だから、私はれな子ちゃんとご飯が食べたいだけなんですって 作:えれくとろきゅーしょにすと
「りかちゃんさー、最近れなちゃん達と仲良いよねー」
「ええ、まあ」
紫陽花ちゃんにそう声を掛けられたのはれな子ちゃんがたまたまお休みなくらいで、至って普通な休み時間のこと。
普通の口ぶりに聞こえるけれど、出現率0.2%以下のちょい不機嫌紫陽花ちゃんです。
一体何があったのかと数秒遅れてもう一度脳内で再生してみると、妙に「れなちゃん」というところに力が籠もっていたようでした。
少し、いえ、尋常じゃないくらいマズいと、気付いたのです。
ちょっとトイレに、と席を立ち、私は教室を出る寸前に真唯ちゃんに目配せしました。
(どうした、六華。何かあったのか?)
(はい。とても、危険な事態に)
(分かった、すぐ行く)
この間0.5秒未満、れな子ちゃんの次くらいには優先度の高いアイコンタクトです。
持つべきものは優秀な
そして私達はいつものように屋上入口の踊り場まで向かい、そこで身を潜めながら話を切り出しました。
「六華、あのサインということは……私とれな子にとっての一大事が迫っているということだな?」
「はい。私とれな子ちゃんにとってのインシデントです」
「……」
「……」
「……それで、肝心の内容は?」
「……紫陽花ちゃん、れな子ちゃんのこと好きかもしれません」
「!? ど、どういうことだ!?」
「どうもこうも、言葉通りです」
そう、思えば私や真唯ちゃんが大変残念ながら所用によってれな子ちゃんと遊べなかった時、その隙を掻っ攫っていったのは紫陽花ちゃんです。
デパートでコスメを見に行ったり、カフェで大きめのパンケーキをシェアしていたりと、回数こそ私達が上を行っていますが、着実にれな子ちゃんと距離を詰めています。
これはとってもよくないことです。
いえ、私は目の前の王子様(仮)と違って別に独占欲とかこじらせてないタイプの健全な無表情ですから問題ないのですが、まあ、私達のれな子争奪戦に入ってこられると?
真唯ちゃんが面倒くさそうですし?
私は別に問題ないんですけどね?
……ということで、つまり紫陽花ちゃんはとっても危ないのです。
理解してください。
「……どうする? 六華。 紫陽花は強敵だ、れな子からの好感度も高い……!」
「はい、このままでは私とれな子ちゃんのわくわくお料理グルメライフが……」
「そうだな、私とれな子のいちゃあまラブラブ■■■■生活が……」
「……」
「……」
「「グルル……」」
「ふふ、そんなにこの紫陽花さんが参戦するのが嫌なのかな?」
「そりゃそうですよ」
「ああ、当然……、……待て、私は今誰に返事をしたんだ?」
「……この?」
「おっと」
「これは」
真唯ちゃんと目が合いました。
というか、合わせざるを得ませんでした。
目を逸らしてしまえば、あるいは「それ」と目が合ってしまえば、押しつぶされるような気がしたのです。
私は体育座りのまま、真唯ちゃんと震える手を重ね合いました。
空気が震えています。
狩られる側です。
負ける側の空気です。
私達は意を決し、そこにいるはずのない彼女の方へ、顔を上げました。
「……どこから、聞いていたのかな?」
「えっとー、「私とれな子の一大事」、辺りからかなー?」
最初です。
つまり最初です。
もう二度と踊り場には逃げるべきじゃありませんよ、と自らの身体に、そう強く言い聞かせました。
「……あのね。りかちゃん、真唯ちゃん。私、言いたいことがあるんだ」
「はい」
「なんだろうか」
「れなちゃんはれなちゃんのものであって、2人のものじゃないのは分かるよね?」
「……」
「……」
「分かるよね?」
「……ぇぇ」
「……ぁぁ」
「……私ね、れな子ちゃんと出会ってからわがままを言えるようになったんだ。我慢することだけが正しいことじゃないって、そう教わったの」
そして彼女は小さく息を吸ってからしゃがみ、私達と目線を合わせました。
本気どころじゃありません。
覚醒、覚醒しています。
紛れもないつよつよモードです。
「2人のこと、楽しそうだなって、思ったんだ。2人で楽しそうにれなちゃん取り合って、いいなって。私も、れなちゃんのこと大好きになってたから」
そうです、そうでした。
かつてジャンヌ・ダルクが頑固者とされたように、聖女にどれだけの頑なな精神力が宿っていたか。
完全な善人を演じる人間がどれだけ固い決意を持ちうるか。
それが方向を定めた時、どれだけ強力な破壊力になりうるか。
そこまで想定するべきだったのです、私達。
「りかちゃん、真唯ちゃん。私も混ぜてくれない?」
かくしてここに、私達の正面衝突へと瀬名紫陽花という大天使が、第三陣営として舞い降りたのです。
▽
そして翌日、休み時間。
「れな子、今日はお台場の方の温泉に──」
「れな子ちゃん、まだ出禁になってない食べ放題のチケットを頂いたのですが──」
「れなちゃん、私メダルゲームっていうのやってみたいんだけど──」
休み明けのれな子ちゃんに群がる身体が、また一つ増えてしまったのでした。
「……じゃ、じゃあ! メダルゲームやって、一番増やした人の言うことを──」
「待ってくれ、それでは紫陽花の一人勝ちだ。ここは……そう、大ラントーで決めようじゃないか!」
「真唯が練習しすぎだから論外!」
「なら、食べ放題の量でどうですか?」
「一番論外なんだよそれは!」
「ほら、れなちゃん困ってるでしょ? れなちゃんもメダルゲームやりたいよねー?」
「あっ、はい……」
「!? 気をしっかり持ってくださいれな子ちゃん! 天使って結構邪悪ですよ!」
「そうだ! 君が教えてくれたベ◯ネッタもそうじゃないか!」
「はっ、確かに……」
「れなちゃーん?」
「……」
「サーちゃん何見てんの?」
「……いえ、甘織の一人勝ちね」
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