DEATH NOTE ~新世界のバカ~ 作:Monutaka
俳優・山田小一の突然死から三日後。
キラ事件の捜査本部では、Lと夜神月が一枚の資料を見つめていた。
「……山田小一さんの件ですが」
Lが口を開いた。
「彼の死も、キラによるものと考えています」
月はうなずいた。
「僕も同じ意見です。ただ、一つ疑問があります」
「何でしょう?」
「なぜ、犯罪者でもない俳優を殺したのか」
Lは画面を切り替えた。
山田小一の出演作品が一覧表示される。
「彼は亡くなる前に、刑事ドラマで悪役を演じていました」
「……ええ」
「キラは、そのドラマを見ていた可能性があります」
月は眉をひそめた。
「ドラマの悪役と、現実の犯罪者を混同したと?」
「可能性としてはあります」
Lは淡々と答えた。
「ただ、それだけでは説明できない点もあります」
「……何ですか?」
モニターには、山田小一のプロフィールが表示された。
『本名・山田小一』
「キラは、彼の名前を知っていた」
「……それが?」
「これまで死亡した犯罪者は、いずれも実名が報道されていました。そして山田小一も、ドラマの最後に名前が表示されています」
Lは画面を切り替えた。
「さらに興味深いのは、死亡時刻です。山田小一さんが亡くなったのは、ちょうどドラマの放送が終わる頃でした」
「……偶然にしては、出来すぎていますね」
月がつぶやいた。
「ええ。キラはドラマを見て、山田小一さんの顔と名前を確認した直後に殺害した。そう考えれば、時間の一致にも説明がつきます」
月は考え込んだ。
「……つまり、キラは顔と名前を確認してから殺している?」
「その可能性が高いでしょう」
Lは角砂糖を口に運んだ。
「顔と名前。この二つが、キラの殺人に必要な条件なのかもしれません」
月は静かにうなずいた。
「……もしそうなら、顔や名前を公表しなければ、被害を防げる可能性がありますね」
「ええ。試す価値はあります」
◇ ◇ ◇
その頃。
馬神家。
「……リューク」
「何だ?」
鹿斗はデスノートを開き、難しい顔をしていた。
「俺、決めたわ」
「……何を?」
「もう名前間違えない」
リュークは少し驚いた。
「……ほう」
「この前みたいなこと、二度と起こしたくねえし」
鹿斗は真剣だった。
リュークは黙って続きを待った。
「だからさ」
「……おう」
「**お前が代わりに書いてくれよ**」
「…………」
リュークは固まった。
「……は?」
「だってお前、漢字詳しいじゃん!」
「…………」
「俺が悪人を選ぶから、お前が名前書けばいいんだよ!」
リュークはしばらく鹿斗を見つめた。
「……断る」
「何でだよ!」
「俺はお前の手伝いをするために来たんじゃねえ」
「ケチ!」
「……ケチ?」
「ちょっとくらいいいじゃん!」
リュークは顔を近づけた。
「いいか。俺は見物人だ。お前がどうするかを見て楽しむ。それだけだ」
「……じゃあ、漢字くらい教えろよ」
「…………」
リュークは天井を見上げた。
(……もう教えてるだろ)
◇ ◇ ◇
翌日。
警察は、Lの提案を受け、一部の事件について容疑者の顔と実名を伏せた発表を試みた。
すると、奇妙なことが起きた。
それまで続いていた心臓麻痺による死亡事件が、ぱたりと止まったのである。
捜査本部では、緊張が走っていた。
「……やはり」
Lはモニターを見つめた。
「顔と名前。両方が必要だという仮説が強まりました」
月が口を開いた。
「ただ、キラが我々の意図を察して、意図的に殺人を止めている可能性もあります」
「ええ。その点は否定できません」
Lは静かに続けた。
「いずれにせよ、我々の対応を観察している可能性があります」
◇ ◇ ◇
馬神家。
「……つまんねえな」
鹿斗はテレビの前で寝転がっていた。
ニュースでは、強盗事件の容疑者について報じている。
しかし、顔写真は出ていない。
名前も『三十代の男』としか表示されなかった。
「リューク! 最近のニュース、全然名前出ねえじゃん!」
「……そうだな」
「これじゃ裁けねえだろ!」
「……まあな」
鹿斗は不満そうに腕を組んだ。
「何で隠すんだよ! 悪い奴なんだから名前出せよ!」
リュークは画面を見つめていた。
(……人間ども、何か気づいたのか?)
鹿斗はリモコンを手に取った。
「もういいや。アニメ見よ」
「…………」
◇ ◇ ◇
その夜。
Lのもとに、新たな報告が届いた。
「……キラと思われる死亡事件は、今日も確認されていません」
ワタリが告げた。
Lは考え込んだ。
「……我々の対策は、一定の効果を上げているようですね」
月は腕を組んだ。
「ですが、安心はできません」
「ええ」
「もしキラが別の方法で標的の顔と名前を知れば、殺人は再開するでしょう」
Lはうなずいた。
「そのとおりです」
二人は、沈黙のままモニターを見つめた。
◇ ◇ ◇
その頃。
馬神家の二階。
「……なあ、リューク」
「何だ?」
鹿斗はゲームをしながら尋ねた。
「最近、俺って全然裁いてなくね?」
「……そうだな」
「これじゃ新世界の神になれねえじゃん」
「……今さら気づいたのか」
鹿斗はしばらく考えた。
そして、突然ひらめいたように顔を上げた。
「……そうだ!」
「ん?」
「ネットで調べればいいんじゃね!?」
リュークは目を細めた。
「……何を?」
「悪人の顔と名前だよ!」
「…………」
鹿斗は得意げに笑った。
「俺、天才かもしれん!」
リュークは、しばらく鹿斗を見つめていた。
「……今まで思いつかなかったのか?」
「…………」
「うるせえ!」
鹿斗は慌てて押し入れからノートパソコンを取り出し、電源を入れた。
しかし、起動した画面を見て、すぐに眉をひそめた。
「……あれ?」
「何だ?」
「パスワード何だっけ?」
「…………」
リュークは静かに窓の外を見た。
人間界に来てから、まだそれほど時間は経っていない。
それなのに、死神界が少し恋しくなっていた。
◇ ◇ ◇
翌朝。
Lは新たな資料を手にしていた。
「……月くん」
「はい」
「キラは、我々が想像している以上に慎重な人物かもしれません」
月はうなずいた。
「顔と名前の公表を控えた途端、殺人を停止した。こちらの動きを読んでいるようにも見えます」
「ええ」
Lは資料を置いた。
「ですが、いずれ動くはずです」
「……そうですね」
月は静かに答えた。
「キラが本当に、自分の正義を世界に押しつけようとしているなら……」
その目が鋭くなる。
「必ず、次の手を打ってくる」
◇ ◇ ◇
馬神家。
「母ちゃーん!!」
階下から返事があった。
「何ー!?」
「俺のパソコンのパスワード知らねえ!?」
「自分で決めたんでしょ!!」
「忘れたんだよ!!」
「知らないわよ!!」
「…………」
鹿斗は椅子にもたれかかった。
「……リューク」
「……何だ?」
「新世界の神への道って、結構大変だな」
リュークは何も答えなかった。