「えーっと、噴水広場はコッチだったよな……」
男はスマホの画面を見ながら、期待を高らかに歩みを進める。
彼の名は
彼には夢があった。
それは自身の理想とする女性とセックスすることだ。
その女性と出逢う為に幾つものマッチングアプリに入会。
そして慎重に慎重を重ねて選び抜いた結果、遂に自分好みの女性を見つける事が出来たのだ。
土呂は待ち合わせ場所の噴水広場にたどり着く。
そこに彼が探し求めた女性がいた。
(おっ!すっげぇ、ロングヘアー!それでいてこのミニマムで可愛いフォルム!遂に出逢えたぜ、オレの理想の女に……!!)
顔こそ見えないものの、彼の理想を体現したかのような姿をした女性が噴水を眺めていた。
土呂は意を決して女性に声をかける。
「あ、あのっ。サクラさんですか!?」
「ええ、アタシがサクラよ」
サクラは長い髪をなびかせ、土呂へと振り向く。
彼女の顔を見た瞬間、彼は絶句する。
「ド、ドブスじゃねーか!」
その顔はまるで福笑いに使われるおかめの顔。
土呂からすれば絶世の美女とは正反対の言葉が相応しいほどに酷いモノなのだろう。
「なによ。会って早々文句?」
「いや、文句しかねーだろ!アプリに載せてた写真と全然違うじゃねーか!」
土呂は怒りのままにスマホの画面を見せつける。
彼の言葉通り、写真と現実とでは姿があまりにも掛け離れていた。
「ちょっと盛っただけじゃない。それが何か問題あるの?」
しかし、当の本人は悪びれることはなかった。
サクラから返ってきた言葉を受けて、土呂の腸が煮えくり返る。
(このドブスが……!!何『ちょっと盛っただけ』だァ〜!?)
土呂は怒りのあまり、握りしめた拳を震わせる。
そして彼はある考えに至った。
(やりたくなかったが仕方ねぇ……!!俺を騙した罰だ!)
「オイ、サクラさんよ。これは悪質な詐欺行為だ。よって”取り消し合い”を申し込む─!!」
土呂はマッチングアプリの下部にある『取り消し合い』の項目をタップし、それをサクラに見せつける。
「……分かったわ。サッサとやりましょ」
サクラは軽いため息と共にアプリを起動し、表示された承認のボタンをタップする。
それから数分後。
黒塗りの高級車が彼らの前に到着し、そこから2人の黒服が現れる。
「”取り消し合い”のお2人ですね。この車にお乗りください」
黒服の男たちに案内されるがままに2人は乗車した。
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時はそう遠くない未来。
マッチングアプリの台頭と乱立。
『相手を気に入らければバックればよい』という考えが横行した結果、カップルの成立が激減し、
マッチングアプリの権威は失墜した。
男女の交際の不成立は後の出生率にも繋がる。
そんな状況を憂いた政府はマッチングアプリにある項目を追加させた。
それこそ『取り消し合い』。
刀を用いた一対一の決闘。
どちらかが死ぬまで行われる文字通りの真剣勝負。どんな相手であろうと『取り消し合い』を行わ無ければマッチングは解消されない。
この制度によって政府は男女の真剣な恋愛と交際を生み出そうと画策したのである。
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都内某所。『取り消し合い』会場にて。
黒服に連れられた土呂とサクラは和服に着替え、腰には刀を携えていた。
夜風が静かに吹き、サクラの髪を揺らす。
土呂は鞘に手を携えて、サクラの方へと静かに間合いを詰めてゆく。
そんな時、彼女が口を開いた。
「アンタ、死ぬ覚悟は出来てる?少し時間あげるから遺書をしたためるなり、親に電話するなりしなさいよ」
「……ッ!!」
サクラの既に勝ち誇ったような余裕と言葉を受けて、土呂の頭に血が上る。
プロフィール写真で自分を騙した事。
騙したことを悪びれない態度。
なにより腹立たしいまでのブスさが彼の怒りを有頂天にまで引き上げる。
「ふざけるなよ……。オレはな、テメェみたいなクソブスをさっさと殺って、ミニマム美人とヤるんだよォォォォ!」
「貴様!まだ試合開始の合図は─」
黒服の制止の言葉など彼の耳に入らない。
土呂はサクラの元へと駆け出してゆく。
「死ねやァァァァァ!!」
土呂は目の前の命を絶つべく刀を振るう。
「ガッ……!!」
勝負は一瞬のうちに終わった。
乱雑な土呂の太刀筋を見切ったサクラはソレを交わし、正確な一太刀を振るう。
あまりにも鮮やかな一振りは土呂の腹を切り裂き、辺りに血と内蔵を散乱させた。
サクラに降りかかる鮮やかな紅が彼女と着物を可憐に染め上げる。
「アタシはね、アンタみたいな顔で判断するヘナチョコ男は山ほど斬ってきたのよ」
(そうか……。こんなドブス、『取り消し合い』でとっくに消えてるハズだ……。それなのに生きてんのは、コイツがフった相手を全員殺してきたって事かよ……)
死の間際に冷静さを取り戻し、全てを理解する土呂。だ
が、もう遅かった。
噴き出した血が水溜まりを形成し、彼はその場に倒れ込む。
(ク、クソ……。もっと、はやく……気づいてればよ……)
誰が見ても土呂の絶命は明らかだった。
凄惨な死体が作り上げられたのにも関わらず黒服に動揺は見られない。
黒服達は携帯電話を取り出し、強い口調で片付けさせるように命令する。
「あーあ。早くアタシの白馬の王子様来ないかなぁ〜」
サクラの言う白馬の王子様。
ソレは彼女を斬れる存在だけかもしれない。
ライトレアプリ
三題噺より『アプリ』、『敵対』、『ブス』の3要素で執筆。