シルヴァリオ戦記 作:光の模造品
そう思い、ひとまずAIの力を借りながら1つのシーンを形にしてみました。
幼女戦記もシルヴァリオシリーズもどっち大好きですが、
細部の記憶が怪しく設定がかなりガバめです。
よろしくお願いします。
帝都セントラルの夜は、軍事帝国アドラーの威光を示すように重厚で、静寂と喧騒が妙な歪みを醸し出していた。
東部戦線での過酷な過食戦区を生き延び、書類提出とアステリズムのデータ照合のために一時帰還を命じられた特務士官──ターニャ・デグレチャフ少尉にとって、この帝都滞在は休息などではない。「一刻も早く安全な
(フッ、総統府の官僚どもめ。東部戦線でのあの完璧な戦果報告書を読めば、私が前線よりも事務作業と組織の歯車としていかに優秀か、嫌でも理解するはずだ。次の辞令こそは──「内勤・後方連絡係」!)
高級仕立ての軍服に身を包み、帝都のカフェで美味しい珈琲を満喫したところまでは完璧だった。
しかし、連日の戦闘による精神的疲労と、束の間の平穏が彼女の緻密な計算を狂わせた。あまりの睡魔に油断し、駐屯地へ戻るための最終列車の時間をすっかり失念していたのだ。
「……なっ!? 午前零時を回っただと……!?」
駅舎で告げられた事実に、ターニャの青白い顔に冷や汗が噴き出す。
(ふざけるな! 私は規則正しくスケジュールを管理する模範的な軍人だぞ! なぜこんな初歩的な時間計算のミスで、この過密日程のなか夜の帝都に放り出されねばならんのだ!)
脳髄を刺すような猛烈な眠気と、自己嫌悪。一刻も早く宿舎のベッドへ潜り込みたい一心で、ターニャは大通りを避け、最も移動距離を短縮できる暗い裏路地へ足を踏み入れた。
──そしてそこは、帝都の光が届かない最悪の澱み。治安最悪のスラム街だった。
「くそっ、なんて陰鬱で非効率な街並みだ。ゴミ溜めのような悪臭、荒廃したインフラ……」
疲労で重い頭を揺らし、足早に闇を抜けようとしたその瞬間。
頭上の夜空を切り裂くような、おぞましい衝撃音が響いた。
──ドォォンッ!!
「ひっ……!?」
路地を挟む古いアパートの壁面が、まるで消しゴムで削り取られたかのように、音もなく一瞬で粉微塵へ霧散した。
瓦礫の飛散ではない。物質の結合そのものが崩壊し、ただの赤黒い砂塵へと変えられたのだ。
「──おやおや? 隠れていたつもりかい?」
闇の中から、楽しげな、しかし背筋が凍るような甲高い声が響く。
しかしそれはターニャに向けられたものではなかった。
瓦礫の影、息を殺して身を潜めていた一人の男──追手から逃れるためにスラムの廃屋へ隠れていた男の気配を嗅ぎつけ、不気味な四つの眼を爛々と輝かせた怪物が姿を現した。
アドラーの暗部に蠢く暴走兵器──赤き魔星。
「見つけた見つけたァ! 贅肉だらけの醜男に殴られたら怒るくせに、見目麗しい少女に蹴られたら満更でもないんだろう? どちらも暴力には変わらんのになァ! ゼファー・コールレインッ!」
「っ……クソが!」
闇の中に身を隠していたゼファーが、舌打ちと共に泥臭く跳躍し、放たれた漆黒の鉄の爪を自身の黒刀で辛うじて受け止める。
だが、接触した瞬間、殺気に満ちた闇色の星光が刀身を削り、凄惨な衝撃にゼファーの腕から血飛沫が舞った。
「ヒヒッ! 正しいことは痛いか? 皆のために? こいつを守るために? 報いるために? なぁなぁなぁ──どれがいい? そういう
「黙れッ……! 訳の分からねえ御託を並べてんじゃねえ! 俺は……ただ生きるために、お前を叩き潰すだけだ!」
ゼファーの眼にあるのは、英雄の誇りでも正義でもない。ただ泥を啜ってでも生き延びるという、獣めいた怨念と血反吐の覚悟。
それに対し、赤き魔星の胸中にあるのは一切の理由すら存在しない、純度百パーセントの殺人欲求。
「ご立派だねェ、死んでくれ! 大したもんだよ、死んでくれ! 潰れた脳が、砕けた骨が、弾けた血肉が見たいんだ──俺はただひたすらに、実直に、殺して、殺して、殺してやりたいだけなんだからなァァッ!!」
暗闇の中で繰り広げられる、あまりに惨憺たる死殺の応酬。
だが──その様子を見下ろすターニャの感情は、恐怖でも正義感でもなかった。
(……なんだあのバケモノは。そしてあの泥臭い男は……。いや、そんなことはどうでもいい。……眠い。私は猛烈に眠いのだ!!)
頭痛がするほどの睡魔と疲労。明日も早朝から完璧な書類仕事をこなさねばならないというプレッシャー。
そのすべてを、目の前の二人の狂人が大音響でぶち壊している。ターニャの胸中で、理性のタガがブチリと弾け飛んだ。
(私の貴重な睡眠時間を奪い、帝都の深夜の静穏を害する愚者どもめ……万死に値する!!)
ターニャは愛用の単発式銃剣を引き抜き、自身のアステリズムを全開で解き放った。
背後から眩いアストラル粒子の光芒が噴出し、彼女の小柄な躯体を夜空へと垂直に押し上げる。空中への飛翔。それが彼女に与えられた星辰の奇跡だった。
上空高高度へ陣取ったターニャは、眼下の二人に向け、冷酷かつ甲高い声で怒声を叩きつけた。
「そこまでの無礼者ども! 帝都治安維持法および軍律第十四条に基づき警告する! 深夜の静穏を乱す暴挙を即刻停止し、投降せよ! さもなくば──現地にて処分する!!」
一瞬の静寂。
地上で黒い瘴気を撒き散らす赤き魔星が、上空のターニャを見上げ、心底可笑しそうに四つの眼を歪めた。
「ハハッ! 警告だってよ! 空からちっぽけな子どもがご立派なお説教だ! いいぞいいぞ、お前も解体してやるから降りてこいよォッ!」
「──交渉決裂だな。野蛮人が」
話を聞く気すらない狂人へ、ターニャの瞳から光が消える。
不快感と睡魔による苛立ちのまま、彼女は単発式銃剣の引き金を躊躇なく絞った。
──ドガァァン!!
高高度から放たれた極限の圧縮光弾が、魔星の頭上へ牙を剥く。
しかし、赤き魔星は全身を覆う漆黒の瘴気──絶対の防壁によって、その光弾を何事もなかったかのように消滅させた。
「効かないねぇ! どんな綺麗な理屈を並べようが、俺の殺意の前には等しく無価値なんだよォッ!」
魔星が嘲笑い、地上で血を吐くゼファーへさらに襲いかかる。
ゼファーもまた、牙を剥いてアステリズムを解放するが──その瞬間、周囲のアストラル粒子が激しく狂い、上空にいるターニャの滞空出力と防壁がガタガタと減衰を始めた。
「なっ……!? あのボロボロの男、周囲の粒子波長を腐らせてやがるのか!? なんて不快で非効率な波形だ!」
ターニャの額に青筋が浮かぶ。
だが、彼女の過剰な演算速度と「早く帰って寝たい」という執着は、その干渉波すら力ずくでねじ伏せた。
地上のゼファーがついに膝をつき、魔星の鉄の爪がその喉元へ迫る。
死角のない漆黒の瘴気を纏う化け物を消し去るには、あの絶対防御ごと分子レベルで叩き潰す大技をブチ込むほかない。
(くっ……! またこれか! 吐き気がする! なぜ私が、存在すら疑わしい無能な存在X(神)を称える戯言を叫ばねばならんのだ!!)
力を最大化させる代償として、喉の奥から這い上がる忌々しい回線。
ターニャは苦渋とブチギレの表情で顔を歪めながら、強制された聖なる詠唱を夜空に叩きつけた。
「創生せよ、天に描いた星辰を──我らは煌めく流れ星!」
(死ね! 滅びろ、ふざけたクソ神め!)
「あまねく世界に神の威光を、主の御名に永久の祝福を!」
(よし、同調完了……このバケモノを跡形もなく消し去って寝る!!)
「
夜空の果てから、月光を塗りつぶすほどの白銀の閃光が凝縮され、一条の断罪の雷霆となって地上へ直撃した。
──ガァァァァァァッッ!!
「ひひっ、素晴らしいねェ、俺を殺し──」
赤き魔星が言葉を言い切るより早く、高高度から降り注いだ圧倒的な熱線と分子分解の圧力が、その纏う漆黒の瘴気ごと、肉体を原子のレベルですべて削り取り、消しゴムのように消滅させた。
広場に巨大なクレーターが穿たれ、爆風の静寂が戻る。
そこにあったのは、跡形もなく消え去った魔星の残骸と、限界を迎えて完全に倒れ伏すゼファーの姿だけだった。
夜空から音もなく舞い降りたターニャは、銃剣を収めながら、心底鬱陶しそうに溜息をついた。
「ふう、やれやれだ……。これで邪魔者は消えた。宿舎へ戻って寝るぞ……」
そう思って歩き出しかけたターニャの足元で、ゼファーが血まみれのまま意識を失い、死に体で転がっている。
「……待て。あの男がここで死んだら、どうなる?」
冷徹な脳裏で、最悪のシナリオが瞬時に計算される。
身元不明の男が夜のスラムで謎の消滅を遂げたとなれば、明日以降、総統府や憲兵隊が大捜索を開始する。その唯一の目撃者にして現場にいたターニャに事情聴取の嵐が吹き荒れ、彼女の完璧なデスクワーク移籍計画は永遠に闇に葬られる。
「ふざけるなッ! そんな面倒な事件の当事者にされてたまるか!!」
ターニャの顔から血の気が引く。
「死なれては困る! こいつの隠れ家か身内に叩きつけ、私は何事もなかったかのようにベッドへ潜り込むぞ!」
「おい、起きろ! 身元が分かるものはないのか!? ……チッ、このポケットのメモはどこだ!?」
荒々しくゼファーのポケットを漁り、かすかに書かれた住所らしき場所を特定したターニャは、泥まみれの男を引きずりながら、怨嗟の声を漏らして夜のスラムを奔走し始めた。
──その激闘の凄惨な爪痕。
遙か遠く、帝都セントラルの天頂にそびえる総統府の闇の奥から、すべてを見透かすような黄金の威光が、冷ややかに、しかし深く重く、夜の街を見下ろしているかのような重圧を残して。