DEATH NOTE ~新世界のバカ~   作:Monutaka

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第5話「天才の誤算」

 

 

俳優・山田小一の突然死から三日後。

 

キラ事件の捜査本部では、Lと夜神月が一枚の資料を見つめていた。

 

「……山田小一さんの件ですが」

 

Lが口を開いた。

 

「彼の死も、キラによるものと考えています」

 

月はうなずいた。

 

「僕も同じ意見です。ただ、一つ疑問があります」

 

「何でしょう?」

 

「なぜ、犯罪者でもない俳優を殺したのか」

 

Lは画面を切り替えた。

 

山田小一の出演作品が一覧表示される。

 

「彼は亡くなる前に、刑事ドラマで悪役を演じていました」

 

「……ええ」

 

「キラは、そのドラマを見ていた可能性があります」

 

月は眉をひそめた。

 

「ドラマの悪役と、現実の犯罪者を混同したと?」

 

「可能性としてはあります」

 

Lは淡々と答えた。

 

「ただ、それだけでは説明できない点もあります」

 

「……何ですか?」

 

モニターには、山田小一のプロフィールが表示された。

 

『本名・山田小一』

 

「キラは、彼の名前を知っていた」

 

「……それが?」

 

「これまで死亡した犯罪者は、いずれも実名が報道されていました。そして山田小一も、ドラマの最後に名前が表示されています」

 

Lは画面を切り替えた。

 

「さらに興味深いのは、死亡時刻です。山田小一さんが亡くなったのは、ちょうどドラマの放送が終わる頃でした」

 

「……偶然にしては、出来すぎていますね」

 

月がつぶやいた。

 

「ええ。キラはドラマを見て、山田小一さんの顔と名前を確認した直後に殺害した。そう考えれば、時間の一致にも説明がつきます」

 

月は考え込んだ。

 

「……つまり、キラは顔と名前を確認してから殺している?」

 

「その可能性が高いでしょう」

 

Lは角砂糖を口に運んだ。

 

「顔と名前。この二つが、キラの殺人に必要な条件なのかもしれません」

 

月は静かにうなずいた。

 

「……もしそうなら、顔や名前を公表しなければ、被害を防げる可能性がありますね」

 

「ええ。試す価値はあります」

 

◇ ◇ ◇

 

その頃。

 

馬神家。

 

「……リューク」

 

「何だ?」

 

鹿斗はデスノートを開き、難しい顔をしていた。

 

「俺、決めたわ」

 

「……何を?」

 

「もう名前間違えない」

 

リュークは少し驚いた。

 

「……ほう」

 

「この前みたいなこと、二度と起こしたくねえし」

 

鹿斗は真剣だった。

 

リュークは黙って続きを待った。

 

「だからさ」

 

「……おう」

 

「**お前が代わりに書いてくれよ**」

 

「…………」

 

リュークは固まった。

 

「……は?」

 

「だってお前、漢字詳しいじゃん!」

 

「…………」

 

「俺が悪人を選ぶから、お前が名前書けばいいんだよ!」

 

リュークはしばらく鹿斗を見つめた。

 

「……断る」

 

「何でだよ!」

 

「俺はお前の手伝いをするために来たんじゃねえ」

 

「ケチ!」

 

「……ケチ?」

 

「ちょっとくらいいいじゃん!」

 

リュークは顔を近づけた。

 

「いいか。俺は見物人だ。お前がどうするかを見て楽しむ。それだけだ」

 

「……じゃあ、漢字くらい教えろよ」

 

「…………」

 

リュークは天井を見上げた。

 

(……もう教えてるだろ)

 

◇ ◇ ◇

 

翌日。

 

警察は、Lの提案を受け、一部の事件について容疑者の顔と実名を伏せた発表を試みた。

 

すると、奇妙なことが起きた。

 

それまで続いていた心臓麻痺による死亡事件が、ぱたりと止まったのである。

 

捜査本部では、緊張が走っていた。

 

「……やはり」

 

Lはモニターを見つめた。

 

「顔と名前。両方が必要だという仮説が強まりました」

 

月が口を開いた。

 

「ただ、キラが我々の意図を察して、意図的に殺人を止めている可能性もあります」

 

「ええ。その点は否定できません」

 

Lは静かに続けた。

 

「いずれにせよ、我々の対応を観察している可能性があります」

 

◇ ◇ ◇

 

馬神家。

 

「……つまんねえな」

 

鹿斗はテレビの前で寝転がっていた。

 

ニュースでは、強盗事件の容疑者について報じている。

 

しかし、顔写真は出ていない。

 

名前も『三十代の男』としか表示されなかった。

 

「リューク! 最近のニュース、全然名前出ねえじゃん!」

 

「……そうだな」

 

「これじゃ裁けねえだろ!」

 

「……まあな」

 

鹿斗は不満そうに腕を組んだ。

 

「何で隠すんだよ! 悪い奴なんだから名前出せよ!」

 

リュークは画面を見つめていた。

 

(……人間ども、何か気づいたのか?)

 

鹿斗はリモコンを手に取った。

 

「もういいや。アニメ見よ」

 

「…………」

 

◇ ◇ ◇

 

その夜。

 

Lのもとに、新たな報告が届いた。

 

「……キラと思われる死亡事件は、今日も確認されていません」

 

ワタリが告げた。

 

Lは考え込んだ。

 

「……我々の対策は、一定の効果を上げているようですね」

 

月は腕を組んだ。

 

「ですが、安心はできません」

 

「ええ」

 

「もしキラが別の方法で標的の顔と名前を知れば、殺人は再開するでしょう」

 

Lはうなずいた。

 

「そのとおりです」

 

二人は、沈黙のままモニターを見つめた。

 

◇ ◇ ◇

 

その頃。

 

馬神家の二階。

 

「……なあ、リューク」

 

「何だ?」

 

鹿斗はゲームをしながら尋ねた。

 

「最近、俺って全然裁いてなくね?」

 

「……そうだな」

 

「これじゃ新世界の神になれねえじゃん」

 

「……今さら気づいたのか」

 

鹿斗はしばらく考えた。

 

そして、突然ひらめいたように顔を上げた。

 

「……そうだ!」

 

「ん?」

 

「ネットで調べればいいんじゃね!?」

 

リュークは目を細めた。

 

「……何を?」

 

「悪人の顔と名前だよ!」

 

「…………」

 

鹿斗は得意げに笑った。

 

「俺、天才かもしれん!」

 

リュークは、しばらく鹿斗を見つめていた。

 

「……今まで思いつかなかったのか?」

 

「…………」

 

「うるせえ!」

 

鹿斗は慌てて押し入れからノートパソコンを取り出し、電源を入れた。

 

しかし、起動した画面を見て、すぐに眉をひそめた。

 

「……あれ?」

 

「何だ?」

 

「パスワード何だっけ?」

 

「…………」

 

リュークは静かに窓の外を見た。

 

人間界に来てから、まだそれほど時間は経っていない。

 

それなのに、死神界が少し恋しくなっていた。

 

◇ ◇ ◇

 

翌朝。

 

Lは新たな資料を手にしていた。

 

「……月くん」

 

「はい」

 

「キラは、我々が想像している以上に慎重な人物かもしれません」

 

月はうなずいた。

 

「顔と名前の公表を控えた途端、殺人を停止した。こちらの動きを読んでいるようにも見えます」

 

「ええ」

 

Lは資料を置いた。

 

「ですが、いずれ動くはずです」

 

「……そうですね」

 

月は静かに答えた。

 

「キラが本当に、自分の正義を世界に押しつけようとしているなら……」

 

その目が鋭くなる。

 

「必ず、次の手を打ってくる」

 

◇ ◇ ◇

 

馬神家。

 

「母ちゃーん!!」

 

階下から返事があった。

 

「何ー!?」

 

「俺のパソコンのパスワード知らねえ!?」

 

「自分で決めたんでしょ!!」

 

「忘れたんだよ!!」

 

「知らないわよ!!」

 

「…………」

 

鹿斗は椅子にもたれかかった。

 

「……リューク」

 

「……何だ?」

 

「新世界の神への道って、結構大変だな」

 

リュークは何も答えなかった。

 

 

 

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