Random_playのドアを勢いよく開けて、ピンク髪の活発な少女が入ってくる。
「プーローキーシー♡」
「今日の晩ご飯は何にしようか」
「私ラーメン食べたいな〜」
「ちょっと!!あからさまに無視するんじゃないわよ!!」
「……だって、ねえ?」
「ああ。ニコの機嫌がいい時は、大概碌でもないことに巻き込まれるんだ」
「ちょっと、いくらなんでもひどくない!?アタシだって、ちゃんと仕事は吟味してるんだから!」
「本当にぃ〜?どうせ今回もやたら稼げる仕事!とか言うんでしょ?」
「今回は違うわよ!あんたたちにも手伝ってもらうけど、ホロウ絡みじゃないんだから!」
「……へえ?」
真剣に見つめてくるニコに、プロキシ兄妹……アキラとリンは根負けし、話を聞くことにした。
「この掲示板を見てちょうだい」
『__六分街には、幽霊がいる__』
「よし、この話は終わりだ」
「アキラ!!」
「ニコ〜。お兄ちゃんがホラー苦手だって知ってるでしょ?」
「せめて最後まで聞きなさいよ!!えっとね、なんでも最近六分街で夜な夜な不審な人物の目撃証言があるの」
「不審な人物?幽霊じゃなくて?」
「その見た目が幽霊なのよ!ほら、これが写真よ」
ニコが見せたスマホの画面には、白いワンピースに白髪の少女らしき人物が写っていた。だが、その写真の異様さはすぐに理解できた。後ろ向きなため顔は見えないが……写真に写る人物には、生気らしきものが感じられない。ワンピースからのぞく腕や足もとても細く、肌も白い。確かに幽霊と言って差し支えない容姿だった。
「確かに、幽霊だね……」
「特におかしな行動はしてないんだけど、その見た目自体が不気味だからインターノットであっという間に都市伝説になっちゃったのよ」
「それで?この幽霊……不審者をどうするつもりなんだ?」
「決まってるでしょ……とっ捕まえるのよ!!」
「えぇ!?」
「考えてごらんなさい、もし不審者だったらアタシたちが捕まえれば邪兎屋の評判が上がるでしょう?これは顧客を増やすチャンスなのよ!」
「……もし、本物の幽霊だったら?」
「その時は……塩でも投げれば消えるでしょ!!どっちにしろ、アタシたちで解決するのよ!」
「適当すぎないか……僕は反対だな」
「あー。お兄ちゃん本物の幽霊だったら怖いから乗りたくないんだ」
「決してそういうわけじゃない。ただ、何も悪いことをしていないのに除霊するのはいかがなものかと…」
「お願いよ、力を貸して!!もうインターノットに宣言しちゃったのよ!邪兎屋が解決しますって!!」
「……まあ、そういうことだと思ったけど。仕方ないなあ」
「リン〜〜!!信じてたわ、あんたたちなら乗ってくれるって!」
「待ってくれ、僕は……」
「お兄ちゃん。もし本物の幽霊だったとしたら、お兄ちゃんは夜中出歩けなくなるよ?それでもいいの?」
「それ、は………はあ、仕方ない。さっさと終わらせよう」
こうしてアキラ・リン・邪兎屋による幽霊捕獲作戦が始まった。と言っても大したことはしない。インターノットにアップされている写真や目撃証言を調査して、次に幽霊が現れる場所に張り込むのだ。
……が。次に出現すると仮定した場所は、よりにもよってビデオ屋の前であった。夜、静かな六分街で、アキラたちは物陰に隠れて幽霊を待っていた。
「ニコはこっちで良かったの?」
「もちろん!あっちはアンビー、ビリー、又奈がいるんだもの!3人ずつ別れた方が効率いいでしょ?」
「…………」
アキラは、露骨に顔色が悪くなっていた。ホラー映画が苦手なアキラにとって、本物の幽霊ほど恐怖を抱くものはないだろう。
「!! ねえ、あれ!!」
リンが指差した先には、件の幽霊少女がいた。月明かりに照らされて、より蝋燭のような肌の白さが目立っていた。あたりを見回しながら、どこに寄るでもなくフラフラ歩いている。
「いたわね、幽霊……!!邪兎屋の評判のため、犠牲になってもらうわよ!」
「ちょっとニコ、静かに……」
ニコの声で、幽霊少女がこちらを向いた。少女の顔は、美しかった。まるで人形のよう。赤い瞳が、月光に映える。
「覚悟ーー!!」
「えっ」
網を持って飛びかかったニコを、少女は避けることができず……思いっきりぶつかった。
「いたた……」
「ニコ!」
「うん、アタシは無事よ。ただ……」
ニコが気まずそうに、自分の隣で気絶している少女を見やる。少女の体はとても細いが……確かに触ることができた。
「……人間だったみたい」
「何やってるんだ!!」
「………ん」
「あ、起きた!お兄ちゃん、起きたよ!」
「そうか、良かった」
「あの、ここは……」
「ここは六分街のビデオ屋、Random_play、の上にあるわたしの部屋」
「……どうして?」
「えーっとね……」
困惑する少女に、リンは申し訳なさそうに説明をした。彼女が幽霊と呼ばれていたこと、そんな都市伝説をニコが解決しようとしたこと、その結果少女を気絶させてしまったことを。
「……そう、だったんですね」
「ごめんね、ニコにはきつく言っておいたから」
「いえ、誤解させるようなことをしていた私も悪いです。まさか都市伝説になってたなんて…」
「一応聞くけど……君は人間だよな?」
「まあ、はい」
「そりゃそうか……少し、話を聞かせてもらってもいいかい?」
「はい、私に話せることなら」
アキラとリンは、早速少女の話を聞くことにした。
「どうして夜な夜な六分街を徘徊していたんだ?」
「……私、この間六分街に引っ越してきたばかりで。仕事が忙しくて部屋の片付けができてなくて……家に帰っても、片付けだらけで。気分転換に、夜中に散歩してたんです」
「そう、だったんだあ。幽霊じゃなかった、良かったねお兄ちゃん!」
「余計なことは言わなくていい。とにかく、そういうことなら納得だ。僕はアキラ。こっちは妹のリン」
「私はセツです、よろしくお願いします」
「セツちゃん、よろしく!ところで……」
「?」
「……細すぎじゃない?」
写真で見ても細かったが、いざ目の当たりにするとこちらが不安になるほどにセツは細かった。骨と皮、いや骨もあるか怪しいレベルだ。
「……生まれつきなんです、虚弱体質で、筋肉がつかなくて」
「そうなんだ……ね、良ければメロンパン食べる?」
「いいんですか?実は、さっきからおなか空いてて」
「うんうん!ちゃんと食べないとだよ!」
それから。セツは、ビデオ屋に訪れるようになっていた。
「こんにちは、リンさん、アキラさん」
「いらっしゃい、セツちゃん!今日はどんなビデオ借りてく?」
「今日は……『ポッター・ヒル』をお願いします」
「なんだって?セツ、君はホラー映画を観れるのかい?」
「まあ、それなりに。映画は数少ない娯楽ですし、いろいろ開拓していきたいなと」
「……毎度思うけど、セツちゃんの仕事ってなに……?」
「それは内緒です、誰しも秘密のひとつやふたつあるでしょう?」
セツがいたずらっぽく微笑む。その見透かしたような瞳に、アキラとリンはどきっとした。
「そういえば。セツ、はいこれ」
「これは……チョップ大将の焼きそばパンですか」
「新発売だからね、セツにも食べて欲しくて」
「お兄ちゃんもセツちゃんに餌付けしてるじゃん」
「仕方ないだろ、この体を見たら誰だってそうする」
「ありがとうございます、それじゃあ私はこれで」
「うん、またね!」
「…………」
セツは「またね」を言わない。それはきっと、自分の命が明日もあるか分からないから。
アキラ・リン
セツの知り合い。セツにいろんなものを食べさせようとしている。
セツ
幽霊扱いされるとは思わなかった。アルビノ。もちろん病気の影響。
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