一言で言うなら時代がそれを許さなかった。
遡ること超常黎明期、中期。突如として人類に齎された超常の力により、世間は混乱の渦に陥っていた。
未だかつて想定されたことすらなかった問題。増加を続け、最早公的権力も手の付けようがないほど膨れ上がった異能の犯罪に対し、各地で様々な人間が立ち上がる。
与謝野晶子もその一人であった。
与謝野晶子には異能がなかった。超常の発生から異能を持つものは増え続けていたとはいえ、その数は未だ人口の三割未満であったのだ。
故に、与謝野晶子が用いた手段はより原始的なもの、つまり己が拳と銃であった。
異能犯罪に対抗するには暴力が必要だった。『警察にできぬなら、私が──』。自ら闇に潜み、法の手が届かぬ異能犯罪者を狩る。与謝野晶子のこうした自警活動は多くの人間に影響を与え、異能を持たない者たちによる自警団も次々に現れたという。
初めは讃えられていた。異能を持たずして異能に抗う女傑。人間の希望である、と。
しかし、与謝野晶子が孤独に戦い抜く中でも時勢は目まぐるしく変化していた。異能を持つものは増え続ける。異能は『個性』として受容され、英雄的な個性を持つ自警者が『ヒーロー』として持ち上げられ始めたのである。まるでアメリカン・コミックスのように異能で戦う彼らは憧憬の対象となり、彼ら自身もそのように振る舞った。
対照的に、与謝野晶子に対する風当たりは強くなった。公的権力としての制限を受ける警察の代行として犯罪者に対抗するのは同じ。だが、『力を持つ者』と『凶器を持つ者』は、民衆の目には映り方が異なっていた。警察はヒーローを見逃し、与謝野晶子を咎めた。与謝野晶子は既に民衆にとって、『敵』と対立するだけの『敵』であった。
無個性の人間による自警団がとある敵組織と衝突し、ヒーローによってどちらも捕えられたという報道が駆け巡った翌日。与謝野晶子は姿を消した。ヒーローに捕らえられたのだろう、魔王に敗れたのだろうと噂が飛び交ったが、いつしか与謝野晶子は忘れ去られた。
その後。警察の制限を取り払うより、民衆の支持を得ている『ヒーロー』を取り込む方が楽である。そう考えた公的権力によりヒーローは公式に職業として認められ、治安維持機構の『実力』を担っている。その条件には、不文律としてこう定められているのだ──『個性を持つこと』。
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