黒き終末がセイバーオルタになるのは間違っているだろうか 作:蛇鬼鬼畜外道
オラリオ。
バベルを中心として、その下に無数のモンスターが巣食うダンジョンが広がる都市。
地獄の穴の上にあるとも言えるその地は、それ故に多くの試練を踏破しランクアップした冒険者と、その冒険者を擁するファミリアが集まる英雄の都。
しかし全ての者がそうではない。
むしろこの地に居ようとも一生をレベル1で終える者が大半である。
才能と努力と試練。
その丈によって上へと昇れるかは決まる。
まぁ、ようするに全ては自分次第。
腐るも昇るも好きに決めてくれ。
無責任で愉快犯な神はそう嗤うだろう。
そして今日も。
そんなハイパーウルトラ超強い冒険者に成らんと、英雄の都たるオラリオへ来た者たちが三名。
いや二名は違うか。
「此処がオラリオか。神が多く居ると言うのは少々気に入らんが、世界で最も人間と物が集まるのならば私の求めるジャンクフードがあるだろう」
一人は己が食欲を満たさんとする者。
いい加減質素な飯も飽きてきたので、ここらでこってりと体に悪そうなジャンクフードをお腹いっぱいに食べようと企む腹ペコ暴君。
「行けませんよアルトリア。そんな体に悪いものばかり食べてしまっては。何事もほどほどが一番。これからも私があなたの食を管理しますっ!」
一人はそんな暴君の手綱を握らんとする者。
あの村に居た頃から隙を見てはつまみ食いをし、テーブルに並べられた料理を見ては、眉間に皺を寄せて少ないと呟く暴君の食を管理していた厨房の大精霊。
「ちょっとぐらい良いだろうアリア? 私だって此処に来るまで何年も待ったんだ。幸いあの爺が隠していたヴァリスを持って来たんだ。ちょっとはハメを外してもバチは当たらんと思うのだが?」
「ぐっ。そうですね。せっかくの大都市。あの山奥にすら噂の届くオラリオです。よろしいでしょう。ハメを外すことを許します」
「ふっ、決まりだな。ということだベル。ファミリア探しは一人で頑張ってくれ」
最後に残された一人。
オラリオで冒険者に成ろうとはしているが、その理由が何かしらの出会いを求めてとか言うナンパ野郎かなと思われそうな少年はその一言にポカンと口を開ける。
「えっ、一緒に来てくれるんじゃないの?」
「ん? 私はそもそも冒険者に成ろうと此処に来たわけじゃない。神の恩恵などいらんし、何よりそんなものを刻まれるぐらいなら神を地上から一掃する」
「ごめんなさいベル。私もあまり冒険者と言うのはわからないの。というか精霊である私が恩恵を受けられるのかしら?」
「さぁ、知らんし興味も無いな」
二人はそう言って肩をすくめる。
よくよく考えればこの二人は恩恵も無しに昔から強く、まるで祖父が寝物語に語ってくれた恩恵も無しにバロールを倒したフィアナ騎士団や、あの黒竜の片目を奪ったアルバートのように。
えっもしかしてこの二人ってめっちゃすごい?
此処に彼の祖父が居れば、惜しい良い線行ってる。
そう言ってゲラゲラと大声で笑っただろう。
ベルが当たらずとも遠からずな事実に行きかけたとき。
その思考を現実へと引き戻す声が聞こえてくる。
「じゃあ私とアリアはしばらく楽しむ。入るファミリアを決めたら探して見つけろ。よっぽどでなければ私達もお前が決めたところに入る」
「えっ、冒険者に興味はないんじゃ?」
「あぁ、神の恩恵を受けた冒険者に成る気は無い。だがダンジョンへと潜りモンスター共の魔石を売って金に換える冒険者のシステムは大いに利用してやろう」
──金が無ければ飯を食う事にも困るからな。
いっそ清々しいほど。
そう言って笑みを浮かべる姉に呆れかえる。
「じゃあなベル。まぁ、貴様の目であれば問題無いだろう」
「私も期待してるわベル。がんばってね」
「うん。姉さんや母さんが納得できるようなファミリアを見つけるよ」
笑みを浮かべて踵を返し、人波をかき分けて走っていくベル。
その後ろ姿を見送り、二人は活気溢れる市場の方へ歩いていった。
活気溢れる市場。
日々多くの人々と神々が行き交うオラリオ。その中において、一際視線を集める二人。
「もっきゅもっきゅ」
「流石オラリオ。どれもこれも美味しいわね」
片手に束に成った串モノを持ち、もう片手にじゃが丸君という揚げ物が一杯に詰まった袋を持って練り歩いている。
周りの視線が何のその。
人々のうっとりとした視線も、神々の厭らしい視線も一切気に留めず、二人は存分に楽しみながら、それでも気になる視線が二つ。
「見られているな」
「えぇ、そうね。どうする?」
周りの有象無象の視線ではない。
一つ目は中心に聳え立つバベルから一瞬ではあるが向けられ、その後すぐに見てはならないものを見たかのように外れたそれ。
こちらは今は気にしなくて良いだろう。
問題は二つ目だ。
何処か見定めるような。
具体的に何処から見ているのか悟らせない辺り慎重なのだろうが。
「煩わしいな。少々不愉快だが乗ってやろう」
ワイワイがやがや。
騒がしく盛り上がる大通りから一転。
静まり返った暗がりを進んでいき、しばらくしてピタッと足を止める。
「此処なら見られる心配も無いだろう?」
奥の暗がりへ向けてそう言う。
するとまるでぬっと幽霊のように出てくるそれ。
暗がりに溶けるような漆黒のローブを纏い、顔を隠した姿はさながら死神か死霊か。
「気づいていたか」
「あぁ、気づいていた。むしろあれで気づかない方が分からんな」
「…………これでも今まで一度たりとも悟られた事は無かったのだがな」
──まったく、自信を無くすよ。
そう言ってため息をつく黒ローブ。
しかし生憎不躾な視線を向けてくる相手との会話を楽しむ気はアルトリアにはさらさらなかった。
「それで? 私たちをずっと見ていたのはどういう理由だ?」
──事と次第によっては切る。
そう言って彼女は。
いつの間に取り出したのか、赤い線の入った禍々しい魔剣を携える。
「まぁ、待て待てっ! 用があるのは厳密に言えば私じゃないっ!」
「じゃあ一体全体誰だ? 早く言わないとその骨ごと叩き切るぞ?」
「っ! 貴様私の姿が。……いや良い。君たちを呼んでいるのは、このオラリオにおける遍く冒険者が利用する機関。ギルドを治める主神」
──ウラノスだ。
「ほお?」
ギルド。
オラリオという英雄の都を運営し、その中心にある深淵たるダンジョンを管理する機関。
その地下深くに設けられた空間。
祈祷の間と呼ばれるそこに座す唯一の神。
二メートルを超す長身に威圧感のある面貌の老神。
この下界で人間へと最初に恩恵を授けた神にして、その古く圧倒的な神威でもってダンジョンを抑え込むオラリオの立役者。
黒竜とそれに付き従うエンシェントドラゴンを抑え込んでいた立役者が風印を施した大精霊だとするなら、ダンジョンを抑え込んでいる立役者は彼の神しか居ないだろう。
ウラノス。
下界最古の主神は。
今し方己が眷属に連れられ、この空間に来た二人の存在を見定める。
一か月前ほど。
長らくこの都にさえ訪れなかった古き同郷の神。
かつて都市最強を謳った双翼のファミリアの片割れを治めていた主神。
いやむしろ調子に乗って一緒に好き勝手していたと言うのが正しいか。
まぁ、とにかくその神が近々訪れるかもしれない存在について、ゲラゲラと笑いながら詳らかに語ってくれたのを覚えている。
「初めましてと言おう。私がギルドを治める主神、ウラノスだ。そちらが彼の風印を施した大精霊アリアに。そして」
──貴様が黒竜か?
「ほぉ、あの爺から聞きでもしたか? 私がそうだと知った上でよくもまぁ、ぬけぬけと監視の目を向けてきたな?」
瞬間。
溢れ出るは光さえ飲み込み黒へと変える深淵。
触れるだけで一級と呼ばれる埒外の冒険者ですら犯し殺すであろう
一触即発。
ウラノスは選択を誤ったかと、その頬に僅かに汗を浮かべていると。
「痛っ」
「こら、何してるのよいきなり。ごめんなさいね。この人、昔っから神様が大の苦手なのよ。ほら、ちゃんと謝りなさい」
「ふん」
「しかも謝るのも苦手だから。いっつも私が謝ってばかり。本当にしょうがない人」
そう言って微笑むアリア。
一瞬前まで広がっていた闇も瘴気も全てが嘘であったかのように消え失せ、ウラノスはその光景にポカンと口を開けて固まる。
「ウラノス?」
「っ。いや申し訳なかった。監視の目を向けたことは謝罪しよう。その上で私は今だ君達を信用できていない。だから」
──取引をしよう。
「何?」
「私は君達を信用できていない。だから私が納得して信用できるか見定める期間をくれ。そのためにギルドに通すことのできないような極秘裏のクエストを受けて欲しい。これが私が受けて欲しいことだ。その代わりギルドの主神として私の権限で可能なことであれば君たちの要望を飲もう」
──どうだ?
ウラノスが自らが出せる最大の譲歩を提示する。
アルトリアはそれにしばらく腕を組んで黙ったのちに口を開いた。
「そうだな。良いだろう。貴様の取引に乗ってやる。私が望むのは専用の魔石買取口だ。ダンジョンの魔石を買い取るにはギルドの人間を通さなければ良けないのだろう? 昨日まで見かけなかった奴が大量に魔石を持ち込んだりしたら嫌でも勘繰られる。面倒極まるものに付き合ってやる気は無い。代わりに貴様の息の掛かった者を寄越せ」
ウラノスはアルトリアの要求に固まる。
もっととんでもないものを要求されると思っていたからだ。
今でも信じられないが。
あのゼウスが言っていたことはやはり。
「了承した。では魔石の買取口としてそちらのフェルズを割り当てよう。頼んだぞフェルズ」
「はぁ、わかったよウラノス。遅くなって済まないが名前を教えてくれないか? ウラノスが言ってしまったが私の名はフェルズと言う」
「アルトリアだ」
「アルトリアか。よろしく頼むよ。遅ればせながら君たちを不快にしたことは私からも謝ろう。済まなかった」
「あら、良い人ね。私たちもこれから迷惑を掛けると思うけどよろしく頼むわ」
「まったくだ。まぁ、貴女に比べればマシだろうがね」
「わかる?」
「わかるとも。私も苦労の絶えない人生を送ってきたからね」
「ふん」
一つ鼻を鳴らし踵を返して歩いていくアルトリアの背を見ながら、ウラノスは一人ごちる。
「食を人生の指針とし楽しむ道か。己が目で見た今でも信じられんな」
はぁっと。
ため息を一つ吐くその姿は何時にも増して老いているように見えた。
茜色に染まる空。
もう数刻もしない内に夜が来るだろう夕暮れ時。
オレンジ色の太陽の光を浴びながら、手を振って走ってくる姿が一つ。
「お姉ちゃん。お母さん。やっとファミリアが見つかったよっ!」
「うるさい。聞こえている」
「良かったわねベル。で、どういった神様なのかしら?」
アリアがそう問いかける。
するとベルの後ろを追ってか無駄にデカい胸部を揺らしながら、痴女そのものとしか言えないハレンチな恰好をした女神が走ってくる。
「ベル君待ってくれよ~!」
「あっごめんさない神様」
「はぁ、はぁ。やっと追いついた。しんどかったぜぇ」
「つい燥いじゃって。すみません神様」
「今度からは気を付けてくれよ? 下界の僕達は恩恵の無い子供と変わらないからね」
──ところで。
チラリと。
女神の深い青の瞳がアルトリアとアリアを見つめる。
「君たちがベル君の言っていたお姉さんとお母さんだね。僕の名前はヘスティアさ。今だ弱小でお金もなくて住まう場所すらまともに無いがよろしく頼むよっ!」
──あぁ、僕は何て運が良いんだ。ベル君とそのお姉さんだけでなく、精霊まで眷属に迎えられるなんてっ!
うっとりと手を組んで頬を仄かに赤く染める女神。
トリップするヘスティアの腹に勢いよくアルトリアの蹴りが入った。
「ぬぉっ! いきなり何をするんだ~っ!?」