これは、原作には存在しなかったオリ主が加わる事で本来の流れと少しづつ歯車がズレていく…そんなもしもの物語。
皆は自分という人間にどれだけの価値を感じていますか?俺の持論だが、人の価値は好きなことに対してどれだけ本気になれるかだと思う。
好きな事にのめり込む瞬間というのは最も集中力が上がると同時に才能も伸びていく。歴史に名を残した偉人たちの殆どがそうだ。得意な事、興味がある事に全力で挑みその偉業が後からやってくる。
だから俺は自分の好きに素直な人が大好きだ。尊敬する。だって、それは偉人達と同じ道を通っているのだから。
そんな俺にも好きなものが二つある。
一つは「未知」。自分の知らなかった事を理解していく感覚というものは幼い子供だけでなく大人になっても胸を躍らせるコンテンツだ。
中でも俺は「人」という存在に興味が尽きない。数式など答えが決まっているものと違い、人には十人十色あり全く同じ人間は一人としていない。
人の数だけ「未知」がある。それは俺にとって無限のエンタメと言えた。
それと、自分で言うのもなんだが俺は人を見る目がある方だと思う。
カウンセラーの母と精神科医師の父を見て育ったからか。元から才能があったのか。それとも、その両方か。
初対面の相手でも一目見ればその人物がどんな人間なのかある程度把握できた。一度、この
おっとと、脱線してたな。話を戻そう。俺の好きなものは何かだったな。「未知」への探究心。そして……。
俺のもう一つの好きなもの。それは───
桜舞い散る春の季節。俺は期待に胸を膨らませバスを降りる。そして、目の前に広がる未知の世界……新たな学舎を見つめ思わず笑みを溢した。
「ここが、これから俺の通う学校。『東京都高度育成高等学校』か!」
少し前まで中学生だった俺はこれから訪れる
というか既に足取りが軽くなりルンルンスキップで移動していたので周りからの視線が痛い。
奇妙なものを見る目があちこちから突き刺さる。知らない人からの視線、これもまた新鮮な「未知」の体験だ。
ん〜、ゾクゾクしちゃう♡(※人はそれを変態と呼ぶ)
「えーと、俺のクラスは〜っと…」
少し歩いた所にクラス表が立っており早速クラス割りを確認する。A〜Dと4つのクラスに別れておりAクラスから順に自分の名を探していくと後半でようやく見つけた。
「成程、俺は"Cクラス"か。どんな人達がいるのか楽しみだなぁ〜♪」
再び俺はルンルンでスキップしながら自分の教室へと向かって行くのだった。その間も視線を感じたが気にせず移動し目的地へと到着する。
「着いた着いた。ここから俺のハイスクールライフが始まるんだ。元気よく挨拶して皆と仲良くなるぞ〜!」
第一印象はすっごく大事だ。人とは初めて会った人や物事に対して、最初に直感的に抱く印象がわずか3〜5秒という短い間で決まる。そして、その印象はその後の人間関係や評価に大きな影響を与える。
これは心理学でメラビアンの法則といい、人は初対面の相手を判断する際、主に視覚情報が55%、聴覚情報が38%、言語情報が7%の割合で決まってしまうのだ。
「だからこそ俺はファーストコンタクトを重んじるのだ。さあ、いざ新たな未知の世界へ───」
「入るんならさっさと開けてくんない?邪魔なんだけど」
「うへあっ!?」
突然後ろから声をかけられ思わず変な声が出てしまった。ふりか向くとそこには鋭い目付きををしたショートヘアーの女子が立っていた。
へー、この人…。
「何?人の事ジロジロ見て変態なの?蹴るよ?」
「初対面にも関わらず物怖じしないその態度……いい」ゾクゾク…♡
「いやキモッ!?」
今までにないタイプの人間を前に素の反応が出てしまう。すると案の定相手はドン引きしてしまった。
あー、やっちゃった。でも、気持ちの整理の途中で不意に声をかけられたら誰だって驚いちゃうよ。
同じ教室に入ろうとする辺りこの人も同じクラスなのだろう。だとすると失敗だなー。記念すべき一人目のクラスメイトへの第一印象がダメな方へ与えてしまった。
まあ、関係はここから築き上げていけばいいか。高校生活は始まったばかりなのだから!
「通行を妨げてしまってすまない!俺は今日からここのクラスでお世話になる
「あっそう」
「ちょい待ちちょい待ち」
自己紹介すると興味なさげに返しそのまま横を通過しようとするので止めてしまう。
「え、終わり?君の名は教えてくれないの?クラスメイトだよね?」
「変態に名乗りたくない」
「手厳しい!」
うーん、だけどこれは俺が悪いな。やはり第一印象は大事だね。次からは気をつけよう。とはいえだ、これから同じクラスでやっていく身としては名前だけでも知っておきたい。
「まーまーそう言わずに。記念すべき高校での初友だ。仲良くやって行こうじゃない」
「何よ初友って……いつから私はあんたの友達になったのよ馬鹿じゃないの?」
「俺にとって挨拶を交わせばそれは友達なのさ」
「友達のハードルが低過ぎでしょ…。アレを挨拶と捉えないで。それと私に友達なんて要らない」
「一匹狼ってやつ?響はカッコいいけど狼は基本群れで行動する生物だから孤高というよりはボッチに近いよ?」
「誰がボッチだマジで潰すぞテメー!?」
どうやら気に触れてしまったみたい。完全に敵意剥き出しで睨まれてしまった。人は本当の事を言われるのが一番腹が立つって聞くし、やっぱりボッチなのは気にしていたのか。
ここは素直に謝罪しよう。
「ごめんごめん、からかい過ぎたよ謝罪する。でも、せっかくクラスメイトになったんだし仲良くなりたいのは本当だよ。これまで格闘技をしている知り合いなんていなかったからさ」
格闘技をしていると言うと彼女は鋭い眼光で怪しむ。
「は?私が格闘技をしてるって何で知ってるの?ストーカー?キモ」
「人を変質者扱いはやめてくんない。格闘技してるかなんて見たら解るよ」
「そんな見ただけでわかる訳……」
ここで身の潔白を証明するべく俺が見た印象をそのまま彼女へ教えてみた。
「全体的に肉体が仕上がっているけど拳より足の筋肉がかなり発達している。恐らく蹴り技主体の格闘技だよね。体の重心移動が滑らかだった。他にも俺が確信を持てたのは君が敵意を向けた時に僅かに重心が中央に寄っていたのを見たからだ。それはいつでもパンチや蹴りが出せるキックボクシング等の基本姿勢だからね。だけど、必要以上に拳を握っていたのは君の悪癖かな?イライラして本来のスタイルを崩しちゃ武術家として失格だぜ」
「キモいを通り越して怖いんだけど!?」
どうやら俺の洞察眼は衰えていないらしい。やったね。
「もういい!こんな変態といつまでも居たらこっちまで変になりそう!じゃあな!」
「あっ!ちょまだ名前聞いてないって!」
「うるさい!」
何故かキレてしまったクラスメイトがさっさと教室へと入ってしまう。むむう、気難しいお年頃なのは分かるけどちょっとツンケンしすぎじゃなかろうか?強めの思春期か?
ま、高校生活は三年もあるんだしゆっくり仲を深めて行こうかな。
そんなこんなで俺も後に続き教室へと入った。最初こそ躓いたものの他のクラスメイトに挨拶をし交流を深めて行く。全体的に感じた感想は尖った性格の人や黒人の大男などかなり癖のありそうな物が多いイメージだ。
一通り挨拶を済ませ自分の席に座るとガラッと新しいクラスメイトが入ってくる。綺麗な顔立ちに長い白髪を靡かせゆっくりと歩く姿はどこぞのお嬢様を彷彿とさせる。
クラスの男性陣も思わず見惚れてしまう。そんな女性が俺の隣に座る。どうやら俺は彼女の隣の席だったらしく男性陣……主に石崎からの視線が痛く突き刺さった。
こんな中で挨拶するなんて……やだドキドキしちゃうじゃないか。……あれ?この娘が持ってるのって。
「はじめまして!君が隣の席の人かな。俺の名前は真理一。好きに呼んでいいよ。それと持ってる本って『そして誰もいなくなった』じゃない?」
「え、そうです。よく知ってますね!本がお好きなのですか?」
「まあね!俺は未知が大好きなもんでミステリー小説とかは知識欲を満たしてくれるから結構色々と読んでるんだ。個人的には『アクロイド殺し』かなぁ。最後の一文で思考が土台ごとひっくり返された感覚は今でも忘れられん」
「私も読んだことあります!解りますあれは読書家にとって屈指の名作ですよね……ハッ、いけません私としたことが本に熱くなってしまい自己紹介がまだでした」
お互いに本について熱くなっていると我に返った女性は息を整え仕切り直しで自己紹介する。
「こほん、申し遅れてしまいすみません。私の名前は椎名ひより。ひよりでいいですよ。これからもよろしくお願いしますハジメさん」
「ん、よろしくひより!」
お互いに自己紹介が済むと予鈴が鳴り同時にまた一人クラスメイトが入ってくる。長髪で鋭い目付きをした男。見るからに悪って感じの人だった。
「……4つか」
男は入るなり周囲を見渡す。それは自身に注目しているクラスにではなく教室の隅を……へぇ。
この瞬間、俺はクラスの中で最もこの男に興味を引いてしまった。
ある程度一瞥した後自身の席にドカッと座り男性教師が入ってくる。皆もそそくさと席につきホームルームが始まった。
「えー皆さんはじめまして。この度このクラスの担当をする坂上数馬です。この学校には基本的にクラス替えはないので三年間よろしくお願いします」
クラス替えがない。それだけでも珍しい事なので周りがガヤガヤと話し声が聞こえてくる。その後、静まった所を見計らい坂上先生は『Sシステム』について説明を行った。
『Sシステム』かぁ……聞けば聞くほど興味深い。説明を終え坂上先生は最後に質問があるか尋ねるが先程支給された学生証としても扱える端末に目が行ってしまい話半分に聞き流す。
しかし無理もない。端末には学校から貰った10万という大金を表示されている。誰だって意識がそっちへ向かうというものだ。
一人を除いて……。
「一つ聞かせろ。ポイントは毎月1日に
それは誰かが聞かなければ俺が聞こうと質問だった。そして、坂上先生は予想通りの解答を伝えた。
「へえ、龍園君でしたね。……ポイントは毎月1日に振り込まれる。今言えるのはこれだけです。それと、目上の人には敬語を使いなさい。ああですが、
「成程……
タメ口に対する何でもない普通の注意。一見誰の目にもそう映る光景だがあの男、龍園は何かを察して言葉を訂正した。
今のやり取りでこの学校の全容がぼんやりとだが理解できた。そして、それに気付いたのは龍園と俺ともう一人……。
「ああ、そういう…」
隣のひよりの三人だった。
その後は誰も質問がないのを確認し坂上先生はホームルームを終了し教室を出て行く。それを見て他のクラスメイト達もそれぞれ解散となった。
「ハジメさんお疲れ様です。私はこの後図書室を見に行く予定ですがハジメさんはどうしますか?」
「んー、ひよりと図書室に行くのも楽しそうだけど……ちょっと用事ができちゃった」
「用事ですか?」
「うん、多分図書室にも少し寄ると思うからその時はまた会おっか」
「はい解りました。それではハジメさんまた」
そう言い俺達も解散しそれぞれ別行動となる。
「さて、行くとしようか」
既に静かに始まっている
でもまあ───
「そっちがその気ならこっちも全力でやらせてもらうだけ。この挑戦状受けて立つぜ、実力至上主義の学校」
まだ見ぬ未知の世界に俺は笑みを滲ませた。
『はじめ、よく聞きなさい。父さんは母さんと離こ……離れ離れになる。もう会えないだろう。だから…はじめさえ良ければこれからは父さんと暮らさないか?』
『パパが何か言ったと思うけど気にしないで。はじめはママと一緒に居たい。そう言えばいいの。大丈夫、ママが守ってあげるから』
『はじめに何を吹き込んだ!あの子は私が必要だ!!』
『そっちだって!あることない事言わないで!もう証拠と手続きは済ませてあるんだから!』
『よく言うよ!院を陥れた裏切り者が!それならこっちは背任罪で訴える準備はできている!』
『黙れ最低な浮気男!』
『何だと!欲に眩んだ守銭奴!』
『──!』『──!!』『─!』『──!』『─!?』『──!』『─!』『──!?』『──!──!』『──!』『───!』『─!』『──!?』『───?』『──?』
『は、はじめ…?なんで…』
目を覚ますと知らない天井……いや、昨日から住むこととなった学生寮の自室の天井だった。
なんか懐かしい夢を見たな。もう結構経つのに。
そういや慣れない環境だと無意識から昔の記憶を掘りおこされ心を落ち着かせるみたいな論文を読んだ事あるな。そのせいかも、あの頃の俺を一言で表すなら「失敗した」に尽きる。
何にしても苦い記憶だ…。
「ハア、嫌な夢を見た…」
よし、折角の高校生活二日目なんだ。さっさと気持ちを切り替えて今日も一日楽しもう!
こうして、制服に着替え気を引き締めた俺は学生寮を後にした。
午前中の授業は滞りなく進みお昼となる。午後からは体育館にて部活動説明会が行われる事を朝のホームルームで聞かされた俺はひよりと一緒に体育館へと来ていた。
部活動説明会は自由参加となっていたがパンフレットには目移りしそうなぐらい色んな部活がある。行って損にはならないだろう。
それに、説明会では気になる人が壇上に来るそうだしね。
そう思い俺はひよりを誘って部活動説明会へ参加した。その後、説明会は滞りなく終了すると集まった新入生達はぞろぞろと体育館を後にする。
「凄かったなぁ。あれがこの学校の生徒会長か」
「はい、途中で思わず息を呑んでしまいました」
あの佇まい、素人目からでも伝わる圧倒的カリスマ感。とても同じ高校生とは思えなかった。伊達にこの学校の会長を務めているだけはある。
そして、予想通り生徒会長の教室はAクラス。いよいよもって俺の仮説は裏付けてきたな。
「それじゃ、ある程度の確認も取れたし……この後お願いできる?」
「はい!昨日図書室で言ってたことですね。ふふ、なんだかこうして友達と色々するのは楽しいですね!」
「うん、ゆっくり読書もいいけど実際に動いて隠された問題を解いていくのは楽しいよな。それが友達と一緒ならなおさらだ」
事前にこれからの行動を打ち合わせしていた俺達は別々に分かれる。ひよりは出ていく新入生達を追って。俺は体育館に残り人探しをする。相手は先程壇上で生徒会長の近くに居た秘書的に立ち位置であろうあの人に……あ、いたいた。
「すみません。橘先輩ですよね。少々お時間よろしいでしょうか?」
「はい?そうですけど……見るに貴方は新入生ですよね。もう説明会は終わりましたがどうかしましたか?」
「『Sシステム』について、生徒会長とお話をしたいのです」
「…っ!!」
生徒会書記を務める同じ3年Aクラスは橘茜先輩この一言で表情を変える。先程までの新入生に向ける優しい先輩的視線ではなく、この学校に相応しい学生かを見極める様な鋭い視線に。
「確認しますので少々お待ちください」
そう言い残し端末で何処かへ連絡を取る。暫くすると橘先輩からついてくるように言われ体育館を後にした。
それから無言のまま連れていかれた場所は待合室。その前へと到着すると橘先輩は「失礼します」と言い扉を開けた。
俺も続けて入ると、その先には目的の人物が待っていた。
「君か、私に用事があるという生徒は」
「はい、この度は一新入生の為だけにこのような場を設けて頂きありがとうございます。堀北生徒会長」
待合室の中央に置かれたソファーに座っている堀北生徒会長は静かに俺を見つめる。まるで品定めでもするかのようだ。
「気にするな。生徒会の仕事で入学後一定期間内に『Sシステム』について尋ねてくる生徒には時間を設けるようにしてある。先ずは名を聞こうか」
「はい、私は1年Cクラスの真理一と言います」
「ほう、
俺のクラスに一瞬ピクリと眉が反応した。名前ではなくクラスの方に。
「
「それはどういう意味で聞いている?」
「『Sシステム』について話を持ちかけてきた。この時点でもう把握していますよね」
「まあな、とりあえず座るといい。話はそれからだ」
堀北生徒会長の許可が降り俺も向かいのソファーに腰を掛ける。横から「粗茶です」と湯飲みを置くと話を始めた。
「さて、どこまで気付いたか確認しよう」
「『Sシステム』の全て……と言えたらいいのですが如何せん学校側の伏せている情報が多すぎるので幾つかの法則です。それと、この法則に基づき学校の実態も」
「ほう、聞かせてもらおうか」
「まず『Sシステム』について。それは、毎月貰えるポイントは必ずしも10万ではない事。これは昨日担任から毎月1日にポイントを振り込まれるという曖昧な言い回しで疑念を持ちました」
あの時、龍園は「毎月1日に
「担任は何故ポイントについて言えなかったのか。それはポイントが変動する事実に私達新入生がいつ気付けるか、それを確かめる試験を行っているのでは?」
「面白い推理だな。教師一人の発言から出た疑念だけでそこまで導き出せた訳ではあるまい」
「勿論です。昨日、午前中に学校が終わってから校内を歩き回りまして……散りばめられたヒントを結びつけてこの結論に至りました」
ヒントと言うワードに反応しフッと意味深そうに笑みをする。
「そのヒントが先程言っていた学校の実態、と」
「はい、要約するとそうです。カメラの異様な数、2年3年のフロアの教室、上級生達が見る私への視線。これらを合わせた結果、学校の実態の一つが解りました。それは……」
お茶を飲み間を置くと答え合わせをするように俺は堀北生徒会長と向き合った。
「───クラスがAからDの順に総合的実力で振り分けられている」
「…………」
俺の推理への返答は無言。答えられないという事はそれそのものが答えだった。
「それが解れば後は現状から逆算すればいい。そうすれば自ずと見えてくる。『Sシステム』の秘密に」
「それが支給されるポイントの増減、と言う訳か」
「はい、ポイントの増減は普段の授業態度や模範的姿勢、今後の試験の点数等で決まると考えてます。それ以外にも大きくポイントが変動するイベントの可能性も含めて」
「ほう…」
俺は頷き『Sシステム』のポイント変動の例を上げる。堀北生徒会長は少し考えるように顔に手を添えると俺を興味深く見定めた。
「ふむ、その裏取りとして私の元へ……。少々強引なやり方と推測ではあったが、入学初日でそこまでの決断力、行動力を見せその翌日に生徒会へ確認をしにきた一年は私の代では初めてだよ」
「生徒会長にそこまで褒めて貰えるなんて光栄です。実は『Sシステム』の件でもう一つ用事があります。寧ろ本題はここからと言っても良いです」
「何…?」
要件は済んだ筈と思っていたらしい堀北生徒会長は眉を寄せる。本題と聞き隣にいる橘先輩も身構える。
とはいえ、そう大した事ではない。ここまで親身に聞いてくれた生徒会長ならばきっと応じて貰えると確信した俺はこれまで以上に愉しげな笑顔で口を開いた。
「ここまでの話を踏まえて───ビジネスの話を始めましょう」
堀北生徒会長と話をしてから5日が経過した。
流石に数日も経つと授業も行われ普通の学校生活を送っている。この環境でも慣れてきて初めてここへ来た時よりもクラスも仲の良いグループが形成され始めていた。
このクラスは少々ガラが悪い部分も目立つがこれといって目立った問題は起きていない。そう、この瞬間までは……。
いつだって問題と言うのは突然やってくる。
「あれ?石崎どうした教室の扉をとうせんぼしちゃって。新しい遊び?」
「ちげーよ。ハジメにはわりーが今日は皆にあの人から話があんだよ」
「あの人?」
石崎とアルベルトを含む数人の男子生徒が教室の出入り口を塞ぐ。最初は何の悪ふざけだと事態を飲み込めていないクラスメイトが文句を言うが一切動じない。
そして、石崎の言うあの人が壇上へ立つと不敵に笑い宣言した。
「未だに平和ボケしている連中に伝える。今日から俺がこのクラスの王だ。異論がある奴は前に出な」
そう高らかに厨二全開の宣言をかますのは入学式初日に『Sシステム』の秘密に勘づいた男、龍園だった。
「はぁ?急に王とか馬鹿じゃないの。私達帰りたいんだけど」
「そうよそうよ、王様ごっこなんて幼稚な遊びに付き合ってる暇ないのよ。これから私達はショッピングにカラオケで忙しいんだから」
突然クラスの王などと名乗りクラスの女性グループは悪態をつく。しかし、龍園は態度を崩さず寧ろ相手を哀れむような目で見下した。
「クククッ、ショッピングにカラオケか。随分と楽しそうだな。入学して一週間ずっとそんな生活をしてきたのか?」
「そ、そうよ悪い?どうせ毎月10万貰えるんだしいいじゃない」
「おいおいマジか、初日に俺が態々質問したってのに気付かねぇとは……余っ程頭が軽いと見える」
「はあ!?喧嘩売ってんの!!」
「そこの頭の足りねえ女と同様、これまで一切何も行動しなかったテメーらに説明してやるよ。『Sシステム』の実態をなあ」
拒否権は無いと強制し龍園は『Sシステム』について説明する。何故この学校にはカメラが多いのか、何故10万という大金を俺達に支給されたのか、何故…この一週間に起きた多少の授業態度の悪さを注意されないのか。
その内容は以前俺が堀北生徒会長と話した内容とほぼ同じだった。ただ違いを上げるとしたらその情報収集の方法にある。
石崎達を見るに既にクラスの半数は龍園の配下。ある程度味方を増やしてから情報を集めたか。
俺が龍園の行動を察している間に説明が終わるとクラス内は騒然としていた。
「は?減る…?ポイントが?そんな事先生は一言も…!」
「逆に減らないなんて一度でも口にしてたか?坂上先生がよ」
「っ!!」
ここまで言われ真鍋を始めとする女性グループは黙り込む。一人を除いて…。
「『Sシステム』については解った。で?何で私がアンタの下につかないといけないのよアホらし」
それは以前俺がファーストコミュニケーションに失敗した人だった。確か伊吹だっけか。あの時は名前を聞けなかったが流石に一週間も経てば名を知る機会は幾らでもあったので知ってる。
「へー、威勢のいい女もいるじゃねぇか。歯向かうってんならいつでも相手になるぜ?」
「暴力でも振るう気?ま、それでも負ける気がしないけど無理でしょ。ここには監視カメラも───」
監視カメラもある。だから下手に暴力は出せない。そう言いたかったであろう伊吹は最後まで口に出せなかった。
───ゴスッ!
何故なら、龍園が伊吹を蹴り倒したから。
「あぐっ!?」
「聞こえねえな、カメラが何だって?」
白昼堂々と起きた暴力事件。周りの人は龍園の暴行に恐怖を覚えた。そんな視線の中、得意げに嗤う龍園に伊吹は蹴られた腹部を押さえ怒の形相で睨見つけた。
「いきなり何すんだ!!馬鹿だろお前!今蹴った所はカメラにも映って……」
「いねぇんだよなこれが」
「は……?」
「忘れたのか?『Sシステム』に於いてポイントで買えないものは無い。例えそれが……」
「監視カメラの映像だろうが……だろ」
「あ゙?」
俺は龍園の台詞を先読みし伊吹の前に立つ。
幾ら今ここで起こっている状況が問題にならないとはいえ黙っているわけにはいかなかった。乱暴が嫌いなひよりが困るだろ。
「一つ忠告してやるよ龍園。圧政、恐怖支配、独裁者……いつの時代でもそんな奴の末路は碌な終わり方をしない」
「アンタはあの時の変態。何しに出たの?」
「高校の初友を見捨てる薄情さは持ち合わせていないんでね。それと俺は変態じゃない」
また体感したことのない快感に身をよがらせただけだい。
「女を護るナイト気取りってか。テメーも俺に楯突くのか?」
「冗談よしてくれ。こちとら喧嘩なんてしたことないか弱い系男子よ?逆らえる筈ないじゃん」
「じゃあ何しに俺の前に立つ?」
「実は龍園とは一度話してみたかったんだ。でも、中々機会がなかったからこれを機にってね」
これは本当だ。俺とひよりを除きこのクラスで唯一監視カメラから『Sシステム』の秘密に勘づいた男だ。気にならない訳がない。
だから、その男に俺は言ってやった。
「全体的に見てさ、一週間は効率が悪いだろ」
「何…?」
煽り一切無しの率直な感想を。
「初日のホームルームで『Sシステム』の実態に気付くまでは良かったが……裏取りに時間をかけ過ぎだ。もっと仲間の作り方を考えりゃ高得点を狙えたかもしれねーのに。勿体ない事したな」
「ほう、だったらテメーはいつからこの仕組みの全貌を解いたんだ?」
龍園の問い掛けに俺は即答する。
「2日もありゃ十分だ」
「2日だと?ククク、おいおいそりゃあ盛りすぎだ。俺でさえこの学校の秘密を暴くのにどれだけの労力が必要だったと……っ!」
2日という短さにハッタリだと思ったのか嘲笑するが……俺が見せた端末に映るポイントに言葉を失った。
100万ポイントと破格の額を目にして。
「テメー、何モンだ?」
「ただの情報収集が好きな男子高校生だよ。これで信じてくれたかな自称Cクラスの王様」
「情報収集…ククッ、つまりテメーはこの学校の情報を集め高値で売り捌いていると。面白れぇ、名前は…?」
「真理一、一応アンタの所の石崎やアルベルトとも友達だな」
「ハジメだな。お前、俺の右腕になれ。無論拒否権は無え」
おっと、思わぬ勧誘が来てしまった。しかも強引。
「それでも断ったら?」
「今この場のカメラは使えない。後は解るだろ?」
「さっきも言ったが暴力で支配する王は長く続かないぞ。後、誰も断るなんて言っちゃいない」
「じゃあオーケーって事でいいんだな」
答えを急かす龍園に俺はハッキリと言う。
「龍園、自分で言うのもなんだが俺は今1年の中じゃ誰よりも情報を持っている。それで商売もして一部じゃ情報屋なんて呼ばれてもいる。それを独占しようってんなら───それ相応のメリットをお前は俺に示さなきゃならねぇ」
「…っ!!」
俺のドス黒い圧を秘めた目に龍園から笑みが消える。まるで得体の知れないプレッシャーに押し潰されているような顔で。
暴力が悪いとは言わないよ。それをもみ消す方法や正当化する方法はいくらでもある。それが出来たから龍園はこうして強気に出れる。
だが、それしかできないんだったら三流以下……期待外れと言う他ない。
「……と言っても俺とお前は同じクラス。この先ギスギスしてたんじゃ居心地が悪い。だから、ここでお前に選択肢をやるよ」
「選択肢だぁ?」
「そ、先ずはこれを受け取れ」
そう言い懐に入れていた地図紙を渡す。内容は校内の地図で龍園は一瞬困惑するがすぐに気付く。この地図の価値に。
「これはこの学校に設置されている監視カメラの位置や数を記された校内マップだ」
「成程、これがお前の商売品か。だが、現時点で試験を理解している他クラスの連中が素直に売買を応じるとは思えねえな。偽物かもしれないと勘繰るだろ」
「端に記入された保証欄を見ろ」
「…マジか」
俺の言う通りに地図の端の記入欄を確認すると目を見開く。そこにはある生徒の名前が記されていた。
「保証名:堀北学」と…。
「生徒会長様直筆のサイン付き地図だ。これ以上ない安心感だろ。普段なら相応の額を請求するが……お前にはこれを無償でやってもいい」
「その代わりこの場は見逃せと?」
「ああ、今後俺が集めた情報は他のクラスにもこれまで通り売っていく。勿論お前にも一人の客として対応する。だが贔屓はしない。だが、それが嫌で俺を独占したいってんなら……一つ俺の質問に答えろ」
「いいぜ、何だ?」
「お前は、何をもって勝者と捉える?」
絶対に外せない質問に身構えるも俺の出した内容に一瞬呆気にとられる。この質問の答えは持っている人には即答できるものだから。
そして、俺はその答えを望んでいた。
「クククッ、んなもん決まってる」
龍園はこれまで以上に狂気じみた笑みを浮かべ答えた。
「最後に立っていた奴が勝者だろ」
やはり、この男は俺の見込んだ通りの男だった。
「それが聞けて嬉しいよ」
「満足のいく解答だったみたいでよかったぜ。それと同時にテメーの本質も理解した」
「俺の本質?」
この短い間で俺という人間を理解した。そう答える龍園に更に興味を惹かれる。
「何故自分だけが持つ情報で優位に立っていたお前が今まで情報を売買していただけだったのか。その気になりゃこのクラスのリーダーにだってなれただろうに」
「俺がリーダー?ないない、そこまでの器は持ち合わせちゃいねーよ」
「フッ、だろうな。そいつはこれまでの生活を振り返りゃあ解かる。目立った動きをしない所を見るにテメーの実力は総合的に見て大したもんじゃねぇ……ある一点を除いてな」
龍園は人差し指を上げその一点を答えた。
「情報収集力、この一点に関してで言えばハジメ、お前はAクラスを凌ぐ」
「へえ…」
「情報は何より強力な武器となる。だが、決定打まではいかねぇ。だからお前は人の上に立てない。違うか?」
「いいや正解だ。これ以上にないってぐらい満点だよ」
まさか本当に言い当てられるとは思わなかった。だけど不思議と俺の鼓動が嬉々として高鳴っていくのがわかる。
「龍園、さっき答えた通り勝者とは最後に立っていた奴を言う。俺が今日まで名乗り上げなかったのは単にこのクラスに勝者と成り得る存在がいるかどうか確認したかったからだ」
「ククク、それはまるでこのクラスに居なけりゃお前は別のクラスに行くつもりだったと?」
「事実その通りだ」
一瞬だけ周囲がざわめく。別クラスへの移転、そんなことが可能なのかと。しかし、『Sシステム』を理解していた龍園を除いて。
ここまで俺を楽しませてくれたお礼に一つ情報を開示する事にした。
「俺の本質を見抜いたご褒美として特別にいい情報を教えてやる。2000万ポイント、それだけあれば他クラスへの移動が可能だ」
「ほう、それはいい事を知ったな」
お互いに醜悪な笑みが溢れる。
さっき伊吹に食らわせた蹴りもそうだった。勝利の為なら例え女性だろうと一切の躊躇を見せない。
どうも俺は龍園と似た人種らしい。
ああ、思っていた通りだ。龍園と話すのはとても楽しい。そのいつでも俺を潰せるぞと圧を掛けてくる眼光、己への絶対的自信。何より……貪欲なまでの勝利への執着。
そう、それだ。それなんだよ。俺には好きなものが二つある。一つは「未知」、そして俺のもう一つの好きなもの。それは───
───「勝利」への渇望。
「俺は「未知」も好きだが「勝利」はもっと大好きだ。だから俺は何がなんでも勝ち馬に乗る。龍園、お前はそんな俺と手を組みたいってんだ」
俺は無造作に龍園の間合いへと入った。より近くで龍園という存在を見る為に。
「───覚悟あんだろうな?」
覚悟、それはつまりこのCクラスをAクラスへ導く事を意味する。
そして、俺の質問に龍園は一切の迷いなく狂気じみた笑みで返した。
「覚悟か……ククク!面白え!いいぜハジメ!テメーに見せてやるよ!敗者を見下ろす勝者の景色って奴を。
この日、Cクラスに一人の王が誕生した。それが凶と出るか吉と出るかはまだ不明。つまりは可能性は「未知数」だ。
そんなまだ見ぬ未知な未来に期待を持ち俺は目の前の男と共に笑い声で教室を満たすのだった。
「あ、手を組むんだからその監視カメラのマッピング地図の代金はしっかり払ってもらうぞ」
「ちゃっかりしてやがる……」
入学式からもう一週間か。
俺は今日も生徒会室で業務を進めているとすぐ横から橘書記がお茶を淹れてくれた。
「すまない」
「いえ、それにしても結局あの日から『Sシステム』について聞いてくる生徒は一人もいませんね」
「彼が早すぎただけだ。5月まで猶予はまだある。まあ、それを抜きにしても彼が今後どう動きを見せるかは楽しみだな」
「会長がそこまで言うなんて珍しいですね」
「事実だ、俺と面向かって堂々と話せる下級生は少ない」
「ましてや会長相手に交渉ときたもんです。あの時は思わず持ってた書類を落っことしちゃいそうになりました」
そう、入学早々に3年生に…それも生徒会長と対面しあの堂々とした立ち振舞い。誰にでもできるものではない。
俺は彼と話した当時の会話を思い出す。
『この学園に設置されている監視カメラ。その数と配置を記載された地図を貴方のサイン付きで私にお売りください。価格は10万ポイントで如何ですか?』
『ほう、10万ポイントを得へ最初に買うのがカメラの情報とは……いいのか?時間をかければこんな情報無料で手に入る』
『私の心情は「時は金なり」でしてね。初日に学校のカメラの情報はある程度入手しましたが見落としがないかの確認も兼ねてです。その情報を他クラスがしれば悠長にはできない。先程友人から購入宛が三件程見つかったらしいのでそこはご安心を』
『中々の手腕だが、私が情報を必ず提供する確信でもあるのか?しないかもしれない』
ここで俺は奴に情報を売らないという可能性をチラつかせてみたが……効果はまるでなかった。
『いいえ、必ずします』
この男はこの学校の本質を理解した上で断言した。
『この学校は実力主義なのでしょう?なら静かに始められた特別試験に気付きこの状況まで持ってきた新入生に相応の対応をするのが筋ってものでしょう。少なくとも、こうして堀北生徒会長が私に時間を作ってくれている。それが答えだと私は考えています』
彼の言う通りだった。俺はこの時には既に情報を提供する事を決めていた。ただ、根拠はそれだけではない気がする。理由としては十分だが、もっと別に絶対的な自信があるように見えた。
此方を見透かさんとする目。あの目をまさに…。
「目上の人に対する話し方もそうでしたがとてもCクラスとは思えませんでしたね。やはり、Cクラスに成り得る問題を持っているとか?」
「そういう詮索は野暮だぞ。例えCクラスだろうとあの行動力を持つ人材は貴重だ。彼さえ良ければ生徒会に……と思ったんだがな」
「断られちゃいましたもんね」
アハハと苦笑する橘書記。
そう、交渉成立した後に俺は生徒会への勧誘を試みたが見事に断られてしまったのだ。彼曰く───
『え、私が生徒会?ハハ、会長直々のお誘いなんて光栄です。しかし、大変申し訳ありませんがお断りします。私にはやりたい事がありますので』
『やりたい事だと?』
『そりゃあ生徒会に入れば色々と恩恵もあると思います。それこそポイントとか。ですが私は高校生活を堪能したいんです。友達と遊んだり馬鹿したり勉強したり……今しかできない"自由な青春"を謳歌したいんですよ』
『自由な青春か…』
『はい、なので情報屋でとプライベートを両立させる為にこの勧誘はお断りします』
『フッ、面と向かって青春したいなどと。しかし、果たして上手くやれるのか?これから競い合う実力者達と争いながら自由な青春を送ろうなど』
『送りますよ───競争も青春も全力で』
あの時はまさか断られるとは思わなかった。少なくとも俺が勧誘した者は皆これを承諾していたから。
「せめて目の届く範囲に留めようと連絡先と今後の投資として幾ばかりかのポイントを贈ったが……まだ不安は拭いきれんな」
「不安ですか?」
「ああ、勧誘した理由は単に彼の優秀さだけではない。感の良さ、行動力、そして───隠し切れない勝利の執着心」
上手く隠そうとしているみたいだが俺には見えたぞ。彼の行動原理、その本質を…。
「その心の隙を彼奴が見抜かなければいいのだが」
「彼奴…?あ、あの人ですね。南雲副会長」
その名を呼び俺が静かに頷く。
この生徒会の副会長に在する2年Aクラス南雲雅。奴の思想の強さは本物だ。そんな奴が彼に目をつけ手を組むことがあれば……。
「全く、今後共彼とは良好な関係を築いていきたいものだ」
そんな一抹の不安を抱え俺はお茶を口にした。
授業も終わり日が沈みかけようとしている放課後。俺はハジメから買った地図をさっそく利用しカメラのない特別棟の三階へと来ていた。
とある人物と話をする為に。
「何の用でしょうか龍園君。この様な場所で密会など、いくらカメラのない所でも私はこの学校について今は何かを話す気はありませんよ?」
「ハン、別に先公から試験内容を全部聞こうなんてズルは考えちゃいねぇよ。まあ、強いて言えば一人気になる奴ができたんで聞き回ってるだけだ」
「と言いますと?」
特別試験についてじゃない事を理解すると表情がいくつか楽になる。やっぱ先公達にも口外は学校側から固く禁じられているみたいだな。
だが、今回はどうでもいい。俺が今知りたいのは今日知り合ったアイツの事だ。
「真理一、奴は一体何者だ?」
こんな学校の事だ。入学してくる生徒の近辺情報は多少なりと持っているだろう。坂上先生が最初っから俺に目をつけていたのがいい証拠だ。
同じクラスの名を聞くと坂上先生は少し沈黙した後に遠くを見ながらハジメについて語り始める。
「彼は特別秀でた成績はありません。学力、身体能力と総合的に見て平均を越えていない。彼一人の実力なんてたかが知れているでしょう。ですが……」
こっちに振り返ると坂上先生は眼鏡をかけ直しこう答えた。
「龍園君、上を目指すのであれば……彼を味方につけておくといい」
「先公がそういうって事は……やっぱ奴には何かあるんだな?」
「真理君の実力は単純な成績では測れません。彼の凄さは───異常なまでの情報収集能力にあります」
情報収集能力、それは奴の持つ最大の武器であり才能。だが、焦らしたにしては思ったよりシンプルな答えに拍子抜けしてしまう。
「情報収集能力の高さなら十分理解してる。だから奴を抱き込んだんだ」
「果たして本当に理解しきっているのでしょうか?」
「何…?」
「これは当時彼がこの学校の面接をした時の事です」
そこから語り出すのは学校の面接で起きた話。滞りなく進み面接官からの質問が終わり最後にハジメから何か質問はないかと問いかけた。その時に彼は元気よく問いかけた。
『はい!一つご質問があります!』
『この高校の───合格基準についてです』
『え?何を言っているのか分かりません?そんな見え見えの反応で何も知らないは無理があるかと。その反応も含めての演技なのだとしたら称賛物ですけど』
『初めて疑問を覚えたのは受験前に行われた学校説明会。そこで私は喉につっかえたような感覚でした。それを払拭しようと例年の当校の受験者について色々調べてみたんです。すると……すごぉ〜く気になる結果が出てきたんですよね~』
『あまり素行が良くない者が受験に合格してるかとお思えば反対の優秀な者が不合格だったり……』
『私の仮説としましては受験が始まる前から何らかの規則に基づき合格者は決まっているんじゃないかと推測します。受験を行う理由はまた別にある事も含めて』
『あ、それともう一つ気になることがありました。希望する進学・就職先にほぼ100%応える全国屈指の超名門校……と、説明会では謳ってましたが───卒業するまでの退学者の数が他の高校の比じゃないのは何故ですか?』
『気になって気になって居ても立ってもいられなかった私は少し前に退学された人とコンタクトを取ってみたのですが……』
『全員、口を揃えて何も答えてくれないんですよ。まるで学校側から口止めするよう契約でも交わしているかのように、ね?』
『ですので何かご存知なのでしたらお聞かせくれませんか?私───知らない事は何でも知りたいんです♪』
その時に見せた顔は解らない事を教えてもらおうとする純粋な子供のよう……だったとか。
「我が校に疑問を覚える方は毎年少なからずですがいます。ですが、たった一人でそこまで調べ上げた者は誰もいなかった」
だろうな。俺もこの学校はきな臭えと思ったがそれまでだ。そこまで徹底的に調べられる奴は中々いないだろう。まさか、入学前からここまで徹底していたとはな。
「龍園君、もう一度いいます。彼を味方につけておくといい。この先、誰よりも情報を逸早く入手できる存在は大きな武器となる。逆に、彼が敵に回るようなことがあれば……」
「タダじゃ済まねぇな」
「そういう事です。私から言えるのはここまでです。では、業務がまだ残ってますのでここで失礼します。もう遅いので君も早く帰りなさい」
そう言い残し坂上先生は立ち去った。
この場で一人だけとなった俺は静かになったこのフロアで嬉々として笑いが漏れてしまった。
「ク、クク……成程、つくづくこの学校に来てよかったと思えるぜ。俺にはねえ強さも持つ男か」
奴とならどんな敵だろうが負ける気がしねえ。必ず他クラスを蹴落とし俺達が勝者になってやる。この実力主義の学校でな!
ピロン!と端末が反応する。どうやら連絡の通知らしく画面を見ると相手はハジメからだった。
『おーいドラゴンボーイ』
『今石崎とアルベルトとひよりでカラオケに来てるんだけど暇なら来ない?』
さっきまでと比べ余りの脳天気な連絡に昂ぶっていた感情が冷めていくのが分かる。これから本格的にAクラスを目指そうって時に。
ハア、とため息交じりに俺は返信を送る。
『今から向かう』
『それと次その呼び方したら殺す』
『りょ』
そこまで返すと端末を閉じ俺も特別棟を後にする。これからについては向こうについてからと切り替えカラオケに向かった。
その間も、否これから先も冷めぬ闘志を燃やしながら。
「あ!やっと来た!遅いよお前絶対悠長に歩いてきただろ。罰として今一番歌の採点が低かった石崎とプリキュア全オープニングデュエットな!」
「龍園さんやったりましょう!」
「ククク、殺すぞ?」
いや~、歌った歌った。龍園が来てからはさらに盛り上がって楽しかったな〜。
「今度は伊吹も誘って……いや絶対断られるなうん」
寮の帰路を歩いているとコンビニが見えてきた。ついでに寄っていこうとしたら…。
「うおっ」
「っとと、悪い俺も拾うよ」
出入り口が開くとタイミング悪く出てくる人とぶつかってしまい相手はレジ袋を落としてしまう。俺も一緒に落としたカップ麺やらスナック菓子を拾うのを手伝った。
「これで全部か。ぶつかって悪かった、な…」
「いや、オレも不注意だった。つい背徳菓子楽しもうと浮足立ってしまってな……ん?どうかしたか?」
「…………」
拾った物を渡そうとした時、俺は相手を見て固まってしまう。何か言ってたみたいだが耳に入ってこなかった。
それ程までに俺は相手の目に惹かれてしまった。
俺は見る目がある方だと思う。実際に相手を見てどういう人かある程度解るから。目の前にいる男もウキウキした様子で深夜の背徳スナックを楽しもうとしているどこにでもいる普通の男子高校生。
だけど、その瞳の奥に見える異質な何かがそれを否定する。
俺は未知が好きで「人」という存在に興味が尽きない。数式など答えが決まっているものと違い、人には十人十色あり全く同じ人間は一人としていない。
そう、十人十色……その筈なんだ。なのに……。
ただただ何かの目的の為に機械的に動く心の無い人形のような。こんな人、初めて出会った。
「あ、あの…!」
「ん?」
「俺もここで何か買って帰るつもりだったから一緒に帰らない?春の夜って意外と冷え込んでて一人だと寂しさが強いんだよね」
「別に構わないぞ。特に予定もないし」
少し強引気味ではあったが、友達作りなんて少し強引なぐらいがちょうどいい。きっと、この男との出会いが良くか悪くか……俺の人生を大きく変える。そんな気がした。
「ありがとな!こうしてあったのも何かの縁だ。俺は今年入った1年Cクラスの心理一!よろしく!」
「ああ、オレも同じ1年Dクラスの綾小路清隆だ。よろしくな」
これをきっかけに友達となった俺達は自己紹介を済ませると夜のコンビニ前で楽しく笑い合った。
これは俺が龍園と手を組みCクラスから成り上がる物語。それと同時に───
最後には勝ち馬に乗り勝利をつか掴み取ろうとする者の物語。
【高度育成高等学校学生データベース】
氏名:真理一
学籍番号:S01T004670
クラス:1年Cクラス
誕生日:11月3日
評価
学力:B-
知性:B
判断力:A+
身体能力:C
協調性:B+
面接官からのコメント
コミュニケーション能力が高く面接時の対応は丁寧で特に問題はなし。しかし、一度疑問を持つとその解答に対する執着が強いのが難点。筆記では教科によって偏りの成績ではあるが、全体的に平均を下回っておらず試験の結果から見てもBクラスに匹敵する能力を持っていることは明らかである。しかし中学時代に家庭の事情で長期間の不登校が続いていた為、様子見としてCクラスへ配属とする。
担任メモ
良くも悪くも一言で表すのなら好奇心旺盛な男の子。知りたい事があれば何でもすぐ質問する姿勢は学び盛りな学生としては大変素晴らしい。しかし、その好奇心がいずれ悪い方向へ進まないかだけが心配。
真理一
未知が大好きな主人公。カウンセラーの母と精神科医師の父の間に産まれ「見る才能」に長けた少年。しかし、その才能のせいで両親の隠していた悪行を見抜き純粋な疑問で聞いた結果家庭崩壊した。
父は不倫、母は父の院から盗んだ論文で不正行為。どちらも過失があったため裁判は泥沼化しハジメは中学時代ロクに登校が出来ずにいた。
中々決着がつかない両親に失望し見兼ねたハジメは自身に得がある方、より勝ち目がある方を見極め追加の情報を提供し裁判を終結させた。
この時に見た敗者と勝者の光景にハジメは「未知」に加え「勝利」を欲するようになった。
得意なカラオケの曲はアニソン。採点結果は90点。
椎名ひより
ハジメ隣の席で同じ読書友達。ハジメとは通づるものがあり入学後はいつも一緒にいる。部活動説明会の後持ち前の洞察力で坂柳、葛城、一之瀬の実力を見極めコネクションを計る。結果、地図の情報の売買を成功させた。
得意なカラオケの曲はラブソング。採点結果は95点。
龍園翔
Cクラス代表。勝利の為ならどんな事も厭わない冷酷さを持つ。ハジメと初めて会話しお互いに惹かれ合うように意気投合した。
得意なカラオケの曲はロック。採点結果は90点。
石崎大地
ハジメの友達。意外とノリもよく味方には友達想いで義理堅い。最後に龍園とデュエットしたかは秘密。
得意なカラオケはJ-POP。採点結果は78点。
山田アルベルト
入学当初上手くやれるか不安だった所にハジメと会う。英語は苦手な部類だったハジメだが簡単な会話レベルなら何とか話せたので思いの外すぐに仲良くなる。カラオケの終盤腹を抱えて爆笑し龍園にボコられた。
得意なカラオケの曲は洋楽。採点結果99点
綾小路清隆
友達が増えた。やったー。