ラスボスの攻撃から勇者(♀)を庇って死亡したら、100年後に闇堕ち人外ヤンデレと化した元勇者にTS蘇生させられました   作:稲嫁とーかちゃん

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鼓動

 ――うるさい。

 

「おぉ! 英雄様だ!」

 

 うるさい。その黄色い声が、雨音のように手のひらを打ち付ける音が。何もかもが。

 

『魔神王を倒した時の事聞かせてください!』

 

 私は魔神王を倒して『英雄』になった。

 

『勇者様~!』

 

 国中が、道行く人すら私を崇め祝福してくる。

 

『おめでとうございます!』

 

 うるさい。

 

 なんで私なの?

 

 私だけじゃ魔神王には勝てなかった。

 

 お兄ちゃんと一緒だったから、私は強くなれたんだ。お兄ちゃんが側にいてくれたから、戦えたんだ。お兄ちゃんが守ってくれたから……

 お兄ちゃん。

 

 お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃんお兄ちゃん……

 

 

 ……お兄ちゃんがいないと生きてけないよ。

 

 

 そんな中。

 

『英雄ティオ・ペペリアよ、大義であった。褒美としてこの僕との婚姻を与えてやろう』

 

 私を第二王子だとかいう人が呼び出して、一方的に求婚してきた。

 

「お断りします。私には……もう心に誓った人がいるので」

 

『あのエスペランサとかいう野蛮人は死んだのだろう?』

 

「関係ありません。私の心は一生おに……あの人のものです」

 

『下民の女が努力の果てに魔王を討ち、王子様と結ばれる。これほどのハッピーエンドの何に不満があるというのだ?』

 

 この人に嫁いで貴族になれば、私は幸せになれるのだろうか。

 

 ――幸せになって

 

 お兄ちゃんの最期の言葉が、頭の奥にこびり付いて離れない。

 

 ……無理だよお兄ちゃん。

 

 だって私は、何よりもお兄ちゃんのことが大好きだったんだから。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 この間のあの子達は大丈夫だろうか。

 

 村を盗賊に滅ぼされて、家族は殺されて、奴等に手篭めにされて。

 

 ティオが回復してあげたりはしてたけど、その後のフォローは放り出してしまった。

 

 ……本来そこまでの義理なんて無いと言えばそうだけど。

 

 一応俺のスキルをかけておいたから、悪いようにはならないはず。……多分。

 

 おっと。また考え過ぎてたかも。

 

「お兄ちゃん、今日はここでお休みしよっか」

 

 いつの間にかまた空がオレンジ色に染まっていた。

 俺たちはここ数日間、川に沿って移動してきた。

 

 この川をずっと遡っていった先に、俺たちの故郷……サミリーシュの村がある。

 

 今日もいっぱい歩いたな。

 川で身体を洗ってから夕ごはんにしようかな。

 

「おいでお兄ちゃん、洗ってあげる」

 

「それくらい自分ででき……みゃああぁぁ!!!?」

 

「いいのいいの遠慮しなくて♪」

 

 ……うぅ、もうお嫁に行けないよぉ。

 いやまぁ、むしろお嫁に行ける身体だけども。

 

 そんなこんなで男としてのプライドを折られた晩のこと。

 

 大きな芋虫みたいな寝袋に、まずティオが入る。そして逃げようとする俺を引きずり込んで完成だ。俺に逃げ場はない。

 

 ひとつの芋虫のお腹の中で、俺はティオに抱き枕にされて眠るのだ。

 

 温かくて柔らかい感触に、なんか甘くていい匂い。

 ……不埒な事を考えそうになって、俺はかぶりを振った。

 

「……なぁティオ」

 

「なぁにお兄ちゃん」

 

 ――ティオの匂いも温かさも声も、100年間前のあの日と変わらない。

 けれど、ティオは変わってしまった。

 

 俺が、ティオにとって呪いになってしまったんじゃないか。

 

「100年間……辛かったのか?」

 

 ちくりとした罪悪感が、俺の口からそんな言葉を吐き出させた。

 

 100年。

 人間の一生に等しい時間。

 それだけの時を、ティオはどう過ごしていたのだろうか。

 

「ううん、辛くなんてなかったよ! ちっとも!」

 

  ティオは、太陽みたいに明るく答えてみせた。

 直視できないほど眩しい笑顔と共に。

 

「……そうか」

 

 今日も俺はティオに抱かれて眠る。

 

 ティオの胸から鼓動が聞こえないのはきっと、気のせいなのだろう。

 

 

 

 

 

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