風の街、風都。
そこら中で風車が回り、風力発電などを多い大規模都市部で本当なら風通しが良い街であり、同時に長年犯罪都市としての側面も持つ。
裏側にはミュージアムという邪悪が、財団Xというパトロンがいたことぐらいは彼女も知っている。
倒されて居なくなった。その筈だった。
ガイアメモリ。風都に出回る小さな悪意。
人を欲望の怪人ドーパントに変える、身近な兵器。
お手軽に買えていたらしい過去と違って製造元が潰れた今、本来であれば警察と探偵の手で減っていくだろう。
本来であれば、だが。
名所の風都タワーは一回風都を狙ったテロリストに襲撃されてへし折れたらしい。
此処に来て、もう一年近くになる。比島日和は今日もただ無意味に二度目の人生を送る。
居場所はある。けど、滅多に帰らない。
保身的な彼女が打算で救った、ある学生の少女が今の日和の支えだった。
契約である。スマホを持たされて救援に呼ばれたら来いという約束で衣食住を提供されている。
結晶のガイアメモリ。そう呼ばれているモノがある事を相棒から聞いている。
ここ一年程度、風都には謎の現象が起きている。
日和は仮面ライダーWをそこまで知らない。知識は朧気で、辛うじて覚えているのは本当の道筋からこの世界は逸れた支流の世界だと言うこと。
裏風都、ハイドープ。
何とかこの程度の単語を知る程度。
だが幽霊の相方は言う。
『裏風都にはもう分岐しないよ。彼等の理想郷が叶う前に条件が破綻してる、進めなかった世界が此処。風穴が原因で裏風都は基盤が出来上がる前に頓挫した。裏風都という異界にも風穴が起きて、荒れ狂った暴風が向こうの世界ももう一回ぐちゃぐちゃにした。復興も出来ないぐらいにね。ゲートの空間を断絶して行き来が出来なくなってる。お陰でシティの彼女は助からず、その兄妹も生きているかどうか……。多分、存在はしていても別の立ち位置だろうね』
風都探偵という続編に至らず、そこで居るであろう彼等は現在に現れるかも不明。
風穴、というらしい未知の空間の穴。
前触れ無く真っ黒な穴が空間に開いて、そこから既存のガイアメモリとは違った、結晶で出来たガイアメモリを吐き出す。
既存のガイアメモリはランクがあり、出力も位置付けがされている。普及している下位の量産品、純度の良い高級品、最上級の逸品。
そういう概念が結晶のガイアメモリには存在しない。
結晶メモリとも翔太郎達に呼ばれているこれは、見た目は既存とは違って歪で尖った結晶で出来ている。
皆同じ、ランクも無い統一された調整されていない天然のガイアメモリ。純度で言えば毒素も純粋な麻薬。
生体コネクタやガイアドライバーを必要としないで無条件でドーパントになれる。
起動して適当に身体に触れば良い。それだけで怪人の出来上がりだ。
無論、既存のガイアメモリもまだ多量に風都には出回っている。そこに加えて天然のミュージアムとでも言えば良いのか、結晶メモリ。
翔太郎が空白の一年の頃から調査している限り、分かっている点。
前提、地球の本棚に風穴の情報は出ない。
そもそも更新中、記録中であり、常に情報が上書きされていている事象という現在進行形。
つまりこの事象は生まれたての自然現象。
分析も記録も満足に出来ない、データ不足。
経験で語れる部分で補足する。
一つ、風穴は風都のみに発生しておりそこら中にぽっかり開いて予知は不可能。
探そうにも手の届かない上空からその辺の路地裏までランダムに起きて、勝手に開いて勝手に閉じる。基本的に間に合わない。
封じる手段は、フィリップ曰くエターナル程の概念のガイアメモリでも無い限りは不可能。
物理的に空間を斬るなどの無茶な芸当をしない限り不可能。壊すにも分析できないのでは手に負えない。
二つ、風穴は人間を吐き出す事がある。これが厄介な点で、風穴が吐き出す人は大体結晶の名も無きドーパントになって暴走する。
話が通じない。断片的に得た情報では異世界や転生、そういう単語が戦闘中に聞こえる。
結晶のドーパントは戦闘能力が既存のドーパントよりも高い分、持っている特色のガイアメモリがない。
そもそもドーパントの姿で風穴から出て来ているのである。
撃破すると、メモリブレイクが出来ずに全身の結晶がヒビ割れて散っていく。要は死ぬらしい。
翔太郎が苦い顔で言う。過剰防衛という殺人。
嫌というほど経験してきた。
結晶のドーパントを倒せば、殺していることになる。
身内の刑事は仕方ない、割り切れと言い聞かせてくる。
探偵は、街を守るモノ。誇りを胸に抱くモノ。
必要悪だったとしても。探偵は罪を暴き、街を守る。
罪を憎んで人を憎まず。その自分達が、罪を数えろという。
ずっと翔太郎は苦悩する理由だった。
結晶のドーパントは一体何がしたいのか。
無作為に暴れると思ったら、倒すしかない。
事情あってドーパントになる市民とは違う。
風穴の結晶ドーパントは、侵略者。守護者たる仮面ライダーと戦うのは、必然。
そこに加えて、結晶のガイアメモリでドーパントになった市民も増えている。
もうドーパントは当たり前に存在している。
過去一、風都の治安は悪い。ミュージアムがあった頃は、バイヤーや元締めがいたから、そこを叩けば良かった。
製作されたガイアメモリだ。地球の本棚に検索して、対処できる。
結晶のガイアメモリ。これらは地球の本棚に乗ってない、出所が検索できない類似品。
基礎は幸い、既存のガイアメモリと同じ特性のようだがパワーと依存性が酷い。
Wは必要に応じて幾つもハーフチェンジして対応する。
対して結晶のガイアメモリはランクもクソも無く、純粋に出力が強い。最近では、既存からデータを探して分析して、弱点を突いて倒している。
性能が底上げされて皆が過去の因縁の幹部達のような能力を暴走で振り回す。
依頼で持ち込まれたドーパントの事件よりも、手当たり次第に誰も彼もが突発的にドーパントになって暴れている事態である。
こうなると、翔太郎達でもカバーできない。
此方は探偵と少数の警察。相手は拾ったガイアメモリで暴れる多数のドーパント。
市民達は、とうとう仮面ライダーという存在に頼らず自分達で行動を始めた。
ガイアメモリにはガイアメモリ。
自衛のためにガイアメモリを求め、裏社会で再び増えたバイヤーをしている連中から買うようになってしまった。
EXEの二の舞。風都にガイアメモリのバイヤーがまた増えてきた。組織で無いだけまだ良いか。
風穴を積極的に利用して、自衛のために子供ですら持ち歩く。
暴れるドーパントと自衛のドーパント同士が争う場面も増えた。
メモリブレイク出来るだけマシだが竜が双方逮捕してもガイアメモリは拾ったか買ったと言う供述で、事実そうだから困る。
何せ組織の頃なら、生体コネクタの施術やガイアドライバーの有無で該当する連中がいた。
後手でも追いかければ、追いついて捕まえれば良い。
今は落ちてるガイアメモリを使い暴れる輩と、手軽に購入し無作為にドーパントが雨後の竹の子のように頭数が増えた点になる。
鳴海探偵事務所に依頼も急増した。大体が、ガイアメモリを手に入れた身内が暴走したから没収して欲しい、ガイアメモリを相手が使って襲ってくるから助けてくれなど。
後者が兎も角前者は即時、戦闘である。
結晶のガイアメモリは純度が剥き出しで、ドーパントになると理性が飛ぶ場合が多いようだ。
もうこうなるとぶちのめすしか無い。
メモリブレイクのち、逮捕。これが大体のオチ。
基本的にこうなってきたら警察たる竜の部署の増員だが、誰もが現状に嫌がって寄ってこないらしい。
竜の権限で連れてきたらパワハラと訴えることも辞さないという徹底抗戦の構えで、最早意味も無く。
要点をまとめる。途方に暮れる翔太郎達が今日も来る依頼にぼやく。
「風穴に対抗できる手段がねえ……」
報告書を書いていてウンザリする翔太郎。
根本的解決は無理。依頼の対処も内容が変わっている。
事件の調査の前に身内の案件が増えてきた。
以前のガイアメモリの悪質な悪用もあるにはあるが、それらをのんびりやっている暇が無い。一人に避ける時間がない。
そもそも自衛と暴走のドーパント同士が争う時代である。以前には有り得ない光景だった。
先日、空白の一年の時に出会った少女がいた。
唯一の生身の人間。もう一つのダブルドライバー。
名も名乗らず、傍らには幽霊らしい半透明の女の子を浮かべて、殺して去って行った。
保身的と言っていたが、彼女は何者なのか。
現状打破の鍵は、彼女を探すこと。知っている情報を貰う。
フィリップも、もう一つのダブルドライバーの出所は分からないと言った。
もう技術的に開発は不可能。なのに、当たり前のように使いただのWと名乗った少女達は、何を風都に求めるのか。
キーワードは、転生と異世界。
地球の本棚に載っている記載では、転生は輪廻転生、異世界はオタク界隈のフィクションだったとか。
だとしたら。転生は、文字通り。彼女は死んだとかどうとかも言っていた。
死人が生き返る。昔からある黄泉がえりという現象かもしれないとも、仮説で良いならフィリップが言える。
あの穴は古来で言う黄泉の国への出口。
女の子の幽霊が見えなかったと言ったフィリップが根拠として、もう一人のWの相棒が幽霊のガイアメモリを使っていた事もある。
突き詰め、風穴とは冥界など昔より伝わる異界の門。出口である、という。
これなら仮説は通る。幽霊が居る、転生する、異世界である。これらが全て一本で通り、地球の本棚に更新中なのも新しい冥府の扉だからではないか。
あの世にいった連中が戻ってくる黄泉の出口。
故に、地球の本棚という現実世界の情報のみしか載らない訳も筋が通る。
「僕はそう思う。まぁ、もう一つのダブルドライバーの謎は置いとくけどね」
「さすがだフィリップ。あの子に出会っただけで、これまでの調査の結論が仮説でも出ただけマシだろ」
その日の鳴海探偵事務所。
四人のメンツは渋い顔のフィリップ、多少は晴れた顔の翔太郎、オカルト過ぎると絶句の亜樹子、顔色の悪い竜。旦那は多忙のさなかの休憩に来ていた。
「問題は現状、僕らには何も解決できない、という結論だ翔太郎。仮に風穴が冥府の門なら、死人が黄泉がえりを起こしている、ということになる」
「出て来る連中がその少女を除いて、ドーパント状態というのも謎だな。しかもメモリブレイクが出来ない、マスカレイドと同じ……いや、結晶メモリと内部で一体化して出て来ていると言うのはどうだ、フィリップ?」
コーヒーを淹れて一服する彼にブレイン担当は言い返す。
「その線は考えたよ照井竜。僕も概ね同意する。風穴のドーパントは、結晶メモリと内部で融合して肉体がそもそもドーパントなんだ。風都に来た時点で、人間に転生できていない事になる」
つまり転生の多くはドーパント状態で吐き出されるの冥府の門である、と。
「なら、尚更気に病む必要は無いぞ左。俺達は仮面ライダー……。風都を守る立場として、化け物なら前世が人でも倒さねばならない。違うか?」
「……分かってるよ。でもよぉ、こんな都合の悪い話ってねえのかよ。もう一回生まれ変わったらドーパントでやり直しも出来ねえなんて、理不尽すぎるじゃねえか」
翔太郎は悔いる顔で天井を見上げた。
折角の第二の人生、生まれ変わったらドーパント。
意識や理性は消えて、Wやアクセルに駆逐される。
侵略者という、街を泣かせる生まれた時点で害獣。
理不尽すぎる。救いは無いのかよ、と続ける。
その時だった。トントン、と鳴海探偵事務所の扉がノックされる。
誰だろうと亜樹子が出て行く。依頼人の予約は無いから、また飛び込みのドーパントの小競り合いか。
そう思う時。ある意味、求めた答えが向こうからやって来た。
「翔太郎君にお客さんだけど……この子……」
困惑した亜樹子が手招きして戻ってくる。
ついてきたのは、古風なセーラー服の黒髪ストレートの小柄な少女。
そして傍には半透明の白い和服のおかっぱの幽霊がふよふよ浮いている。
「案外分かりやすいですね、ご本家というのは」
「お前は……」
内装を見て、興味もなさそうに呟く少女を見て、翔太郎は立ち上がる。
「彼女がこの前のもう一人のWか」
竜が聞いていたように溢す。
この少女が、例外の転生したという空白の一年のときに見かけたと聞く一件の人物か。
『わぁ、良い匂い。ねえ、お兄さん。私にもコーヒー淹れてよ』
幽霊は無邪気に浮かんで竜にそう笑って言っていた。
「……相方が幽霊とは聞いていたが、本当にテンプレートな幽霊だな。お前は飲食できるのか?」
『このままでも出来るよ? 必要ないだけで。私は実体が無いけど人の身体に乗り移りも出来るしね』
逆に幽霊に驚かないのかと幽霊は問う。竜は、
「俺に質問するな」
『自分はしといてそりゃ無いよ』
とお決まりの返しでぶった切る。
幽霊も呆れたように浮かんでいる。
「え? 竜君、誰と喋ってんの?」
「照井竜、君には例の幽霊が見えているのか? 僕にはやはりドライバーを通してでないと視認できない」
混乱するフィリップと亜樹子。
彼女らにはうららは見えない。少しだけ、興味を持つ少女。
「どうもご本家のW。暇だったので遊びに来ましたよ」
「まさか、答えを知っている奴から来るとは驚きだぜ」
あの夜以来の、Wの身体を持つ二人。
「名前ぐらい聞かせてくれよ、ミステリアスガール」
「比島日和。まぁ、今世で名を改めても良いんですが」
素っ気なく太々しい態度で客用のソファーに座る。
比島日和。今世、と言った単語。
「やっぱりお前、フィリップの仮説の転生って奴の成功例か」
「? 仮説? あぁ、風穴ですか。探偵事務所ですからそりゃ推論も立てますよね」
けんもほろろで、自分だって知りたいぐらいだと言い返す。満点の答えは返せない、とも。
「一年ほど風都で生きていますが、酷いもんですね。ガイアメモリの巣窟ですよ全く」
「お前、身寄りは?」
「幸い寄生する事は出来ているんで成り立ってますよ」
生活は出来ていると教えて、そこでフィリップが問う。
「僕も一つ聞きたい。あのダブルドライバーは」
「超常現象の類です。私も知りません。うらら曰く、転生のオマケでくっついてきた付属品らしいです」
質問を切って詳しくは分かるかと開き直る。
風穴の結晶のガイアメモリと同じく、風穴のドライバーだと言うことにしておけと告げる。
「今日はまあ、何です。いい加減自衛のために戦うにもドーパント多すぎて嫌気がしたんで来ました」
「暇だった訳じゃねえだろおい」
そう言う翔太郎に日和は言う。
自分のために戦うW。だが相手がもうこの現状では放置でも良いから手を貸せと言いに来た。
ドーパントの数速く減らせ。
或いは仮面ライダーの人員増やせ。要求はそれだけ。
「ドライバーは量産できる訳じゃないんだ。現に開発者はもういない」
「は? 風穴からドライバー、落ちてきてますけど?」
フィリップの返答に、風穴を近くで見てきた日和は言う。稀にだが、ドライバーもドロップするけど。
今まで風穴の近くで拾ったロストドライバーとガイアメモリ、結構余ってるんですが。
そう聞くと流石のフィリップも想定外に絶句する。
「冥府で量産でもしてんのか!?」
「風穴の向こうは多分あの世ですからね」
予想できない現実に苦悩する頭脳担当。
これはどう、処理すれば良い。
太々しい日和の訪問。もう一人のW。
その依頼は、シンプルだった。
仮面ライダーに匹敵する人材の育成しろ。
このままじゃ風都は崩壊する。
危機的状況を打開するなら育成をするべし。
戦力の補強に警官でも良いから増やせ。
風穴はどうしようもないんだからというモノだった。