隣の苦労人JKと電柱から生まれた赤ん坊を育てることになりました 作:みたらし団子!!
ほんとにこんなはずじゃあ.....
あ、ちなみにですが誤字報告ありがとうございます
しっかり見直しているんですけどね....
いつも助かってます
まあ最初の数話は全然してなかったですけど...エヘッ
「じゃあ……飯作るか。何食べたい?」
俺が観念して尋ねると、二人は間髪入れずに声を揃えた。
「「オムライス!!」」
「……オムライス? 一応聞くけど、なんで急にオムライスなんだ?」
揃いすぎた回答に首をかしげると、かぐやがパぁっと顔を輝かせて胸を張った。
「だって、かぐやが一番最初に食べた旭の手料理がオムライスだったもん! あれ、すごく美味しくて感動したんだよ?」
「あー……そういえば、冷蔵庫の余り物で作った事あったな。すっかり忘れてたわ」
懐かしい思い出に自然と口元が緩む。俺は二人から解放されると、キッチンへと向かった。
フライパンを取り出し、玉ねぎと鶏肉を刻むトントンという軽快な音が、静まり返っていた部屋に響き始める。
背後からは、ローテーブルを囲む二人の弾んだ話し声が聞こえてきた。
「……やっと、三人でご飯食べられるね」
「うん……本当に長かった。……誰かさんがくだらない遠慮をしてくれたおかげで」
「うぐっ……すまん」
包丁の手を止めずに苦笑いを返すと、酒寄はフンと鼻を鳴らしたあと、どこか噛み締めるような、静かで深いトーンで言葉を続けた。
「……まあいいわ。これからは毎日、ずっと一緒にいるんだから。旭の作ったご飯なんて、いつでも食べられるものね」
「えっ!? ほんと!? やったぁー!!」
無邪気に喜ぶかぐやの声とは裏腹に、俺の背中に冷や汗が伝った。
(ん……? なんか今、サラッとすごいこと言わなかったか……? 毎日? ずっと一緒……?)
気のせいだ、きっと比喩表現か何かだ。そう思っておかないと、もう戻れない気がした。
熱したフライパンで刻んだ鶏肉と玉ねぎをじっくり炒め、香ばしい匂いが立ち上ったところで温かいご飯を投入する。ケチャップを回し入れて手早くフライパンを振ると、赤くツヤツヤとしたチキンライスがあっという間に完成した。
それを二つの皿へきれいに盛り付けると、続いてフライパンを軽く拭いて火にかけ、溶き卵を流し込んだ。
「……ねぇ、旭?」
背後から、酒寄のどこか試すような粘り気のある声が飛んできた。
「え? あ、ごめん! 卵炒めるのに集中してて聞いてなかった!」
とっさに白々しい聞こえないフリをして、手元で半熟の卵を手早くまとめていく。
後ろを振り返らなくても、彩葉がジト目で見つめてきているのが痛いほど伝わってきた。
ローテーブル側では、彩葉が小さな溜息をつきながら、かぐやだけに聞こえるような小声で呟いていた。
「……まったく。あいつ、またそうやって誤魔化すんだから」
「ふふ、旭照れてるんだよ」
「照れてるだけならいいけど……あいつ、根本的に自分の価値を低く見積もりすぎなのよ。私たちがどれだけ旭を頼りにしていて、どれだけ大切に思ってるか……言葉でも行動でも、嫌ってほど分からせてあげなきゃダメね」
「うんっ! かぐやも毎日いっぱい『大好き』って伝える!」
「ええ、逃げる隙なんて一ミリも与えないわ」
二人の間で恐ろしい協定が結ばれているとも知らず、俺はとろとろに仕上げた半熟卵を、先ほど盛ったチキンライスの上にそれぞれ滑らせて乗せた。
「はい、お待たせ。オムライス二人分だ」
「「わああぁぁっ……!」」
二人の瞳がキラキラと輝く。かぐやは早速ケチャップの容器を手にして、楽しそうに文字を書き始めた。
「かぐやはねー、『だいすき』って書くの!」
「おいおい、自分で食べるのに『だいすき』かよ」
「いいの! 旭への気持ちも込めてるんだから!」
屈託のない笑顔で言われ、俺は照れくささを隠すように咳払いをした。
一方の彩葉は、ケチャップの先端をじっとオムライスに向けたまま、真剣な顔つきで何やら書き進めている。
覗き込んでみると、そこには綺麗な赤文字で『逃亡不可』とデカデカと書かれていた。
「……酒寄、それメッセージ性が重すぎないか?てかよく書けるな....」
「当然でしょ。これ食べたら、もうクーリングオフは効かないからね」
そう言って、彩葉はフッと悪役令嬢のような不敵な笑みを浮かべた。
だが、その目元はまだ少し赤く、涙の痕が残っている。そのギャップがあまりにも愛おしくて、俺は思わず小さく吹き出してしまった。
スプーンを手にした三人が、久々に同じテーブルを囲む。
「「「いただきます!」」」
声を揃えて一口食べた瞬間、かぐやが「やっぱり絶品……!」と頬を抑えて身を悶えさせ、彩葉もまた、愛おしそうにゆっくりと味わうように噛み締めていた。
二人の美味しそうに食べる姿を見て、俺の胸の奥に残っていた迷いや不安は、完全に消えてなくなっていた。
これから先、暴風雨のような展開が待っているのだろう。炎上するかもしれないし、アンチが湧くかもしれない。
けれど、この無敵で、俺を好きでいてくれる二人と一緒なら——どんな波乱も笑い飛ばしていける気がしていた。
「ごちそうさまでした!」
綺麗に空になった二つの皿を前に、かぐやが満足気にお腹をさする。彩葉も『逃亡不可』の文字を綺麗に平らげ、心なしか表情が柔らかくなっていた。
「……美味しかったわ。とりあえず、今日のところは免除してあげる」
「そりゃどうも。……で、美味しく食べたところで超切実なお願いがあるんだが」
俺は正座から少し身を乗り出し、真剣な面持ちで二人を見つめた。
「俺の部屋の鍵、アパートのドアノブに刺さったまんまなのよ。防犯上あまりにもヤバいから、流石に抜きに行かせてくれ」
その言葉に、二人は顔を見合わせた。
彩葉が少しだけ気まずそうに咳払いをする。
「……あ、そういえば外で押し問答してる時に刺したまんまだったわね」
「そうだよ! だから鍵を抜いて、ついでに自室の戸締まりを確認してすぐ戻ってくるから——」
「ダメよ」
「なんで!?」
食い気みに即答され、思わず声が裏返った。彩葉は腕を組み、冷ややかな、しかしどこか甘えを含んだ視線を向けてくる。
「一人で行かせたら、そのまま自室に入って鍵を閉める可能性があるわ。実効支配を解くわけにはいかない」
「国家間の密約か何かかよ! 鍵抜くだけだって!」
「じゃあ……かぐやも一緒に行く!」
かぐやがパッと立ち上がり、俺の腕をがっちりとホールドした。
「旭が逃げないように、かぐやが見張り役をするの! 彩葉、これで安心でしょ?」
「ええ、ナイスよかぐや。逃げようとしたらタックルして抑え込んで」
「了解! 任せて!」
「物騒な命令に即答するな! っていうか隣の部屋に行くだけだぞ!?」
結局、左腕にかぐやを抱え込まれた状態のまま、俺はぞろぞろと玄関を出ることになった。
彩葉もドアの隙間からじーっとハイライトの消えた瞳でこちらを監視している。あまりにも厳重すぎる警備体制だ。
自分の部屋のドアに向かうと、確かに鍵がぽつんと刺さったままになっていた。誰かに盗まれたりイタズラされたりしていなくて本当に良かったと胸を撫でおろす。
「はい、鍵抜いた。これで満足か?」
鍵をポケットに仕舞い、自室のドアをしっかり施錠してみせると、かぐやが「よーし!部屋に戻るよ!」と嬉しそうに俺の腕を引っ張った。
「これから大事な『作戦会議』をしなきゃいけないんだから!」
「作戦会議……」
彩葉の部屋に連れ戻され、再びパタンと鍵が閉められる。
ローテーブルの中央にメモ帳が広げられる。
彩葉がペンを走らせながら、キリッとした表情で口を開いた。
「それじゃあ、今後の活動方針についての作戦会議を始めるわよ。テーマは『旭の正式加入と、私たちの声出し解禁について』」
「……本当にやるんだな、声出し」
「当たり前でしょ。言ったじゃない、文句を言う奴は全員叩き潰すって」
彩葉はフンと鼻を鳴らし、メモ帳に大きく『チーム化・声出し解禁』と書き落とした。その迷いのない手つきに、俺はもう苦笑するしかない。
「で、具体的にどう発表するつもりなんだ? 突然配信で『今日から声出します! 裏方の男も一緒です!』なんてやったら、視聴者がひっくり返るぞ」
「ふふん、そこは私の腕の見せ所だよ、旭!」
かぐやが身を乗り出し、目を輝かせながらアイデアを出し始めた。
「最初はね、いつも通りかぐやの声だけで配信を始めるの。で、途中で『実は今日、大事なお知らせがあります!』って言って、彩葉と旭を呼ぶの!」
「待て待て、そんないきなりか!?」
「当然でしょ」
彩葉が即座に割り込んでくる。
「あんたは今まで『優秀な謎の裏方さん』としてリスナーに認知されてたんだから、裏方のまま声を出さないなんて意味がないわ。それに……あんたの声、配信で使わないなんて勿体ないし」
「……最後のはなんだ」
「なんでもないわよ! とにかく、三人で喋るの!」
少し顔を赤くした彩葉が強引に話を押し進める。だが、彼女の目にはすでに明確なビジョンがあるようだった。
「リスナーへの説明はシンプルに行くわ。今まで動画の編集や企画のサポート、配信周りの技術的な補助をしてくれていた裏方さんが、正式に『チームのメンバー』として参加することになりました、ってね」
「で、彩葉も声出し解禁! 『今まで恥ずかしくて声出せなかったけど、これからは三人で楽しく配信していきます!』って言えば、みんな絶対に喜んでくれるよ!」
「あ! ねぇ彩葉、名前も新しく決めない!?」
かぐやが思いついたようにポンと手を叩いた。
「名前? 旭の名前のこと?」
「うん! いつまでも『裏方さん』じゃ一緒にやってる感じしないし、これから三人で並んで配信するなら、もっとチームの一員っぽい名前が良いと思うの!」
「確かに……裏方呼びのままだと、どこか一線引いてる感じが残るわね。何か案はあるの?」
彩葉が顎にペンを当てて考えると、かぐやが胸を張って満面の笑みを浮かべた。
「ふふん!あさPだよ!!」
「……あさP?」
思わず俺が聞き返すと、彩葉の目がパッと開いた。
「あ~そういえば私が言ったことあるわね、こいつが裏方さんでいいっていうからそうしたけど...」
「そう!彩葉も旭もやってることは同じだし!!」
「『今日から裏方改め、あさPです!』って登場したら絶対盛り上がるよ!」
「強引すぎない?」
俺のツッコミを心地よさそうに受け流しながら、彩葉はメモ帳に大きく『裏方さん→あさP』と追加で書き込んだ。
コメント欄の熱量を思い出せば、確かに「裏方さんロス」を嘆くリスナーは多かった。彼らが俺たちの仲の良さや配信のノリを愛してくれていたのは事実だ。
「あさP」という名前で堂々と表に出て、この二人が「私たちが一緒にやりたいから連れ戻した」と胸を張るなら、ファンだってついてきてくれるのかもしれない。
「……そっか。三人で、か」
ぽつりと漏らした俺の声に、彩葉が柔らかく目を細めた。
「そうよ。二人じゃなくて、三人。これからのチャンネルは、旭も含めたチャンネルなんだから」
「うん! 旭が作ってくれる企画も、旭がツッコんでくれる配信も、全部全部大好きなんだよ。だから、もう絶対に離れてあげないんだからね!」
かぐやが俺の肩にポンと頭を預けてくる。反対側からは、彩葉が逃がさないと言わんばかりにじっと熱い視線を注いでいた。
過保護で、重くて、どこまでも無敵な二人。
こんな最高で恐ろしい仲間を持てたのだから、男として腹をくくるしかないだろう。
「……分かったよ。そこまで言われて逃げたら男がすたる。腹括って、最高に面白い配信作ってやろうじゃないか」
俺が覚覚を決めて笑ってみせると、二人は顔を見合わせ、この日一番の眩しい笑顔を弾けさせた。
「決まりね! じゃあさっそく、復帰&声出し解禁配信の企画を詰めるわよ! 旭、朝まで付き合いなさい!」
「えっ、朝まで!? もう眠いんだけど!?」
「大丈夫だって! 寝かさないから!!」
「明日の朝じゃダメなの!?」
「ダメー! 今夜は絶対にお泊まり決定! どこにも帰さないんだから!」
「待て待て、風呂とか入らなきゃだし、パジャマだってないぞ....」
俺がそう零すと、かぐやが待ってましたと言わんばかりに身を乗り出した。
「お風呂ならうちのを使えばいいよ! 着替えだって彩葉の貸してあげるから大丈夫!」
「なんで私のパジャマを貸す前提なのよ!? ……まあ、いいけど」
「いや待て待て!!」
「さすがに女子のパジャマなんて着れるか!!」
全力の拒絶に、二人は「ちぇー」とあからさまに不満そうな声をあげた。
結局、自室のドア前に二人を待たせ、10秒カウントダウンを叫ばれながら大急ぎで自分のパジャマと歯ブラシを回収する羽目になった。
「はい、さっさと入ってきなさい。お湯はもう張ってあるから」
酒寄に背中を叩かれ、半ば強引に脱衣所へと押し込まれる。
人の部屋でお風呂を借りるという状況にどことなく落ち着かない気持ちになりながらも、シャワーを浴びて温かい湯船に浸かると、ここ数日の緊張や疲労がじんわりと溶けていくようだった。
お湯から上がり、自分のスウェットに着替えてリビングへ戻る。
その後、かぐやと酒寄も順番に浴室へと向かい、しばらくすると部屋の中にふわりと二人と同じ甘いシャンプーの香りが漂い始めた。
「ふ〜、さっぱりしたぁ!」
湯上がりでほんのり頬を赤くし、少し湿った髪のまま寛ぐ二人の無防備な部屋着姿に、俺は目のやり場に困って思わず大きく咳払いをした。
「……なによ、見てんじゃないわよ」
「見てねぇよ! ほら、温かいお茶淹れたからローテーブル集まるぞ」
三人分のマグカップを並べ、俺たちは再びローテーブルを囲んで腰を下ろした。
離れようとして、傷つけて、それでも強引に引き戻された。
自分の浅はかな配慮なんて吹き飛ばしてしまうほど重く、温かい二人からの愛と熱量。
(……まあ、悪くないか)
メモ帳にペンを走らせる酒寄の横顔と、隣で嬉しそうに配信企画を熱弁するかぐやを眺めながら、俺は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。
俺たちの、新しい日常がここからまた始まっていく。
( ´ ▽ ` )ノ
そういえばここにお気に入り、評価してくださった人を書いてもいいんでしょうか?
勝手に書くのはあれかなと思っています....
ではまた次回!!