なにここ、広すぎる。お風呂じゃなくて温泉の間違いでしょ。
「確かに、ここは広いわね。」
いや「広いわね。」じゃないのよ。広すぎて逆に落ち着かないわ。
「まずは体を洗いましょうか。」
少し聞いたことがあるのだが、この国では、湯舟というものに入る前に体を洗うらしい。いくつかの仕切りが設置されていて、その間にシャワーや蛇口がある。ここで洗うんだな。えっと、何を使えば・・・?
「あら?どうしたの?」
「何を使えばいいの?」
シャンプーとかボディーソープとか書かれているが。なんなのだろうか。ボディーソープはなんとなくわかる。体を洗うための洗剤?だろう。だが、シャンプーはわからない。その隣にあるリンスもわからない。
「使ったことがないのかしら?」
「今まではすべて石鹸で済ましてた。こんなのは初めて見る。」
今までは節約のために石鹸しか使わなかった。両親が夜逃げする前はこういうものがあったと思うが、使うと怒られた。高いらしい。前の世界では、こんなものはない。体を洗っている暇すらない。当たり前だ。戦場なんだから。
「石鹸でって・・・?」
「貧乏なものですから。」
半分嘘だ。
「そもそも、だいたいは水で洗い流すだけで済ませてきた。」
「そう・・・、じゃあ、今日は私が洗うから、一回で覚えてね。毎回私が付き合えるわけじゃないから。」
そう言いながら、私の、無造作に伸びた髪をかき上げてまとめていく。
「じゃあまずはこれを・・・。」
***
「温かいわねぇ。」
体を洗い終わり、湯船に浸かる。お風呂ってこんなに温かいんだぁ。
「もっとこっちに来てもいいよ?そんな浅いところじゃあ寒くなっちゃうでしょ。」
「大丈夫。これでも十分。」
死んでいった仲間たちのことを思うと、自分だけがこんな贅沢をしてもいいのかと不安になる。
「先に上がりますね。」
湯船から立ち上がり、脱衣所に戻る。
「あ!ちょっと!上がった後も少しやることがあるから!」
まだ何かあるのだろうか?タオルで拭くだけじゃないのか?
「まずタオルで体を拭いて、それからドライヤーね。」
また聞いたことのない単語が出てきた。まぁいずれ分かるだろう。
「これがドライヤーね。スイッチを切り替えると、こっちから風が出るの。一段目と二段目が暖かい風で、三段目が冷たい風。機種によって違うのもあるから、それは使うたびに確認してね。」
髪を乾かした後は、色々塗られた。正直言って気持ち悪かったし、こっちの方が寒い。手順も面倒だし、次からはやらなくていいや。
「あれ?服は?」
「あ、服はその紙袋に入っているものを使って。」
そういわれて、そばにある紙袋を手に取る。中には衣類が入っていた。いくつか下着がある。
「サイズが分らなくて、何種類か入れておいたの。自分で確かめてみて。」
適当に一枚を手に取って穿いてみる。これはちょっと緩いかな?合う腰小さいものに変えて、・・・うん、これでいいや。後はもう、だいたいわかる。何かの制服っぽい。少し嫌な予感がする。
「うん!似合ってるよ!」
全て着終え、鏡の前に立つ。特に乱れている所はなさそうだ。スカートなんて初めて穿いたな・・・、にしても、短くないか?少々心もとない。
「この服は?」
「私たちが通う学園の制服よ。」
はぁ・・・、やっぱり。
「夏休みが終わって、二学期から編入のなるんだって!」
「あの・・・、学費が払えないから通えないんだけど。」
「学費?それは気にしなくても大丈夫よ。あなたは魔法少女として学園に通うから、学費は全額国が負担するから安心してね。」
さらに断れなくなった。
「後で返せと言われるよね?」
「まあそうだけど、全額じゃなくて三割ぐらいだから大丈夫よ。ローンみたいに時間をかけてもいいわけだし。」
「後、さっきさらっと言っていたけど、魔法少女って何?私はそんなのになった覚えはないんだけど?」
「んーとね、簡単に言えば、素質があったから、だよ。」
「素質?私、魔法なんて使えないわよ。いや、使えないってのは少し違うけど、私は物を収納して、取り出すことぐらいしかできない。」
昨日の魔法は、攻撃や防御に使用されていた。戦うことになる以上、最低限防御はできなければならないだろう。
「素質は魔法の才能の有無じゃないの。精霊と親和性があるかどうかなの。」
「精霊?」
「私たちはみんな、精霊と契約している。なりたい人が魔法少女になれるわけじゃなくて、精霊が認めた人にしかなれない。あなたは、その精霊に認められた人なの。」
「証拠は?」
「それは・・・。」
「ここにあるさ。」
後ろから声が聞こえた。何かいるなと思ってたから特に驚きはしなかった。
「あなたが精霊とやら?」
「そうだよ。初めまして。ボクの名前はラルフィー。君の専属精霊だよ。」
「そう。あなたが私を認めたというのね。」
「そうだよ。よろしくね。」
私は拳銃を取り出し、精霊の額に突き付ける。
「なんの真似かな?」
「あなたには今ここで死んでもらうわ。そうすれば、私は戦わずに済む。じゃあね。」
「うーん、別に、ボクを殺そうとするのはいいんだけど、本当に殺せる?」
「無理でしょうね。あなたの実体の気配がない。いくら物理攻撃をしても無駄ね。」
「分かってるじゃないか。・・・これからは、ボクが君をサポートするね。」
「分かったわよ。」
「じゃ、じゃあ、顔合わせも済んだことだし?学園を案内するね。」
物騒な主人公だこと