貞操逆転した新エリー都に住む『あなた』とエージェントのお話 作:ぽこちー
たまにはこういった、上品なお話も良いかと。
美しい夕日が照らす郊外の砂利道を、『あなた』を乗せた大型トレーラーが走行していた。
季節は秋に入りつつあるにもかかわらず、窓から入ってくる空気は暑く、夏の余韻を感じさせていた。
トレーラーにはエアコンがついておらず、車内は若干の熱気で溢れかえっている。だが、エアコンはついていないものの、車内の天井には小型の扇風機が設置されており、車内の空気を循環させていた。
「悪いなあ。ついこの前エアコンが壊れちゃってよお。もう秋だから大丈夫だと思ってたけど、まだまだ夏は終わってないって感じだぜい」
トレーラーの持ち主であるパイパーは、『あなた』に申し訳なさそうにしながら、ハンドルを握っている。
そんな彼女に、『あなた』はシャツで仰ぎながら、問題ないと返す。
パイパーはトレーラーを運転しながら、隣に座っている『あなた』を横目でチラリと見た。
首元から胸元へと滴る汗。
パタパタとシャツが揺れ、チラリと見え隠れする鎖骨。
そして、鼻をくすぐるように香ってくる『あなた』の匂い。
車内の空気は『あなた』とパイパーによる熱と匂いで溢れかえっている。
ただでさえ、仕事の後で汗をかいているというのに、この熱気により2人の熱はさらに加速し、いつも以上にその匂いが充満しているのだ。
(こりゃあ、他のヤツらには毒だなあ)
パイパーは頬を少し赤く染めながらも、理性だけはしっかりと維持していた。
女性である以上、どうしても男性に視線がいってしまうのは、この世界では仕方のないことだ。
当然パイパーもそれは例外ではなく、チラチラと横目で『あなた』に視線を向けてしまう。
だが、だからといって『あなた』に対し、女性特有の感情を剥き出しにすることはなかった。パイパーは、『女性』ではなく『大人』として、『あなた』と接することができる数少ない人物なのだ。
(きっと、車内に彼の匂いが染みついちまってんだろうなあ。ルーシーあたりにバレたら、厄介なことになっちまうぜい)
パイパーは頬をぽりぽりとかきながら、どう言い訳をしようか考えていた。決してやましい感情もないし、そういった行為もしてない。だが、それらを説明するための証拠がないのだ。
むしろ、パイパーと『あなた』の匂いで溢れかえってる車内を見て、事案ではないという方が無理である。
芳香剤を買ったとしても、普段そういったものを設置してないが故に逆に怪しまれてしまう。どう転んでも、ルーシーにどやされる未来は変わらないようだ。
パイパーは軽くため息をつきながらも、これもまあ役得か、と無理やり納得させ、面倒臭い未来から目を背けるのだった。
すると、『あなた』がパイパーへと声をかけた。座席のシートに汗がつくのが嫌だから着替えさせて欲しい、と『あなた』はパイパーに伝えた。
「お〜? そんなこと気にしないでも……ああ、いや、やっぱそうしてくれると助かるぜい。ルーシーに何を言われるか分からないからなあ」
『あなた』はありがとうとパイパーに伝えると、後部座席へと移動する。
後部座席には、外からの視線を遮るためのカーテンが設置されている。女性同士ならばそんなカーテンをつける必要もない。
だが、男性がいるとなると話は別である。
そもそも、女性だらけの空間で男性が1人いること自体が問題だ。そこで、男性だけの空間を作り出すために、こういったカーテンは設置されているのだ。
中には、そのカーテンの中を盗撮するための隠しカメラを設置する女性もいる。だが、パイパーは決してそのような犯罪行為を行うはずもない。カリュドーンの子の唯一の紅一点であるライトも、パイパーを信頼し、このカーテンの中で過ごすことも多いのだ。
「角にカーテンを縛ってあるから、それを解いて……っ!?」
カーテンの位置を教えるためにパイパーは後部座席に視線を向けた。
しかし、パイパーの視界に思ってもいなかった光景が映った。
そこには、上半身裸の『あなた』がいた。
インナーシャツまで汗で濡れているのか、着ているもの全てを脱ぎ去っており、制汗シートで上半身を拭いている。
引き締まった身体に、滴る汗。
ムワリと広がる男性特有の匂い。
若干の汗臭さがあるものの、それすら一種のフェロモンとして、女性の煩悩を刺激する激物となっている。
そんじゃそこらのAVとは比べ物にならないほどの、歪んだ劣情を引き出す光景。
既に枯れてしまったと思い込んでいた、パイパーの奥底に眠っていた『女性』の感情が、ジワジワと熱を取り戻していくのを、パイパー自身も感じていた。
パイパーはすぐさま前を向き『あなた』から視線を逸らす。
だが、その光景は既に脳に焼き付いており、さらに追い打ちをかけるように、背後から『あなた』の吐息が耳を刺激する。
ドクン、ドクン、と。
心臓は破裂しそうなまでに鼓動している。
じわじわと、腹部に熱が籠っていく。
これは、まずい。
まずいのだけれど、でも、我慢はできる。
いや、我慢をしなければ、ならないのだ。
パイパーは唇を噛み締め、ハンドルを強く握り、必死に理性を保つ。
けれど、バックミラーに映る『あなた』の姿が、どうしても目に入ってしまう。
(そういった欲は捨て去ったと思っていたのに……結局は
『あなた』を失望させないようにと、パイパーは最後まで、自分自身と戦い続けるのだった。
いや、上品な話ってなんだよ。