!」
「……!!」
返事と言わんばかりにドンっと背中を叩かれたのを合図に、俺は全力で駆け出した。